【沖縄の地鳴り】

玉城沖縄県知事、就任1年

平良 知二


 沖縄県の玉城デニー知事が誕生してやがて1年になる(昨年9月30日当選、10月4日就任)。この間、政策を含め特に目立った動きはないものの、強い意志が言葉にあふれた翁長前知事とはまた違った、親しみのある姿が好感を持たれているようである。政府との接触、訪米訴えなど、まずまずの1年といえる。

 その玉城県政を占う「辺野古新基地」問題が動き出した。玉城知事は7月と8月に国を相手に訴訟に踏み切った。3月に訴えていた訴訟が総務省の第三機関「国地方係争処理委員会」で却下されたため、今回は2本立て続けである。これで国相手の訴訟は翁長県政から数えて7回目、8回目となった(うち2回は国→県、残り6回は県→国)。
 国 vs 地方自治体が一つの問題でこれだけ争うのはめったにない。「辺野古新基地」は沖縄にとってそれだけ積年の重荷になっている。全県的な選挙の度に「辺野古新基地」の是非を県民に問わねばならない重荷である。民意を直接確かめる県民投票も実施した。

 選挙と県民投票の結果ははっきりした。民意がどこにあるか疑う余地のない結果となっている。であれば国は、民意に沿う形でまず一歩退き、つまり埋め立て工事を中止し、県との対話を進め、新たな方針を模索するのが筋であろう。しかしコトは逆に向かい、埋め立てに突進しているのが今の状況である。小休止して事態を省みようという姿勢が、残念ながら国にはない。
 このため沖縄県は裁判に訴えざるを得ない。県による訴訟がいくつも提起される原因である。裁判が県に有利に進行するとは限らず、逆に国は裁判勝訴を根拠に工事強行を図ろうと、ある意味、手ぐすね引いて待っていると見る向きもある。それでも県は訴える。宿命的な、というか、民意無視への収まらぬ怒りである。

 今回の訴えも含めこれまでの訴訟は、仲井真・元知事が2014年12月に「辺野古」の埋め立てを承認したあと、「新基地」建設に反対する翁長前知事がその承認を取り消す(撤回)ことを巡って起きたもので、国土交通大臣の決定、総務省・係争処理委員会の決定など、行政的な手続き問題も裁判になっている。今回の訴訟も国交大臣決定、係争委決定に関するものではあるが、埋め立ての是非につながる重要な裁判となる。
 埋め立て海域の軟弱地盤・活断層の存在が知られるようになり、県は改めて埋め立て海域が「国土利用上、適正かつ合理的な場所とは言えない」など主張していく考えだ。防衛局長が国交大臣に審査請求する「国の内部機関同士の裁決」も問題にしている。これらを問う具体的な審理に入れるか、当面の注目である。

 その間も辺野古の現地では埋め立て工事が進んでいる。工事の阻止・反対を叫んで連日行動している人たちは少なくない。お年寄りもいる。進む工事にもどかしさを感じているかもしれない。
 知人の一人は「4時には起床し、5時までには現地に出発。6時に間に合わせるようにしている」と話した。週に4日ほどの「辺野古行動」である。那覇からだ。狭い沖縄ではあるが、辺野古まではかなりの距離。燃費もかかる。だが不満は口にしない。工事の車両が朝早くキャンプ・シュワブ基地のゲートに入るため、その阻止と反対の訴えが毎日の行動である。国への怒りが強い。
 その人たちが裁判でも動員などの核になっている。

 玉城知事は大阪など全国の主な都市でのトークキャラバンを実施するなど、国民に「辺野古」問題を考えてもらう行動を開始した。来月には訪米し、「新基地」建設見直しを各界に訴える予定という。普天間飛行場の「5年以内の運用停止」問題も宙に浮き、どう対応していくか、課題だ。
 就任1年、工事が進む「辺野古新基地」問題との本格的な格闘が始まった。

 (元沖縄タイムス記者)
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