【コラム】
ザ・障害者(19)

私の貴重な時間と交通費を返せ

堀 利和

 今回のコラムはいつもと違って、ある問題を通して今の私の心境を書いてみる。それは、私が副理事長をしている精神障害者福祉サービス事業のNPO法人のことである。総合支援法の下に雇用型の就労継続支援事業A型である。当法人が運営するA型は配色サービス事業をしており、特に一人暮らしや二人世帯の高齢者に向けたお弁当で、塩分や味付け、それらに気を配り料理している。食材は高齢者に配慮した料理法をとっている。

 この配食事業は民間のビルの1階と地下を借りて行っており、それが昨年春にグループホームを造るので今の建物を解体するからと、家主からダイワハウスを通して立ち退きの依頼があった。
 そこで私たちもそれに応じ、ただし今の家賃とほぼ同じ物件を探してほしいと依頼した。しかし今の低家賃に見合ったものは見当たらなかったようで、ダイワハウスからは「無い」という返事を受けた。これでは引っ越せない。

 すると、今年に入って家主の代理として認定司法書士(ダイワハウス)から内容証明が送られてきた。現在の家賃33万円を周辺の相場の43万円に上げたいという内容であった。敵は戦略を変えてきたのである。つまり、家賃を上げることによって私たちを追い出そうとするいわば兵糧攻めである。

 家主は93歳の母親、息子は重度の身体・知的の重複障害者で、そもそもは息子のためにグループホームを造りたいとのことであった。同じビルには社会福祉法人が運営する作業所があって、そこに息子も通所している。
 なぜ私たちの家賃が相場より10万円ほど安いかと言えば、8年前に契約した際、そこが空室で借り手がなく、また当法人の当時の理事長がその社会福祉法人の運営に協力し相談役に招かれてもいたし、家主もその社会福祉法人に関与していて、障害者福祉に理解もあったからである。

 私たちはA型配色事業を進めるにあたって、日本財団から1,300万円の補助金を受けたのだが、その際、東京都の「意見書」を添えて、かつ10年以上は事業を継続するという要件であった。家主はこの事情を十分納得しており、こうしたことから2010年5月に賃貸契約を結び、10年は建て前上無理なので5年が適当ということから契約はそのようになされた。実質10年は了解済であった。
 私たちは賃料10万円の値上げには経営上応じることができないので、家主(認定司法書士)は墨田区にある東京簡易裁判所に申し立てをしたため、調停委員会で争うこととなった。賃料値上げの兵糧攻めである。

 私が調停委員会に出廷することになり、こちらとしてはそれを長引かせる戦術をとった。裁判官、弁護士、不動産鑑定士の三名。裁判官は3回めから替わり、その事情は明らかにされず、また不動産鑑定士は理詰めで話ができて好感がもてたが、弁護士の女性はまさに井戸端会議そのもので、うんざりもした。

 申立人の言い分は財務省に劣らず嘘八百のでっち上げ。よくもこんな嘘を認定司法書士がつくものかとあきれるばかりであった。つまり、低家賃がいかに不本意で不当なものであるか、それを根拠づけようとしてきたのである。1998年築の鉄筋コンクリートの5階建てのビル、にもかかわらず、2010年の契約時には「建物の解体を検討していた」あるいは「当法人の前理事長は信頼できない人物」としてきたのである。だから当時低家賃に不本意ながら応じたと言わんばかりであった。

 こちらサイドとしては、借り手もなく空室のままで話の仲介をして、当法人が借りることになった事実、また、建物がまだ12年しか経っていないそんな時に「解体を検討していた」ことがもし事実であれば、日本財団及び東京都、ましてや私たちをだましたことになる。それが事実なら、そもそも借りるはずもない。だが、申立人は、低家賃は妥当性を欠いており周辺の相場に合わせるのは妥当かつ正当という主張である。

 家賃値上げで追い出そうとすることは、裁判官以下二人の調停委員も確かに理解していた。ところが私たちの言い分を全く受け入れることなく、突然3回めの調停委員会では申立人の言い分を受け入れ、言うままの値上げ賃料を認めるか否か、それを提案してきた。ここでは私一存で答えられないと突っぱねると、今答えられないのですかと迫って来る。私たちの主張は賃料値上げが1万円なら応じるとしてきたのだが。返事は今できないので、改めて総会を開いて決定し、次回返事を出すと答えた次第である。次回は10月10日となった。

 裁判官は申立人の言い分を飲むか飲まないかの判断を示したままだけで、つまりなんら和解案も調停案も示さずである。それなら1回めにそう言えよとキレたくもなった。相手(ダイワハウス)は裁判のため弁護士に相談し始めているとのことであった。
 自動的に本裁判となる。私たちに残された道は四択、申立人通りの賃料値上げをのむか、引っ越すか、A型事業をやめるか、あるいは双方が折りあいできる賃料が実現されるか等である。厳しい状況に立たされているのは事実である。最悪の事態には、一般雇用が困難な精神障害者二十数名が行き場を失いかねない。

 なんら和解案も調停案も示さない簡易裁判の調停委員会の存在は一体なんであるかが問われてしかるべきと考える。私は10月10日の調停には出席せず、事務局長が事務手続きとして出廷した。今後は本裁判をどう迎え撃つか。
 調停員会よ、貴重な時間を返せ、交通費を払え。そんな私の心境である。

 (元参議院議員・共同連代表)

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