■【編集後記】

加藤 宣幸


◎東京の黄金週間は快晴が続き薫風爽やかだったが、世界が注目するパリからは『ここ3週間近く肌寒い日が続きワイン産地では霜による被害がでた』と在パリの鈴木宏昌先生からのお便り(5月4日)があり、さらにパリが「ルペン嵐」で大荒れだった模様を『新星マクロン大統領の誕生』として頂いた。東京では安倍一強が先年の秘密保護法・安保関連法に引き続き、金正恩の暴走を奇貨として危機感を煽り、初の「米艦防護」・改憲日程表明と踏み込み、共謀罪(現代版治安維持法)の強行採決で「戦争なき戦時体制」を作っている。

◎田原総一朗氏『今回の共謀罪は戦前の治安維持法とそっくりだ』、半藤一利氏『普通の市民だった自分の父親も治安維持法でやられた』と戦争を知る世代を代表する2人の論客は口を揃えて共謀罪の危険性を厳しく指摘する。しかし戦後世代の危機感は乏しい。私事だが私の父加藤勘十も1937年(昭和12年)に治安維持法違反(人民戦線事件)で検挙され満2年在獄して懲役4年半となり、敗戦で免訴となったものの戦中の8年は完全に特高の監視下だった。

◎この人民戦線事件は悪法治安維持法が拡大運用された典型で、戦後、多くの検察関係者さえ法の適用に困難を覚えたと述懐している。自由主義者で、この事件を弁護された法曹界の重鎮海野晋吉弁護士は『執行猶予が多かったのは事実で、治安維持法にひっかかったといっても、本当に破壊活動したものは一つもなく理論闘争をしたに過ぎなかった』と回想している。これを裏付けるかのように、この事件で全国一斉検挙された約446名と教授グループ38名の殆どは不起訴あるいは無罪となっている。

◎治安維持法全体を見ても、1925年に制定されその後2回改訂されたが、1928年から40年までの検挙者数は65,153人で起訴者数は5,397人だから90%以上が起訴されず警察は恣意的に身柄の拘束を狙ったのだ。共謀罪も同じで、犯罪を証拠で罰するのではなく、犯罪を犯す恐れがあるものを捕えようとするのだから権力側はいくらでも恣意的に使える。ただ我々には戦前と違って声を上げる自由がある。再び前車の轍を踏まないために共に手を組んでこの悪法に強く反対したい。なお本号には有田芳生参議院議員の御紹介で、日弁連等で人権問題を中心に闘われる小池振一郎弁護士に『共謀罪とは何か』をご寄稿を頂いた。

◎共謀罪の強行採決で日本を1930年代に戻したり、森友学園・加計学園と次々にお友達が経営する学園疑惑の払拭に忙しいのか、このところ安倍首相から『価値観を共有する地球俯瞰外交』・『中国を包囲する』・『TPPでアジアの成長を取り組む』などの声は聞こえない。それどころか新聞のベタ記事からは、首脳会談後の米中関係急進展に政権がニクソン・ショックの二の舞を恐れる気配が伝わってくる。
安倍首相は小馬鹿にしていたアジアインフラ投資銀行(AIIB)に『疑問解消なら参加を前向きに考える』と恥ずかし気に言い出した。TPPはご存知の通りだが、創立50年を迎えた日本主導のアジア開発銀行(ADB)の加盟国67に対して、設立1年半のAIIBは70で年末には85になるという。主要国で加盟を表明していないのは日米だけだ。包囲するどころではない。ADB中尾総裁・麻生財務相のAIIBへの協調可能性発言を中国メディアは大きく伝えたが日本メディアの扱いは小さい。
日本のメディアはトランプ・安倍のゴルフ外交は大きく報じ、習・トランプ会談を大した成果なしとしたが会談後米中関係が急転回しているのは世界の誰もが知っている。これについては本号の巻頭で東洋学園大教授・オルタ編集委員朱建栄氏に『習近平・トランプ会談の真実とその後の急展開』として詳しく論じて頂いた。

◎今月号から新しいコラムとして【宇治万葉版画美術館】を創った。これは東京新聞相談役の宇治敏彦氏が趣味として彫られたものを毎月5点掲載するのでお楽しみ頂きたい。なお今号で、フランス在住の読者ジョアキム明日香さんから鈴木宏昌氏への質問とその回答を、お二人の承諾を得て【オルタのこだま】として掲載した。

【日誌】4月22日:法政大学図書館。24日:雑誌『月刊日本』パーティー・篠原浩一郎・小島弘。26日:三ノ輪・澤口佳代・野沢汎雄・小林吉雄・加藤真希子。

5月8日:医科歯科大・検診。学士会館・北東アジア動態研究会。神楽坂・宇治敏彦・小榑雅章・羽原清雅・竹中一雄・野沢汎雄・菱山郁朗。9日:東洋学園大・沖縄から見たアジア・我部政男。10日:自宅・白井・澤口。12日:仏教に親しむ会。13日:蒲郡・藤田裕樹。14日:名古屋・加藤一雄・加藤孔昭・梅本肇。16日:東洋学園大・白井聰・プログレス研究会。19日:ソシアルアジア研究会。

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