【コラム】ザ・障害者(11)

盲人とことばたち

堀 利和


 歩きスマホは大変危険だ。条例で禁止すべきでは。アメリカでは州法によって禁止しているところもある。その代り、走りスマホは認めてもよかろう。

 今のようにメールがない時代は携帯電話で、それもあちらこちらで喋っていた。朝、家を出ていつもの道を歩いていると、「おはよう」と声をかけられた。私もとりあえず、「おはようございます」と返す。相手は携帯電話に話していた。私の友人が山手線に乗って椅子に座ると、「元気?」と言われ、「はい、元気です」と答える。これもまた携帯電話であった。喫茶店に入るため階段を上がっていくと、上から「どうもどうも」、私もつい「どうも」。携帯はわけがわからん。

 その後は今やスマホの時代。視覚障害者の私に目明きがぶつかってくる。歩きスマホは危険、走りスマホにすべきであろう。

 先日のお昼、東京都障害者福祉会館の隣の港区勤労福祉会館の食堂に入って、東京豚のカレーライスを注文した。まずまずの味である。
 男性店員が「右手の前に生ビールを置きますね」。そしてしばらくしてカレーライスを持って来て、「お皿の左に福神漬け、その右がライス、右側がカレーです」と説明した。
 その後すぐ、女性店員がやってきて「カレーの上にスープを置きますね」。
 心の中で思わず「えっー」と叫んだ。なぜ「お皿の向こう側に」と言ってくれないのか。

 向かい合った場合、話し手が自分を中心に「右です」と言う。右に行くと「いや、左です」と言い直す。気が利く人は私を中心に、「左です」と言う。さらに気が利く人は、「堀さんからみて左です」となる。

 三本めの路地の角に蕎麦屋があって、その時うっかり曲がる道がわからなくなってしまい、通りかかった人に、
 「この辺に、お蕎麦屋さんはないですか?」
 「おそばを食べたいんですか? この大通りを渡ってむこうに行くと、たしかお蕎麦屋さんがあると思いますけど」
 なるほど、意思疎通は難しいものである。機転をきかせてありがたいのだが・・・・・・。

 初めて入る居酒屋では、つまみの注文はやっかいである。一番困るのは、「目が見えないので、どんなつまみがありますか?」。「どんなものが食べたいんですか?」いやはや、胃に相談している場合ではないのに、具体的なイメージもわかず苦慮する。次に困るのは、「焼き物がいいですか、煮物か、揚げ物もありますが」と言われる店だ。目が欲しがる、という日本語もある。厚揚げを食べるぞ!と思って店には入らないだろう。もっとも私の場合は、黒キャビアかフォアグラ、からすみといったところであろうか。混んでいるときには最初におススメの一品を頼み、後は他のお客の注文を聞きながら頼む。こうして、そのため、好き嫌いを克服したのだ。値段は聞けない。

 また、ホームや社内のアナウンスについてである。電車も時刻通り運航する日本は、世界一である。ホームのアナウンスで「大変お待たせしました」ということに対して、タレントのデーブ・スペクターが「時間どおりに来て待たせてもいないのに」と言っていた。ホームや社内アナウンスを静音運動ということでできるだけ小さく、短くアナウンスすべきと言われているようだ。にもかかわらず、必要な情報は与えず、「お近くのドアからお降りください」。だれがわざわざ遠くのドアから降りるものか。「お近くの」は無用。となると、「ドアからお降り下さい」となる。誰が窓から降りるものか。結局このセンテンスの時間は無駄。「降りてから電車に離れてお歩きください」とまで言う。

 先日、田園都市線の二子玉川駅で、電車のドアに白杖がはさまれて出発するという事故が起きた。これも、全盲の人が電車が普通か急行かを車内の人に聞いたが返事がなく、ドアが閉まって白杖がはさまったということだった。ホームのアナウンスがしっかり到着電車の情報を伝えていれば、こういう事故は起きなかったはず。

 短い時間の中でも必要な情報、言葉の使い方に工夫してほしいものだ。

 (元参議院議員・共同連代表)

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