読者日記——マスコミ同時代史(24)

2015年11〜12月

田中 良太


◆◆【戦後70年の日本は魔女狩りで終わった】

 戦後70年だった2015年。日本の政治は「魔女狩り」で終わったようだ。
 発端は11月14日の産経新聞と、翌15日の読売新聞に掲載された「私達は、違法な報道を見逃しません」というタイトルの意見広告。ともにページを丸ごと使った全面広告だった。
 広告主は「放送法遵守を求める視聴者の会」なる団体。呼びかけ人には、作曲家のすぎやまこういち氏や評論家の渡部昇一氏、SEALDsメンバーへの個人攻撃を行っている経済評論家の上念司氏、タレントのケント・ギルバート氏らの名が並ぶ。事務局長は、安倍晋三首相復活のきっかけをつくった安倍ヨイショ本「約束の日 安倍晋三試論」(幻冬舎刊)の著者・小川榮太郎氏。安倍政権応援団の極右人脈勢ぞろいといった光景だ。

 この広告が「違法な報道」と名指ししてヤリ玉に上げたのが、昨年9月16日のTBSの看板ニュース番組「NEWS23」でのアンカー・岸井成格氏(毎日新聞特別編集委員)の発言。文章部分の冒頭にゴチックで、「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」という言葉を紹介したうえで、この発言は放送法第4条で放送事業者の遵守義務とされている「政治的に公平であること」に違反していると主張している。

 放送法第4条は「放送事業者は、国内放送および内外放送の放送番組の編集に当たっては、次の各号の定めるところによらなければならない」として、以下の4項目をあげている。
 一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
 二 政治的に公平であること。
 三 報道は事実をまげないですること。
 四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 この条文から見て、各号とも放送局の「努力義務」を記したもので、総務省など監督官庁の干渉の根拠にはできないとする見解が支配的だ。
 たとえば「一」の「善良な風俗を害しない」なら、全裸に近い女性の映像について総務省が「ダメ」と言えることになる。それを理由に監督官庁の総務省が放送免許取り消しなどの処置を断行すると仮定するなら、大きな反発が起きるはずだ。「二」の政治的公平も同じことだという解釈だ。
 総務省の従来の解釈も、「政治的公平は一つの番組単独ではなく、当該事業者の番組全体を見て、バランスがとれていることを要求したもの」としてきた。この意見広告では、個々の視聴者が番組全体を見ることは不可能だからとして、「公平を欠いた発言」をすべて追放するという解釈変更を要求している。

 TBSの武田信二社長はその後の会見で、「弊社の報道が『一方に偏っていた』というご指摘があることも存じ上げているが、われわれは公平・公正に報道していると思っている」と語っている。しかし週刊誌報道などでは来年春の番組更改期に、岸井氏の降板は必至とされ、後任としては朝日新聞特別編集委員の星浩氏などの名があがっている。
 岸井氏は毎日新聞で私の1年後輩。ともに政治部だったから仕事ぶりは良く知っているが、「革新色」はカケラもない。週刊誌などが「保守派」と書いているのは当然だ。それでもたった一つの発言をとがめられ、クビになってしまうのではまさに「魔女狩り」の情景ではないか。

 この意見広告は、ホントにすぎやま氏ら民間の人たちが書いたのだろうか? 疑わしいと思うのは、私だけではないはずだ。「NEWS23」は1989年10月「筑紫哲也 NEWS23」として始まり、2008年3月末まで続いた。筑紫氏の病気(がん)が悪化したためで、氏はこの年11月死去した。
 筑紫氏は自ら、森喜郎政権時代「潰せ」とはっきり言ったと語ったことがあるという。この発言は結婚式のスピーチで、ネット百科「ウィキペディア」でも紹介されている。民間人が書いたなら、こうした来歴を含めて、「もともと反政府が売り物の番組」と強調するはずだ。ホントの筆者は「官界」で暮らす人で、だからこそ放送法第4条ばかりを強調したのだろう。隠れたプロデューサーとして総指揮をとったのは菅義偉官房長官であるはず。安倍晋三政権が演出して、民間の動きのような装いをとった言論弾圧=魔女狩りなのだ。

 テレビ番組では、NHKの「クローズアップ現代」も来春で終わりと言われている。政府広報色を強めるNHK報道番組の中で、1本ごとに「問題」を取り上げ、30分間じっくり考えさせる。民放のニュースショーが細切れなのと比較すると、NHKでなければできない好番組だ。これもネット上で反発の声があり、消えていく運命となった。
 テレビ番組だけではない。今年10月、東京の「MARUZEN&ジュンク堂書店渋谷店」が行っていた「民主主義を考えるブックフェア」を一時中断した。書店員の「闘います!」とのツイッターをきっかけに、「選書が偏っている」という非難が、ネット上で相次いだためだ。
 地方自治体が運営する「市民会館」などを会場にして、「反戦」「護憲」などの集会が行われる場合も、ネット上で反対論が展開される。その中には、「開催が実現した場合、爆弾を仕掛ける」といった脅しを含むものもあり、自治体など会場所有者が使用許可を取り消す……。こんなケースは多数にのぼる。

 言論・表現・集会などについての大原則は憲法21条だ。「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定している。「自衛隊」という名の、世界で五指に入る強力な陸海空軍が定着して空文となっている9条と同様、国民の権利条項も空文化し、憲法はもはや「最高法規」ではなくなっている。安倍内閣はそれでも「改正手続き」に固執している。
 第2次世界大戦の主役となったドイツのヒトラーによる「魔女狩り」も、同じようにスタートした。それが当時、世界でもっとも民主的といわれたワイマール憲法体制を崩壊させたのだ。21世紀日本版魔女狩りも、平和憲法廃棄・戦争ができる核大国構築の第一歩なのではないか?

