【オルタの視点】

日本にも四国にも獣医学部増設必要なし

篠原 孝
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◆◆ 1.日本にも四国にも獣医学部は必要なし
   ― 規制緩和と言いつつ、お友達にエコひいきするイカサマ安倍政権 ―

 日本の畜産は、ずっと下り坂である。色々な数字のとり方はあるが、一つの例として、今から37年前の1980年を起点に現在畜産業はどれだけ縮小しているか、主要な家畜の頭数でみてみる。

<四国の畜産の減少率は全国を40ポイントも上回る>
 乳用牛は全国ベースでいうと190万頭いたが、今や140万頭と74%に減っている。同じときに6万頭だった四国は、2万1千頭と35%にまで減っている。肉用牛は203万頭から229万頭と全国的には増えているのに対し、四国は8万7千頭から5万1千頭と59%に減っている。豚は、全国では926万頭だったものが、788万頭と85%の規模に縮小している。四国では50万2千頭から24万2千頭と48%に減っている。つまり、畜産は長期的に縮小傾向にあり、特に四国の減り方は、全国と比べて40ポイント前後上回っている。
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  家畜の飼育頭数の推移(全国・四国)

<獣医師の数も北海道・九州と比べて余裕がある>
 他にもう一つ、2015年現在での、上記3家畜の四国の割合をみると、乳用牛1.5%、肉用牛2.2%、豚3.1%。それに対して獣医師の数が3.4%もある。つまり、四国は獣医師に余裕があるのだ。
 獣医1人当たりの頭数を比較しても同じことがいえる。例えば、全国で獣医師は3万9,098人いるので、それをもとに割り算すると、乳用牛は獣医師の1人当たりの頭数は36頭、肉用牛は59頭、豚は202頭になる。それに対して四国はどうかというと、それぞれ15頭、38頭、108頭といずれも21頭、2頭、94頭少なく済んでいる。

 獣医師が足りないのは、実は畜産が盛んな北海道である。例えば、獣医師1人当たりは全国平均と比べ、乳用牛197頭、肉用牛143頭多い。豚だけは46頭少ないが、獣医師が足りないのは畜産の盛んな地域であり、四国などではない。

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  2015年 地域別主要家畜の飼育頭数・獣医師数

<160人の入学定員は四国の過剰な獣医師を生むだけ>
 獣医学部の入学定員でみるともっとこの落差が明らかになってくる。
 現在900人、ここに定員160人の加計学園(岡山理科大)獣医学部が今治にできることになると、1,060人となる。
 北海道は、北海道大40人、帯広畜産大40人、酪農学園大120人の計200人と全体の22%になる。それに対して同じように畜産が盛んな九州は、鹿児島大30人、宮崎大30人と60人で全体の6%である。それなのに四国は160人と15%も占めることになる。上述のせいぜい全国の3%の家畜頭数にすぎない四国に過大な獣医師が誕生することになる。

 尚、女性の割合が増え続け、今や全在学者数6,275人のうち半数以上(50.6%)を占めるに至っている。女性の多くが犬・猫病院で小動物診療に従事し、これが産業動物診療(大家畜)獣医師不足の一因となっている。

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  獣医学部入学定員・在学者・教授数

<分野別獣医師の偏在は医師の偏在と同じ>
 地方、特に過疎地の医師不足は酷く、ずっと続いている。つまり地域的偏在である。これを是正すべく、各県に一つある医学部にその県の医師となる県内出身者用の地域枠を設け、卒業生が出始めている。当然地元県への定着率は高く、尚且つ国家試験の合格も高いという。一方、産婦人科、小児科、外科等の生命に直接関わる科目の希望者が少なく、診療科目的偏在がある。

 前述のとおり、四国に足りないというのは、真っ赤なウソであるが、医師同様に獣医師でも分野別偏在が存在する。これも1980年と比べてみると、畜産動物診療が5,467人(21.7%)だったものが、2015年には4,317人(11.0%)と人数では1,130人減り、割合では11.7ポイント減っている。これに対して、いわゆる犬猫病院の小動物診療は、3,633人(14.4%)から15,205人(38.9%)と4倍強となり、割合も24.5ポイント増の約4倍増となっている。
 この他、公務員分野では、公衆衛生分野は大差ないが、農林水産分野は実数で1,000人減、割合で半減している。

