【コラム】
風と土のカルテ(46)

病院と社会をつなげる「トーク・カフェ」

色平 哲郎


 勤務先の佐久総合病院で、月に一度、「トーク・カフェ」という小さな勉強会を開いている。昼休みに看護師、リハビリ職員、事務職員、地域の有志の方など5人前後が集まり、それぞれが気になる新聞記事や雑誌の記事を持ち寄る。記事は短いものでよい。

 そして参加者全員が、順番に、自分が選んだ記事について5分間スピーチを行う。記事を読んでどう感じたかを一人称でしゃべるのだ。その後、集まった人たちで、5分間、意見を述べ合う。時間にすれば1時間弱の学習会なのだが、職種や立場を超えて気軽に語り合える。始めてから2年が経過した。

 病院という組織で働いていると、時々社会とのつながりを見失いがちになる。記事をよりどころに社会との関係を見つめ直す、いい機会になっていると思う。

 先日のトーク・カフェでは、若いリハビリ職員が、公立学校の教員の超過労働を紹介した記事について発表した。記事によれば、公立学校の教員は、いくら時間外労働をしても残業代がほとんど出ないのだという。

 文部科学省は政令で「教育職員については、正規の勤務時間の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務を命じないものとすること」と規定。時間外賃金については、「公立学校の管理職以外の教員には、労働基準法第37条の時間外労働における割増賃金の規定が適用除外となっており、時間外勤務の時間数に応じた給与措置である時間外勤務手当が支給されず、全員一律に給料に4パーセントの定率を乗じた額の教職調整額が支給されている」(学校の組織運営の在り方を踏まえた教職調整額の見直し等に関する検討会議「審議のまとめ」)。

 教員は、部活動の指導をしたり、その他諸々の仕事に追われているが、時間外労働も「サービス残業」となっているのが実態だ。タイムカードはなく、何時間働こうが、ボランティアでよろしく、というわけだ。

 この実態に対し、「教員にも残業代を」という声が高まっていると記事は伝える。なるほど、公立学校で部活指導などにがんばっている先生には残業手当も支給されてしかるべきだろうと、メンバーの1人が言う。

 一方で、病院に「残業代」の問題を引き寄せてみると、医師や看護師の仕事は「ブラック」もいいところだと気づく。「労働基準法を厳密に適用したら、病院は壊れるよね」「公立学校の先生に残業代を、という気持ちはわかるけど、財源はどうするのかしら」「財源がないと言うけれど、多国籍企業の利益剰余金(内部留保)に課税したらどうなのか。大企業は内部留保しすぎじゃないの。もっとも、それは二重課税になるのかな」などと、本音の意見がいろいろ出てくる。

 何も、そこから意見をすり合わせて答えを見いだそうとしているわけではない。1つの記事がきっかけで、語り合える「場」が設定され、病院が社会とつながる契機を与えてくれる。そのこと自体に意味があるのだと考えている。

 (長野県・佐久総合病院・医師)

※この記事は著者の許諾を得て日経メディカル(2017年12月27日号)から転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。
 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201712/554245.html

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