■ 農業は死の床か再生のときか           濱田 幸生

   放射能の雲の下で生きる   ~セシウム除去Q&A~
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■セシウム除去Q&A 第1回

  セシウムは封じ込めることが現実的。除染作物は困難なことがわかってきた


▼Q1 セシウムの侵入経路にはどんなものがありますか?
▽A1 2ツの経路があります。
  1)空気中からフォールアウト(放射性降下)して、葉などに吸着し、そこから
   植物の中に侵入します。葉面吸収といいます。
  2)一度土壌に降下した後に根から吸収されます。経根吸収といいます。

▼Q2 土の性質によってセシウムの吸収に差がありますか?
▽A2 あります。土壌の粘土質(コロイド)と強く結着することが知られてい
ます。一方、セシウムは水に溶けやすい性質(水溶性)が特徴なので、粘土質に
くっつかなかったセシウムは、時間がたつと急速に減少してしまいます。

▼Q3 ゼオライトという資材がセシウムを吸うというのはほんとうですか?
▽A3 ほんとうです。他にベントナイトという粘土質の資材も同様な結着効果
があります。ただし、誤解してほしくないのですが、あくまでもゼオライトはセ
シウムを結着させて、土の中で動かなくしてしまう働きをするだけで、なくなし
てしまうわけではありません。

▼Q4 というと、セシウムはゼオライトで「なくなる」わけではないのですね。
▽A4 もの足りないかもしれませんが、そうです。ゼオライトは、土の中の団
粒構造から離れて悪さをするため遊離セシウムをくっつけてしまい、植物の中に
侵入することを阻止するのです。

▼Q5 では、ゼオライトを入れても、放射線量は減らないのですか?がっかり
だなぁ
▽A5 こんなていどでがっかりしないで下さい(笑)。確かに「なくす」こと
はできませんが、植物に吸収されなくするというだけで、農業にとっては充分で
はありませんか。このように粘土質に結着させて動かなくすることを、「放射性
物質の封じ込め効果」とも言います。

▼Q6 先ほどセシウムは水溶性だと聞きましたが、植物が水分と一緒に吸収し
てしまうのではありませんか?
▽A6 あるていどはします。また水に溶けて沈降して行くことも理屈の上では
ありえます。しかし、現在福島県などで調査が進んでいますが、まったく人が手
を加えていない土地において、5カ月間たっても表土5㎝ていどでしっかりと止
まっていることが確認されています。セシウムはあんがい頑固に表土にへばりつ
いているものなのです。

▼Q7 学校の校庭の土を水を加えて洗浄している風景を見ましたが、農業で可
能でしょうか。
▽A7 現実的ではありません。小面積なら水を加えて清浄し、水に溶けたセシ
ウムを分離固着する方法も可能ですが、大面積でやるとなると、あなたがものす
ごく暇なら試して見てください。また手間だけではなく、その分離した後のセシ
ウムの棄て場所の問題もあります。

▼Q8 セシウムの除染に菜種やひまわりが有効だと聞いたのですが。
▽A8 菜種やヒマワリを使って、植物に吸わせる除染実験が各所で行われてい
ますが、中間報告では、現在のところ残念ながら、あまりかんばしいものではあ
りません。

1)思ったよりセシウムを吸わない。植物の体内でセシウムは移動して、種子に
移行すると思われていたのですが、植物は茎と葉だけで70%以上を吸収してし
まい、種子に移行するのはごくわずかだと分かりました。種子は厳重にブロック
されているのですね。
米の場合、稲藁に全体の73%、白米に7%、米ぬかに10%、もみ殻に7%、
根に3%が移行することがわかっています。(畜産草地研究所)

2)収穫した後に除染植物は根から引き抜いて集めます。しかし、現実にやって
みると、ひまわりは大きな植物なので、大変にかさばって集めた後、小山のよう
になったひまわりの処分に大変手間取りました。

3)処分方法に決定打がない。除染作物を乾燥させて切断するか、あるいは発酵
をかけて収縮させる、あるいは燃やすという方法がありますが、いずれも大変な
作業でした。

4)燃やした場合、煙に出るセシウムより灰に残るセシウムのほうが圧倒的に多
いことが分かりました。

5)灰は飛散するので処理が大変でした。結局、ガラス質に封じ込めるといった
コストがかかる方法しかありませんでした。

6)最終処分所は現在のところありません。行政も引き取りません。したがって
農業者がやる場合、自分の敷地内に穴を掘って投棄し、鉄板をかぶせるような方
法しかありません。