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  分野別獣医師の推移

<獣医師を増やして畜産を振興するのか>
 これからみてもわかるとおり、四国に獣医学部を造る必然性は全くない。いや、日本に造る必要はない。だから、50年間も獣医学部が新設されなかったのだ。つまり需要はどんどん減っていたし、今後はもっとスピードを強めて減っていく。そうした中でも、四国の畜産を振興するために、それこそ特区に指定して欧米並みの手厚い農政をするのならいいが、アベノミクス農政は真逆の方向を目指している。

 TPPで一番影響を受けるのは乳用牛・肉用牛・豚の畜産である。日EU・EPAでも、チーズ等の畜産物の関税を下げる妥協をしつつあり、それに拍車をかけんとしている。それを獣医師の偏在を直すために四国に新設するというのは本末転倒もいいところである。

<日本の畜産の悲惨な将来像>
 世界は自国の農業を守りきっている。つまり最初から「自国農業ファースト」なのだ。その中でも畜産は金額的には最大の分野を占め、手厚い優遇農政が行なわれている。その中でも酪農は朝と夕方の二回搾乳する、まさに労働集約的農業そのものであり。勤勉の象徴であることから一番優遇されている。だからEUではよく「ミルクの湖、バターの山」といった過剰生産が問題になる。

 日本の農業が過保護というのは、安倍首相の言葉を借りれば「デマゴーグ」「決めつけ」「印象操作」でしかない。日本ほど農業を衰退にまかせた政府はない。
 日本は何も手を打っていない。このままの減少傾向が続いた場合、日本の家畜の飼育頭数がどれだけ減少するか、折れ線グラフで示してみた。これを直すには、自国の食料を自国で賄うという確固たる農政しかない。
 安倍政権はTPPやEPAでさんざん畜産を犠牲にしておいて、一方で獣医学部の新設により日本や四国の畜産を振興できるというのであろうか。論理が破綻している。

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  家畜の飼育頭数の将来予測(全国)

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  家畜の飼育頭数の将来予測(四国)

<とってつけたライフサイエンスの研究>
 それよりも何よりもその前に、国家戦略特区は成長産業を造り出すというのが目的であり、地域の偏在をなくすなどという目的のためではない。よしんばそれを認めるとしても、それは構造改革特区であって、わざわざ広島・今治を特区にしてやる必要はない。
 今治に狙いを定めていたのは明らかなのだ。安倍首相は、最初の頃は世界と競争してライフサイエンスの研究、と言っていた。今や誰の目にも明らかになったとおり、獣医師の偏在是正、そしてスピード感のある規制緩和と言い方を変えた。ライフサイエンスのことを考えるのであれば、四国のこれといった蓄積がないところで、世界を相手に研究ができるはずがない。私が質問に立ったら指摘しようと思っていたことだが、松本洋平内閣府副大臣の地元に近い府中市と武蔵野市に東京農工大と日本獣医生命科学大の2つがある。東京圏に世界と競争できる研究拠点を造るのがベストである。

<たった一つの合理的理由は全国共通の地方創生のみ>
 途中で加計学園にエコひいきされ、あえなく消えていった京都産業大は、前々から準備して畜産学科ができている。学者も集まりつつある。東京と同様に今治よりもずっと研究蓄積が進んでいる。ここでも今治に獣医学部を造る理由は見当たらない。

 日本の大きな政策課題の一つが地方創生である。農村産業地域導入法もできたし、未来投資促進法等もできたりしているが、高度経済成長時代と違って工場が地方へ行くことは少ない。そこで、地方の活性化は今や大学の誘致くらいしかなくなっている。だからどこも大学の誘致に熱心なのだ。私の地元長野でも、長野県立短大が4年制になり、長野大学が公立大学となった。長野市に看護学部を造る話も進んでいる。今治市がずっと獣医学部に固執し続けた理由はある。しかし、国が、特に今治だけを特別扱いする疑問はここにも存在する。

