■ 海外論潮短評【番外編】

~ロンドンの『エコノミスト』誌近着号(5月2日付)の記事から~    初岡 昌一郎

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ロンドンの『エコノミスト』誌近着号(5月2日付)の記事から、
二つのトピックを拾って簡単に紹介、論評する。


◇オバマの100日 ― 概して好評だが


  政権発足以来100日を迎えて行なわれた世論調査で、68パーセントの肯定的
的評価をオバマ大統領がえている。これは近年どの大統領が同期間に得た支持よ
りも高い。ニューヨークタイムス/CBSの調査でも、大統領としてのオバマの
今後4年間にたいし、72%が楽観している。

 ペンシルバニア州選出上院議員が共和党から民主党に移籍したこと、ミネソタ州
で係争中の投票結果の判定で民主党候補の勝利が近く確定しそうなことから、上
院で審議妨害(フィリバスター)阻止に必要な60議席を与党が占める見込みだ

 しかし、ルーズベルトの100日間に比較すると、政策上の大きな成果は乏しい
。これには両者の政治的力量と経験の差が反映しているだろう。ルーズベルトが
海軍次官、副大統領候補、ニューヨーク知事を歴任して大統領になったのにたい
し、オバマは上院議員一期中に大統領になっただけで、行政経験がない。
それ以上に、オバマ周辺に政府高官に任命できる人材が少なく、行政上これまで
の民主党人脈、ことにクリントン政権時の人材に依存しなければならず、まだ多
くの政治的に任命すべきポストが埋まっていない。

 金融経済政策をこれまでの状況に深くかかわってきたサマーズやガイトナーに依
存しているので、銀行国有化のような、必要かつ思い切った改革が出来ないとい
う批判も出始めている。また、クリントン女史が主導する外交政策にもオバマが
選挙中に公約したチェンジを実現しようとする努力が見えてこない。

 具体的成果というより、ぐうたらで、無能な前任大統領とは対照的に、"ハイパ
ーアクティブ"(超活動的)なオバマ大統領の奮闘振りが好感を持って見守られて
いる段階にあるといえよう。


◇フランスで大学占拠が広がる ― 世界的学生反乱の口火?


  ほとんど世界的には注目を浴びていないが、フランスの多くの大学が現在封鎖に
追い込まれており、大学生の反乱が下火になる気配は見えない。

 「"大学が消えつつある"と殴り書きした横断幕が、パリ近郊のナンテール大学正
門に翻っている。正門前では占拠した学生が焚き火を囲んで気勢を上げている。
社会科学館には、オリビエ・ベサンセノーの新反資本主義党のポスターがべたべ
たと貼られており、出入り口には椅子や机が積み上げられ、講義が出来ないよう
に封鎖されている」

 「経営者を監禁した戦闘的な労働者のメーデー準備計画は新聞を賑わせるが、フ
ランスの83大学のうち、ソルボンヌを含む20校が2ヶ月以上にわたり閉鎖さ
れていることはあまり取り上げられていない。大学キャンパスはストライキでブ
ロックされたままだ。特に社会科学系の授業は全面的にキャンセルされ、学生が
期末試験を受けられそうもない」

 「学生と教師の抗議は、大学の経営自主努力を求めるサルコジ教育改革に向けら
れている。教師たちは、業績の定期的評価を導入し、学長の管理経営権を拡大す
る新ルールに反対している。入学には試験もなく、授業料もないのだが、学生は
競争強化策に"大学民営化"として反対している」

 サルコジ大統領は先に大学が成果を上げていないと批判しており、知識人を馬鹿
にする発言が多い。また、彼の進めようとする教育改革が格差を拡大し、大学を
一握りの一流校と、それ以外の"ダメ"大学に分けるものだと批判されている。文
部相は、スト参加の学生に安易に単位や修了資格を与えないと強硬な非妥協的姿
勢をとっている。

 1968年に世界的な学生反乱の先頭に立ったフランスの学生たちが、同じよう
な改革が行なわれている他の先進諸国にとって先鞭を再びつけるのだろうか。経
済的な危機が学生の前途に暗い影を落としているのに、世界的にはまだ学生運動
活発化の動きは見えない。だが、学生運動は他の社会的政治的運動に比べ、高い
瞬発力と迅速な伝播力を持っており、短期間に燎原の火のように広がる可能性を
秘めている。

             <評者はソシアルアジア研究会代表)

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