【オルタの視点】

柳の下に泥鰌は三匹いない~争点隠しの自公維敗北の沖縄知事選挙

仲井 富

◆◇ 名護市長選、新潟県知事選につづく争点隠しの自公維新希望の与党連合

 異常な選挙が続く。名護市、新潟県そして今回の沖縄知事選と共通しているのは、最も重要なテーマについて触れない、隠すというやり方だ。
 今年2月の名護市長選挙で、辺野古の賛否に触れないで公明の支持を得て勝利した。そして新潟知事選挙では原発再稼働を方針とする自公の候補者が、自公推薦を隠した「県民党」なるものをデッチ上げた。新潟日報に全頁広告で「脱原発の社会を目指します」とした。そのお蔭で県民の最大多数の世論であった「原発再稼働ノー」の22%を奪って勝利した。

 今回も菅官房地長官と創価学会本部の取引によって「辺野古賛否に触れない」ということで、一貫して辺野古反対を掲げる公明党沖縄県本部を納得させ、全面的な協力関係を創り出した。
 この「首長選挙で自公合同選対を組む」方式を生み出したのは、菅官房長官と佐藤浩創価学会副会長のコンビであることは周知の事実だ。沖縄県名護市長選、新潟県知事選など重要な選挙はこの方式を現地に持ち込んで勝利してきた。

 しかし沖縄の知事選では通用しなかった。それどころか、創価学会内に新たな造反の動きが顕在化した。東京周辺でも沖縄現地でも、期せずして「創価学会・公明党の変節は、池田会長の平和の理念に背反する」という創価学会員の公然たる本部批判が巻き起こっている。学会員が実名を明らかにして公然たる本部批判を展開しているのだ。
 自公連立政権参加以降延15年、創価学会は推定資産1兆8,000億という巨大企業に成長した。平和の党の仮面を投げ捨てても連立政権から逃れられなくなった。(参考資料⑤参照『週刊ダイヤモンド』2018・10・13)

 沖縄知事選挙のもう一つの特徴は、期せずして与野党対決の選挙となったことだ。自公維新の与党勢力に分解した希望の党が参加し、自公維新希望の与党連合が成立した。
 大阪のカジノ法、万博誘致など、公明党は自民、維新と遂に同一歩調を取った。集団的安全保障法を境として創価学会・公明党の変質は止まらない。

 バラバラだった野党側は表立つことは避けたが、立憲、国民、共産、社民、自由などの党首クラスが玉城候補を応援するために沖縄入りした。さらに沖縄連合の上部組織連合本部も玉城推薦を決めた。ようやく与野党が旗幟鮮明に取り組んだ総力戦となった。結果は39万票余という沖縄県知事選挙始まって以来の最高得票で玉城候補が完勝した。(参考資料①参照)

 各社の出口調査はほぼ一致している。沖縄タイムスと朝日新聞の合同調査結果では、常に沖縄の最大勢力である無党派層の7割が玉城に投票した。また自民支持層の約2割、公明支持層の約3割が玉城に投票している。1名区で野党が勝利する場合はほぼこのパターンだが、無党派層7割、女性の6割が玉城に投票したことが最も大きい。(参考資料③参照)

◆◇ 創価学会・公明党の異常な肩入れ 辺野古隠しに反乱三色旗がデニー陣営に舞う

 公明党の比例区票獲得のベストワンは沖縄だった。前回2017年の総選挙では公明党の比例区獲得票の全国平均は7.15%だが、沖縄の比例区票は17.28%と全国一を誇る。その沖縄で、玉城に大差で敗れたのは、学会員が本部の方針に反旗を翻した結果だ。
 公明党沖縄県本部は辺野古基地に関して本部方針と異なる辺野古反対で一貫してきた。だが、辺野古賛否に触れないという名護市長選方式で説得した。山口公明党委員長以下、全国の公明党地方議員を中心に5,000人を沖縄に送り込んだ。
 名護市長選、新潟県知事選における「争点隠し」成功に気をよくして3度目の完全勝利を狙ったものだ。だが「柳の下に泥鰌は二匹いない」という諺を上回る三匹目の泥鰌を狙った強引な作戦は見事に失敗した。 (参考資料②参照)