 朝日新聞は今月2日付朝刊社会面トップに「(Media Times)『偏り』『公平』って? 相次ぐ報道批判・書店の自粛」という記事を掲載した。産経・読売が掲載した意見広告を含め、安倍政権への異論を排除する動きの事例集をまとめており、それなりの意義がある記事といえる。しかし「魔女狩り」的な異論の排除であることはもちろん、安倍政権と「放送法遵守を求める視聴者の会」をつないでいるのが、菅義偉官房長官だろうと推察されることなどの言及はなかった。そのあたりに朝日も「自粛」していることが感じられた。
 安倍政権主導の魔女狩りは、勢いが強く、大きな広がりを持っている。どう発展して行くのか? 不気味だ。

◆◆【「新聞も軽減税率」実現までの政府対新聞】

 消費税を10%に引き上げる際に、現在の8%に据え置く軽減税率の対象品目についての自公両与党協議が12月14日、おおむね合意となった。新聞・雑誌を含めるか否かもテーマの一つだったが<新聞も対象の方向 軽減税率>となったようだ。この<>内は、朝日の見出しで、面の中央部、天声人語の上に置かれ、3段。そこそこの大ニュース扱いだ。3面に「出版物線引き難航」という関連記事を掲載。おおむね問題はポルノ的なものにあるという趣旨だ。
 雑誌の場合、ポルノ誌があってわかりやすい。新聞の場合も夕刊紙やスポーツ紙には「お色気ページ」がある。だからスポーツ紙・夕刊紙は宅配の比率が低く、大半はスタンドやコンビニでの販売となっている。新聞の場合、週2回以上発刊と、宅配比率50%を条件にするという観測記事もある。
 しかし、こうした線引きなどは末節にすぎない。新聞が書かない(ホントは「書けない」)本質的な問題は、軽減税率適用を望む新聞界共通の意思と、それを見透かした、第2次安倍晋三政権の「マスコミ支配」である。

 「オルタ」でこの連載をはじめたのは120号(2013年12月20日付)だった。当時はタイトルが「マスコミ昨日今日」であり、執筆者も「大和田三郎」というペンネームだった。そのとき「開始にあたって」という短文を付け、50年前の「デスク日記」に触れた。「デスク日記」(みすず書房刊)こそ新米記者だった私を育ててくれた著作だったのだ。
 その号で私はテーマを「マスコミと秘密保護法」に設定。「キャンペーン的な『反対』紙面づくりだったが……」をタイトルに、以下のように書いた。少々長いが引用する。

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< 朝日・毎日やブロック3紙(北海道、中日・東京、西日本)さらに主要地方紙は「反対」の論陣を張った。しかし安倍晋三政権は動じることなく、臨時国会での成立方針を貫徹した。これは産経・読売の「応援」があったからだけではあるまい。
 安倍政権の最大の強みは、新聞各社の社長ら経営者たちが、消費税が10%となったときの軽減税率適用を願望していることを知り尽くしていたことであろう。全国紙や通信社の社長らトップが、13年中に安倍首相と料理屋などで会食しながら懇談した。そのさい、軽減税率適用を陳情したマスコミ各社のトップも多い。安倍政権vsマスコミ世論という図式を考えると、当然、強いのは安倍政権、弱みを握られたのはマスコミとなる。