<恥知らずの「お友達優遇戦略」は許されず>
 国会論議では、安倍首相の「腹心の友」加計孝太郎へのエコひいきと、それを忖度した旧内閣府の強引なやり方ばかりが問題にされたのだ。公平性・透明性に著しく欠ける決定がなされたことは明らかである。しかし、残念ながら国家戦略特区のそもそもの目的との合致がほとんど議論されなかった。今治での獣医学部新設は国家戦略とは無関係である。

 安倍政権の言っていることは最初から辻褄が合わない。国会の論戦は「総理のご意向」「官邸の最高レベル」の文書があったかないかといった手続きの問題に終始してしまったが、この今治市に岡山理科大獣医学部というのは、そもそも根本から狂っていたのである。8月の文科省の審議会の結論は、新設を認めず、となる気配が濃厚である。

◆◆ 2.四国の獣医学部新設が国家戦略特区か
   ― ライフサイエンスは無理だし、四国の家畜はもっと減少する ―

<ごった煮の国家戦略特区>
 国家戦略特別区域法は、第1条で特区において「経済社会の構造改革を重点的に推進することにより、産業の国際競争力を強化するとともに、国際的な経済活動の拠点を形成することが重要であることに鑑み・・・」と定めている。そして、東京圏、関西圏、愛知県といった広域的なものから、仙北市、養父市といった小さな区域、そして問題の広島県・今治市まで10区が指定されている。広さもさることながら、区域の目玉も抽象的なものから具体的なものまで、わけのわからないものとなっている。

 例えば東京圏は「国際ビジネス・イノベーション拠点」として、23の改革メニューと75の事業がリストアップされている。都市再生特別措置法の特例から病床規制に係る医療法の特別まで、何でもござれで、正直なところ私には何が国家戦略なのかよく理解できない。

<今治市に的を絞った特区指定>
 そうした中に広島県となぜか瀬戸内海を隔てた対岸の愛媛県ではなく今治市がくっついて区域指定され、その中の8つの規制改革メニューの1つとして「獣医学部の新設に係る認可の基準の特例」があり、事業主体として「学校法人加計学園」が含まれている。
 他にもこの規制改革が何で国家戦略か、どこが国際競争力の強化なのか、どうやって国際的な経済活動の拠点が形成されるのか、さっぱり理解できないものばかりが並ぶ。加計学園の岡山理科大学獣医学部は、2017年1月20日に区域計画が作成されている。
 広島県にそれこそとってつけたように付け加えられた今治市の特区指定からして、加計学園ありきだったことが窺われる。このことは1番最近の暴露文書(?)でいえば、「10/21萩生田副長官ご発言概要」に記されたとおり一目瞭然である。期限も安倍首相の意向で2018年4月開学と述べられている。

<どこへ消えたかライフサイエンスの拠点>
 当初はライフサイエンスの拠点と銘打っていた。しかし、四国の中ぐらいの市・今治市に新たに獣医学部を造ることが産業の国際競争力の強化につながり、今治市が国際的な経済活動の拠点になるのだろうか。そんな計画はどう捏造してもできないはずである。上記文書では「ハイレベルな伝染病実験ができる研究施設を備えること」と記されている。一方、愛媛県はというと、「ハイレベルの獣医師を養成されても嬉しくない」と正直であり、矛盾も垣間見ることができる。だから、途中から問題の「広域的」という言葉が入り、四国に獣医学部がないからという後付けの理由に変わった。さすがにライフサイエンスの拠点は世間からも理解されないとわかってのことである。

<獣医学部の偏在是正は構造改革特区の論>
 愛媛県の要望どおり普通の獣医師を育成することになったが、今度は国家戦略特区の名が浮いてくるという新たな矛盾が生じてくる。同僚の桜井充参議院議員は、この矛盾にいち早く気付いて追及していた。ところが、攻める野党はいつの間にか「総理のご意向」や、言った言わないの手続きにばかり向かい、本質を全く突いていない。獣医学部のない地域の獣医師の育成は、せいぜい以前の構造改革特区のことである。2007年から8年間に15回申請したというが、そちらのほうがまだ筋が通っている。しかし、家畜が増える見込みの全くない四国に、獣医学部がないからといって獣医学部を新設するのは、どう考えても国家戦略特区の話ではない。

