【選挙分析】

都議選出口調査~無党派層の動向と都議選の真の敗者はだれか

仲井 富
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◆ 朝日新聞出口調査に注目 無党派層支持一位都民、二位共産

 7月2日投開票の東京都議選が終わった。開票結果を見て驚いたことは、第一に自民党の見事な負けぶりだ。現議席57がマイナス34議席で当選者23議席、公明党の当選者23名と肩を並べる都議会第二党となった。自公選挙協力によって、2014年総選挙で、渋谷区の民進党長妻昭氏以外は東京の全選挙区を制した自民党の劇的敗北である。
 民主党が政権獲得に成功した2009年の都議選でも大敗したが、自民党の議席数はマイナス10議席で38議席。公明22議席で計60議席を維持していた。対する民主党は34議席から54議席に増加したが、過半数には及ばず、共産8、ネット2や無所属の議席数を加えてやっと過半数を維持できる状態だった。今回の自民党57議席から23議席への転落は、まさに戦後東京都議会始まって以来の歴史的惨敗と言える。

 朝日新聞は都議選の投票を終えた有権者2万7,777人を対象に出口調査を実施した結果を要旨以下のように分析した。
①政党支持率では、自民を支持すると答えた層の割合は全回答者の26%。自民が大勝した昨年夏の参院選で実施した出口調査での36%と比べると10ポイント減少。
②都民ファーストの支持率は24%とほぼ自民と互角だった。だが、実際の候補者への投票行動でみると自民支持層のうち、自民の候補者に投票したのは67%と、7割を切った。4分の1は、都民ファーストや公明など、小池氏の支持勢力の候補者に投票した。
③小池氏支持勢力の候補者は、都民ファースト支持層をほぼ固めたうえ、無党派層(全体の21%)の過半数の52%を取り込んだ。
④公明の候補者が出なかった21選挙区で、自民は前回22議席を獲得していたが、今回は7議席に激減、公明依存のツケは大きかった。とりわけ北多摩2区・定員2名では、都民ファーストの弁護士がトップ当選、共産の支持も得た生活ネットの現職が当選、自民は完敗した。
⑤無党派層の投票先を候補者の政党別にみると、都民ファースト35%、共産17%、自民13%、民進10%、公明8%の順。無党派層に限れば、共産の候補者は、自民を上回る支持を得ており、安倍政権も小池知事も支持しない層の受け皿になっている様子がうかがえる。民進支持層は参院選時の18%から7%に大きく減った。(図1参照)

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  (図1 朝日新聞都議選出口調査 2017.7.3)

◆ 無党派層:読売出口調査でも都民ファーストと共産へ

 読売新聞は6月2日、東京都議選虚の投票を終えた有権者を対象に出口調査を実施し、約3万4,000人からの回答を得た。①支持政党別に今回どの政党に投票したかを見ると、自民党支持層は約50%が自民に投票、都民ファーストに29%が投票していた。②無党派層の投票先では、都民ファーストが40%、共産党15%、自民党12%。自民党が無党派層から敬遠され、都民ファーストや共産党が政権批判の受け皿になっていることが浮き彫りされた。(図2参照)

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  (図2 読売新聞都議選出口調査)

 無党派層の支持がその他の各紙調査でも、共産党が2位に位置していることが、今回の共産党の健闘を裏付けている。すでに予兆はあった。安倍政権の広報紙と揶揄された読売新聞の世論調査でさえ、安倍政権支持率が逆転していた。6月26日の調査で東京都内では「安倍内閣支持率39%」となり「安倍内閣不支持50%」と大逆転が起こっていた。同日行われた日経新聞などの9社合同出口調査でも同様の結果が出ている。(図3参照)

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  (図3 日経・共同・毎日・産経・TBS・フジテレビ・テレビ朝日・テレビ東京・TOKYO MX 9社共同出口調査)

◆ 無党派層の30-40%が都民Fに投票、自民党には10%程度のみ
 〈選挙ドットコム選挙アナリストが分析する都議選〉自民・都民F「拮抗」のはずが…都議選を揺るがした5日間(要旨)

 いわゆる無党派層はNHK調査で30%、朝日調査で21%などとなっている。無党派層で「都民ファーストの会の候補者に投票した」と答えている人の割合は、NHK調査と読売調査でともに40%、朝日調査で35%、毎日新聞社などの8社共同調査で29.8%となっている。前回2013年選挙のNHK調査では、無党派層のうち自民党の候補に投票した人が22%、当時の民主党が20%だったことを考えると、今回の選挙で都民ファーストの会の候補者に投票したと答えた無党派層の割合の高さが際立つ。