◆安倍首相とマスコミ各社トップとの「宴会政治」

 2013年「政治と報道」日誌をつくるなら、安倍首相が主要マスコミのトップらとの「宴会政治」を展開したことに尽きるともいえる。首相と会食したマスコミ人や、会食の場所の一覧表をつくると、以下のようになる。時刻はまちまちだが、午後7時ころから2時間程度であることが多い。
 ▼1月7日=読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長(丸の内のパレスホテル東京の日本料理店「和田倉」、菅義偉官房長官同席)
 ▼同8日=産経新聞の清原武彦会長と熊坂隆光社長(赤坂のANAインターコンチネンタルホテル東京の日本料理店「雲海」)
 ▼2月7日=朝日新聞の木村伊量社長、吉田慎一上席役員待遇コンテンツ統括・編集・国際担当、曽我豪政治部長(内幸町の帝国ホテルの中国料理店「北京」)
 ▼同5日=共同通信社の石川聡社長(東京・白金台の高級割烹「壺中庵」)
 ▼3月8日=日経新聞社の喜多恒雄社長ら(内幸町の帝国ホテルのフランス料理店「レ セゾン」)
 ▼同5日=フジテレビ会長でフジサンケイ・メディアグループ最高経営責任者の日枝久氏(芝公園のフランス料理店「クレッセント」)
 ▼同22日=テレビ朝日の早河洋社長と幻冬舎(出版)の見城徹社長(首相公邸、菅義偉官房長官同席)
 ▼同28日=毎日新聞社の朝比奈豊社長(文京区のホテル椿山荘東京内の日本料理店「錦水」)
 ▼4月4日=曽我豪・朝日新聞政治部長、小田尚・読売新聞論説委員長、田崎史郎・時事通信解説委員(東京・永田町の山王パークタワー内、中国料理店「溜池山王聘珍樓」)
 ▼同5日=大久保好男・日本テレビ社長(東京・内幸町の帝国ホテルの宴会場「楠」)

 こうした事実を私が知ったのは、3月3日付「赤旗」(共産党機関紙)の記事による。記事は<大手5紙・在京TVトップ 首相と会食>という見出しが付いており、サブ見出しに<元官邸記者「首相批判の記事 載せにくいよね」>となっていた。
 「赤旗」の記事はアブナイと考えたわけではないが、一般紙各紙の首相動静記事で再確認した。この会食の事実は間違いない。
 1月6、7の両日、読売・産経両紙のトップと会食したことは、驚くに値しない。両紙は自民党タカ派の安倍晋三と「イデオロギーを共有する」存在だ。「それにしても松の内から」という熱心さに驚いたのだが……。その1カ月後、朝日との会食が成立したことこそ注目すべきだろう。朝日との会食が実現したことによって、その後首相との会食を誘われた主要マスコミトップは、断ることが難しくなったようだ。

◆消費税軽減税率が最重要課題?

 1月15日には日本新聞協会が、「軽減税率を求める声明」を発した。冒頭のセンテンスは<日本新聞協会は、新聞、書籍、雑誌には消費税の軽減税率を適用するよう求める>だった。新聞協会の会長は、秋山耿太郎・朝日新聞社会長。木村伊量現社長の前任者だ。推測にすぎないが、消費税・軽減税率の問題があったからこそ、朝日の社長らが、安倍宴会政治に引きずり込まれたのではないか?
 月刊誌「選択」(「三万人のための月刊誌」を自称、一般書店などの店頭販売はしていない)の最終ページは「マスコミ業界ばなし」だ。8月号(8月1日に配送された)に、以下の記述がある。

<新聞業界の「ご都合主義」が官邸の失笑を買っている。7月22日、東京・永田町の日本料理店で、安倍晋三首相が出席する会食が設けられた。2時間弱にわたって首相と相対したのは、木村伊量朝日新聞社長と大久保好男日本テレビ放送網社長らだ。席上、木村社長から安倍首相に対して、「来年4月からの消費税引き上げを先送りし、2015年10月に一気に10%まで引き上げてはどうかという主旨の発言があった」(首相周辺)という。新聞業界の悲願である軽減税率適用は、来年4月に予定されている8%への引き上げ時には行われないことが確定している。仮に10%引き上げ時に適用されたとしても、「一度8%に引き上げられたら、軽減率は2%に留まる」(大手紙政治部OB)。つまり来年4月の税率アップが先送りになれば、現在の5%のままでいられるという算段だ。
 これに対して、「首相はやんわりと『5%も一気に増税すれば経済が壊れる。外国にも例がない』と説明した(前出首相周辺)という。「説明した」というより「諭した」のだ。安倍首相にしてみれば、初歩的な経済知識も持たずに虫のいい要求をする新聞社を腹の中で嘲笑していただろう。>

 この会合について朝日首相動静の記述は以下のとおりだ。
 ▼首相動静 (7月)22日
 (午後)7時2分、東京・永田町の日本料理店「黒沢」。朝日新聞の木村伊量社長、政治ジャーナリストの後藤謙次氏らと食事。8時59分、東京・永田町のザ・キャピトルホテル東急。日本料理店「水簾(すいれん)」で田中財務省主税局長、北村内閣情報官ら。
 8時59分からのメンバーは、その前の会合に陪席していたのかもしれない。朝日木村社長ら出席の会合の出席者は、読売の「安倍首相の一日」では<大久保好男日本テレビ社長、木村伊量朝日新聞社長ら>、毎日の「首相日々」では<ジャーナリストの後藤謙次氏、山田孝男・毎日新聞専門編集委員ら>となっている。
 どうやら首相官邸は、大手マスコミ各社に「首相が出席する懇談の場とするから、どなたか適切な方に出席していただきたい」と呼びかけたのではないか。読売は誰も出席させなかった(名実ともトップである会長・渡辺恒雄は、安倍とひんぴんと会っており、他の幹部が行っても意味がないと判断したのだろう)。毎日は週1回のコラム「風知草」を書いている山田を出席させた。共同通信はOBとなっている元政治部記者、後藤を出席させたということかもしれない。もちろん推測でしかないが……。
 すでに引用した月刊誌「選択」だが毎号「政界スキャン」という内幕ものを掲載している。その第340回(2013年6月号)の見出しは<永田町最後の「彦左衛門」>だった。

