■ 【オルタのこだま】

自滅する民主政権
~北海道惨敗と沖縄不戦敗で潮目が変わる~

                     仲井 富  
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●民主低落の象徴 不戦負けの沖縄知事選


 先日の東京新聞夕刊のトップ記事に「民主ふがいなき不戦敗」という見出しが
おどった。(11月2日1面)沖縄県知事選のことかと思ったら、「新宿区長選も
擁立できず」というサブタイトルがついていた。ことほど左様に民主党は参議院
選挙の惨敗、とりわけ1人区での8勝21敗が尾を引いて、来年4月に予定され
ている地方選挙、とりわけ首長選挙へ及び腰となっている。朝日新聞(11月9日
朝刊)4面は「脱官僚民主の変節」との大見出しで、「かつて従わない官僚クビ
いまや官僚と戦った大臣クビ」という見出しだ。

長妻前厚労相と仙石官房長官の葛藤についての記事だ。「マニフェスト後退次
々」の見出しが続く。新たに国交相に就任した馬渕氏は11月7日、「コンクリー
トから人へ」のスローガンの象徴だった八ッ場ダム中止を撤回、「予断を持たず
に再検証する」と発表した。高速道路料金の無料化をはじめ、ことごとく主要な
マニュフェストを撤回、修正していることを批判したものだ。またマニュフェス
トで明らかにしていた企業団体献金廃止の方針も一転、一時的に棚上げを決めた。

読売新聞11月9日の一面トップには「仕分け軽視60事業 刷新会議即時順守勧
告」という記事だ。民主政権の目玉の事業仕分けも、官僚の抵抗によって、廃止
とされた事業が名を変えての予算要求や、縮減判定のはずが10億円増とかのサボ
タージュが続いている。菅民主は、小沢民主に替わる「クリーンな政治」をかか
げて再スタートしたはずだが、小沢喚問にはこたえられず、おまけに小沢幹事長
時代でさえ自重し、参議選のマニュフェストにも明記した企業団体献金の廃止を
改めて、一部再開に踏み切るなど支離滅裂の状況といえる。

菅首相の軽はずみな消費税10%発言で参院選挙に惨敗し、やっと党首選で「
小沢外し」に成功して支持率を上げただけである。沖縄普天間移設は、日米合意
尊重を繰り返しているが、なんの成算もない。頼りにしていた自公が推す仲井真
知事までが、県外移設に転換しなければ知事選そのものが戦えないとの判断で、
「県外移設に」態度を変えた。政党支持率でも政権発足以来はじめて、自民に抜
かれ16%台で競り合うという歯止めのかからない低落が続いている(時事通信世
論調査2010・11・12)。小沢氏だけではなく、菅民主党そのものが支持者の不信
をかっていることに気付かない完全な「ハダカの王様」となっている。


●沖縄知事選応援は党紀違反で処分という


 北海道5区補欠選の惨敗、沖縄県知事選挙の不戦敗につづいて地方選挙でも民
主凋落は止まっていない。ということは、つぎに予想される国政選挙、衆議院総
選挙敗北の確率はかなり高いということだ。情けないのは、菅民主党の地方軽視
だ。沖縄の参院選、知事選と候補者を擁立できず、政権政党とは思えない失態を
さらけ出している。しかも沖縄県知事選挙では、自公の仲井真知事と、対立する
伊波元市長が、ともに県外、国外を主張して、名護市への移設反対を明確にして
いる。

どちらが勝っても名護市への普天間移設は、三里塚のような強制執行なしには
実現しない。民主党内でも約130人の国会議員が、普天間の県内移設に反対して
いる。民主党執行部は、自由投票にしたが、2人の知事候補者は県外、国外と民
主党の県内移設方針と異なる。したがって選挙戦での応援はまかりならぬ。もし
行った場合は党紀違反として処分する、という方針を決めた。これに対して、自
由投票としたのだから、党員がだれを応援しようといいではないかという反論が
起きるのは当然だ。

昔の自民党ですらこういうバカなことは言わなかった。かつての逗子の米軍住
宅反対運動に、政権政党の自民党から、宇都宮徳馬,鯨岡兵輔、大石武一らが逗
子市民の反対運動の支援に参加し、市長選挙でも反対派の富野氏を当選させるこ
とに全面的に協力した。今回の沖縄県知事選挙でも、党本部の名護移設方針と異
なる仲井真知事を、地元の沖縄自民が全力をあげて支援していることを黙認して
いる。

 地域主権だといいながら、本部の方針に反するなら処分するなどという理
屈は時代錯誤も甚だしい。地方選挙での全国的な敗北の種をまいているようなも
のだ。市民派出身という菅政権だが、この中央集権的、官僚的発想は救い難い。