<四国でライフサイエンスは無理>
 計画では160人という我が国最大の1学年定員に対し、既存の大学を上回る教授数の72人を集めることになっている。文系の法学部や経済学部は大教室で講義するだけなので定員が増えてもたいしたことはないが、今は臨床実習が伴う獣医学部は、国立大学で教授1人に約7人、私立大学で約21人の学生しか面倒を見切れていない。しかも、どこの既存の大学も教授数が足りていない。

 また、ハイレベルの教授陣というが、他の大学を定年退職した高齢教授かオーバー・ドクター(博士課程を修了したものの行く宛てのない者)だらけで、中間のいない教授陣しか集められないであろう。これでは人畜共通伝染病の世界最先端の研究などできるはずもない。何よりも、こうした学術的研究には、生物学、医学、化学等の他学部との協力が必要である。ところが、残念ながら近隣県の大学は十分に要求に応えられまい。その点、広域的に獣医学科が存在しないという文言に排除された京都産業大学のほうがずっと有利な条件が備わっている。関西圏の大学とすぐに連携できるからである。それよりも適地は、東京圏の東京農工大学(府中市)と日本獣医生命科学大学(武蔵野市)の拠点がある東京都の23区以外が最適地となる。

<家畜の減少著しい四国に獣医学部は不要>
 それよりも何よりも獣医師を育成したところで、生乳の指定団体制度をなくし、規制緩和に規制改革だと叫ぶだけのアベノミクス農政では、畜産も振興できない。現に急激な勢いで畜産農家戸数も減り、飼育頭数も減っている。獣医師の育成の前に、農業後継者の育成こそ急務なのに対し、農業を傷めつけるTPPや日EU・EPAを推進している。まさに矛盾に満ち満ちた戦略なき国政である。
 このままいくと、獣医師の対象とする畜産が四国にはほとんどなくなって、せっかくの獣医師も他の地域に行かないと仕事にありつけないことになる。四国に獣医学部の唯一の合理的理由である地方創生も何もなくなってしまう。

 今治市の特区指定は最初から「腹心の友」加計孝太郎へのプレゼント以外の何物でもなかったのだ。行政が歪められたどころか、すべてが大きな歪みの中で展開されてきたのである。今回の一連の事件(?)は国家戦略特区制度が「お友達優遇戦略」にとって代わられただけのことである。
 8月下旬には出される大学設置審議会の結論は、多分設置を許可せずに終わるであろう。そうでないと日本の民主的な法治国家とはいえないからである。

◆◆ 3.獣医師の地域・分野別の偏在は規制導入で解決
   ― 畜産業が傷めつけられ飼育頭数が減る中で、なぜ獣医師のみ必要なのか ―

 安倍首相の獣医学部を巡る言い訳、格好付け、後付発言が飛び出した。獣医学部を3つ4つ造るというものであり、今までの方針をひっくり返すものだ。1校にしたのは、日本獣医師連盟が要請したからだと罪をなすり付けているが、順序が逆なことは明らかになっているというのに、また屁理屈を述べ始めた。

<お金のかかる獣医師の育成>
 その前に何でも市場原理が好きな山本地方創生相は50数年獣医学部の新設がなかったから質が落ちた、と迷言を吐き、獣医学会のひんしゅくをかっている。それでは、あちこちにできたアメリカの猿真似の法科大学院は法曹界の質を高めたのだろうか。まさに粗製乱造でピーク時74校の半分の34校しか募集しておらず、17校が廃止となっている。競争原理とやらの成れの果てで、大学を出たあと3年も学んで合格率がわずか2割である。あまたの若者にムダをさせていることになる。
 また、獣医学部同様になかなか新設が認められない医学部の質が落ちたのだろうか。全く違う文脈で新設するかどうか決められているのである。自由競争の世界が違うのだ。それを6年もかけてたくさん獣医師を作っておいて、その専門の仕事に就けなくても仕方ないでは済まされない。なぜなら、一人の育成にかかる費用が違うのだ。