<かつてはどこの世界にもいた「立志伝中の人物」や「叩き上げの職人」の姿をめっきり見なくなった。政界も同じだ」>という文章で始まるこのコラムの主役は、第2次安倍内閣の大黒柱となった官房長官・菅義偉だ。菅は1948(昭和23)年生まれの団塊の世代。秋田県南部・雄勝町(現湯沢市)のイチゴ農家で育ち、地元高校を卒業して集団就職で上京。段ボール工場で働きながら法政大学2部(夜間部)法学部を卒業した「苦労人」であることはよく知られている。その後の菅について、「政界スキャン」は、以下のとおり書いている。

<縁あって自民党衆院議員小此木彦三郎の秘書となり政治の道に入った。菅義偉が秘書になった頃、小此木は既に旧中曽根派の大幹部。中曽根内閣で小此木は通産大臣に就任、菅も大臣秘書官を経験した。当時の衆院第2議員会館の5階にあった小此木事務所にKという美人秘書がいた。菅はニヤリとしながら、当時の思い出話を語る。
 「代議士留守を見計らって中曽根派担当の記者が来るんだよなあ」
 その記者たちが後に新聞各社のトップに上り詰めた。朝日新聞前社長で日本新聞協会会長の秋山耿太郎、次期副会長に内定した産経新聞社長熊坂隆光、北海道新聞社長村田正敏ら。今や新聞協会はあげて来年4月からの消費税率アップを睨んで軽減税率の導入に向けて陳情合戦を繰り広げる。NHKをはじめ民放キー局など放送業界は菅の影響力の前に声すら出せない。>

 些細なことだが「代議士留守を見計らって」という菅の言葉はちょっとおかしい。小此木が通産大臣のときなら、議員会館の部屋を使うのは、例外的なときに限られる。連日通産省の大臣室に出勤し、多忙な日程をこなしていたはずだ。議員会館の部屋は主(あるじ)不在で、秘書だけが使っていたはずだ。たぶん菅は「代議士は例によってよって不在だから」と言ったはずだ。
 熊坂、村田の2人は「新聞協会副会長に内定」と書かれているが、後に副会長に就任した。こんなつまらない経過で、菅は新聞協会首脳と親しい存在となった。この小此木事務所美人秘書詣でをしていた新聞記者として名が出てくるのは朝日の秋山、産経の熊坂、道新の村田の3人である。ほかにもいたのかもしれないが、3人とも社長になったことに驚く。

 この3人は、中曽根康弘内閣時代、平河クラブ(自民党担当)に所属し、中曽根派担当だったはずだ。よく「党高政低」「政高党低」といわれる。その時々の政権の意思決定は、政府優位で行われるのか、それとも自民党優位なのかを示す。中曽根政権は、55年体制下では珍しい政高党低内閣だった。いまや古い話になってしまったが、後藤田正晴(故人)が官房長官であり、政権を動かしていた。自民党幹事長は田中六助(大平正芳派=故人)金丸信(田中角栄派=同)竹下登(竹下派=同)の3人であった。いずれもその時々の派閥力学の下で、自民党のまとめ役として起用された「大物幹事長」ではあったが、政権の意思決定は、中曽根と後藤田によって行われていた。
 後藤田は政権発足のとき田中派とされたが、事実上は無派閥。旧内務官僚として中曽根の先輩であり、「首相より偉い官房長官」と言われた。中曽根は85年の終戦記念日(8月5日)靖国神社「公式参拝」を断行した。しかし中国の強い反発によって、早々と「靖国参拝はこの回限り」という姿勢をうち出した。このとき官房長官は中曽根子飼いの藤波孝生(故人)だったが、事後処理は「後藤田主導」となった。
 平河クラブの裁派閥担当は軽いものではなかった。かつて幹事長は総裁派閥から起用されるのが常道で、総裁派閥担当は幹事長番でもあった。政治部の「華のポスト」は、官邸の官房長官番と平河の幹事長番だった。
 政高党低の中曽根内閣の場合、官房長官番が突出した唯一の華のポストとなり、幹事長番の重要度は落ちた。まして総裁派閥担当は、幹事長番でもなくなったのだから、仕事の上での重要度はゼロに等しい。主のいない議員会館・小此木室で、美人秘書詣でをするといった行動スタイルは、だからこそ成立したのである。
 美人秘書目当てで「主」不在の小此木事務所をを訪ねるというのは、その「軽い」総裁派閥担当にふさわしい行動だろう。そのうち3人が大新聞の社長となり、新聞協会幹部となった。それこそ新聞社のトップ人事の「軽さ」を示すものではないか。

