都議選2013の結果を見る

  藤生 健

7月の参院選の前哨戦として注目された東京都議選(定数127)は6月23日に投開票され、前回39議席に終わった自民党は擁立した59人全員を当選させた。逆に与党だった民主党は現有43議席を大きく下回る15議席に終わった。
当選者数は、自民59人、公明23人、共産17人、民主15人、みんなの党7人、東京・生活者ネットワーク3人、維新2人、無所属1人。投票率は43.5%と前回(54.5%)を大きく下回り、過去2番目の低さとなった。

大手マスコミには「自民圧勝」「民主惨敗」の報が躍る。民主党の議席が43から15になったのだから間違ってはいないのだが、内容を分析すると、それほど単純な話でもないことが分かる。
まず投票率が43.5%と非常に低く、いわゆる無党派層・浮動票が選挙結果に影響しなかったことが挙げられるが、恐らく無党派層が投票したとしても投票行動に大差はなかったと思われる。それでも支持層の厚い自公共に有利に働いたことは確かだろう。だが、獲得議席(占有率)と得票率(得票数)を見てみると別の視点が見えてくる。

自民 59(46%) 36%(163万票)
公明 23(18%) 14%(64万票)
共産 17(13%) 13%(62万票)
民主 15(12%) 15%(69万票)
みな  7(5%)   7%(31万票)
維新  2(2%)   8%(37万票)

自民党が圧勝したとはいえ、得票率では36%に過ぎず、それで議席の46%を占めたのは候補者配分を始めとする戦略上の成功と選挙制度(中選挙区)の問題を示している。
逆に民主党は得票数(率)で第二党だったにもかかわらず、議席数では第四党になってしまった。これは候補者配分などの戦略ミスによるところが大きいが、前回地滑り的に大勝してしまったため、現職を辞めさせるわけにもゆかず、候補者の調整がどうにもならなかったことも影響している。定数4以上の選挙区では候補者を一本化していれば当選していたかもしれないケースが少なくない。とはいえ、杉並区や大田区などの場合、現職以外に新人候補を出しており、党の統制力の弱さを露呈している。
共産党は自公批判票の一部を取り込み、野党票が分散、投票率が低かったことも相まって、大きな選挙区で滑り込み当選を果たしことが勝因となっている。13%の得票率は驚異的だが、1998年の参院選では15%、820万票を集めて比例で8人を当選させている。また、維新の会が「みんな」を上回る37万票を獲得しながら2議席に終わったことは、衆院選の大勝を見て候補者を乱立させたことによると見られる。逆に31万票で7議席を獲得した「みんな」は効率よく戦ったことを示している。

もっとも、昨年12月の衆院選における自民党の得票は163万票で、公明が66万票で今回の都議選とほぼ同じだった。他方、維新の場合、衆院選で獲得した130万票が37万票に、民主は101万票から69万票、「みんな」は76万票から31万票へと減っている。投票率が62%であることを考慮すると、衆院選で自公に投票した人は都議選でもそのまま投票し、それ以外の党に投票した人が棄権したという仮説が考えられる。

得票率36%というのは、参院選なら2001年の自民党(小泉純一郎総裁)や07年の民主党が38%程度であることを考慮しても、日本では「圧倒的」と評価されるものの、現実の政党支持で4割を超すのは非常に困難であることを示している。
まして、今回43.5%の投票率を勘案すると、実のところ自民党に投票したのは有権者総数の15.5%に過ぎない。この有権者の15.5%の投票によって議会の46%を占めてしまっている点こそが、デモクラシーそのものの危機であると見るべきだろう。
なお、投票率を続けると、例えば港区では32.5%で有権者の3分の1も投票しておらず、年代別だと20代の投票率は23%でしかなかった。こうなると少なくとも都レベルの住民自治の点では、議会制度や間接民主主義の正統性が疑われる事態に至っていると見て良い。

話を戻そう。民主と維新とみんなの得票(率)を合計すると137万票(30%)になり、自民党の163万票(36%)に肉薄することを考えても、要は野党が分裂して政権批判票が分散しているだけの話であって、決して自民党が圧倒的な支持を得ているとは言えない状況にあることを示している。
仮にこの得票率が7月の参院選にそのまま反映された場合、比例代表区で自民党は18議席程度、民公共はともに比例で7ないしは8議席、維新とみんなは3議席程度になる。現実的な仮想ではないが、民公共を足せば自民党を上回るし、自公で25議席に対して、他の野党を合計すると21議席程度と意外に拮抗する。やはり、自民党以外の政党が大きく分裂していることが、日本における政治バランスを歪めていると言えそうだ。

もっとも、戦術レベルではそもそも民主党は自民党に太刀打ちできない。
今回、民主党は逆風の中で、新人候補を中心に必要最低限度の運動員すら用意できず、党本部や国会秘書団に泣きつくケースが続出した。このことは候補者たちが自前で電話掛け要員すら集められないことを露呈するものだった。
古来、都道府県議会議員選挙は数ある選挙の中で最も難しいとされている。投票率が低いところに、市町村議員選挙の何倍もの票をとらなければならないからだ。特に都議選の場合、2万から3万票をとる必要があり、国政選挙並みの労力、資金力、動員力が求められる。一世代昔には「都議選一回、家一軒」と言われるほど巨額のカネが動いたとされている(事務局長がカネを集めて最後に家一軒分残って懐に入れるという話)。

低投票率で浮動票が無いということは、いかに不動票を確保できるかが重要となる。これは街頭宣伝などではなく、一軒一軒歩いて回る「地回り」「ドブ板」をどれだけやったかが問われる。かつて小沢一郎氏は「衆議院の候補者になりたかったら、まず3万軒(戸別)訪問してから(私のところに)来なさい」と言ったものだが、都議選の場合でも最低1万軒は歩かないと「固定票」すらなく、政党の支持率で全てが決まってしまう。
特に民主党の場合、自民、公明、共産のようには党員がいないため、後援会の人数が全てを決することになるが、前回09年の都議選で苦労せずに当選した候補者たちはこれを怠っていたものと見られる。「地盤(党、後援会)」「カバン(集金力)」「看板(人気)」の「三バン」は古来必要とされているものだが、民主党候補はことごとく「看板」頼みであるため、一度人気が失われると全く歯が立たなくなってしまう。

肝心の政策的対立軸でも、菅・野田政権の路線は自民党との違いが見いだせず、独自性を打ち出せないどころか、党内で合意を得ることすらままならず、いたずらに政権批判するだけになりがちな民主党は「何でも反対するだけ」と見なされてますます支持が失われてゆく傾向にある。
都議会民主党の場合、表現規制が危惧される青少年健全育成条例改正案について土壇場で賛成に転じて可決させ、築地移転問題では分裂した挙句最終的には賛成に回り、原発の住民投票条例案でも分裂して否決させてしまった。党内に多様な政治背景を持つものを抱え、かつ合意形成システムが未熟で、一致した行動がとれない民主党は有権者の期待に応えられない体質を抱えている。

「三バン」を持たない民主党は、7月の参院選でも公明党と同程度の票はとるかもしれないがそれだけに終わって、「反自民、非公明・非共産」「穏健保守から中道・リベラル」議員集団から抜け出せないまま低迷を続け、緩やかに解党に向かうものと推察される。
  (筆者は東京都在住・評論家)

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