■セシウム 除去Q&A 第2回 封じ込めるか、薄めるか


  セシウムは手ごわい相手ですが、むやみやたらと恐れていても逃げていきませ
ん。そこでこの「続・セシウム 除去Q&A」を作ってみました。
前回のQ&Aで、いくつか「除染」方法をご紹介しました。まずはおさらいから。

1)砂やゼオライトなどを使って水で濾過し、分離したセシウムを取り出して処
分。
  ●利点・・・除去率が高い。
  ●欠点・・・大がかりな装置がないため、現時点では小規模限定。小面積向け。
      ・・・濾過して取り出したセシウムの捨て場が難しい。     
2)ひまわり、なたねなどの除去植物を植えて、植物ごと持ち出して処分。
  ●利点・・・チェルノブイイリで実証されたように相当な大面積も可能。
     ・・・植物の種子へのセシウム移行は少ないために植物油などで再利用
することが可能。ただし、測定してから利用して下さいね。せっかく取り出した
セシウムをまたバラ撒いてしまいます。
  ●欠点・・・ひまわりは大きく成長するため、かさばって処理しにくい。
      ・・・セシウムの大部分を吸収する茎と葉の処分が大変。
      ・・・低線量地域ではほとんど吸わない。
3)ゼオライトなどの粘土質を使ってセシウムを結着し、封じ込める。
  ●利点・・・作業が容易なため大面積が可能。
  ●欠点・・・結着して植物に吸わせなくするだけで、土壌放射線量自体には変
化がない。

では.お待たせしました。本日のQ&Aに入ります。

▼Q9 テレビで専門家が「客土しかないでしょうね」と言っていたのですが。
▽A9 その専門家は、学校の校庭などや自宅の庭の除染を想定しているのだと
思います。そのような小面積には客土は向いています。そして客土の除染率は大
変に高いのも長所です。しかしその反面、客土して剥がした土をどこに棄てるの
かという除染の永遠のテーマがつきまといます。

 一度、日本農家平均の1.5hで試算したところ、なんと5千台のダンプが必
要でした。どひゃ~です。またそれだけ大量の汚染された土を、棄てる穴は巨大
なものになってしまいます。もはや土木工事の域です。というわけで、表土とい
うもっとも豊かな滋養に満ちた土を剥がすという農家にとっての死にも勝る苦痛
を乗り越えたとしても、とてもじゃないが採用可能な方法ではありません。

▼Q10 近所の農家がトラクターをかけていましたが、あんなことをすれば、
せっかく地表下5㎝から10㎝に止まっているセシウムがもっと下にまでバラ撒
いてしまうのではありませんか?
▽A10 いい質問です。セシウム除去を考える上で大事なポイントなのでよく
聞いて下さいね。結論から言えば、トラクターをかけると、5㎝の表土の下の層
までセシウムが分散していってしまうのは確かです。問題はここからです。

居直るようですが、それでなにか問題が出るのでしょうか?おそらくは、私の地
域の実測では、私の地域(茨城県鹿行地域)の平均的なトラクターをかけない前
と後の線量は以下でした。
・トラクターをかける前・・・平均900~1000ベクレル/㎏
・トラクターをかけた後・・・平均100~200
ね、おおよそ10分の1にまで放射線量が激減したのが分かります。先ほど一見
完璧な除染に思えた客土の数値と比較してみます。(福島県郡山市小学校校庭)
・客土前・・・3.5マイクロシーベルト
・客土後・・・0.6

計測単位は違いますが、客土による除染も6分の1ていどだと分かります。もち
ろん計測場所によってバラつきはあるでしょうが、客土は一見徹底的に取り除け
るようでいて、さほどでもないのが分かります。
10分の1か、6分の1かは測定実測値が少ない現時点では、誤差の範囲だと思
います。ただほとんど変わらないことは頭に入れて下さい。

▼Q11 持ち出さなくては解決にならないのではないのでしょうか?
▽A11 それこそが専門家の盲点だったのです。
多くの放射線の専門家は、放射線の実験を放射性物質の特殊性から、完全に外部
から遮断されたラボでやるしかありませんでした。だからあまり現実の外の世界
を知らないのです。多くの専門家にとって、今回の福島の事例が初めての野外調
査だったと思います。 今回、福島県はフォールアウト後に「トラクターをかけ
るな」という指導をしました。