 いずれにせよ、朝日社長の木村の言には驚く。2月の朝日幹部3人が出席した安倍招宴で、消費税率軽減を陳情したという私の推測は間違っていないはずだ。それを7月にも繰り返して、安倍に「嘲笑された」(「選択」記事)ということになる。こんな社長の下では、紙面でいくら「秘密法反対」をキャンペーンしても効果はないだろう。安倍の「嘲笑」は朝日だけでなく、全マスコミに及んだはずだから、木村の罪は重い。
 安倍首相と朝日・木村社長ら3人との会食は、首相官邸の方が呼びかけたのであろう。実務的には菅義偉官房長官が日どりの調整などやったと思われる。そのとき有力な誘い文句となったのが、「消費税の問題もあるし……」ではなかったか? そして木村社長ら3人は、消費税軽減税率適用の「陳情」ともいえる言葉を口にしたのではないか? この2点は推測だが、会話の内容についての情報公開は「ゼロ」なのだから、推測する以外にない(ついでに言っておくが、官邸からの呼びかけというのも推測。朝日からの呼びかけだったことも理論上はありうる。トンデモナイことではあるが)。>

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 13年12月の時点で、日本の「政府対新聞」関係の根底に消費税軽減税率問題があると見抜いていた。自賛して良いのではなかろうか。
 その後、マスコミをめぐる「事件」がひん発した。引用した「マスコミ昨日今日」が掲載された「オルタ」120号発行の当日つまり13年12月20日にはNHK経営委員会(会長=石原進JR九州会長=当時・現在は相談役)が、次期会長を籾井勝人と決定した。1965年九州大卒で三井物産に入り、同社副社長から日本ユニシス社長に転じた純粋経済人である。
 籾井の会長就任は翌14年1月25日だったが、その日、就任会見で記者の質問に答えて「個人として」と断りを入れた上だったが、「問題発言」をひん発した。 特定秘密保護法に関して「姿勢が政府寄り」との指摘に対しては「(国会で)通ったことだ。あまりカッカする必要はない」▼竹島や尖閣諸島など領土問題について「日本の立場を国際放送で明確に発信していく、国際放送とはそういうもの。政府が『右』と言っているのに我々が『左』と言うわけにはいかない」▼「放送内容は何を目指すか」の質問に対しては「日本政府と懸け離れたものであってはならない」▼従軍慰安婦問題について「今のモラルでは悪いんですよ」としつつ、「補償問題は日韓基本条約で解決済み」「戦争をしているどこの国にもあった」としてフランス、ドイツの名を挙げた。さらに「なぜオランダに今ごろまだ飾り窓があるんですか」とも述べた。▼前項の慰安婦問題と日韓基本条約に関する発言の直後に会長就任会見の場であることを記者から指摘され「発言を取り消したい」と述べた。

 NHK会長の人事は経営委員会の専権事項だが、籾井会長実現に至るまで、安倍晋三に近い右翼的な人物の任命が相次いでいた。右派色濃厚になった経営委員会は、当時の松本正之会長を再任させず、交代させるという観測が強まっていた。籾井会長決定の50日前、11月1日付読売朝刊は、1面に以下の記事を掲載した。トップかどうかは確認できないが5段見出しだから、トップに近い扱いだ。

<見出し=NHK会長 交代の公算 松本氏 後任、外部起用で調整。
 本文=NHKの松本正之会長(元JR東海副会長)が来年1月24日の任期満了に伴い、退任する公算が大きくなった。松本氏が退任した場合、後任はNHK内部からの昇格ではなく、外部から起用する方向で調整が進むとみられる。政府・与党や財界には、松本氏が主導してきた組織改革について一定の評価をする見方の一方、交代を求める声が強まっている。

 NHK会長人事の決定には、NHK経営委員12人のうち、9人以上の賛成が必要だ。このうち、政府が新たな経営委員として提示した5人の国会同意人事案について、公明党は3日、賛成の方針を決めた。人事案は月初旬に衆参両院で自民、公明両与党などの賛成多数で同意されることが確実になった。
 5人には、日本たばこ産業(JT)顧問の本田勝彦氏や小説家の百田(ひゃくた)尚樹氏、埼玉大名誉教授の長谷川三千子氏など、安倍首相に近い人物が多い。安倍政権下でのNHK経営委員の任命は、5人を含め、計10人となる。複数の政府関係者によると、首相はNHKの体制を刷新すべきだとの意向が強い。首相に近い経営委員が増えることで、松本氏が続投するために必要な9人以上の賛成を確保するのは困難になったとの見方が強まっている。

 松本氏は2011年1月の就任以降、受信料引き下げや職員給与削減の実現で実績を上げた。その一方、安倍政権が重視する国際放送の強化や、職員の不祥事防止への対応が進んでいないとの批判が出ていた。
 また、報道内容を巡り、原子力発電所の再稼働や、米軍の新型輸送機MV22オスプレイの沖縄県への配備などについて、「取り上げ方に偏りがある」と、自民党内には不満も強い。
 NHK経営委は経営委員による「会長指名部会」を発足させ、次期会長の選考作業を進めている。経営委員が複数の会長候補者を推薦したうえで、1人に絞り、年内にも会長人事を議決する予定だ。