 そのショックの大きさが公明新聞によく現れている。10月1日の全国各紙、地方紙はほとんど一面の大見出しで玉城当選を報じた。だが公明新聞一面の大見出しは「新時代切り開く統一選、参院選断じて勝つ」という党大会の記事で埋めつくされた。肝心の沖縄県知事選挙の記事は一言半句も見当たらなかった。琉球新報は学会員の反乱を以下のように報じた。(2018・10・3 琉球新報)

 ――学会が支持する公明党は今回、辺野古新基地建設問題の賛否を明言せずに政府の支援を受ける佐喜真淳さんを推薦した。学会員の野原さんは「学会員が集票マシンとして使われる。ウチナーンチュの魂を見せなければ」。危機感に駆り立てられた。
 約15年前、布教を巡って組織と対立したことがあった。反逆者と言われ、職も失った。「本当につらかった。今回も正直、怖かった」と振り返る。今回、親戚からも運動をやめるよう諭されたが、告示日から10回、玉城さんの演説場所で3色旗を振った。同志に深く考えてほしかった。
 野原さんは創価学会の池田大作名誉会長の文章をよりどころとした。沖縄に思いをはせた池田名誉会長は著書の中で「人類史の悲劇がこの小さな島に集約された。ゆえに人類史の転換をこの島から起こすのだ」とつづった。転換とは新基地建設阻止のことだと思った。この結果を受けても気は休まらない。「国はまた沖縄を締め付けるだろう。玉城さんは屈せず、最後まで翁長雄志知事の遺志を継いでほしい」と期待を込めた。
 県出身で東京都在住の住友(旧姓・国吉)ヒサ子さん(66)は「このままでは古里の自然が壊されてしまう」といても立ってもいられず沖縄に来た。「白い目で見られたりするのも信仰心を疑われるのも怖かった」と語る。だが、青く澄んだ辺野古の海が埋め立てられるのが許せず、玉城さんの陣営で運動し、県内の学会員を説得して回った。――(参考資料④参照)

◆◇ 自民・維新は県内企業1,200人の総決起大会 名簿提出から証拠写真まで

 菅官房長官を先頭とする自民党、維新の企業対策はすさまじいものだった。4年前の翁長知事の当選後も政府の対応は沖縄無視だった。翁長知事の再三の要請にも会見を拒否し「政府としては粛々と辺野古移設を進める」と4カ月も会おうとしなかった。公明党を賛成派の陣営に組み入れ、さらに維新の比例選出議員下地幹郎議員を使って、宜野湾市長選挙、名護市長選ともに辺野古容認の勢力とする布陣を敷いた。
 下地氏は2014年の知事選挙では、「県民投票で賛否を問う。反対が多ければ中止」という独自の解決策を表明し約7万票を得た。今回の知事選挙で下地の得票と公明の全面的な支持を取り付ければ完勝という読みだった。横田一は以下のようにルポしている。

 ――9月14日の自民・維新の県内関連企業総決起大会には、1,200名が参集した。民間企業経営者なら、気が重くなる“政治的活動要請”に見えるが、壇上で挨拶した国会議員の面々は違った。「大米建設」創業者の下地米一・元平良市長が父で、同社代表取締役会長の下地米蔵・建設業協会会長が兄の維新下地幹郎衆院議員(沖縄1区で落選・比例九州ブロックで復活)は、平然とこう言ってのけた。 「この選挙は日本にとっても沖縄にとっても大切な選挙ですので、仕事をやめて選挙運動しましょう」
 つまり、勤務時間中の選挙運動(無償労働提供)を要請していたということになる。民間企業の経営者が利益創出に関係ない無償労働(政治的活動)を社員に指示すれば、株主から背任で訴えられる恐れがある。そのため、「佐喜真知事誕生のための選挙運動が建設会社の利益になる」という前提で、総決起大会出席や期日前投票調査票提出や後援会入会要請など“タダ働き”をさせているということではないのか。――(横田 一 リテラ 2018・9・20より)

