■ 海外論潮短評  番外編                   初岡 昌一郎

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 日本外国人特派員協会から毎月送られてくる英字誌『ナンバーワン新聞』7月
号に、「私は告発する」という、1ページ半の短い記事が掲載されている。筆者
のアンドレ・ヴィチェックについては紹介もなく、どのような人か知らない。彼
は、英語が世界を支配しているのに、英語のメディアは世界の出来事を正確に伝
えるのをまったく怠っていると批判している。以下は要約であって、翻訳ではな
い。


◇「私は告発する」


  発行部数から見た世界の日刊紙トップテンのうち、7紙が日本語で、2紙が中
国語だ。西欧からは、ドイツのタブロイド紙『ビルト』が入っているだけ。アメ
リカやイギリスの日刊紙は振るわず、『ニューヨーク・タイムス』が37位に、
『ロサンゼルス・タイムス』が54位にないっているに過ぎない。

 それにもかかわらず、英語定期刊行物は世界中の世論に影響を与え、それを形
成している。ほとんどの国で日本や中国について知ろうとする人は、英語の刊行
物を読むか、英語からの翻訳記事に頼る。こうして、世界中の読者はアングロ・
アメリカン的な政治判断や考え方に影響される。

 日本人、中国人、インドネシア人の読者は、アフリカ、中東、ラテンアメリカ
の最新の動向をアメリカや西欧の通信社、新聞、テレビ、雑誌などの報道や分析
で知る。これらの記事は、世界の広い読者をもともとの対象としてかかれたもの
ではなく、英米で受容されている狭い見方を反映したものである。異なる意見は
、"ザミスダート"(共産政権下のソ連における地下出版物)にあたる、小規模刊
行物においてのみ見られる。

 アジアの2大勢力である中国と日本の声が欧米の主要な刊行物に載ることがな
いのは気がかりだ。編集者がたまに選択する日本人筆者は、アングロ・アメリカ
ンの主流の見解を支持する人たちだけだ。

 中国についての決まり文句は、失敗すれば"依然として共産主義的なやりかた
によるもの"とされ、成功すると"共産主義から抜け出した"と評価される。中国
人自身の見解は一顧だにされない。スーダンからビルマにいたる対外政策や環境
破壊に至るまで、中国人自身の見解を知ることが、中国自体での論議を促すこと
に通ずる。

 日本の主流の新聞に掲載されている学者や言論人の生の意見を知る機会がもっ
とあってよい。外国人特派員は、日本人の考えを知っていると信じて自分の記事
を発信するが、それはその周囲にいる一部の日本人の見解を反映したものにすぎ
ない。

 私はスペイン語でラテンアメリカの動向をフォローしているので、現地の意見
や実情が英語メディアを通じた報道に正確に反映されていないのによく気づく。
これは、ほとんどの記事がスペイン語を知らない人によって書かれているからだ
。日本や中国についてもこれは同じ。グローバルなコンセンサスを形成する"賢
明な見えざる手"によって世論が誘導されるのを、なぜ許さなければならないか

 今のところ、英語が世界の主たるコミュニケーションの手段であるが、永遠に
そうとは限らない。英語圏のライター、ジャーナリスト、新聞、出版社は、諸国
間の理解の促進を図っていない。彼らは、多様な考え方を伸ばすことを完全に怠
っている。

 日本は世界最大の新聞社をいくつも持っているが、その島を越えた影響力は皆
無である。そのうえに、日本人の大多数(日本自体を含め)は、東京から遠く離
れた編集室で形成されているものの見方で世界を捉えている。

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