<臨床実習が必要な学部はもとから少人数>
 最高学府東大2016年の募集人員でみると、法学部(文Ⅰ)401人、経済学部(文Ⅱ)353人に対し、医学部(理Ⅲ)は97人、獣医学科の定員はわずか30人である。この中間に工学部等理科系の学部がある。獣医学部は臨床実習のいろいろな教育施設が必要なのだ。だから、最初から需給関係を考えて定員が認められている。この単純な事実が首相も地方創生相もわかっていない。日本獣医師連盟が指摘するように、国際水準達成に向けた獣医学教育の改善には、教員を増やすなど別の手当が必要である。

<ほったらかしにされる分野別獣医師の存在>
 前出の「分野別獣医師の推移」の表にみられるとおり、小動物診察(いわゆる犬猫病院)に携わる獣医師の割合が、1970年の10.3%から2014年には4倍の38.9%と急激に増えている。それに対し、産業動物診療(大家畜)は24.7%から11.0%と半減している。医師の分野にみられる診療科目別偏在(命にかかわる産婦人科、小児科、外科が減っている)と同じである。
 自由に任せていたら人間誰しも楽して儲かるほうに向いてしまう。医師の世界では、医療過誤で訴えられず、お金がたくさんもらえる道を選ぶ。かくして診療科目別・地域別の偏在が生じる。
 この解決は安倍首相や山本地方創生相の大嫌いな規制で是正するしかない。

画像の説明
  14.4.11 環境委員会資料(大学における獣医学部・学科等の在学者状況)

<医師の地域別、診療科目別偏在の解決策>
 私は医師の偏在の解決策について「思い切った地方創生策 具体編―B.地方に医者を」(14.12.08 14年末選挙シリーズ8)で触れた。そして本年6月7日(水)の厚生労働委員会で塩崎厚労相を相手に質疑応答をした。関心のある方は、両方(後者は衆議院のビデオライブラリー)を見ていただきたい。
 http://www.shinohara21.com/blog/archives/2014/12/148_141208.html
 http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=47318&media_type=

 かいつまんで言うと、3~5年、各人の人生設計に合わせて国家が指定した地域、すなわち過疎地で医療活動を義務づけることである。国家試験をして資格を与えているのだから、これくらいの義務を課してもよい(これについては別途詳述する)。なにせ安倍政権は何かと国民に言うことをきかせようとしているのだから、医師にこのぐらいの公徳心を持ってもらって何もおかしくない。なぜなら国家もかなり援助しているからだ。大金をかけて学部を1つ造るのではなく、今の人員で賄うほうが財政上もずっと合理的である。
 診療科目の偏在は簡単に言うと診察報酬を増すことで、それなりに改善される。

<ペット病院の獣医師にも地方で大家畜診療の義務を課す>
 獣医師も国家が相当お金を投資して育成し、国家資格を与えている。一生のうち、3~5年国の意向に従って(総理の意向で?)畜産業の盛んな地域で働いてもらうことだ。
 最初からペットしか扱わないと決めて獣医学部に行っている者も多いだろうが、後々のためにも足らない大家畜の診察を経験させておくべきである。なぜなら今後予期せぬ人畜共通伝染病もありうる。また、BSE、口蹄疫、鳥インフルエンザといった家畜の伝染は日本も経験済みである。緊急対応が必要であり、いざという時にはその地域の獣医師を総動員し手伝ってもらわないとならなくなる。そのためにも予め現場を知ってもらっておく必要がある。

 2010年6月~7月、私は2ヶ月弱、口蹄疫現地対策本部長として宮崎県庁に陣取っていた。牛の殺処分は首の静脈に注射を打つ必要があったが、日頃からやり慣れている者でないと無理で、全国から大家畜の獣医師に援軍してもらった。この時に大家畜の獣医師不足は身をもって体験している。

