■海外論潮短評【番外編】          初岡 昌一郎  


◇◇ヨーロッパで右翼が台頭 - 不人気な大連立


  10月4日付けの『エコノミスト』は、「ウイーンの森からの暗い物語」と題
する論説と、その根拠となるオーストリア総選挙について記事を掲載している。

 1999年の選挙で、極右政党が27パーセントを獲得し、連立政権を保守の
国民党と組んだ。EU諸国がこれを批判し、ボイコットしたために、この連立は短
命に終わった。その後は、国民党と社民党の大連立で政権が維持されてきたが、
どっちつかずの政策が国民からの支持を失った。

 さる9月28日の選挙では極右が伸び、29パーセントの票を獲得した。現在
、極右は分裂しており、かつてヨルク・ハイダーが率いていた自由党が11パー
セント、それからハイダー派が分裂して生まれた新政党「オーストリアの将来の
ための同盟」が18パーセントを得票した。(注:ハイダーは10月11日に交
通事故で死亡)。これらの党は移民排除で一致しており、排外主義的な政策のた
めに、EUと真っ向から対立している。

 連立与党の社民党は第一党の座をかろうじて維持したものの、得票率は前回の
35パーセントから30パーセントに低下した。連立のパートナーである国民党
も、前回の34パーセントから26パーセントに票を減らした。社民党は、極右
政党との連立はありえないとしているので、結局、これまでと同じように保革の
伝統的主流2党の連立が継続されることになろう。

 極右の台頭はオーストリアに限られるものではない。スイスではクリストフ・
ブロッヒャーのスイス国民党が第一党であるし、デンマークでは反移民の極右政
党に政権が支えられている。イタリアでも明確に排外主義的な北部同盟がベルス
コーニ政権の主要な連立相手である。ベルギーのフランダース地方でも、極右の
台頭が目覚しい。

 アメリカの世論調査機関による「ピュ―・グローバル世論プロジェクト」が、
ショッキングな結果を発表している。スペイン人の46%、ポーランド人の36%
、ドイツ人の25%がユダヤ人に否定的な見解を持っている。スペイン人の52
%、ドイツ人の50%、ポーランド人の46%、フランス人の38%がムスリム教
徒に否定的な見解を持っている。こうした数字は近年上昇を続けている。

 極右の台頭は、主流派保革政党の大連立によって政治的選択の幅が狭くなって
いる国において著しいように見える。ヨーロッパの状況は大きな流れとして、二
大政党制よりも多党制に向かっている。大連立が、その流れを促進している。

 『エコノミスト』本号のドイツ・ババリア州選挙の記事もこの見方を裏付けて
いる。この州では、キリスト教民主同盟の姉妹党であるキリスト教社会同盟が4
6年ぶりに初めて過半数を失った。9月20日の州選挙で与党社会同盟は44%
に落ち込み、国レベルで連立を組んでいる社民党は僅か18.6%に転落した。
もともと社民党は比較的弱い州であるが、この数字は戦後最低で、同党の全国的
不人気を示している。漁夫の利を得たのが、この州で14年間議席を失っていた
自由民主党であった。
               (初岡 昌一郎)

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