【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(11)

私のかわいいパキスタン人生徒たち(2)パキスタン首相交代

坪野 和子


 2017年7月28日。パキスタンのナワズ・シャーリーフが、パナマ文書によって子どもたちの関与が発覚し、最高裁判所から選挙管理委員に命じ、首相の職を罷免されました。私にとって今までパキスタン情勢は対岸の火事…いや山向こうの近くて遠い出来事でしたが、今の学校に異動してものすごく身近な、いや日本の出来事よりも重要になっています。生徒5人のうち、ひとりは政治や内面の話しをしたがりません。3人は野党PTI党首イムラン・カーンの支持者、1人はシャーリーフ派支持。…ということで今回は前首相失職を巡る野党派の子たちとの話し。

◆ 0.野党PTI(パキスタン正義運動)代表イムラン・カーン

 まずは、パキスタンここ数年の政治情勢について簡単に私の体感に基づいてお伝えします。2014年7-8月、ナワズ・シャーリーフ首相選出の不正を訴え、PTI野党党首(下院では第二野党)イムラン・カーンが、パキスタン史上初の座り込みデモを呼びかけ敢行しました。
 その当時、私は中国の1989年6-4天安門を思い出し、軍が民衆に向けて発砲するのではないかと、はらはらしながらネット上の動きを観ていました。サッカーのサポーターのように応援する若者の様子は、気持ちの中で日本人である私をかえって心配させる要素でした。

 結局、座り込みデモは失敗・うやむやになりました。考えてみれば、歌って踊る政治活動をする政治家や政治家のパロディを演じるお笑い芸人が多数存在する国なので、意外と中国よりも人道的かもしれないなと思いました。その後、指揮したイムラン・カーンに関して、軍部との黒い噂があるとロイターを引用したネットメディアから伝えられ、ああ、天安門なかったのは、軍とつながっていたのね、けっこう悲しいなと。それから3年経った今、いきなり展開が変わってきました。あの当時、イムラン・カーン支持を熱く日本語で語る生徒、自分の生徒として目の前にいて、現地のお粗末な教育の尻拭いをしつつ、日本語指導するとはその当時は想像もつきませんでした。

 2017年7月26日、ナワズ・シャーリーフ前首相罷免の前日、イムラン・カーンにネットの動きがありました。「明日は重要な日になる」と。急遽、SNSでイムラン・カーン支持の生徒たちにライブ動画のURLを送信しました。「先生、みた?」おいおい、送ったのは私よ。「先生、送ってくれたライブみたよ、ただごとじゃないね。意味がわかった??」と言いたかったのでしょう。日本語が拙い彼らとウルドゥが拙い私のコミュニケーションギャップ。私がわからなかったことはないかと確認してわからなかった部分の意味を教えたかったのだと後で気づきました。それだけ重要な動画でしたので。翌日、私は仕事を終えて電車で Voice of America が伝えた、ナワズが失職を最高裁判所から言い渡されたという報道を読みました。

◆ 1.イムラン・カーン、パキスタン人でいちばんいい人だよ!!

 実は私と生徒とのイムラン・カーン…どうでもいい会話からはじまりました。「先生、カッコいい男好き??」「あまり興味ない。私の旦那さんカッコよくない」「先生はどういう男がカッコいいと思う??」…そうだ!! 私の年齢相応の男性の名前を出そう。
 「んんん…パキスタン人だったら、政治家のイムラン・カーンかな?? でも、この人、いい人に見せて本当はいい人じゃないでしょ」「先生、誰、そう言った??」「ああ、ロイターが書いた記事を信用した日本の新聞。みんなのために活動しているふりをして、自分が首相になりたいだけ、本当はミリタリーとつながっているって」
 すごく悲しそうな顔をした後「先生、ウソだよ、それっ。イムラン・カーンはパキスタン人でいちばんいい人!! 学校作る・病院作る・インフラ良くする(この日本語は未習得のため説明つきでした)、お金持ちが儲かることより、みんなのためになることをやってくれている」怒らずにしかも活き活きと話してくれました。

 もう1人の子は「オレの好きなパキスタンの場所は自然を壊さないようそのままそのまま、イムラン・カーンが旅行してきれいなままにした」(視察巡回して手つかずの自然が美しい土地を里山整備した)「あら、あなたもイムラン・カーンが好きなの? U君も好きだって」「オレのほうが彼よりイムラン・カーンが大好きだ!!」「むかしクリケットスターだった」「イムラン・カーンは結婚していない。イギリスの人はイスラムにならないから別れた、アナウンサーの人(BBC気象報道担当)も別れた、インド人のアクトレスとも結婚しないで別れた、世界中の人がイムラン・カーンを好き」??? 何が言いたい??? あ…先生のカレシにはならないよ…ってことね。イムラン・カーンは崇高な人だから女性に対しても同じだと言いたかったのね。

 はは。そんな会話から半月経たないうちに先ほどのイムラン・カーンのライブ動画が出て、送ってあげて、翌日、ナワズ首相の罷免…。日本語が拙くて、現地教育がお粗末なので基礎学力がない子たちですが、日本の普通の高校生よりも、政治が身近で真剣に考えている…香港の「学民思潮」の子たちを思い出しました。

 "Go Nawaz go !!" 彼らのSNS投稿では、この言葉が…。2013年の選挙スローガン "Go ever go" からいつの間にか捩られたスローガン "Go Nawaz go" 座り込みデモのときイムラン・カーンが「政治を私物化してはいけません。去ってください」と言っているうちに変わったのでしょう。

 …私も言いたくなりました "Go Abe go"
 次回に続く。高校生が語る深い話。

 (高校日本語講師&専門学校時間講師)

ナワズ・シャーリーフ罷免に関してリンクをブログとしてまとめました。
 https://ameblo.jp/amalags/entry-12296859796.html
 http://ameblo.jp/amalags/theme-10087203093.html
 https://ameblo.jp/amalags/entry-12297109485.html

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