【コラム】
あなたの近くの外国人(裏話)(23)

日本を愛するバングラデシュ青年

坪野 和子

 2018年12月初頭に外国人労働者に関する法改正が決議されました。それにより、よくも悪くも今まで日本で起きていることなのにあまり知られていない外国人の実態が報道されはじめました。例えば、ネパールやヴェトナムの悪徳ブローカーや技能実習生の悲しい話、ことばが通じなくても心が通った話など。そしてこの法改正で、せっかく日本で仕事を覚えたのに帰らなくてはならない、帰さなければならない、よく働くひとたちが、少しでも長く日本で働くことができるようになったことを私は嬉しく感じます。

 お正月のことでした。私がパキスタン人の男の子と駅にいたら、後ろから男性が男の子に声をかけてきました。「ネパーリー?」 私はカッとなってヒンディ語で「いいえ、いいえ、彼は私の息子です。日本人です」と騒ぎました。その男性はびっくりしてその場から消えました。どうやらバイト探しや求職中の日本語学校の生徒を手引きする仕事の人なんだろうと思いました。
 この子と一緒にいなければお目にかかることがないだろう人と出逢いましたねぇ。この子は私にとって息子同様の存在であることも確認しました。そして、この子以外に「お母さん」と呼んでくれている男の子が他にふたりいて、ひとりはインド人、もうひとりはバングラデシュ人です。今回は息子同様バングラデシュ人Rくんの話。

◆ 1.「会ってほしい、話しをきいてほしい」

 SNSで知り合ったバングラデシュ人男子。埼玉県に住んでいると…。電話をかけてきました。今は電話番号を知らなくてもSNSで友達になっていれば簡単に無料電話がネットからかけられます。なかにはいかがわしい電話もありますが、なかには友達になりたい、日本語を勉強したい、日本に来たい、日本に住んでいる…など、ご挨拶程度でも一度は電話に出ることにしています。いかがわしいのとデートのお誘いは即却下していますが。
 さて、この子、「会ってほしい、話しをきいてほしい」と言うのです。「会いたい、お話しがしたい、ご飯を一緒に食べたい」という言い方の場合デートのお誘いですが、「話しをきいてほしい」と言う言い方が妙にひっかりました。軽い感じだったので日本での生活の悩みではなさそうでした。とりあえず会ってみよう…。この子がきいてほしい…がなにかを知りたくて。

◆ 2.バングラデシュ料理屋で

 新三郷の駅前で待ち合わせをして「愛美 MANAMI」というハラル料理店に連れて行きました。バングラデシュ出身のオーナーのハラルのお店です。ここはコックさんの腕がいいので、お客様の好みの味がひとたびわかれば、それに対応してくださいます。私の場合、パキスタン人と一緒にに行けばパキスタン人対応、バングラデシュ人と一緒に行けばバングラデシュ人対応…関西人夫と一緒に行ったら…日本人対応なんで…私と違う味付け…というくらいお客様対応の味付けで料理が出てきます。常連の理解がしっかりしているので安心してオーダーできます。

 ここに連れて行って、最初、この子、緊張していました。「日本に来て、はじめて自分の国の人に会う」 え?? まずかったかな?? だけど、ここのオーナー、とてもいいかたなので、彼の緊張を溶いてくださいました。私は難民を助けた経験があるので、そういう理由かそれに近い事情なのかと思ったのですが、それではありませんでした。
 「日本に来てバングラデシュ人に会うの、はじめてだから恥ずかしい」…え?? あ、そうなんだ。それだけならよかった。本当にそれだけでした。オーナーともおしゃべりしたし、バングラデシュ人男子グループのお客様たちと楽しそうに話したり、ピンで来た日本人男子ともう友達になって東京で一緒に遊びに行く約束までしたのでした。社交性が高い!
 そして、お店を出て「オーナー、すっごい良い人」…ここに連れてきてよかった。

◆ 3.生い立ち・日本大好き

 断片的に自分のことを話してくれました。つなげて書きます。
 「ぼくはバングラデシュには誰もいない。両親は小さいころ亡くした。国連軍で外国の紛争の仕事をしに行くって外国で亡くなった。おばあさんがぼくを育ててくれた。大学院を出てすぐに日本の企業に入れた。子どものころから日本は憧れの国。日本に来て5年。永住権も取れたし、収入もそれなりにある。日本人大好き。ぼくの考え方と同じ。ぼくは日本語学校に行っていない、話すの少しおかしいかもしれないけど、なんとかわかるようにする」
 「日本いいよね」「日本人いいよね」話の合間に何度も言いました。…私自身は数年前まで日本も日本人も嫌いまではいかないにしても日本の社会があまりいいとは思っていませんでしたが、最近いいところが見えてきたので気持ちがわかりました。
 スマホを見たら、日本語設定にしていました。…読めなくてもこれで頑張るのだとか。
 「おばあさんも3年前に亡くなったから、ぼくひとり。日本にずっといる」

◆ 4.日本人のお嫁さんがほしい

 「でもね、たったひとつだけ夢が叶わない。日本人の女性と結婚して、日本人の家族になりたい。いま、いい人を探している」「今?」「いい人がいたこともあった。めっちゃ可愛いかった。新宿で知り合った。付き合って1週間もしないうちにぼくからお金をもらいたがった。結婚するまで日本人は2、3年付き合わないと結婚してくれないのに、1週間でお金がほしいっていうことは早く結婚してもらえるかもしれないと思って、お金あげてた。この人、めっちゃお酒飲む。ある日ぼくの車を黙って使って物にぶつけた。逃げた。車の所有者がぼくだから罰金もぼくが払った。それからわからなくなった、どこにいるのか」

 …それ「いい人」じゃなくて「悪い人」でしょ…と突っ込みを入れたかったけれど、やめました。それでも、日本人の女性と結婚したいらしい。「ぼくはナンパもできないし、職場は男ばかりだから…紹介してほしい。永住権持っているから在留資格目的ではないし、仕事もちゃんとしている」 ムスリムさんだから合コンってわけにもいかないしなぁ、どうしよう。
 話しをきいてあげた後、「おかあさんになって。ぼくはバングラデシュにもおかあさんがいないから」その日から彼は私を「おかあさん」と呼ぶようになりました。

 ある朝、電話をかけてきて…「おかあさん、おはようございます」「これから出勤?」「夜勤明け。今週は夜勤のシフト。なんか…日本の夜勤明けって…寂しいみたい」

 (高校時間講師)

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