 時事通信社の調査では、都民ファーストの会公認候補に投票したと答えた人が37.1%、都民ファーストの会推薦の無所属候補が15.1%、公明党の候補が9.4%と知事支持勢力の候補者へ投票したと答えた割合が高くなったのに対して、自民党の候補に投票したと答えた人の割合は9.2%にとどまった。

 なお、あわせて都民ファーストの会以外に投票した無党派層の割合を見てみると、NHK調査では共産党に16%、自民党に13%、民進党9%、公明党7%、東京・生活者ネットワーク2%など。朝日調査では、共産党17%、自民党13%、民進党10%、公明党8%の順。読売調査では、共産党15%、自民党12%、民進党8%、公明党6%。日経など9社共同調査では、共産党19.6%、自民党12.9%、民進党10%、公明党7.6%。いずれの調査結果からも、今回の選挙では、「無党派層の30%~40%は都民ファーストの会に投票、15%~20%程度は共産党に投票している。自民党に投票する割合は10%少し超えるぐらい」である。(図4参照)

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  (図4 選挙ドットコム 無党派層はどこに投票したか)

◆ 得票結果と党派別得票数に見る敗者と勝者
  第一の敗者は安倍一強政権 女性の安倍不信任と自民離れ 読売新聞

 自民都連は負けたとはいえ、都民ファーストの188万票に次ぐ126万票を獲得している。その底力は軽視できない。敗因を探れば二つ、安倍・菅体制の強引な共謀罪強行、加計学園問題、防衛相失言など身内に対する自己弁護の政権運営、それと安倍自身の「ウソ」を有権者に見抜かれたことだ。読売新聞の都議選後の世論調査では、安倍内閣の支持率がさらに低下を続けている。すべての調査で、第2次安倍政権発足以来、政権支持率は最低を更新している。野党不在だから野党政権への交代はあり得ないが、安倍一強体制がすべての世論調査でノーを突きつけられている事実は重い。安倍政権の広報紙、読売新聞の都議選後の全国世論調査は衝撃的である。

 7月7日~9日、全国世論調査の結果、
①安倍政権支持率は前回調査(6月17~18日)の49%から13ポイント下落し、2012年12月の第二次安倍政権発足以降で最低となった。不支持率は52%(前回41%)で最高となった。
②性別や年代を問わず、「安倍離れ」が広がっている。男女別にみると、女性で厳しい見方が顕著に現れた。女性の内閣支持率は、前回(6月調査)からマイナス18ポイントの28%に下落した。専業主婦に限っても、マイナス18ポイントの27%とほぼ同様である。
③今回調査では、無党派層の割合は前回より7ポイント増えて47%となり、第二次安倍政権発足以降では2014年8月の49%に近い高水準となった。一方で、無党派層の内閣支持率は16%で、第二次安倍内閣以降で最も低くなった。
④自民党が歴史的惨敗を喫した東京都議選の結果について「よかった」とした回答は全体で65%に上がり、安倍内閣支持層と自民支持層でも、それぞれ54%と半数を超えた。しかも「安倍内閣を支持しない」最大の理由は「安倍首相が信頼できない」が断トツの49%に上っている。自民党支持率も前回の41%から30%へと下落した。今次都議会選挙の最大の敗者は安倍・菅一強体制であり、その崩壊への序曲が始まった。(図5参照)

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  (図5 読売新聞全国世論調査 2017.7.10)

 公明党の山口委員長は7月5日の記者会見で以下のように述べた。「2020年の新憲法施行に意欲を示す安倍晋三首相をけん制したもので、都議選での自民党の歴史的惨敗を受け、改憲を急ぐ首相に対し与党内からブレーキをかける狙いがある。「政権の課題は経済再生だ。憲法は政権が取り組む課題ではない」と述べ、安倍政権として憲法改正より経済再生を優先すべきだと主張した。(日経新聞 2017.7.6)