<大家畜診療に当たる獣医師を給与面で優遇する>
 もう一つは給与の問題である。役所の人事は、入省年次をもとに行われる。大半の行政官は4年制大学卒である。行政にも獣医師は必要だが、6年制である。民間のペット医はいきなり高給をもらえるのに、国家公務員は…といった日本の制度上の問題がある。国際機関は大学と修士と学士をきっちりわけている。つまり、学歴社会なのだ。ところが、日本は on the job training で、自らの組織で教育するシステムであり、学んできたことをあまり評価しない。
 民間の現場では、獣医診療手当 ○○%増しとか工夫しているようだが、どうもきちんと定着していない。戦前はその道のプロや課長より給与も高くして遇していた「勅任官制度」があった。犬猫病院の獣医師の給与に合わせて高給で処遇すれば、足りない畜産動物診療や農林水産分野の公務員も増える。これこそ国家戦略ではないが、単純に獣医師を増やせばいいなどということなら諮問会議などいらない。そしてこうしたプロ・専門家を遇するという改革に抵抗勢力があるなら、それこそ「総理の意向」で断行したらよい。

<支離滅裂の安倍言訳発言>
 安倍首相の苦しまぎれの言訳もとても聞いていられない。この分野の権威の唐木英明東大名誉教授(加計学園の倉敷芸術科学大学元学長)は、「獣医学部の設置や入学定員の増加を自由化したわけではない」と擁護していたが、今やそれを言い出したのだ。おわかりのとおり、加計学園は、金にあかせて下村元文科大臣に取り入るばかりでなく(週刊文春7月6日号【下村文科相「加計学園から闇献金200万円」】)学界にも手を回していたのである。
 すぐわかることだが、安倍首相は、1校にするというのも国家戦略諮問会議の決めたことで自分は命じてないと言いつつ、今度は自ら3~4校でもいいと公言している。矛盾も甚だしいと言わねばなるまい。

 かくして、内閣府の政僚が権力をかさに各省に命じ、御用学者がろくに考えもせず、忖度だらけの結論を出し、それで物事が決められていく。こんな不透明で不公平な決定過程で物事を決められてはたまらない。これが前川前次官のいう「行政のゆがみ」である。
 6月30日、稲葉睦全国大学獣医学部関係者代表協議会代表が記者会見して、「広く大学教育・研究を崩壊に導きかねない、」と指摘している。

<昔の私の女性獣医師活用提案>
 なお私は、環境委員会(2014年4月11日)の獣医学部問題でいつものとおり提案型質問をしている。そのときに初めて知ったことだが、当時でも既に女性が相当の割合を占め、私立大学では女性の割合が上回っていた。私は鳥獣害対策のために都道府県に動物のプロの獣医師を採用してあたらせるべきであり、その際別に女性の職場を広くするため、優秀な女性を意図的に採用すべしと提案した。

 県に獣医師が多くいれば、家畜の伝染病が蔓延した時にも対応できることになる。自民党政権は威勢よく自然災害に備えて100兆円もかけて公共投資を行うという。しかし、災害は地震、台風、火事ばかりではない。病気もありうるのだ。そのときに備えて対応できる人材の育成と、緊急事態に対応するネットワークの構築はもっと大切である。だからといって、何十年に1回のことに何人も人をかかえるのは非効率だが、今は中産間地域の農民を悩ます鳥獣害対策という日常業務がある。
 前述の厚労委に使った資料(17.6.7 厚生労働委員会資料)は下記サイト参照。前出の環境委資料(14.4.11 環境委員会資料)と比較してみていただきたい。
  http://www.shinohara21.com/blog/archives/170702blog_170607kourou.pdf

 (衆議院議員)

※この記事は「衆議院議員しのはら孝メールマガジン」504~506号から著者の許諾を得て転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。
 http://www.shinohara21.com/blog/archives/2017/06/_170621.html
 http://www.shinohara21.com/blog/archives/2017/06/_170626.html
 http://www.shinohara21.com/blog/archives/2017/07/5_170702.html

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