■ A Voice from Okinawa (8)            吉田 健正

-在日米軍基地に対する国民のホンネ-

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  昨年の総選挙における沖縄での「普天間県内移設反対」候補の総勝利、今年1
月の名護市長選での反対派候補の当選に続いて、沖縄県議会が2月24日、政府に
普天間基地の早期閉鎖・返還と国外・県外移設を求める意見書を自民党、公明党
を含む全会一致で採択した。北沢防衛相談、岡田外相、平野官房長官が県民の心
を逆撫でする発言を繰り返す鳩山政権は、明白に表明された県民世論にどう応え
るのか。


■本土自治体も米軍駐留を歓迎せず


  本土自治体はかつて本欄で取り上げた「総論賛成、各論反対」の態度をとるだ
ろう。「米軍再編に伴う沖縄の米軍基地負担軽減について、小泉純一郎首相が「
『(沖縄の負担を)本土に移そうというと各自治体が全部反対する。実に難しい。
総論賛成各論反対だ』と述べ、負担軽減の必要性を強調しつつも、移設先の抵
抗が強いとの認識を繰り返し示した」(2005年6月24日付け「琉球新報」)という
のが、「総論賛成、各論反対」である。昨年12月に共同通信が全国の知事を対象
に行ったアンケートでも、米軍の訓練や施設を受け入れる都道府県は皆無だった。

 本欄では、これを沖縄差別と結びつけて論じた。確かに、本土自治体の声を尊
重する一方で沖縄の声を無視した小泉には、明らかな差別があった。しかし、都
道府県の「各論反対」の背景には、もっと根源的な理由があるのではないか。
  日本中が、タテマエは日米同盟支持だが、ホンネは米軍基地の配備・増強ある
いは米軍の訓練に「ノー」と言っているのではないか。基地は米本国にもって帰
れ、「ヤンキー(米軍)・ゴー・ホーム」を表明しているのではないか。

 ところが、この「総論賛成、各論反対」発言から4か月後、「郵政」選挙から1
か月余後の2005年10月29日、小泉政権下の日本政府が、テロ戦争に邁進するブッ
シュ政権の米国政府と合意した「日米同盟: 未来のための変革と再編 」は、ま
ったく逆の方向を向いている。


■日米は「共通の戦略目標」を追及


 合意は、まずこう述べる。
  「本日、安全保障協議委員会の構成員たる閣僚は、新たに発生している脅威が、
日本及び米国を含む世界中の国々の安全に影響を及ぼし得る共通の課題として
浮かび上がってきた、安全保障環境に関する共通の見解を再確認した。また、閣
僚は、アジア太平洋地域において不透明性や不確実性を生み出す課題が引き続き
存在していることを改めて強調し、地域における軍事力の近代化に注意を払う必
要があることを強調した。この文脈で、双方は、2005年2月19日の共同発表にお
いて確認された地域及び世界における共通の戦略目標を追求するために緊密に協
力するとのコミットメントを改めて強調した。」

 日本国民も、この合意が述べる「脅威」や「課題」に同意し、日本が米国と手
を組んで「地域及び世界における共通の戦略目標を追及」することをサポートし
ているだろうか。
  「共通の戦略目標を追及」するため、「日本は、米軍のための施設・区域を含
めた接受国支援を引き続き提供する。また、日本は、日本の有事法制に基づく支
援を含め、米軍の活動に対して、事態の進展に応じて切れ目のない支援を提供す
るための適切な措置をとる」と言う。

 日本が、基地を含む「接受国支援」を提供し米軍の活動を支援し続ける、と言
うのである。「双方は、在日米軍のプレゼンス及び活動に対する安定的な支持を
確保するために地元と協力すると述べるが、「総論賛成、各論反対」の自治体や
国民は、支持するだろうか。
  日本は米国を支援する代償として、米国の「核抑止力」に依存し続ける。文書
は言うーー「米国の打撃力及び米国によって提供される核抑止力は、日本の防衛
を確保する上で、引き続き日本の防衛力を補完する不可欠のものであり、地域の
平和と安全に寄与する。」

 両国はまた、「不安定化をもたらす軍事力増強を抑制し、侵略を抑止し、多様
な安全保障上の課題に対応する」ため、「部隊戦術レベルから戦略的な協議まで、
政府のあらゆるレベルで緊密かつ継続的な政策及び運用面の調整を行う」こと
になった。これには、「自衛隊及び米軍による施設の共同使用」、「港及び港湾
を含む日本の施設を自衛隊及び米軍が緊急時に使用する」こと、「日本における
自衛隊及び米軍の訓練施設・区域の相互使用を増大する」こと、「自衛隊要員及
び部隊のグアム、アラスカ、ハワイ及び米本土における訓練も拡大される」こと
などが含まれる。いかにも、米国のイラク攻撃に開戦前から支持を表明し、有事
関連法案(有事法制)やイラク特措法を成立させた小泉首相ならではの追従外交
の現れであった。

 日本国民はホンネで「安全保障同盟」を支持しているか
  文書によれば、「安全保障同盟に対する日本及び米国における国民一般の支持
は、日本の施設・区域における米軍の持続的なプレゼンスに寄与する」。しかし
、日本の「国民一般」は、上記の日米軍事協力体制に納得して日米軍事同盟を支
持し、米軍駐留(プレゼンス)を歓迎しているだろうか。日本が、米国と共にこ
れほど「国際的な安全保障環境の改善」に乗り出すのは、明らかに、憲法や日米
安全保障条約の枠を大きく超えている。なぜ違憲訴訟が起こらなかったのだろう
か。小泉は、05年9月の総選挙で郵政改革ではなく、日本の防衛政策を大きく変
える「日米同盟:未来のための変革と再編」について国民に信を問うべきであっ
た。国民は果たして、小泉を支持しただろうか。

 鳩山政権が、同条約や日米同盟を見直すのであれば、米国のネオコン政策に同
調した小泉政権の「日米同盟: 未来のための変革と再編 」合意やそれを引き継
いだ「(在日米軍・自衛隊)再編ロードマップ」を、日本の憲法と国民のホンネ
に基づいて検証し直すべきであろう。世論調査で国民に自らの自治体における米
軍駐留を含めて賛否を問うたらどうだろうか。同時に、小泉政権の対米外交の是
非を総括すべきであろう。

 その上で出直さなければ、日本は今後、米国の国際戦略を否応なく支持せざる
を得なくなって米国の戦争に引きずり込まれ、米国の隷属国家として自らも軍事
化していくおそれがある。
 
  オバマ政権が今年2月に発表した「4年ごとの国防戦略見直し(QRL)」も、米国
は安全保障の拠点として日本や韓国などアジアに基地を維持し、強化されるグア
ム基地との連携を図るという。もうひとつの文書「弾道ミサイル防衛見直し」は
、「日米同盟: 未来のための変革と再編 」や「ロードマップ」にも盛り込まれ
た日米の弾道ミサイル防衛協力を、「卓越した模範」と呼ぶ。「ロードマップ」
によれば、「双方が追加的な能力を展開し、それぞれの弾道ミサイル防衛能力を
向上させることに応じて、緊密な連携が継続される」という。「コンクリートか
ら人へ」を掲げた鳩山政権は、一方では、小泉政権が敷いた日米軍事同盟を踏襲
するのだろうか。
            (在沖縄・元桜美林大学教授)

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