【編集後記】 

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オルタ49号編集後記
◎新年おめでとうございます。今年も市民メデイア・メールマガジン「オル
タ」をご愛顧下さるようお願い致します。

◎久保孝雄氏から『大いなる転換の年』と題する力強い巻頭提言をいただい
た。2008年は内外情勢に大きな変化が予想されるが、久保氏はこれを「ア
メリカ時代の終わり」と「アジアの世紀の始まり」そして「脱工業化社会へ
の移行」がより鮮明になるものと断じられる。そして『世界構造の激動、脱
工業化社会への移行という社会の構造変動に対応するには、大胆な国家・社
会戦略の転換が必要であり、そのためにはアメリカ追随しか能のない、農村
型体質から抜けきれない「自民党の時代」を終わらせ、政権交代を実現する
ことが不可欠になっている』と結ばれている。

不条理なイラク戦争を始めたブッシュの後継は、「変化」をキーワードに
争う民主党のオバマかクリントンが有力とされ、日本でも自民党の敗北が予
想される。しかし、選挙では何が起きるかわからない。地球環境問題をめぐ
るゴアとブッシュの違い。昨年の与野党逆転。いずれも一票がつくりだした
ものだが「変化」を確実にするには私たちの権利をしっかりと行使したい。 

◎昨年の暮れ、旧友の集まりが近江の彦根であり、畏友の初岡昌一郎氏と韓
国の元外交官で神戸総領事やノルウエー大使などを勤められた梁世勳氏と
の3人で湖北の高月町を訪ねた。ここには国宝十一面観音像で有名な向源寺
とともに江戸時代中期に朝鮮との外交に大活躍した儒学者雨森芳洲
(1668-1755)を顕彰する記念館「東アジア交流ハウス雨森芳洲庵」がある。

雨森芳洲はこの号の論考、久保孝雄氏の『大いなる転換の年』、荒木重雄
氏の『儒教は変革の思想になり得るか』にアジア外交の先達として、あるい
は儒学者として関わりがあるので少し紹介したい。雨森芳洲については幕閣
で活躍した儒学者新井白石ほどその名は知られていない。それは、二人が幕
府の儒官木下順庵に師事し、ともに不世出の俊秀と謳われながら芳洲が江戸
から遠く離れた対馬藩に仕えたためだと思われる。しかし最近「朝鮮通信使」
など日韓交流史の研究が深まるにつれ日韓両国で芳洲についての評価は非
常に高まっている。それは、儒学者としての高い学識とともに自在に韓国
語・中国語を駆使し、現代にも通ずる『誠信外交』を文字通り実践し、日本
と朝鮮の友好交流に生涯を捧げ尽くしたからであろう。(手ごろな紹介書と
して『雨森芳洲』平井茂彦著サンライズ出版刊1000円がある)

◎荒木重雄氏の『儒教は変革の思想になり得るか』では儒教が中国・朝鮮・
日本で果たしてきた歴史的役割とその課題については詳しく論じられ、解明
されている。そして荒木氏は結語で『現代世界の諸矛盾が経済効果を唯一の
基準とする「価値観の単一化」にあり、価値観の多様化、相対化のためには
東アジアの住民が長い間馴染んできた儒教にたいして新たな視点で検討し、
新たな理念を盛り込むことによって私たちの心に馴染む借り物ではない内
発的な、現代を超える新たな思想を生み出す手がかりの一つを得られるので
はないだろうか。』と提言されている。これについては明日の世界を創るた
めに私たち日本人だけでなく東アジアの住民すべてが重く受け止めるべき
だと考える。

◎元日教組副委員長の山中正和氏に寄稿をお願いした『「底辺校」高校生の
実態が教えるもの』は「オルタ」の読者で埼玉県在住の岩田尚子さんが重度
障害の子供さんがおありなのにボランテイア-で働いていた先で『見捨てら
れた高校生たち』という1冊の本を手にし、障害者問題とは別の深刻さを強
く感じて編集部にこの本の書評を提案されてきたことに始まる。残念ながら
この書籍の版元が倒産したため書評という形ではなく、公教育に長くたずさ
わられた山中氏に論じて頂いた。

山中氏が指摘するように「教育改革」が声高に叫ばれて久しいが、そのほ
とんどは学力向上とエリート育成に重心が置かれ、公立「底辺」校の惨憺た
る実態は見捨てられている。この現状を改革しない限り日本社会の将来は非
常に暗いと訴える現場の教師たちの悲痛な叫びを日本の政治は一日も速く
受け止め対策を講じるべきである。
 
◎初岡昌一郎氏の「海外論潮短評」はロンドン・エコノミスト誌(12月8日
号)の『安い食料の時代は終わった』という特集を取り上げている。「エコ
ノミスト」は『食料価格の急騰は世界20億人にのぼる貧困層にはオイル価
格にもまして深刻な脅威となるが、その反面で巨大な可能性を生かすチャン
スを世界的に提供するプラスの面もある』と見る。問題は私たち日本人がこ
れをどのように受け止めるべきかにある。初岡氏はそのヒントを与えるもの
として篠原孝氏の『農的小日本主義の勧め』(創森社刊)を推奨しているが、
(ちなみに、この本を執筆した当時の篠原氏は農林省の課長補佐であったが
現在は民主党の衆議院議員で党の農業政策立案責任者である)私たちは今こ
そ『食と農』 について真剣に考えたいと思う。

◎編集部からのお詫び。
  この号では『食と農』について国会・農業の現場・消費運動などにかかわ
る方々の参加する座談会を企画しましたが、編集部加藤宣幸の総合的な企画
調整力不足のため記事にまとめるまでに至りませんでした。このために貴重
な時間をお割き下さった篠原孝氏・濱田幸生氏など関係者には改めて深くお
詫び致します。編集部としては今回の不手際を厳しく反省し『食と農』につ
いては腰を据えて取り組みますのでご海容下さい。
                                  (加藤 宣幸 記)

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