 自民党幹事長や官房長官を歴任した野中広務氏は7月4日夜、同党の安倍晋三総裁(首相)が目指す憲法改正について、東京都内で記者団に「私個人は反対だ」と述べた。野中氏は、自民党額賀派(平成研究会、旧経世会)の結成30周年の会合にOBとして出席。終了後、記者団の取材に応じ「私みたいに戦争に行き、死なずに帰ってきた人間としては、再び戦争になるような歴史を歩むべきではない。これが信念だ」と強調し、憲法9条に自衛隊の存在を明記するなどの改憲案に反対を唱えた。また、東京都議選での自民党の大敗に触れ、「選挙戦の最中に(稲田朋美)防衛相をクビにしていれば、小池百合子都知事(が率いた都民ファーストの会)はあんなに勝っていない」と述べ、首相の対応に疑問を呈した。

◆ 第二の敗者は安倍一強ベッタリの日本維新

 そして第二の敗者は見過ごされているが日本維新である。大阪では自民党と対立しながら、公明とは大阪の衆議院選挙で4議席を保証し、その対価に、大阪万博やカジノ法案への賛成を求めている。ギブ&テイクの関係にある。そして、安倍・菅の一強体制には、橋下、松井代表が官邸に出入りして、ほとんどの法案強行に同意している。
 その典型が稲田防衛相の「自衛隊としてもお願いしたい」という大失言である。自民党内部でさえ「赦し難い」という批判の声が起きているにもかかわらず、維新の松井代表は「辞任には値しない」と稲田を擁護し続けた。しかし、あまりにも世論と遊離していたことに気づいたか、橋下元代表がツイッターで投票日直前、稲田防衛相の辞任を求めた。あわてて維新・松井一郎代表も「稲田朋美防衛相は早く辞めるべき」と辞任不要論を軌道修正したが、時すでに遅しだった。(産経新聞 17.6.30)

 維新は4年前の都議選で初めて都議会に2議席を得たが今回は1議席。前回の37万票から5万票へ32万減少した。大阪の民進党は府議会1議席の泡沫政党だが、日本維新は都議会では1議席の泡沫政党に転落した。
 維新はすでに、今年初の大型地方選挙として注目された1月29日の北九州市議選(定数57)でゼロ議席となった。自民党は改選前より2議席少ない18議席となり、民進党は改選前と同じ7議席にとどまった。公明党は2議席増の13議席、共産党は1議席増の10議席、日本維新は改選前の3議席全てを失なった。安倍一強体制にヨイショするのはいいが、その結果は大阪・近畿以外は無残な敗北となって返って来ている。(仲井富/オルタ第158号(2017.2.20)【選挙分析】自民惨敗の千代田区長選挙と維新全敗の北九州市議選 参照)

◆ 第三の敗者は都議選連敗の民進党 花輪議員の裏切りで築地移転可決

 さらに深刻なのは民進党だ。かつて2009年都議選で都議会第一党を誇った民主党は、230万票と54議席で都議会第一党となった。その後2013年は前年の総選挙での民主党政権転落を受けて69万票と惨敗。今回の都議選では38万票と半減、議席数もわずか5議席に転落した。09年以降2回の都議選で連敗して5議席に転落した民進党こそ、都議選最大の敗者であるといわれても仕方あるまい。民主党政権の野田元首相、蓮舫元大臣には旧民主党政権を惨敗させた責任がある。この二人をこれからも代表、幹事長として担ぎ続ける限り、民進党に未来はない。小選挙区25区の東京地区、同じく小選挙区19区の大阪地区という二大都市で小選挙区当選者それぞれ1人という現状をどう打開するかが問われている。

 下記の「主要政党の党派別得票数一覧」を参照されたい。敗者として挙げた自民の得票減は37万票、維新の得票減は32万票、民進の得票減は31万票だ。三党ともに30万票台の減少だが、壊滅に等しいのは維新と民進の両党であろう。

 <主要政党の党派別得票数一覧>
  2009・2013・2017 都議選挙得票数比較(東京都選挙管理委員会資料)( )は獲得議席数
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          2009年     2013年     2017年
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  都民ファースト                  188万票(55)
  自民党      146万票(38)→ 163万票(59)→ 126万票(23) 37万減
  共産党      71万票 (8)→ 61万票(17)→ 77万票(19) 16万増
  公明党      74万票(23)→ 63万票(23)→ 73万票(23) 10万増
  民進党      230万票(54)→ 69万票(15)→ 38万票 (5) 31万減
  生活者ネット   11万票 (2)→  9万票 (3)→  7万票 (1)  2万減
  維新               37万票 (2)→  5万票 (1) 32万減
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 <主要政党などの党派別当選者数比較 朝日新聞 2017.7.3>

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    •都民=都民ファーストの会、ネット=東京・生活者ネットワーク、維新=日本維新の会
    •都民には当選後に追加公認した無所属6人を含む