 トラクターをかけるとあなたが言ったようにセシウムが下の層にまで拡散して
しまうからです。 しかしこれでは農家にしてみれば、農繁期に畑仕事をする
な、と言われたのと一緒です。とうとうがまんしきれなくなって、農家はトラク
ターをかけ始めました。だいたい地表から50㎝前後が反転し、さらに上層と下
層がきれいに混ざってしまったことになります。
 
  するとなんと、その後の線量が大きく減っているのがわかったのです。これは
拡散した、あるいは「薄まった」ためであって、なくなったわけではありませ
ん。潔癖な専門家にはたまらないでしょうが、これでいいじゃないですか。現
実ってそんなもんです。もっと気楽に考えたらいいと思いますが、いかがでしょ
うか。

▼Q12 なんといいかげんな!それでは私たちは放射性物質と共存しろと言う
ことじゃないですか。
▽A12 まぁまぁ(笑)。でもよく考えて下さいよ。客土しても、トラクター
をかけても、結果的に放射線量が下がればいいではないですか。私ってリアリス
トにすぎますかねぇ、ハハ。
この方法は、私は「深耕ロータリー方式」と呼んでいます。おそらくはもっとも
簡単で、大面積を除染できる方法です。なんかコロンブスの卵みたいな話でしょ
う。
  デンマークの研究者は、チェルノブイリ後の除染方法で、特殊な機械を使っ
て、表土を下の層にと入れ換えるという、「表層埋没耕耘法」というアクロバ
ティックな方法を考案しました。汚染がひどい地域では試してみる価値がありま
す。原理は一緒です。
 
私たちは泣いても笑っても、いったん降った放射性物質と「つきあう」必要が
生まれました。方法は基本的に3種類です。
1)完全除去・・・・・・困難。手間とコストがかかりすぎる上に、大面積では
不可能。
2)封じ込め方式・・・ゼオライトなどの粘土質で遊離セシウムを補足し結着さ
せる。コストがかからず大面積ができるが、線量自体は減らない。
3)拡散方式・・・・・深耕ロータリーで薄める。もっとも現実的。線量も低下
し、大面積の除染が可能。

▼Q13 でも、セシウムは30年間ずっとそこにいるのでしょう。
▽A13 う~んとね、それって迷信です、マスコミはしょっちゅうそう言っ
て、他人の不幸は鴨の味のようですが、あれは一種の煽りです。
第一、放射線量なんて、だまっていても下がり続けます。
放射性ヨウ素は半減期が極端に短くてたった8日間で消滅しまので、現時点では
存在しません。事故直後にものすごい数値だったのが、いまでもひとり歩きして
いますが、その大部分を占めていた放射性セシウムはとっくにこの世からいませ
ん。今あるのは、セシウム134と137です。

そこで、セシウムの半減期をみます。
・セシウム134・・・半減期2年
・セシウム137・・・半減期30年
セシウムの線量はこの134と137の合計で、おおよそ同じていどの線量が計
測されますから、2年後にはCs134は半分に、4年後には4分の1になってし
まうわけです。
 
仮に100bq/㎏ある土地は
  2年後・・・25+47.7=72.7
  4年後・・・12.5+45.6=58.1
  8年後・・・3.1+41.6=44.7
  16年後・・0.2+34.5=34.7
  30年後・・0+25=25
 
2年後にはなにも除染しなくとも72.2bq/㎏に、4年後には58.1bq/㎏になりま
す。30年後には4分の1となります。よく考えられているように、30年後に初
めて半分になるわけではないのですからご注意ください。 これはあくまでも理
論的数値であって、現実にはその間に耕したりして拡散を続け、しかもゼオライ
トで吸着して「封じこめ」てしまいますから、うんと植物が吸う線量は少なくな
るのです。 おまけに、土壌から吸い上げる放射線量はごくわずかなこともわ
かっています。
 
下の主要野菜の土壌移行係数をご覧ください。計測された土壌線量にこの移行
  係数をかけると、おおよその作物への移行される線量を予測できます。
すると、おおよそ1千分の1から1万分の1のケタです。 比較的多い芋類で3
0分の1ていどです。米はなぜかケタが違う数値がふたつありますが、いずれに
せよ今年の米を計れば結論が出るでしょう。先日梅に放射性物質が検出されまし
たが、これは3月のフォールアウト期に野外で外部被曝したためです。

