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メールマガジン「オルタ」116号(2013.8.20)

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◎世界が憂う安倍・麻生の歴史認識 
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■◎アジアと世界に背を向ける安倍・日本     久保 孝雄

今回の参議院選挙の結果は、昨年末の総選挙で示された民主党に対する国民の不信と怒りの爆発がまだ収まっていないことを示した。戦後初めて投票によって政権交代を実現した国民の熱い期待を打ち砕いた民主党への怒りは、いかに凄まじいものであるかを改めて示した。さらに自民党の暴走を阻止するには野党の結束が必要なことは誰の目にも明らかなのに、民主党は野党結集にも力を尽くさず、少数野党の乱立のまま反自民票の受け皿を作れなかったことへの失望も大きかった。21世紀もすでに10年代に入っているのに、戦前回帰的な価値観を持った右翼政権の誕生に道を開いた民主党の罪状は、かぎりなく重いと言わなければならない。


■◎電力自由化は郵政・道路公団につぐ第三の構造改革だユニバーサル・サービスを安易に民営化してはならない〜     濱田 幸生

脱原発運動には「どうやって脱原発をするか」という政策方法論が欠落していて、その具体性がみえません。原発ゼロを掲げる野党の最大公約的戦略は、[FITで再生可能エネルギー拡大→発送電分離・電力自由化→原発ゼロ社会到来]という戦略シナリオです。これの原型は、維新の会にも関わっていた飯田哲也氏という新自由主義者の論者が作ったものです。彼は原発ゼロの代替エネルギーを再生可能エネルギーと置き、それを普及拡大するためには既存の電力構造を、つまりは電力会社を徹底的に解体する必要があると主張しました。これは「悪の東電許すまじ」という国民の復讐的感情の中で根付きました。しかしこれは、かねてから経済産業省の構造改革派官僚が設計図を書いていたものの上に、飯田氏が「脱原発=再生可能エネルギー」という新たな衣を着せて乗っただけのものだったのです。


■◎「6年間体制」で政局を考える      羽原 清雅

2012年末の衆院選、2013年7月の参院選で、自公政権が両議院で過半数の議席をとり、安定した体制を確保した。政局は、これまで続いた不安定な民主党政権から、政権経験の長い自民党の安倍政権の再起に期待をかけた、といえる。また、ほぼ一年交代だった政権が、ことと次第によってはかなりの長期にわたる可能性も出てきた。


■◎参議院選2013の結果を見る        藤生 健

第23回参議院議員選挙が終った。53%の投票率は私の想定を上回ったものの、戦後の参院選では下から3番目となった。「自民大勝」「民主惨敗」の報道が溢れているが、獲得議席の上ではそう言えるとしても、内実はそれほど単純な話ではない。全体の獲得議席と比例区票の割合を比較してみよう。


≪連載≫海外論潮短評(71)

アメリカの教育がなぜ失敗したのか海外の教訓によって改善が可能—                       初岡 昌一郎

表記のタイトルによる論文が、お馴染みの国際問題専門誌『フォーリン・アフェアーズ』5/6月号に掲載されている。筆者のジャル・メータは教育学者、ハーバード大学教育大学院准教授で、アメリカの教育改革について著書がある。アメリカの大学の多くが世界的に高い評価を受けているにもかかわらず、初中等義務教育に問題が山積しているのはなぜか。要約的に紹介する。


≪連載≫宗教・民族から見た同時代世界    

イスラム主義者だからといって民選大統領が軍に追われてよいのか 荒木 重雄

「アラブの春」を経て、エジプトで初めて民主的な選挙で選ばれた文民大統領のムルシ氏が、7月、突如、軍によって解任、拘束され、代わって、軍指名の「傀儡」暫定大統領のもと、シーシ軍最高評議会議長が自ら第1副首相として実質的な指揮を執る政権が動き出している。「現政権は違法」と抗議するムルシ前大統領の出身母体・ムスリム同胞団に傀儡軍事政権は常軌を逸した武力攻撃を加えつつあり、後の展開は予断を許さないが、二、三、論点を挙げておきたい。


≪連載≫落穂拾記(25)

松本良順・夏目漱石・犬養毅、そして堀部安兵衛 ≪下≫ 羽原 清雅

前号で新宿区馬場下町の郷土史に触れて、まず松本良順について書いた。松本については、地元でも知る人はほとんどいないが、今回触れる夏目漱石についてはよく知られている。全国区の知名度があり、漱石の早稲田、早稲田の漱石でもある。漱石は松山、熊本でのアピールが強いのだが、生も死も、そして教鞭も文学の活動も、生涯の大半がこの早稲田、あるいは新宿区の地で終始している。 