●名古屋から大阪・福岡とひろがる地方の反乱


いかに党紀違反などという後ろ向きの方針で、とりつくろっても民主の退潮は
止まらない。深刻なのは、いままで民主の厚い支持基盤となっていた大都市での
凋落ぶりだ。もっとも衝撃的なのは名古屋だ。河村市長の10%減税、議員歳費
削減、議員定数半減などの提案を自民、民主、公明、共産、社民などの既成政党
がことごとく否決し、ついに議会リコールへと発展した。

 署名は約46万5千人に上り、必要な署名数36万6千人を約10万人上回った。しか
し署名の審査を行う名古屋市選管が約11万4千人に疑義があるとして1ヶ月の審査
延長を決めた。結果は24日に出るが、市長側は、元議員で構成される市選管が議
会側の意向をくんだと批判している。市民の7割は河村改革を支持している、神
奈川では民主から離脱して「みんなの党」へと流れる現職県議が続出している。

大阪でも橋下知事の「大阪維新の会」に自民、民主から鞍替えがはじまり、一
大勢力となろうとしている。さらに11月14日投票の福岡市長選挙では、民主推薦
の現職市長が、自公の支持を受けた新人に6万票の大差で敗北した。いまの民主
党には、沖縄をはじめとする地方の反乱を適確に認識し、対応する能力が欠落し
ているとしか思えない。地方軽視のツケは、民主政権壊滅を予感させるものがあ
る。


●北海道5区補選と福岡市長選惨敗は民主政権への不信任


  10月24日の北海道5区補欠選挙の結果は予想をはるかに上回って、町村氏が3万
票の大差をつけ、中前氏の惨敗となった。北海道新聞は選挙区内30か所の投票所
で、投票を終えた1,800人を対象に出口調査を行い、分析した。(北海道新聞 2
010年10月25日)自民党の町村氏は自民、公明支持層の大半を固め、「支持政党
なし」の無党派層の支持を前回衆院選で得た3割から4割に伸ばしたことが大勝に
つながった。

民主新人の中前氏は、前回衆院選で小林千代美前議員が6割以上を得た無党派
層を、4割強しか獲得できなかった。共産党候補が立たなかった前回。8割近く得
た共産党支持層も、今回は同党が候補者を立てたことで1割に届かなかった。さ
らに、推薦を受けた社民党と新党大地の支持層は、各4割しか取り込めなかった
。最終盤で選挙協力を模索したみんなの党支持層も3割弱にとどまり、他党との
連携戦略も不発に終わった。


◆北海道5区補選結果 ()内は09年衆院選得票


◇投票率53・48% 
町村信孝 125,636(町村151,448) 
中前茂之  94,135 (小林182,952)

今年1月から6月までの首長選挙では、民主は8勝20敗、参院選では1人区8勝21
敗、そして民主党最強の地盤である北海道での惨敗である。さらに11月14日
の福岡市長選挙でも、民主推薦の現職市長が自公支持の新人に敗北した。4年前
の2006年4月、メール問題で逆境にあった民主党が小沢氏の先頭指揮で僅差なが
ら勝利し、これがきっかけに潮目が変わった。

 07年4月の都道府県議選挙で、375議席と6割以上議席増、さらに後半の市町村
議選でも3割近く議席を伸ばした。これが沖縄県議選の与野党逆転(08年6月)へ
とつながり、07年の参院選、09年の衆院選勝利につながった。

今回は明らかに4年前と逆な状況にある。参院選、北海道5区補選敗北、沖縄知
事選の不戦敗につづいて福岡市長選挙の現職惨敗は、民主政権への不信任と見る
べきだ。東京、横浜、名古屋、大阪での退勢は明らかだ。自民党の復権はいまだ
しの感はあるが、参院選であらわれた、みんなの党の大都市での伸びはまだつづ
くだろう。また河村新党や橋下大阪知事の新党の出現もある。地方の反乱と首長
選の相次ぐ敗北という予兆を見逃してきた民主党には次の国政選挙での展望はな
い。

09年衆院選挙で小泉チルドレン80人は1割しか生き残れなかった。つぎの衆院
選では140人の新人議員をかかえる民主党も同じ運命を辿ることになろう。民主
党の枝野幹事長代理は14日午後、さいたま市内の講演で、菅政権の支持率が低
迷している状況について、「この政権がどこに向かっているのか分からない。漠
然とした不安が不信につながっている。政権が国民意識とずれていると受け止め
られているのは、かなり深刻だ」と危機感をあらわにした(読売新聞11月15
日)。遅きに失した感が深い。

          (筆者は公害問題研究会代表)

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