【編集後記】

加藤 宣幸


◎例年8.15には戦争体験世代として、なぜ日本人は戦争を選び、なぜ負けると分かってからも止められなかったのかをいつも考える。そして自分個人としても戦争の不条理や不戦の誓いを次世代に伝えるために何をしたのかを自省する。さらに今年は靖国神社近くに自宅が移ったこともあり、日本人にとって靖国問題とは何なのかを自問することも多い。

◎私は学生の時に軍装して捧げ銃をした集団参拝の記憶が強く残り、戦後は戦意高揚の装置として陸海軍省が所管した靖国神社が普通の神社とは異質だと考えていたから、A級戦犯合祀以前から参拝したことはなかった。靖国神社と言えば政治家の参拝で8.15が注目されるが、人出の多いいのは7月13日から16日の“みたま祭り”だ。例年約30万人が集まるという。私の実感でも7月13日には九段下駅から大鳥居までの広い舗道は若者であふれていた。靖国神社と千代田区観光協会とが一体で取り組む歌と踊りのイベントは夏の風物詩として定着しているのだ。

◎この人出に「ネトウヨ」として知られる団体がチラシを配るが、若者たちは殆ど関心を示さない。当日夜、彼等へのTVインタービューが放映されたが、驚いたことに日本が戦争をしたことを知らなかったり、はてはフランスと戦ったのかしらと笑った子がいた。まさに「戦争を知らない子供たち」の「その子供たち」の姿を見る。

◎直木賞作家で作詞家のなかにし礼さんは演歌・歌謡曲・シャンソンなどあらゆるジャンルで約4000曲を作詞し数々のヒット曲を生み、まさに日本を代表する作詞者だ。そのなかにしさんが安倍政権の解釈改憲に反対して7月10日毎日新聞で「若者よ戦場に行くな」という記事で『平和の申し子たちへ!泣きながら抵抗を始めよう』というメッセージを若者に贈った。今号の巻頭にこの詩全文を載せさせて頂いた。彼はそのあとがきで『僕たち戦争体験者は若い世代とともに闘うための言葉を自ら探さなければいけません』と言った。その通りだと思う。

◎江戸時代の歌舞伎は常に目先の新しさ追いつつ工夫を重ね、世相を庶民に面白く伝えるメデイアであった。それは、まさに今のTVの役割を担っていたというのが執筆者大原雄氏の主張だ。その歌舞伎で安倍の解釈改憲による集団自衛権容認を伝えるとすればどうなるのか。少し長文だが歌舞伎を楽しむつもりで【歌舞伎版「戦後レジームと集団的自衛権」】をお読み頂きたい。

◎小林よしのりといえば『ゴーマニズム宣言』などで社会時評などもテーマにする誰もが知る漫画家で、若者に強い影響力を持つ。その彼が独自の靖国論で『安倍の靖国参拝は英霊への侮辱だ!』と強烈に『保守派にはびこる反知性主義への警告として』という立場から『保守も知らない靖国神社』(ベスト新書)を上梓した。これを漫画・アニメなどにも詳しい若手政治学者の岡田一郎氏に論じて戴いた。さらに靖国問題を考えるための歴史資料として石橋湛山の『靖国神社廃止の議 難きを忍んで敢えて提言す』を載せた。オルタはこれからも引き続き靖国問題を考えていきたい。

◎今月から連載が一本増えた。延恩株さんの『槿と桜』だ。タイトルは韓日の国花だが延さんには女性の視点と東アジア人としての広い視座から、軽やかなエッセーをお寄せ頂きたいと思う。お仕事は大妻女子大学で准教授として教鞭をとられている。

◎【日誌】8月25日妙心寺・仏教に親しむ会。竹中・浜谷。27日自宅・荒木・初岡。30日大阪法経大・北東アジア研究ネットワーク・セミナー・「中国の対外政策と我が国のアジア外交」・高原明生東大教授。・「中国経済及び日中経済関係の現状と我が国の対応」大西康雄アジア経済研究所・研究員。懇親会。

9月2日・ロシア亭・オルタ企画・大原・荒木。5日ソシアルアジア研究会・中沢孝雄福山大教授。6日松山市・土居厚子・加藤真希子オルタ打ち合わせ。7日岡山市・大亀幸雄さん偲ぶ会。8日堺市・西村徹夫妻表敬。9日渋谷・能楽堂・観能。11日議員会館・プログレス研究会・「集団自衛権の深層」・岡田一郎。15日自宅・敬老の日・家族。16日自宅・久保・竹中・荒木・浜谷。17日新宿・岩根サロン。18日生活研・シンポ・「民主党政権とは何であったのか」山口二郎・中北浩爾・福山哲郎。19日参議院会館・NDの会・シンポ・「沖縄返還当事者の見る今」・モートン・ハルベリン。

■【今月のオルタ動画案内】
  YouTube配信 http://www.youtube.com/user/altermagazine

○佛教講話    荒木 重雄


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