【横丁茶話】

七十年前の本と朝鮮人                  西村 徹

忘れていた段ボールの中から七十年前の本が出てきた。格別に珍しいことではない。FRIEDRICH NIETZCHE:ALSO SPRACH ZARATHUSTRA だったことも珍しいということにはならない。しかしその本の裏表紙見返し中央に「T大兄へ」、左下に「Kより」と記されている。Tというのは今年の四月、「今生の別れの集い」をしたいと言って、会う場所は高野山がいいとか東寺がいいとか、いろんなことを言った挙句に、結局は金沢から大阪駅にやって来て、四人集まっただけだが、いっしょに飯を食ったばかりの男。


【北から南から】
中国・深セン便り

『P一下!』         佐藤 美和子

友人から聞いた話です。最近、友人の勤め先に、新入社員が入ってきました。「今年は社員を一人、増やすことにしたよ。次の週明けから来ることになっているから、新人教育よろしく。これ、その新人さんの履歴書ね」と、その前の週に老板(ラオバン、経営者のこと)から渡された履歴書に目を通してみると……。


フランス便り(その9)

フランス人の夏休み      鈴木 宏昌

今年の初めから気候の不順が続いたフランス(地中海地方を除く)は、7月になると急に暑くなり、30度を超える日が多くなった。フランスが涼しいと聞いてきた日本人の友達は、日本並みの暑さにまいっていた。もっとも夜になると、最低気温は20度くらいまで下がるが、日本と違い、ホテル、電車、普通の家にはエアコンがないので、気温が30度を超えると本当に暑い。とくに、パリの街の中は風が通らず、寝苦しい夜が続くことになる。幸いにも、私のところは郊外なので、パリの街中ほどの暑苦しさはない(その代わり、夜パリへ外出すると、あてにならない近郊電車、バス、タクシーで苦労する!)。 


【北から南から】

ビルマ/ミャンマー通信(8)まさかの逆行?       中嶋 滋

民主化はほとんど全ての国民が望んでおり、これまで享受してきた特権・利権を守るために急速な改革を望まない人々がいたとしても、民主化のスピードを緩める抵抗以上のものではなく、歴史的な大きな流れは変わらないだろうといわれてきました。もちろん今もこれが大方の見方です.この見方を基礎に、様々な政治的な動向が2015年秋に実施予定の第2回総選挙に向けて生み出されています。そのことは、特に5月以降スーチーNLD党首とシュエマン下院議長(軍政時代のナンバー3)が相次いで大統領就任の意欲を公の場で明らかにしたことによって、一段と加速したと思われます。


【北から南から】

オランダ通信(4)選択し考え続けることの意味に迫る博物館ミュゼオン(教育博物館)—                       リヒテルズ直子

ハーグ市内の私の住まいからすぐ目と鼻の先にある「ミュゼオン」を、数年ぶりに訪ねて見ました。「ミュゼオン」とは、博物館を意味するオランダ語「ミュゼウム」と教育を意味するオランダ語「オンデルウェイス」を融合させた名称で「教育博物館」を意味しています。なんと今から100年以上も前、1904年に設立されたというこの博物館は、現在まで、主として学齢期の児童・生徒に自然や文化についての知識に出会わせる場として様々の展示物を公開してきました。毎年、全国各地から貸し切りバスに乗って生徒たちが訪問しています。展示は、小学校や中等学校で必須課題とされている内容にもそっており、ワールドオリエンテーション(総合的な学習)や市民教育の授業の一環として訪れる学校もあります。


【北から南から】

韓国便り(2)]  2冊の本から読み取れるもの出会いの偶然性と人々の表情—                       金 正勲

山川修平『人間の砦』(三一書房、2003年)。光州に住む勤労挺身隊ハルモニ(おばあさん)に関わる本だ。正確にいえば、太平洋戦争のとき、日本帝国主義の戦争遂行のため、韓国から三菱重工名古屋航空機製作所に連行され、重労働に苦しめられた勤労挺身隊の少女たちの話である。著者は大学のとき、小説を発表するなど創作活動に興味を持っていたが、その後出版社の仕事にも手を出し、出版社経営に失敗すると住宅産業ジャーナリストに転身している。いわば異例な経歴の持ち主である。


【特別報告】

経産省の一角に脱原発テントは存続している(3)       三上 治

経産省前のテントの入り口に張り出されている日付表には707日目(8月17日現在)とある。7月22日には土地明け渡し請求裁判の2回目が開かれ、その3回目が9月12日に予定されている。9月11日はテントが出来て2年目を迎えイベントも企画されている。本格する原発再稼動の闘いに向け準備もすすんでいる。猛暑を楽しみながらの日々である。そんな一端から…


