【編集後記】

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◎尖閣騒ぎが始まってからのマスメデイアは東京新聞など一部を除き、好戦的・
挑発的な同工異曲の記事や広告で溢れ、自民党総裁候補5人も改憲・集団自衛権
容認の大合唱で応えた。肝心の野田政権も「毅然として」と「固有の領土」を繰
り返すだけの無策である。

◎戦前の愚を繰り返すのかと暗然とするが、救いは中国の反日デモが荒れても日
本の国民が至って静かなことだ。毎週金曜日の反原発官邸デモは続くが、右翼
「在特会」の常連メンバー200人ほどの行進があったのを除き、全国に反中デ
モはない。また日本側から日中草の根交流を断った話も聞かない。

 3・11以後、政府やマスコミの原発報道に欺瞞性を感じた日本国民は、自ら
の意思でデモをする市民に変わりつつある。これは日本社会が変わる予兆ともと
れる。平和憲法下、67年間も国際紛争に武力を使わない道を選んだ国民の意識
と改憲を意図する勢力とは明らかに乖離がある。

◎とはいえ今年国交正常化40年を迎えても日中関係は明らかに悪化している。
私たち善隣友好を願う者にも「尖閣」は避けて通れない。「領土問題」はどこの
国民をも論理的でなく感情的にさせ、思考停止に落とし込む。基本的には2国間
の問題でありながら多国間の利害がからむ。

 冷戦時代の日本が北方領土をソ連と2島返還で妥結しようとしたとき、米国の
ダレス国務長官が猛反対したのはよく知られている。尖閣・竹島もサンフラシス
コ条約で米国が意図的にその帰属を曖昧にしたことが今日の紛争の主因である。
日本が隣国と火種を抱え米国依存を強めるのは、まさに米国の国益に適う。

◎4月16日に石原都知事が米国・共和党系シンクタンク・ヘルテージ財団の講
演に招かれ尖閣買収をぶち上げたのが今回の騒動の始まりである。それは元国務
副長官アーミテージやハーバ-ド大学教授ジョセフ・ナイなど日米安保マヒヤま
たはジャパン・ハンドラーズと言われる彼らの思惑と完全に一致する。

 米国政府はしばしば実質的にこのグループがつくった「年次改革要望書」なる
ものを日本政府に提出する。すると日本の政・官・財・学・報あらゆるものが、
それに沿って驚くほど忠実に動き出す。右翼評論家西部氏は、これを「アメリカ
が鼻歌を歌えば日本が大合唱する」というが、まさに「主権在米」である。

◎安保マヒヤの一人で沖縄県民侮蔑発言がとがめられ更迭された元国務省日本部
長ケビン・メアは、尖閣について『自衛隊や海上保安庁の能力を向上させ中国に
対する抑止力を高める。これを抽象的でなく具体的に言えば、制空権をとるため
にF-35戦闘機の調達計画を加速、拡大してイージス艦を増やし、先島諸島に
自衛隊の駐屯地を作って海上保安庁の偵察能力を向上することです』と莫大な価
格のイージス艦や1機100億円ともいわれる戦闘機の売り込みを隠さない。

 日本の軍事力強化は米国の戦略(オフショアー・バランシング)である。これ
は「想定される敵国が力をつけてくるのを、自分に好意的な国を利用して抑制さ
せる」(孫崎亨・『世界』11月号)ことで米国にとって尖閣は好機なのだ。早
速これを受けて野田改造内閣の長島昭久防衛副大臣は10月6日付HPで『自民
党政権以来11年連続で減少してきた国防予算を増額に反転させることが先ず何
よりも緊急の課題です』と決意を述べている。

◎先号では岡田充氏が『国有化と「棚上げ」は均衡化するか? ―領土は空洞化
するシンボル―』として領土問題の本質を論じたが、今号では岡田氏に石郷岡
建・篠原令両氏を加えた3人の専門家に、オルタが主催する勉強会で『今、領土
問題を考える』としてそれぞれの立場から報告して頂いた。

◎【運動資料】9月22日に作家大江健三郎・坂本義和東大名誉教授など127
0名が署名する「『領土問題』の悪循環を止めよう!日本の市民のアピール」の
記者会見があった。その全文を紹介した。
【書評】「日本の国境問題」(孫崎亨著)「論点整理北方領土」(石郷岡建著)
は私たちが領土問題を考えるとき前提となる必読文献である。

◎【日誌】9月20日新宿で岩根邦雄サロン出席。21日11時調布市・延淨寺
で細島泉氏葬儀。18時半蔵門ホテルで小島弘氏傘寿祝の会出席。22日13時
30分明治大学で大内秀明東北大学名誉教授の「ウイリアム・モリスのマルクス
主義」を聞く。25日18時東京・銀座教会で河上民雄氏前夜式26日10時葬
儀・幡ヶ谷斎場で最後のお別れをする。斎場で河上夫人の紹介で葬儀に参加する
ためはるばる北京から駆け付けられた李建華・楊晶夫妻に挨拶。28日仏教に親
しむ会参加あと竹中一雄氏と懇談。29日14時神田駿河台・明大紫紺館で「矢
野凱也・加藤宣幸米寿を祝う会」。10月10日13時横浜・オルタ館で参加型
システム研究所理事長後藤仁氏の「3・11の衝撃―私の反省点」を聞く。11
日神楽坂で渡辺靖郎夫妻に招かれ会食。

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