一方、桃などには微量しか検出されていません。これは、外部から放射性物質さ
えかからなければ、茎や葉からが果実や種子に移行するのは超微量だということ
を証明しています。私は新たな爆発がない限り、この農産物からの放射性物質検
出は今年が山だと思っています。来年にはほとんどなくなることでしょう。


■セシウム除去Q&A 
  第3回 汚染の除去は、その目的、広さ、汚染の度合い、土質を考えてやろう


▼Q14 セシウム除去の方法は何が選択基準なのでしょうか?
▽A14 場所の「広さ」や「目的」に合わせて考えるべきです。
広さについては、住宅の庭と農地ではまったく広さが違います。

 ●住宅の庭・・・10坪ていどだとすると、土を剥がして新しい土を敷くほう
が速いかもしれません。
  ●農地・・・・・・・広いので剥がして客土することは不可能です。ゼオライ
トを散布した後に、深耕ロータリーで50㎝くらいまで耕してしまうのが、いち
ばん簡単で速い方法です。
目的でも、子供が遊ぶ校庭や家の庭、公園などと、農地は使用目的が違います。
 
  ●校庭、自宅の庭、公園・・・子供が直に地表に触る可能性があります。洗え
ば放射性物質は簡単に落ちますが、親の神経が休まらないでしょうから、5㎝ほ
ど表土を剥がすのがいいでしょう。
  ●農地・・・農地は作物を作る場所です。要するに作物に放射性物質を吸わせ
なくさせればいいのです。ゼオライトなどの粘土を入れて結着させたり、堆肥の
木質(バーク)に吸わしたり、ロータリーでかき混ぜて拡散させる方法が有効で
す。
▼Q15 汚染された土の放射性物質の「濃度」は除去と関係あるのでしょうか?
▽A15 いいところに気がつきました。大いにあります。濃度が高い土地と、
さほどでもない土地は区別して考えるべきです。
福島県の避難地域内の土地は数万ベクレル/㎏の土地がよくあります。時に十万
ベクレルを超えるホットスポットもあります。
このような高濃度に汚染されてしまった土地と、同じ福島県でも内陸部ではまっ
たく違います。内陸部は数百から数千ベクレルに止まっています。隣県の茨城県
も、だいたいそのていどの線量です。

 ●高濃度汚染の土地・・・除染作物のひまわりや菜種を低濃度の土地に植えて
もほとんど吸いませんが、高濃度の土地では有効に放射性物質を吸収します。
  ●低濃度汚染の土地・・・除染作物はあまり意味がありません。むしろゼオラ
イトや深耕ロータリーをお勧めします。

▼Q16 土の質によって、放射性物質の作物への吸収は違うのでしょうか?
▽A16 違います。放射性物質は、土の質によって植物に吸われる度合いがか
なり違います。植物に吸いやすい土質を、高い順番に並べます。

●第1位・・・いちばん作物に吸われやすい土質は、砂地です。
砂地には放射性物質を結着する粘土がほとんどない上に、粒子が細かく表面積が
大きいために、放射性物質を土壌内に封じ込める力が弱いのです。
海岸に近い地域には砂地が多いのですが、今回の鉾田市の土質も砂地でした。避
難地域の中でも海岸に近い地域もそうです。

●第2位・・・砂や砂利が混ざった土壌。粘土質が少ないために植物に吸収しや
すい土地です。
●第3位・・・粘土質。東日本で不幸中の幸いであったのは、関東ローム層の土
地が多いことです。粘土は強力にセシウムをホールドして、作物に移行させませ
ん。
●第4位・・・有機質堆肥を多く含んだ粘土質の土。これがおそらくもっとも作
物への吸収が少ない土地です。有機質堆肥の木質と、堆肥資材で以前から使われ
ていたゼオライトを多く含み、関東ローム層の土質と相乗効果を現して、植物へ
の移行を妨げます。
このように、除去の目的、広さ、汚染の度合い、土質をはっきり知って除染作戦
を考えて下さい。


■鉾田市でセシウムを検出・ 茨城県は直ちに13市長村の土壌線量計測を行え!


