船橋 成幸  

「反日デモ」に関連して

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 今の中国は、社会全体が深刻な抗日戦争の歴史と向き合い、そこから得た教訓と誇りを精神的な大事な支えとしつつ今日の「躍進中国」に到達しているのである。

 その中国の民衆にとって、侵略の事実を形式的に「謝罪」はしても、その後の為政者の言動で反省の実質を打ち消してしまうような、そんな欺瞞を許せないと思うのは当然と言えるだろう。

 しかもこれは日本人にとっても他人事ではない。例えば靖国神社には、国民を欺いて侵略戦争に引き込み、おびただしい生命、財産を失わせた戦争犯罪者のトップが祀られている。加害の張本人が一般の被害国民と同列になっているのである。これはまさに戦争責任の所在を隠し、侵略を美化するための作為と見なければならない。問題のこの本質を見抜かず、小泉首相の靖国参拝をやめさせられないことは日本国民の恥辱であり、中国や東アジアの侵略を受けた国々に顔向けできないことである。

 「恥を知る国民」としてまずなすべきことは、歴史認識について反省と誠意を示し、過去の侵略戦争を直視して中国やアジアの人々と共通理解を認め合うことではないか。

 私は21世紀前半のできるだけ早い時期に、日本と中国が構造的で緊密な協力関係を打ちたて、それがコアとなって東アジア共同体の構築に進むべきだと考えている。

 日中協力の課題は環境、産業経済、技術、文化、地域・階層間格差などなど、両国に共通し、解決することで両国とも益する課題が数多くある。

 また、中国市場のポテンシャルはアメリカ市場のそれを大きく上回る規模が予見されている。日米同盟の経済的基盤の優位性は崩れつつあり、数年のうちにも日中基軸の方向にシフトしていく可能性がある。

  日本が21世紀における平和と共生の世界へ、新たな展望を拓くためには、日中両国の友好と協力の増進を第一義的に重大な国の施策とすべきである。

  だが、それもこれも、日中両国、両国民のあいだで不信を克服し、積極的に相互理解と信頼の関係を打ち立てることが不可欠の前提である。ところが日本の側では、いまだに独善的で反省のない対中政策が勢いを保ち、日中両国の信頼と友好をうちこわそうとしている。取り返しの利かない事態に落ち込む前に、中国に対する姿勢と政策の抜本的転換を急がねばならない。

日本は明治開国のときに「脱亜入欧」を掲げて欧米先進国の後を追った。その努力で蓄えた力におぼれ、道を踏み外して侵略戦争に走ったが、戦後は反省して経済中心の見事な成長を遂げてきた。

 戦後のこの過程で日米同盟が平和・安定・繁栄の支えとなった一面も否定はできないと思う。だが、今は世界の構造も状況も変わっている。これから必要なのは「脱米入亜」への漸次的な転換である。21世紀の展望に挑むこの課題の第一歩として、中国との相互理解と信頼の構築を重大視すべきである。

 日中関係はいま歴史的な岐路にある。