 〈NHK会長〉
 放送法に基づき、財界人や有識者ら12人による「経営委員会」の委員9人以上の賛成で選出される。NHK経営委員は政府が人事案を示し、衆参両院の同意が必要な「国会同意人事」の対象。政府は10月25日に衆参両院の議院運営委員会理事会で新任4人、再任1人の人事案を示した。現職の松本正之会長の任期は来年月24日で満了となるため、経営委員会は次期会長の選考作業を始めている。>

 この記事と併せて読んでいただきたいのは、籾井会長就任1年のタイミングで掲載された朝日の15年1月23日付朝刊3面トップ記事である。以下が全文である。

<見出し=NHK、問われる公共感覚 籾井会長、就任1年 「幹部、過剰に会長忖度」の声
 本文=NHKの籾井勝人会長が就任してから25日で1年。インターネットの活用や国際放送の強化を打ち出した中期経営計画をまとめたが、「公共感覚」が疑問視される発言も続く。3代続いた民間出身会長として、ネット時代の新たな公共放送像に道筋がつけられるのか。課題は山積している。

 「籾井体制で息苦しさを感じている」と、制作現場の若手職員は打ち明ける。
 籾井会長は繰り返し「番組への介入はしない」と明言してきた。ただ、昨年1月の就任会見で政治的中立性が疑われた「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」などの発言を撤回したものの、考えを変えたとは言わない。
 「会長の考えを幹部が過剰に忖度(そんたく)する動きがいたるところで起こっている」と若手職員は見る。昨年2月には、原発や貧困問題を取り上げた番組が衆院選後に繰り延べになった。NHKは「選挙関連の番組を編成した結果」と説明するが、この職員は「安倍政権への配慮ではないか」と受け止めた。幹部は「批判されそうなことには予防線を張る。籾井会長の下、そんな雰囲気が重くのしかかっていることは否定しない」。

 NHKでは昨年12月支給の賞与で、業績に対する評価として、局長級で最高約50万円が増額された。5年で給与費全体を割削減する過程での増額が、世間の反発を招きかねないと心配する声に対し、籾井会長は「安倍(晋三首相)さんが賃金を上げろと言っているんだからいいじゃないか」と話したという。
 力を入れる国際放送に関連し、首相の外遊で日本への理解が進んでいるとの見解を記者会見で示した。時の権力との距離が問われる公共放送トップなのに政府寄りの発言が目立ち、別の幹部は「多様な見方があることを踏まえ、時には政権批判も必要なのが報道機関。その感覚を籾井会長は持っていない」と話す。
 受信料で支えられた公共放送の役割を超えかねない発言も波紋を呼ぶ。インターネットの活用拡大について、「我々が制限されるということはないのではないか」と会見で述べるなどし、「放送の補完にとどめるべきだ」(井上弘・民放連会長)と反発を買った。

 ■受信料制度、改革進まず(小見出し)
 NHKの会長は1970年代から一時期を除いて生え抜きトップが続いたが、2000年代半ばに不祥事が相次ぎ、外からの改革を期待された民間の経営者が選出されるようになった。
 08年に9年ぶりに外部から選ばれた福地茂雄氏(元アサヒビール社長)は縦割り組織にメスを入れ、不祥事体質の改善に取り組んだ。11年就任の松本正之氏(元JR東海社長)は受信料を7%値下げし、職員給与を5年で1割削減する改革を断行した。
 後を継いだ籾井会長は就任当初、失言を巡る国会答弁に追われて業務が滞った。今月5日にまとめた中期経営計画ではネットの積極的活用を打ち出したが、肝心の受信料制度の議論は先送りし、経営委員会に「国民的合意形成に努力」するよう注文された。
 幹部の一人は「突破力がある」と評価するが、NHK退職者の有志から辞任を求める申入書が経営委に提出されるなど、注がれる視線は厳しい。
 公共放送を取り巻く状況も厳しくなっている。英BBCが肥大化批判で業務の縮小を迫られたり、ドイツで受信料制度がネット時代に合わせて改正されたりするなど、世界では「公共」の範囲の再定義が進んできた。NHKの受信料収入は3年後には過去最大の約900億円を見込む。民間ではできないサービスとは何か、テレビ受像機がある世帯から集めた受信料をネットサービスに使っていいのか、といった課題と向き合うことは避けられない。
 NHKを半世紀以上取材し「NHK 危機に立つ公共放送」の著書がある松田浩さんは、「NHKは受信料を払う市民の負託を受け、文化とジャーナリズムを尊重する責務を負っており、民間企業とは違う。公共放送とは何か。視聴者ももう一度、議論をすべき時期ではないか」と指摘する。