茨城県鉾田市の3カ所で米の事前測定がなされ、うち1カ所で52ベクレルが検
出されました。内訳はセシウム134が23bq/㎏、セシウム137が29b
q/㎏の合計52bq/㎏です。52bq/㎏ですから、玄米への移行は17%
として土壌線量はx×0.17=52、x=306bqあったと推定されます。
 
そしてこれはロータリーかけした後の数字ですから、経験則でいえばロータリ
ーかけする以前の土壌線量はその10倍の3千bq/㎏あったということになり
ます。 この事件は、「52ベクレル」という数字を超えて、わが茨城の農業に
大きな打撃を与えるでしょう。
 
  それはまず、全国で最初の検出だったことです。前回3月のホウレンソウもそ
うでしたが、わが県は最初の被害担当県という不名誉な立場に再び置かれること
になりました。今後、いくつかの県で放射性物質は検出されるのは間違いありま
せんが、消費者、特に西日本の消費者には、「茨城県=放射能で危ない県」とい
う強力な図式が刷り込まれたことになります。
 
  先日来、当地の農業者を中心にして声を集めています。
  その中には、「来年の米の予約がまったくなくなった」というものや、「売り
上げが春以来回復せずに6割減が続いている。危機的状況だ」、といった悲鳴に
も似た声が集まってきています。 さて、茨城県はこのような検査計画を立てて
いました。(欄外資料参照 茨城県HPより)
http://www.pref.ibaraki.jp/nourin/sansin/kome/1info/komekensa.htm
 
甘いですね。3月から4月にかけて全国2位の被害を出しながら、こんな大甘な
検査体制でなんとかなると思っていたこと自体が驚きです。
  0..1μSvの空間線量が出た13市町村を予備調査すると言いますが、各自治体で
検体わずか3点です。 鉾田などとんでもなく広いですよ。それをたった3検体。
失礼だが、そんなゆるゆるの検査などほとんど無意味です。消費者向け気休めに
しかすぎません。
 
  地元の私たち独自の計測によれば(採取後検査機関に送付)、ひとつの山林を隔
てて西と東で土壌線量数値が2倍以上違ったり、同じ水系を使用する水田で500m
違ったていどで、これも土壌線量が3倍も違う例などがたくさんあります。
  また各所にホットスポットがあることも分かってきています。土壌線量こそが
作物に放射性物質を移行するポイントであるのは明白で、空間線量などは調査候
補を選択する目安にすぎません。
 
  こんな初歩的なことが、なぜ行政はわからないのでしょうか!
  空間線量で13市町村を選ぶと同時に、この13市町村の予備的な土壌線量計測を
行うべきです。少なくとも「重点調査地域」の項にある15hでメッシュを作って
その中をサンプリング検査するていどなら、地元行政に協力させれば簡単なはず
です。予備検査なのですから、検査機関に送付などとせずに、ガンマスペクトル
メータていどの簡易計測でも充分なのです。
 
  それをわずか3カ所しか採らないで、いきなり検出されてしまったのですから
目も当てられません。はっきり言います。茨城県は馬鹿です。その上に恥の上塗
りなことには、「52ベクレルは規制値以下なので、出荷に差し支えない」とした
ことです。 どこの誰がそんな米を買うというのでしょう。鉾田市のみならず、
わが県の米全体が危機に瀕しているのに!
 
  今、県がやるべきは、徹底した13市町村の土壌放射線量の計測です。15hメッ
シュでとりあえずいいとしましょう。ガンマスペクトルメータなんか1台せいぜ
い100~200万円なのですから、各自治体に3台ていどは配布しなさい。金は東電
に請求しなさい。次にもう一回出したら茨城県全体の農畜産物はおしまいです
よ。そんなこともわからないのでしょうか、役人は。 首吊りが出る前夜なので
すよ!


■福島県から計測-除染作戦を開始せよ!
   これ以上避難民の苦痛を長びかせてはならない


  野田首相が所信表明演説で引用した福島の子供たちの詩につながるものでした。
 福島で生まれ、福島で生き、福島で子供を生み、福島で育てる、福島で孫を
みる、福島で土に還える・・・そんな人として一番根っこにあることを大事に思
います。 今、必要なことは、避難民をこれ以上出さないこと、そして安心して
住める福島を取り戻すことです。
 
  そしてそのために除染と、それに先立つ測定を徹底的に行うことです。  し
かし、事故から半年たつのに未だ国家をあげた除染はされていません。土壌
汚染は解決されるどころか、避難地域は放射性廃棄物の中間処理施設を作る、2
0年は住めないというような話しか聞こえてきません。  これで絶望しない福
島の人がいるでしょうか。涙しない福島の人がいるのでしょうか。 放射能汚染
は、いかなる汚染とも違い、極めて長期に存在し続けます。