 09年の都議選に民主党都連は、「新銀行の存続反対」と「築地市場の移転反対」を公約として打ち出し、自民との対立点を強調し大勝した。当時、石原慎太郎東京都知事が強引に推し進めていた築地市場の移転問題は、民主党を始めとした都議の反対多数で見直しを迫られていた。ところが2011年3月、反対する会の会長を務めていた花輪智史議員が、突然民主党へ会派離脱届を提出し、賛成派へ寝返ったのだ。かくして都議会は野党過半数を失い、石原・浜渦・内田というラインの陰謀で、築地移転を可決した。民主党世田谷選出の花輪都議は、故石井紘基議員の育てた議員だ。2002年10月の石井紘基の右翼による刺殺事件の後、追悼集会で声涙ともに下る花輪の追悼演説は記録に残っている。

 その花輪が恥も外聞もなく、石原と内田の「世田谷区長に自公で推す」という甘言とカネに落とされて、都民を裏切った。これに対する、民主党都連の総括もお詫びもない。民主党政権はことごとくマニフェストを裏切って2012年総選挙で大敗した。同じ轍を民主党都議団もくりかえした。負けるべくして負けたというのが、今回の民進党惨敗である。

◆ 今次都議選の勝者は都民ファーストと共産・公明だが・・・

 今次都議選の勝者は都民ファーストと公明、共産党だろう。しかし過去の都議選や総選挙、参院選等の勝敗を振り返ると、大勝の後には間違いなく大敗北が待っている。05年の総選挙で小泉首相の郵政民営化路線を巡る選挙で刺客として当選した80人は、09年の総選挙では8人しか生き残れなかった。そして07年参院選と09年総選挙に大勝した民主党は、1年足らずのうちに菅首相の「消費税自公案抱きつき発言」で参院選惨敗。以後の総選挙、参院選、地方選挙とことごとく敗北の連続だ。都議選もしかり。民主党大勝の09年都議選から4年後には花輪議員の裏切りを含めて大惨敗。その後遺症はまだ続いている。

 自民党も、民主のだらしなさに救われて4年前は全員当選し、石原・内田コンビによる都政奪還を果たしたが、4年後の今回は大敗北である。この歴史に見習えば4年後の都民ファーストで生き残るのは幾人か、という厳しい自覚がない限り、小池ブームは雲散霧消の可能性を十二分に持っていると言わざるを得ない。

 公明党は常に与党であり続けたい、これが創価学会・池田大作の敷いた路線だ。かつて自民党に苛め抜かれた「創価学会への国税調査と池田喚問」の大問題を阻止するためには、国政与党であり続けたい。同時に1,800人の公明地方議員の多くが、都議会、府議会、市議会などで常に与党で有り続けた政党なのだ。

 大阪では、自公共民社民連合で反維新の政治行動を取りながらも、4つの小選挙区では維新の協力で当選を保障されている。そういう意味でのギブ&テイクの関係を維持している。そして名古屋では、一時は河村市政の身を切る改革に賛同するが、結局は自公民共社民連合で反河村の共同行動を取る。そして今年4月の名古屋市長選では公明を含む既成政党連合はダブルスコアの敗北を喫した。(オルタ第161号 河村たかし名古屋市長圧勝 自公民共社民既成政治勢力惨敗 参照)

 今回は都民ファーストと組んで自民都政打倒に貢献し、都議会第二党となった。小池与党として都議会運営の中軸を担い、国政与党としては落ち目の安倍政権を支える。そういう器用なことができるのが公明党だが、長続きしないことは確かだ。いずれ自民党都議団とも和解して、共に小池与党化する可能性もありうる。

 共産党は一貫した姿勢が評価された。築地移転反対、石原都政への根本的批判、小池都政にも一定の距離をおいて、言うべきことをきちんと言う。そういう姿勢が、国政における安倍政権追究と相まって、一定の支持者を拡大した。いかなる選挙も、体制転換の指標は、無党派層の投票行動によって投票率が上がり、現体制が否定されるという道筋を辿る。今次都議選では投票率を上げたのは無党派層の投票参加であり、都民ファーストに次いで共産党が第二の受け皿になったという事実が大きい。かつては投票率が上がれば、固定組織票に頼る公・共等の政党は不利と考えられていた。この定説を破って共産党が無党派層の第二の受け皿になった意味は大きい。

 (世論構造研究会代表)

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