 ■籾井会長の主な発言(同)
・「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」(昨年1月の就任会見。国際放送について)
・「戦争をしているどこの国にもあった」(同。従軍慰安婦問題について)
 ※上記は「公式の場で個人的な見解を述べた」と後に撤回
・「一般社会ではよくあること」(昨年2月、衆院予算委の分科会で理事全員に辞表を求めた理由を問われ)
・「職員全員が信頼や期待を積み重ねていったとしても、たった1人の行為がNHKに対する信頼のすべてを崩壊させることもあります」(昨年4月、入局式で新入職員に)
・「どこも新聞の発行部数に上限を加えているようなところはないわけですよ。テレビにおいても同じことが言えてもいいんじゃないでしょうか」(昨年月の会見。インターネットサービスの拡大への懸念について)>

 双方を併せ読むなら、NHK「籾井体制」の意味は鮮明だろう。安倍晋三政権がつくった、安部政権のための「国営放送化」が進行しつつあるのが現状なのだ。

 「マスコミ昨日今日」スタートの記事(「オルタ」120号=13年12月20日付)で触れたが、安部政権に「新聞購読料を消費税軽減税率に含めてほしい」ともっとも熱心に言い寄っていたのが、朝日の前社長・木村伊量(ただかず)である。社長は木村だけという首相招宴に出席し、新聞業界エゴとも言える軽減税率構想を述べて「失笑を買った」ことは、その記事中で書いた。こうした行動をみると、木村と菅官房長官の間には太いパイプがあったと推察できる。
 第2次安倍晋三政権下で「政府対マスコミ」は大きなテーマなのだが、朝日の木村伊量(ただかず)社長が退任を迫られた「朝日(新聞)事件」は、籾井NHKの誕生以上の大ニュースだろう。木村の社長辞任は12月5日だったが、発端は朝日が8月5、6両日の朝刊で、「従軍慰安婦」報道の誤りを自ら認める紙面の大展開をしたことだった。

 5日付朝刊では面左肩に「編集担当 杉浦信之」署名入りの「慰安婦問題の本質 直視を」という記事を掲載。7ページは広告無しの見開き特集で「慰安婦問題 どう伝えたか 読者の疑問に答えます」という主見出しの下、▼強制連行▼「済州島で連行」証言▼「軍関与示す資料」▼「挺身隊」との混同▼「元慰安婦 初の証言」、という5項目のテーマを設定。それぞれ冒頭に「疑問」、末尾に「読者のみなさまへ」という文章を置いた。翌日付朝刊で、「慰安婦問題特集 3氏に聞く」という総タイトルの下で、「強制連行の有無、検証あいまい」=現代史家・秦郁彦氏▼「被害者に寄り添う報道必要」=中央大教授・吉見義明氏▼「ガラパゴス的議論から脱却を」=慶応大教授・小熊英二氏、という3本の寄稿を特集的に掲載した。とくに秦氏の文章は、前日の「検証」紙面の不十分さを手厳しく指摘するものだった。
 朝日の慰安婦報道については、秦氏が一部に誤りがあったと指摘していたが、雑誌掲載の文章程度だった。新聞では産経がキャンペーン的に報道していたが、マスコミ界では「反共が売り物のイデオロギー紙」という位置づけだから、「遠吠え」同然の扱いだった。8月5、6両日朝刊の「自己批判紙面」が何故、実現したのか? その後、「朝日新聞(元)記者が書いた」が売り物の文章(単行本を含む)を読んでも、ピンと来るものがない。

 引用した「マスコミ昨日今日」第1号で書いたような木村の行動スタイルからすると、菅官房長官とは、電話を含めて頻々と対話していたのではなかろうか? 菅は木村に対し「従軍慰安婦報道が誤りだった」ことを認める紙面づくりが必要だ」と迫った。直接「それが新聞に軽減税率適用の条件だ」とは言わなかっただろうが、小心な木村にそう受け取らせるような持って行き方をしたはずだ。「軽減税率適用こそ、自分にとって実現すべき唯一の課題」と考えていた木村は、異例の2日連続の「検証紙面」を作った……ということではなかろうか。これは推察にすぎないが、当事者が明らかにしないのだから、推測もやむをえないだろう。

 この検証紙面をきっかけに、産経・読売両紙や雑誌の「朝日たたき」が洪水のような流れになってしまった。木村は9月11日記者会見し、東京電力福島第一原発事故での「誤報」など3点を認め謝罪した。この「誤報」というのは、政府事故調が事故当時の吉田昌郎所長(故人)から事情を聞いた「吉田調書」の内容として、当時の福島第原発所員の大半が、所長命令に違反して約10キロ離れた第2原発に撤退した」などと報じた記事だった。14年5月20日付朝刊面トップで報じたものだった。
 所員の大半が撤退していたのは事実で、吉田所長は、残っていてほしいという意思を持っていたのも事実。しかし「所長命令」と言えるほど、所長による強い指示があったかどうかが疑問とされるだけだった。「朝日たたき」の洪水に直面して木村が「とにかく自ら会見して謝らなければ」と思ったのだろう。8月5、6日の「検証紙面」が菅官房長官の示唆によってつくられたという私の推測が正しいなら、この謝罪会見もまた、菅の意思によって実現したのではないか?

