【コラム】ザ・障害者(7)

重度障害者の働き方と「高度プロフェッショナル制度」

堀 利和


 自己紹介をする時、「トヨタに勤めている堀です」「日産の社員です」というように、会社名を名乗る。これに対し、欧米では「システムエンジニアです」「プログラマーです」と、職業名を名乗ると言われている。日本では会社人間、会社に就職するからであり、欧米はどちらかというと職業人という認識が高い。

 この二つのタイプにはそれぞれメリットとデメリットがある。それを障害者の労働問題に引き寄せて考えれば、一面、デメリットとしては会社人間には配転や異動がつきものであり、公務員でも一般職は3、4年で部署を異動する。その意味ではどんな業務にも対応できなければならず、障害の特性によってはそれが不利ともなる。一方、たとえばタイピストやオペレーターというように限定した仕事内容ともなれば、働きやすい側面もでてくる。会社人間だとなかなかそうはいかない。

 そこで話を本題に移すと、台湾の新北市に勝利財団が経営するファミリーマートがある。16人のスタッフのうち障害者は9人で、レジの仕事は身体、聴覚障害者で、品物を運んだり並べたりするのが知的、精神障害者だという。これだけでは私も驚きはしない。ところが店に入るとすぐ、女性が入口で大きな声。中国語なので何を言っているかわからなかったが、後で説明を聞くと、中度の知的障害をもつ女性がお客さんに向かって挨拶しているというのである。それではたして顧客が一人でも二人でも増えるかどうかはわからないが、経営にどれほど貢献しているかどうかはわからないが、勝利財団ではそうしている。

 知人から聞いた話だが、アメリカのスーパーマーケットで、レジの近くで車イスに乗った重度の脳性マヒの女性が、お客に挨拶、それも言語紹介ゆえ「にっこり」。それが仕事、一般のスーパーマーケットでの。
 またこれも、アメリカの地方都市のことであるが、はさみで紙を切るのにこだわる(好きな)知的障害(自閉症かも)の男性がいて、それでコミュニティマガジンの残務処理に彼が貢献し、賃金を得ているという、

 以上のことが、もちろん、経営サイドにどれだけメリットがあり、売り上げにどれほど寄与しているかは全く分からないが、そうしているのであって、実際にこうしたことが行われて、その可能性が開かれているということである。

 「仕事に障害者を合わせるではなく、障害者に仕事を合わせる!」というスローガンで、私は仲間と共に八十年代「職よこせ!」運動を行ってきた。

 経済はなんのために、誰のために? 経済のための人間なのか、それとも人間のための経済なのか。昨今、マクロ経済学者の中から、行動経済学の分野で人間関係を注視した働き方(経済)の意味論を問う動きもでてきた。それは経営のためのかつての人間関係論ではなく。

 カントは、人間は手段であると同時に目的でもある、と「目的」を重視した道徳論を説いている。

 さて、ファミリーマート、スーパーマーケットやコミュティマガジンはもとより、社会的事業所もその文脈から高く評価されてよいであろう。生きがい、やりがい、モチベーションを高めるかのような成果主義の「高度プロフェッショナル制度」の導入に対する対抗軸としても、それはいたって有効であるからである。いずれ「制度」は規制緩和され、ホワイトカラー全体の働き方の基本形となっていくであろう。成果主義の働き方が労働者の意識と生活に何をもたらすかは自明である。

 将来、「高度プロフェッショナル制度」を強める6割の正規社員と、時間給の不安定雇用を促進する4割の非正規労働者との間には、まずまず経済的社会的格差が固定されていくことになろう。しかも、それは、正当な人間評価としてである。

 (元参議院議員・共同連代表)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