【沖縄の地鳴り】

新型コロナウイルスの波紋

平良 知二

 世界に広がっている新型コロナウイルス感染症が今後どうなるのか、この小文執筆時点(3月11日)では見通しははっきりせず、日本政府は前日に4,300億円を投入する緊急対応策の第2弾を発表した。19日まではスポーツや文化イベントをなお自粛するよう国民に求めている。
 すでに多くのイベントが中止に追い込まれた。春の選抜高校野球全国大会も中止となった。テレビニュースは連日コロナウイルスである。私たちは家にうずくまってコロナが通り過ぎるのをじっと待つ、そんな状況が現出している。

 そういう中、沖縄では通常生活を取り戻す動きが始まった。休校していた小中学校の一部が政府の対応策第2弾発表の10日、授業を再開した。県内の多くの学校がこれに続き、来週早々(16日)には授業再開に踏み切るという。学校が先頭を切って閉塞感を払うことになる。
 政府が全国の小中学校、高校の休校を決めた(要請した)のは先月27日。安倍首相が「3月2日から」と表明し、ほとんどの学校が一斉に休みに入った。唐突な表明であり「なんで今、学校を」と驚いたのだが、沖縄も“右ならえ”であった。休むかどうか地域で異なって構わない。広がりつつあるとはいえ、沖縄の全体状況はそこまで追い詰められてはいない。当時の率直な思いであった。筆者の孫たちは大喜びだったが。
 ただ、沖縄では石垣市など一部の市町村は休校措置を取らなかった。当然の判断である。沖縄本島北部や離島などコロナウイルスからかなり“遠い”と思われる地域は、卒業式などの大事な年度末であり、無理に全国一律を通すことはなかったのだ。

 沖縄で新型コロナウイルスに感染したのは2月14日の女性タクシー運転手が最初で、続いて19日に男性タクシー運転手、20日に80代の男性の感染が確認された。計3人。以後20日余り経つが、新たな感染者はいない。学校の再開はこのような状況を踏まえての判断だろう。
 定期航空便やクルーズ船の寄港が大幅に減り、観光客、特に中国系の人たちが那覇の街から姿を消すなど、これまでの防止策が実った結果ではある。もちろん、いつ4人目の感染者が出るかは知れず、まだ警戒が必要ではあるが、地域自身で状況判断をしつつ、早めに通常生活を取り戻すことが大事である。

 とは言っても、社会全体に広まった“行動抑制”に反逆するのはなかなかである。このところ筆者も家の中に閉じこもりがちで、電話もかかって来ない。
 横浜港に足止めさせられたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」は、横浜に着く前の2月1日、那覇に入港し、乗客は大挙して那覇など観光している。最初の感染者である女性タクシー運転手はその当日に同船のお客を乗せたのが分かっているが、筆者もその日、那覇での会合のため国際通りを歩いている。多くの観光客が通りを行き来し、ぶつからないようすり抜けて歩いたのを記憶している。
 「ダイヤモンド・プリンセス」のニュースが連日取りあげられ、次第にその日のことが気になって、以後の行動を振り返ったりした。

 隔月で開く仲間の集まりは今月、中止になった。10人足らずの懇親であるが、異論なく決まった。公民館での地域の模合(もあい)も今月は取りやめとなった。20人ほどの半数は80代の方々であり、高齢者が感染しやすいと言われる中では決行できない。
 庭に響く町役場のマイク放送は、このところ「予定されていた○○は中止になりました」の連絡が目立つ。
 沖縄タイムス社は最大の文化行事である「沖展」(絵画などの芸術展。3月下旬から2週間)を延期した。秋に規模を縮小して開催するという。県内各団体の各種催しが中止になっている。自粛ムードは依然根強い。

 今回の学校の授業再開が状況を変えるきっかけになれば、と期待する。全国的に、あるいは世界的に感染者は増える傾向と予想されているが、どこも一様に、同じ濃度で、ということではあるまい。発端となった中国も抑止の方向にある。教訓として日常化しつつある丁寧な手洗いを続けながら、終息宣言を待っている。

 (元沖縄タイムス記者)

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