 木村社長時代の朝日は、消費税軽減税率の適用を最優先していた。その目的のため、一部の人の記憶にしか残っていない従軍慰安婦記事や、本質的には正しい「東電福島第原発所員が撤退」の記事を、ともに自ら「誤報」としてやり玉にあげてしまったのである。「新聞も軽減税率」の実現を念願するあまり、「真実の報道」さえも犠牲にしてしまった……。この歪んだ歴史を、とくに朝日社員たちは強く意識してほしい。

◆◆【「独立」住民投票に向けて歩む沖縄=いつ実現するのか、時期が焦点ではないか】

 沖縄県知事が翁長雄志となったのが1年前、2014年12月だった。同時に沖縄県紙である沖縄タイムスと琉球新報の紙面は、「反基地」一色となった。それまでもオピニオンとしては同じだったのかもしれないが、ニュースとしては主要な発信源である県知事が仲井真弘多で、政府の施策である普天間基地の辺野古移転については「容認」だった。仲井真知事の発言として、政府路線が紹介されるため、オピニオンとしての「反基地」も緩和されている印象を受けていたのかもしれない。
 この1年間、沖縄の「真相」は、県紙2紙を読まなければ分からないといった様相が強まっている。もちろん全国紙にも、辺野古移転をめぐる政府対翁長県政の対立は報じられる。しかしその報道は政治・行政のシステム=制度の次元にとどまる傾向が強い。制度に浮上しているとはいえない問題が、朝日・毎日などの紙面を賑わすことは少ない。
 例えば、翁長知事が上京しても、安倍首相も菅官房長官も会わない。とくに官房長官は「沖縄基地負担軽減担当」を兼ねており、県知事が振興予算獲得を目的に上京した場合、会って話を聞くのは、職務上の義務と言えるだろう。しかし菅も、翁長には会おうとしない。仲井真知事時代は、上京するたびに菅だけでなく、首相の安倍も会い、振興予算の増額に応じていた。一転して振興予算も削るような冷酷な対応を取っている。「国の方針に従わない沖縄県はいじめ抜く」という政権の意思が見えてくる。

 辺野古の現場では、警視庁から応援に来ている機動隊が、警備の前面に出てるという問題もある。以前は沖縄県警の警官隊で、ときに反対派の一員として行動していた県民と警官隊の一員となっている警官が顔見知りという場面もあった。その場合、当然のことながら「対立」一色とはならない。警官の方が「実力行使」を避けたり、行動している県民の方が「アンタもこの行動に加われ」と呼びかけたり、「同じ県民」を思わせる場面だあった。しかし警視庁から応援の機動隊が警備の前面に立つことによって、こうした場面は消えてしまった。
 明治維新直後、「琉球王国」を日本領とした琉球処分(1872〜79年)は、最終的には本土から軍と警官隊を送り、武力によって完成した。いま安倍内閣の沖縄政策が「第2の琉球処分だ」という主張は、翁長知事も県紙2紙もともに強めている。安倍政権が辺野古の地元地区に直接、補助金めいたものを支給していることも強い反発を買っている。辺野古移転には沖縄県も名護市もともに反対している。国が補助金支出によって「賛成」に転換させようとしても不可能に近い。そのため県・市を無視したルール違反なのだが、全国紙には強い抗議が見られない。

 こんな中で賞賛に値するのはのは「琉球新報」が2014年5月1日から15年2月15日まで100回にわたって連載した大連載記事<道標(しるべ)求めて・琉米条約60年 主権を問う>であろう。「編集委員・新垣毅」という署名入りだが、多くの記者を動員した集団の労作だったのだろう。早稲田大学は「石橋湛山記念 早稲田ジャーナリズム大賞」を設けている。15年10月の第5回では、公共奉仕部門の大賞にこの連載を選んだ。この連載は高文研から単行本として出版されているから、一読に値することをつけ加えておこう。
 1853年6月、浦賀に来航して日本(江戸幕府)に開国を迫ったペリーの米艦隊は帰国途中沖縄を訪れ、琉球王国と修好条約を結んだ。160年前のこの歴史をたどりながら、それが現在の沖縄にとって「道標」となっているという意味は、タイトルだけでも明らかだ。
 翁長県政の誕生以後、沖縄の声は「自己決定権」一色になっている。知事を先頭にした自治体首長、多くの県民団体、そして県紙2紙とも「自己決定権」を主張している。現在の安倍政権の沖縄政策については「第2の琉球処分」だという認識になる。英国のスコットランドや、スペインのカタロニア地方で高まった「独立論」と同様、沖縄独立論も強まるのは必然といえる。翁長知事や県紙2紙が「独立論」を展開するのは次官の問題で、早ければ来年(2016年)の元旦ということも考えられる。
 いずれにせよ全国紙を読んでいても「燃える沖縄」の現状は浮かび上がって来ない。少なくとも朝日・毎日は、沖縄県紙の報道・論評を読者に伝える工夫をしてほしいと考えるが、実現しないだろうか?

(注)12月15日までの報道・論評が対象です。新聞記事などの引用は、<>で囲むことを原則としております。政治家の氏名などで敬称略の記述があります。
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 (筆者は元毎日新聞記者)


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