【運動資料】 固定価格買い取り制度一年の成果と課題      自然エネルギー財団
固定価格買取制度が導入されて一年が経過するのに合わせ、公益財団法人自然エネルギー財団は、日本のFITの一年間の成果と課題について評価を行いましたのでお知らせします。概要は以下のとおりです。詳細につきましては、次ページ以降をご覧下さい(あるいは、当財団ホームページ http://jref.or.jp/


【エッセー】

ジェンダー、いま、女性の役割の再構築を目指してできること(2)     高沢 英子

広島に続いて長﨑と、今年も暑熱の中で、原爆を落された苦難の記念日がめぐってきた。そして八月十五日の敗戦記念日。あれから六十八年、いまさら過ぎ去った歳月の長さに驚く。その間に日本人の生活は目覚しく変わり、国全体の地理的、集落的構造すら変わってしまった観があるが、果たして現実に日本人の価値観や生活意識などはどれほど変わったか、環境はたしかに豊かになった。しかし、日本の女たちは満足できる環境を手に入れられただろうか?日本の子どもたちは真に人間らしい幸せを感じて安らぐことができているだろうか?


【書評】

『変わる世界・変われるか日本』 (久保孝雄/著 東洋書店/刊)    岡田 充

現状認識にこれほど深い亀裂が入った時代があっただろうか。その亀裂は、現在の世界で最も重要な役割を演じる米国と中国、そして米中関係への評価と認識の中に、はっきりとみることができる。米ソ冷戦が終結して既に四半世紀。米国の一極支配に陰りがみえ中国の台頭が著しい。その米中に挟まれた日本は一体どうすべきか。著者の問題意識もここにある.2010年、尖閣諸島(中国名;釣魚島)で起きた漁船衝突事件と昨年の「尖閣国有化」以来、日本政府は「日米同盟を強化して中国を包囲する」政策をとっている。この政策が機能し効果を発揮するには、二つの前提条件が満たされねばならない。第一に米中は常に対立する関係であり、場合によっては「米中新冷戦時代」が来るとみる。第二に「日米同盟」は中国を敵視し、さらに「孤立」させることができなければならない。


【書評】

『日本経済の潜在成長力と「東アジア経済圏」の形成』 (蛯名保彦/著 明石書店/刊)  井上 定彦

これまでも学長(新潟経営大学)の激務をぬって主として日本と東アジア経済圏をめぐる著書・論文を相次いで発表し続けてきた蛯名保彦氏が、退任後1年あまりでまた新たな著書を発刊された。著書の題目は、表記のように経済学者らしいおだやかなものであるが、ここでの議論は決して狭義の日本の潜在成長率に関する議論を中心としたものでもなく、また、現在はあたかもリアリティを失ったかにみえる東アジア経済圏論を抽象的に論じたものでもない。「序」にもあるように、「アベノミクス」というのは、第「一」と「二」の矢は見当違いであり「第三の矢」つまり成長政策のみが名目としてはまだしもなのであるが、それもこのような内容で戦略方向がズレたままでは、「逆に一層の成長率低下とより深刻化する財政危機の悪循環 いわゆるスタグフレレーションに日本経済に陥る危険性が強まっている」という。


【投稿】

「なんでだろう」と言える勇気      徳泉 方庵

中国では毎年六月、大学受験生にとっては避けて通れない中国全国大学統一入学試験が行われる。日本で言えば、大学入試センター試験に当たるが、中国ではこの試験だけですべてが決まる。通常は三日間にわたって行われる試験の結果で、志望大学を含めて本人の意志に関係なく、教育部(日本の文部科学省)が各省に配分した各大学の配分人数に照らして、成績順に全国の大学に振り分けて合格通知を出す仕組みである。


【俳句】   富田 昌宏

「敗戦忌」藷(いも)挿すや戦(いくさ)なき世をとこしへに


【川柳】   横 風 人

引き続く 格差・貧困の 中東が夏


【編集後記】

『日本のイスラエル化現象』という言葉を知つたのは数カ月前に何かの雑誌で読んだ寺島実郎日本総研理事長の論文であつたように思う。最初は何を意味するのかよく分からなかつたが、最近の安倍政権の行動様式を見ると納得できた。それは『アメリカとの軍事的同盟関係を背景に近隣諸国との関係悪化も構わず自国内だけで通用する論理を声高に叫び、安直なナショナリズムをかき立てて人気を高めるというものだ。しかし頼りのアメリカからは近隣諸国ともう少しうまくやれよと忠告される状況を指す』ものである。