【沖縄の地鳴り】

日中の連絡メカニズム

平良 知二


 日本と中国が、東シナ海での偶発的な衝突を避けるため「海空連絡メカニズム」の運用を始めることになった。自衛隊と中国軍が常時連絡を取り合い、不測の事態を未然防止する。昨今の緊迫続きの東アジア情勢の中では、朗報といえる関係樹立だろう。尖閣については適用範囲外のようではあるが、互いに連絡できる体制が構築されれば、尖閣でも最悪事態は避けられる。冷静に対応するシステムとなろう。

 北朝鮮の核・ミサイル問題や近年の中国の“覇権”行動で、東アジアは軍事が前面化したままだ。北朝鮮との関係では一触即発の危機が続いている。まさか、米国による北朝鮮への直接攻撃はないと思うのだが、圧力、圧力の強硬姿勢ばかりでは予断を許さない。そのような中での日中の連絡メカニズム構築。細部の詰めはこれからとはいえ、危機緩和の大きな動力になっていけるか、注目される。

 そういう“朗報”の一方で、依然として軍事の前面化の動きが止まらない。日本政府は航空自衛隊の戦闘機に長距離巡航ミサイルを搭載する方針を打ち出した。敵基地攻撃ができる巡航ミサイルであり、北朝鮮狙いの導入、と見られる。政府は「専守防衛の方針に変わりはない」(菅官房長官)と釈明しているが、憲法との関係があり、議論となるのは必至。北朝鮮を刺激し、一層かたくなにする恐れが強い。

 巡航ミサイルの一部は那覇基地のF15戦闘機に搭載される可能性が指摘されている。「辺野古新基地」建設とともに、沖縄は日米両国の“一大軍事基地”化に突き進む一方である。
 ミサイルの件では、トランプ米大統領と安倍首相の会談で、米国産の武器を日本が購入するという約束がなされており、今回の巡航ミサイルは大半が米国の開発。日米安保は軍需経済でも一体化の度合いを深め、日本が米国に寄り添う姿がより鮮明だ。

 最近、島嶼(しょ)防衛を言う風潮が強まっている。外国(特に中国)の人に土地が買い占められる、島が外国人の手に渡る…などの事例を取り上げ、あるいは予想し、島々の守りに関心と力を注ぐべきだ、という懸念を訴える。
 日本海沿岸に北朝鮮の木造船と遺体が何隻も何人も流れ着き、一部の北朝鮮人が小島に上陸し小屋を荒らすなど問題化している。こういうことも国民の防御本能を刺激するのだろうか。国土防衛というコトバが動き出している。

 今の日本政府は、北朝鮮問題では全くの米国一辺倒。トランプ大統領の罵るような北朝鮮非難を「圧力を最大限まで高める」(安倍首相)ものとしてバックアップし、対話については一切語ることがない。軍事衝突を避けようという仲介の姿が見えない。不幸にも戦闘が勃発したら、米国追従の軍事加担となるに違いない。
 「島嶼防衛」をことさらに言う動きは今の状況の写しであり、どうも軍備ナショナリズムの匂いが漂っている。

 日中の「海空連絡メカニズム」は10年かけての交渉だったようだ。その間、尖閣諸島の日本政府による国有化宣言などもあり、中国の対日感情は著しく悪化した。その影響だけでもないのだろうが、習近平政権は一段と軍備増強を図って今に至っている。

 それだけに、このメカニズムが衝突を防ぐため有効に働き、それ以上の「地域の安定・平和」をもたらすシステムとなれば、尖閣を抱え中国と友好を深めたい沖縄にとってプラスとなる。軍同士の連絡システムが、互いに信頼し真の情報交換ができるか、相手を立てる裁量があるか、課題は少なくないと思われる。課題を解消しつつ、緊迫状況を和らげる役割に徹してもらいたい。

 (元沖縄タイムス編集局長)

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