◆◇ 沖縄県知事選挙で玉城完勝 辺野古反対は全県選挙で14連勝

 沖縄県知事選挙の結果は沖縄県民の辺野古移設反対の民意は断固たるものであることを今回も見せつけた。自・公・維新は、沖縄13市の首長の大半を支配下に置いているが、今回の選挙結果は、自・公・維新などが勝利したのは宜野湾、宮古、石垣の3市のみ。2月の名護市長選挙では、徹底的な辺野古移設隠しで勝利したが、今回は逆転して、辺野古移設反対の玉城が勝利した。ということは名護市では創価学会支持者らが本部方針に反して、辺野古移設反対の旗幟を鮮明にした玉城に投票したことになる。

 以下の表を見れば、辺野古への米軍基地移設反対の沖縄県民の意思が如何に強固なものか分かるだろう。2007年当時の野党統一候補の糸数慶子が当選以降、沖縄県の全県選挙では、県議選、知事選、総選挙、参院選を含め、14回の全県選挙が行われた。
 翁長知事の8月急死によって、今度こそと意気込んだ自民に呼応して公明、維新、希望などが与党連合を形成した。初めて公然とオール沖縄勢力に挑戦した。しかし自公維新の与党連合に対して、本土の立憲、国民、共産、社民、自由の野党勢力も期せずして玉城支援に回った。しかも常に旗幟不鮮明な連合も早々と玉城支持を決定した。
 自公維新希望4党の与党連合と対峙する結果となったが、玉城デニーが復帰後の知事選では最高の39万票を獲得して当選した。
      ――――――――――――――――――――――――
 2007年参院選  辺野古移設反対の糸数慶子、当選
 2008年県議選  辺野古移設反対派の県議会野党過半数、民主初の4議席
 2009年総選挙  辺野古移設反対の野党全選挙区当選、民主党政権へ
 2010年参院選  島尻安以子県外移設反対で再選、2013年変節 民主菅政権惨敗
 2010年県知事選 仲井真知事が県外移設を公約して再選、2013年変節
 2012年県議選  辺野古移設反対の野党勢力二度目の県議会勢力過半数
 2012年総選挙  自民党候補が県外移設を掲げて全員当選、民主総選挙惨敗
 2013年参院選  糸数慶子辺野古移設反対で三選、民主参院選惨敗
 2014年県知事選 辺野古移設反対の翁長知事10万票差で仲井真に勝利
 2014年総選挙  辺野古移設反対の野党勢力完勝、自民4選挙区で敗退
 2016年県議選  翁長支持の与党オール沖縄県議が27議席で三度目県議会過半数完勝
 2016年参院選  伊波洋一辺野古移設反対で島尻安以子に10万票差で完勝
 2017年総選挙  辺野古移設反対の野党候補3議席の勝利 自民1議席
 2018年知事選挙 県知事選挙で玉城が戦後県知事選の最高得票39万票余で当選
      ――――――――――――――――――――――――
 この14連勝の中、2009年民主党菅政権が、総選挙の公約だった辺野古米軍基地県外国外の公約を裏切ったことによって、沖縄県の世論が逆に辺野古移設反対に固まった。これを利用して自民党の島尻安以子が急きょ「辺野古移設反対」を掲げて再選された。
 次いで2010年の県知事選では同じく自民の仲井真知事が「辺野古移設反対」を掲げて勝利した。しかし両名とも2013年に公約を裏切って辺野古移設賛成に転じた。これに怒った翁長氏がオール沖縄の保革共闘による選挙によって10万票の大差で仲井真知事を倒した。そして自民党国会議員と仲井真知事の変節をリードした島尻安以子も、2016年の参院選で伊波洋一に10万票余の大差で沖縄県民から不信任された。

 過去11年間の変らない辺野古反対の県民の総意とはなにか。琉球はかつて1609年の薩摩藩の琉球侵攻、そして明治政府の琉球処分により沖縄県となった。昭和の戦争では日本領土で唯一の戦場となり10万人が殺された。そして戦後72年も続く米軍支配の基地となった。1955年砂川米軍基地反対闘争の時代、本土90%、沖縄10%だった米軍基地は、1973年の復帰後は沖縄70%と固定化されている。全て本土の都合で支配され続けた歴史だ。そして米軍に強制的に収用された基地以外に、はじめて沖縄人が同意する辺野古基地が作られようとしている。これだけは我慢ならない、というのがウチナーンチュの世代を超えた総意なのだ。

