【オルタ広場の視点】

民主党政権成立と崩壊過程を出口調査に見る
―自公を助けた消費税値上げ

仲井 富


① 消費税値上げで消滅した社会党の歴史/1996年
② 菅民主党政権も消費税で敗北 民主党凋落の始まり/2010年 2013年
③ 民主党政権の大嘘 消費税、辺野古移設、官房機密費、八場ダム中止
④ 民主党は大嘘つきを清算せよ 元総務相・慶大教授の片山善博氏
⑤ 中曽根元首相 社会党は支持者に無断で基本政策を変えた ドイツ社民に学べ
⑥ 民主党政権樹立にいたる経過と崩壊過程を朝日新聞出口調査に見る
⑦ 自民党歴史的大敗 自民支持層25% 無党派層から51%が民主に投票/2007年
⑧ 民主308議席で政権交代 自民支持層30%・無党派層は53%が民主に投票/2009年
⑨ 民主敗北衆参ねじれ 無党派層民主離れ 1人区で4勝25敗が決定的/2010年
⑩ 自公320民主が壊滅的敗北 維新50超第三党へ 無党派層民主にそっぽ/2013年

◆消費税値上げで消滅した社会党の歴史/1996年

 1993年の細川非自民連立政権の瓦解は、小沢氏が突如として国民福祉税という消費税値上げ7%を持ち出したことだ。これに社会、さきがけが反発し、ついに社会、さきがけは自民との連立政権に走った。次いで自社さ連立政権における消費税値上げだ。細川連立政権では国民福祉税構想に反対しながら、自社さ連立政権では、社会党の久保旦蔵相の下で消費税を5%に値上げした。時の衆院議長は土井たか子氏である。野党時代に消費税反対の理論的指導者だった久保旦書記長がなぜ簡単に消費税値上げに同意したのか。そこには裏話がある。

 久保氏は当初、社会党書記長として自社連立にも反対だった。社公民政権構想さえ拒否して、全野党共闘などを主張し、江田三郎を結果的には追い出した佐々木派や協会派が主導するいわゆる左派が、安保自衛隊容認、日の丸君が代賛成というのだ。久保書記長も最終的には自社さ連立政権に参加することを容認した。
 久保蔵相に、消費税値上げという従来の主張と真反対のことをやらせるために、当時の大蔵省主計局はさまざまな手段を使った。選挙区のことのみでなく裏金を使って利益供与をしたという噂もある。自民政権復帰に貢献し、おまけに消費税値上げの大蔵大臣まで務めた功績は大であったからだ。久保旦氏は生前に『連立政権の真実』(読売新聞社刊)なる自著を出版して出版パーティまで盛大に行った。だが不思議な事に、そこには自らが行なった蔵相時代の消費税値上げに関する話は一言半句もない。これも大きな謎である。しかも社会党最後の党史『社会党50年史』(1997年刊)にも、消費税値上げに賛成したという記述はない。都合の悪いことは党史からも抹殺しているのだ。

◆菅民主党政権も消費税で敗北 民主党凋落の始まり/2010年 2013年

 自社さ政権に参加した社会党もさきがけも崩壊した。そういう歴史を知っているはずの菅・野田をはじめ、民主党の幹部らが同じ轍を踏んで民主党政権を消滅させた。民主党政権に消費税値上げを容認させ、成立へのシナリオを書いたのは、財務省で10年に一度の大物と言われた元大蔵省事務次官の勝栄二郎氏である。政権発足時の財務相は大蔵省OBの藤井弘久氏、野田氏は副大臣、自治労出身の峰崎氏は政務官だった。財務省に洗脳されて、野田・峰崎氏らは消費税値上げに方向転換した。そして副首相から財務相になった菅氏も消費税値上げに転向する。その転向の仕方があざとい。

 財務大臣のときは「いまこの連立政権において、まだ無駄使いが十分なくなっていない段階で4年間消費税をあげることはしない」と明言した。(2010・1・21 衆院予算委員会)、ところが首相になった途端、2010年6月21日の記者会見で、「自民の10%案を参考に値上げを考えたい」と豹変した。参議院選挙を控えた党内で批判が高まるや「議論をスタートさせましょうといっただけ」と弁明したが、2010年7月の参院選挙では大敗した。
 これで消費税値上げを諦めるかと思ったが、逆に推進することに躍起になった。これが民主党政権凋落の第一歩となった。勝栄二郎財務次官は当時私と親しい公明党議員に「野田や峰崎は一週間で陥落したが、菅は半年かかった」と漏らしていたという。

