■【視点】 

鳩山政権と北方領土          望月 喜市

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 8月30日に実施された衆議院選挙で、民主党が未曾有の勝利をおさめた。長期
にわたる自民党一党支配から来る閉塞感が、日本国民の革命的選択(自民党の惨
敗)をもたらしたのだ。 次期首相となる民主党党首鳩山由紀夫氏は、56年の日
ソ共同宣言を締結した鳩山一郎首相(当時)の孫で、自身も日ロ協会会長を務める
「知露派」であることは、ロシアでも広く知られている。鳩山さんの一人息子は
今、モスクワで交通問題を研究中とのことだ。それだけに日ロ間の積年の懸案で
ある領土問題を解決して平和条約を結ぶための個人的人脈が期待される。 

 しかし、道は平坦ではない。麻生政権下で対ロ領土交渉が閉塞状態に陥った状
態であることは周知の事実だ。その最も大な原因は、四島を「日本固有の領土」
と明記した改正北方領土問題等促進特措法(北特法)の国会採択にある。この表
現は、毎年発行される外務省の広報誌「われらの北方領土」の冒頭に書かれてお
り、法案採択に当たり、国会議員も特に問題視しなかったし、外務省も待ったを
かけなかったようだ。ところが、ロシア側は、これを日本の一方的4島の領有宣
言であると受け取り、大統領、政府、国会、極東の地方議会、4島行政府などが
一致して猛反発した。 かれらの言い分はこうだ。4島問題は未解決の問題として
、両国共通の合意のもと、交渉が進められてきた。ところが、それを無視して「
日本固有の領土」であると法定(宣言)されたのでは、これ以上交渉する意味がな
い、というのだ。  

 日本側は、「北特法」の真意はそこにはなく、北方領土運動のテコ入れが本旨で
あると述べているが、立法者の意図とは無関係に法文はそれ自身独立している。
「4島は我が国の領土である」しかも、他の領土とは異なり「固有(特別)の領
土」である、と解釈されても致し方ない。  この法案の提出者は、民主党の衆
院沖縄北方問題特別委員長であり、自民・民主両党を含め衆参両院とも全会一致
で採択しているのだ。 政権与党となった民主党の責任は重い。 もし「北特法」
が日本の一方的領有宣言でないとすれば、ロシア側の誤解を解き、交渉の窓を開
くことから、着手すべきだ。鳩山氏自身は日ロ協会会長として日ロ国交回復50周
年記念「日ロフォーラム」の共同議長を務め(2006年10月、モスクワ)、「56年宣
言」を交渉の基盤とすることを確認している。 幸い、日ロ間には、記録的に良
好な経済関係があり、技術協力やエネルギー協力、環境協力など多面的な協力が
相互利益をベースとして発展している。このような、条件をますます発展させな
がら、焦ることなくロシア側の厚い信任をテコに、交渉の窓を再開するよう全力
を傾注してほしいものだ。(09年9月8日)

                     (筆者は北海道大学名誉教授)

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