 「ウチナーンチュ、ウシェーテーナイビランドー」(沖縄人をなめてはいけませんよ)「マキテーナイビランドー」(負けてはなりませんよ)選挙期間中、生前の翁長氏が残した言葉が繰り返し叫ばれた。薩摩侵攻以来の沖縄差別の歴史に身を置かない限り解決はあり得ない。

◆◇ 過去11年間の全県選挙で14連勝、辺野古反対の県民意志を無視する政権

 前掲の表を見ていただきたい。2007年から2018年まで参議選、県議選、総選挙、知事選など計14回実施された。そのすべての選挙で辺野古反対を掲げる勢力が勝利している。戦後の米軍基地闘争で、砂川、新潟、長野など米軍基地反対闘争において、県知事、県議会が一体となって反対した長野県軽井沢米軍実弾射撃場反対闘争、新潟県の米軍基地拡張反対闘争は、すべて計画中止となり勝利している。県知事が土地収用のための立ち入り調査を拒否したからである。砂川米軍基地拡張反対闘争も1967年の美濃部革新都政が誕生し、土地収用委員会が開けなくなったために、翌1968年に米軍司令官は立川基地拡張中止を言明せざるを得なかった。

 それがどうだ。沖縄では日米合意優先、基地問題は政府の専権事項と居直り、11年間に14回の選挙における沖縄県民の辺野古ノーの意思を無視し続けている。菅官房長官の言によれば「粛々」と辺野古埋め立てを強行している。翁長知事も「粛々」と悪代官菅に殺されたのだ。独裁国家ならともかく民主主義国家で、こんな不法がまかり通っていいのか。民主党政権も自公政権も、その本質において沖縄差別を容認し、アメリカに忠誠を誓ってきた。問われているのは本土の政党とそれを支持してきた本土の人々ではないのか。

◆◇ 市町村別得票率に見る辺野古反対の民意 11市中8市で玉城が上回る

 自公維新は、沖縄11市の首長の大半を支配下に置いているが、今回の選挙結果は、自公維新などが勝利したのは宜野湾、宮古、石垣の3市のみ。2月の名護市長選挙では、徹底的な辺野古移設隠しで勝利したが、今回は逆転して、辺野古移設反対の玉城が勝利した。名護市では創価学会支持者たちが今回は、辺野古移設反対の旗幟を鮮明にした玉城に投票したことになる。
 圧倒的に不利と思われた町村部でも、国頭郡では7勝2敗、中東郡では読谷村、嘉手納町など基地関連町村が多い地区だが6勝0敗と完勝した。島尻郡では有権者の多い南風町、八重瀬町などで勝利し5勝7敗だった。八重山郡では竹富町で勝ち与那國町で負け1勝1敗となった。(考資料⑤参照)

<参考資料>

◇参考資料① 県知事選挙結果 前回知事選挙との比較

(図版 178_01-3-01 表示)

◇参考資料② 2017総選挙公明党得票数・得票率 沖縄の比例区票は17.28%

(図版 178_01-3-02 表示 ↓図の下にコメント)

得票率の上位10位は、沖縄県(17.28%)、福岡県(同)、宮崎県(16.67%)、和歌山県(16.62%)、岡山県(16.54%)、高知県(16.09%)、長崎県(16.04%)、鳥取県(15.93%)、大阪府(15.90%)、徳島県(15.40%)。
絶対得票率(当日有権者数に占める得票数の割合)を見ると、沖縄県(9.40%)と福岡県(9.00%)の2県で9%台を記録した。

◇参考資料③ 出口調査 朝日新聞2018・10・1

(図版 178_01-3-03 表示)

◇参考資料④ 勝利を祝って玉城候補と三色旗を振る創価学会員

(図版 178_01-3-04 表示)

◇参考資料⑤ 沖縄県知事選挙 市町村別得票数 沖縄県選管資料

(図版 178_01-3-05 表示)

◇参考資料⑥ 『週刊ダイヤモンド』2018・10・13 特集:新宗教の寿命
 創価学会の推定資産価値 他業種にまたがる創価〝コングロマリット″

(図版 178_01-3-06 表示)

 (世論構造研究会代表・オルタ編集委員)

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