 財務省のシナリオに乗って、菅再改造内閣は元自民党の与謝野馨氏を「社会保障と税の一体改革担当大臣」に任命した。自分では国会質問で矛盾を追究され、答弁できないからである。だが、政権を維持できればいいと考える民主議員と周辺の連合や学者評論家・旧社会党の活動家も、この変節を容認した。
 自社さ連立政権では社会党が消費税値上げで消滅。2度目の轍を踏んだ民主党は国民からは、「大うそつき」の烙印を押され2013年の総選挙で惨敗した。いずれも自らを犠牲にして自公政権の回帰と延命に貢献した。それでも菅・野田ともに「消費税値上げは正しかった」と言っているのだから救いがたい。少なくとも国会解散をして民意を問うべきだった。

◆民主党政権の大嘘 消費税、辺野古移設、官房機密費、八場ダム中止

 民主党政権の嘘を上げてみると、①沖縄普天間基地の県外海外移転と日米行政協定改定、②政治の透明性の象徴、官房機密費の公開法案の提出、③コンクリートから人へ、八ツ場ダム等の中止、④国会議員定員80人の削減、⑤高速道路無料化とガソリン税廃止、⑥消費税は聖域なき行革で4年間は上げない等々の約束をことごとく投げ捨てた。さらに東北大震災と福島原発事故で、情報公開の要であるSPEEDIの情報を隠ぺいし、高い放射能のもとに住民をおきざりにし、かつ、そのために山野にまで放射能汚染を拡大する結果を招いた。

◆民主党は大嘘つきを清算せよ 元総務相・慶大教授の片山善博氏

 予想通りというか予想以上というか、民主党は自滅的な政権運営で惨敗した。2009年総選挙で308議席と圧勝したが、2012年総選挙では54議席という大惨敗だった。しかも首相経験者の菅直人、議長経験者の横路孝弘の落選は憲政史上初と言われる。これによって国会は憲法改正可能な政治勢力が三分の二をしめる結果となった。しかし民主党は根本的な反省と国民への謝罪もしなかった。その後の民主党の無責任な党名変更や小池希望への合流と失敗など数え上げればきりがない。

 唯一、民主党政権で総務相を務めた片山善博慶大教授の「民主は大うそつきを清算せよ」がもっとも正鵠をえている。片山氏は以下のように述べている。

 ――民主党は高をくくっていた。3年前の衆院選で「消費税は上げません」といって政権を取ったのに、まるでそんなことは言っていなかったような振る舞いをした。野田首相は「消費税引き上げは大義だ」とまで言い始め、世間の人は大うそつきだと見た。ところが、どういうわけか、民主党に残った議員たちは自分の中でその問題を勝手に清算していた。党の再生はうそつきを解消する作業から始まる――(毎日新聞2012年12月18日 三者座談会「選挙結果と今後」)

 片山氏は雑誌世界2月号でも同様のことを述べている(『世界』2013年2月号「政党政治の希望はあるか 民主党大敗とその教訓」)。しかも片山氏は、民主党の大臣も議員もことごとく、消費税値上げなどの公約違反にたいして脳天気だったことに呆れている。
 「悪夢の民主党政権」と言った安倍首相の発言に旧民主党幹部らが反発している。だが、2009年の総選挙では、自民党支持者の30%、無党派層の53%の投票によって民主党政権は勝利できた。民主党に期待した自民支持者と無党派層にとっては「悪夢」だったことは間違いない。また沖縄をはじめ今次参院選で勝利した10県を分析すれば、同様の傾向がはっきりする。無党派層と自公維新の支持者の投票によって過半数を獲得し勝利できた。その教訓には学ばずして右往左往しているのが旧民主党の方々である。

◆中曽根元首相 社会党は支持者に無断で基本政策を変えた ドイツ社民に学べ

 村山自社さ政権後の社会党の崩壊について、唯一、鋭い指摘をしているのは中曽根元首相だ。宮澤元首相との「改憲・護憲」という対談で以下のように述べている。

 ――ドイツ[社会民主党(SPD)]の場合は、ゴーデスベルクで党大会を開き、新しい綱領を正式に決定して、国民に公表した。その結果、大連立にまで入っていってキリスト教民主王同盟・社会同盟(CDU・CSU)と政権を担い、同じ政策に入っていった。それが、次にブラントが政権をとるもとにもなってきている。そういう手続きが大事なんですよね。国民に無断で、勝手に大事な憲法問題や安保問題の考えを変えてしまった。その怒りがこの間の選挙に出てきて、社会党はひどい目に遭ったわけなんです。要するに国民というものの側に対するおもんぱかりが足りなかった。つまり、民主主義というものは手続きなのです。国民との契約を手続き的にいかにうまく誠実に実行していくか、という問題だろうと思うんですよ。その点で大失敗した。ひとの党だから、あんまり言いませんけれども、しかし、やっぱり民主主義というものは、党員なり国民にちゃんと手続きを踏んだ上で決定するなり行動しないで、自分ひとりよがりになるとひどい目に遭うと思うんです――(『対論 改憲・護憲』中曽根康弘 宮澤喜一 朝日新聞社、1997年刊)

◆民主党政権樹立にいたる経過と崩壊過程を朝日新聞出口調査に見る

 2003年からの国政選挙では、民主の比例区得票は、衆参ともに約2,100万票、保革逆転した07年の参院選挙で約2,300万票だった。しかし2010年の参院選挙では、比例区得票は与党民主約1,800万票、国民100万票で計約1,900万票、野党自民は約1,400万票プラス公明760万票の計2,160万票だった。比例区ではなお自民を上回っていたが、公明の比例区票のおかげで自民が勝利した。これは端的に1人区での勝敗に直結した。民主は1人区では4議席しか獲得できなかった。以下に朝日新聞出口調査によって、民主党政権の生成と崩壊の過程を検証したい。出口調査の解説は一貫して朝日新聞出口調査の世論調査センター長であった峰久和哲氏による。峰久氏は2年前に退職したが、その解説はいまなお輝いている。

◆自民党歴史的大敗 自民支持層25%・無党派層から51%が民主に投票/2007年

 朝日新聞は全国3,680箇所の投票所で出口調査を実施。18万4,993人から回答を得た。自民党支持層の25%が民主に投票。前回2005年総選挙では党派層の33%が自民に投票したが今回は14%、前回民主に37%だったが今回は51%が投票した。今回の選挙の主役は無党派層だった。民主党が支持層を拡大したよりも、無党派層の大量投票が決定的な勝因となった。無党派層の投票行動が政局の帰趨を常に決めているといっていい。2005年総選挙では無党派層は自民、民主に割れた。今回は2005年には自民に約400万票だったが、今回は約150万に激減、民主は前回約450万人から今回は約610万人に増えた。(世論調査センター長・峰久和哲)

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◆民主308議席で政権交代 自民支持層30%・無党派層は53%が民主に投票/2009年

 民主党圧勝の最大要因は、自民党支持者の30%が今回は民主党にやらせてみようと、自民から離反したことだ。さらに無党派層も2007年参院選の51%から53%へと伸びた。自民支持の無党派層は2007年参院選では17%だったが、今回は15%に低落した。(世論調査センター長・峰久和哲)

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  (朝日新聞 2010・9・31 出口調査)

◆民主敗北衆参ねじれ 無党派層民主離れ 1人区で4勝25敗が決定的/2010年

 07年参院選では、無党派層は47%が民主に、21%が自民に投票、民主圧勝の原動力となった。しかし010年参院選では無党派層は民主39%、自民37%と拮抗し、みんなの党へ21%が流れた。これが端的に影響し、前回07年1人区で圧勝したが、010年参院選では当時29の1人区で4勝という大惨敗となった。その要因は、比較的社会的弱者の多い1人区では、消費税増税の反発が多く、反民主的な投票行動を誘発した。また2人区から5人区の都市部では無党派層の21%が、みんなの党に投票。民主支持者も17%がみんなの党に投票した。(世論調査センター長・峰久和哲)

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  (朝日新聞 201・7・12 出口調査)

◆自公320民主が壊滅的敗北 維新50超第三党へ 無党派層民主にそっぽ/2013年

 朝日新聞出口調査で、回答者の49%が前回民主に投票したが、今回は23%に減少。無党派層の比例区投票先では、維新28%、自民19%、みんなの党14%、民主14%と4位に転落した。それにしても自民の勝ち方は比例区では民主や維新の2倍以下だが、小選挙区では8割近い。今の選挙制度は政権選択をするには分かり易いが、2005年の郵政選挙以来、勝ち負けの振幅があまりにも大きい。政治家とは何とも不安定な職業となったものだ。(世論調査センター長・峰久和哲)

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  (朝日新聞 2013・12・17 出口調査)

 (世論構造研究会代表・『オルタ広場』編集委員)

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