放射性物質は半減期まで減数しつつも消滅することはないのです。 通常のウイ
ルス伝染病が、汚染地域の個体をすべて殺し尽くしてしまえば宿主を失い、自ら
も生きることができずに消滅に向かうのと対象的です。
 
  またウイルスには、生物内に耐性が備わります。それに対して放射能は、消化
器系に排出を促す力は持つといいますが、人類には基本的に放射能耐性はないと
考えるべきでしょう。(ただし、放射能によるDNA損傷に関しては免疫力があ
ると言われています。) このように考えると、放射能ほど手ごわい人類の敵は
存在しないのかもしれません。 今年5月18日から6月3日まで、東北、関東、
四国で母親の母乳の放射能測定がされました。 この検査結果を福島の母親は怯
えながら待ったはずです。結果は、福島在住の母親から1?あたり
1.9~13.1bq(ベクレル)のセシウムが検出されました。  この数値
は特に健康に直結するものではないとされましたが、東京大学児玉龍彦教授によ
れば、チェルノブイリでは同じく母親の尿中1?に対して6bqが15年間に
渡って検出され、増殖性膀胱炎という前癌症状になったこともあるそうです。
(以下、児玉先生については月刊「文芸春秋」10月号による)  

つまり、このまま除染をせずに福島を現状のまま放置し続ければ、チェリノブ
イリで起きた悲劇が繰り返される可能性がなしといえないのです。  前政権
は、このような重大な福島の状況を放置しました。そしてその目くらましのよう
に再生エネルギーを突然口にし始めます。 今、目の前で火がぼんぼんと燃えて
いるその時に、その火を消さずに「火災に強い都市計画を考えよう」と言ってい
るようなものです。  児玉教授は、政府に対して一刻も早く除染をするよう
に、7月27日の衆院厚生労働委員会で求めた放射線の専門医です。

 先生は、対策を建てるに当たって測定を全面的にするべきだと言います。例え
ば、農産物、あるいは土壌です。そして測定すべき放射性物質は、もっとも多い
セシウム134と137の2種類に限定すべきだとおっしゃっています。
  専門家の指導の下に、妊婦や子供が日常的に生活する保育園、幼稚園、学校、
病院から開始し、こう線量のホットスポットを発見し、それを細かく丁寧に除染
すべきだとしています。
 
児玉先生は既に、南相馬市の幼稚園や学校で手弁当で除染作業を地元の人たち
と協力して行っています。先生はこのような子供が多く集まる施設での除染は、
専門家が指導しないと、除染時にでる埃を吸い込んでしまって内部被曝の原因に
なると警告しています。 このような「緊急敵除染」をする行政の「コールセン
ター」と「すぐやる課」を作り、直ちに線量を計って、除染するシステム作りを
先生は唱えています。このような測定-除染体制作りを地方自治体が作ること
に、国が全面支援をせねばなりません。
 
  先生は、いちばんやってはいけないこととして、「危険/安全」という二分法
にたたないことを提唱しています。 「ここは原発から20キロだから危険、立
ち入らない」、「ここは60キロだから安全というふうに予見で考えないことで
す。この二分法を取ると、避難区域はすべて強制収容して、国家が借り上げて更
地にしてしまえ、という乱暴なことになりかねません。実際そう言う人もいま
す。これでは避難している人々の苦痛や怒りを増すだけでしょう。こんな心ない
ことをしてはいけません。
 
  一方反対に、ひとつの地域をざっと計って、「ここは安全だから除染する必要
はない」として放置することです。これは私の住む地域での農地の測定結果を見
ても分かります。 ひとつの地域は、山ひとつ隔てて線量が違ったり、400m
離れただけで線量が3倍になることもよくあるからです。それは、複雑な日本の
地形が原因です。フォールアウト(放射性降下)時の風や雨、霧の状態で線量が
変化し、しかもその後の農作業などの人間活動によってまた線量が変化するから
です。
 
  この福島県と茨城県の全域、千葉県、東京東部、栃木県、群馬県の一部の除染
作業は、かつて日本人が経験したことのない大がかりな作業となります。
  そのために、それを行うための国家レベルの「除染対策中央本部」が必要で
す。 ここで包括的な粗測定計画-除染計画-除染後の処分などに対する計画を
たてなければなりません。
 
  なぜこのようなものがいるのかと言えば、現状では保育園の除染は厚労省、幼
稚園は文科省、道路は国交省、農地は農水省・・・というアホくさい縄張りがあ
ってなにひとつ進まないからです。 地元自治体や各省の壁を乗り越えて、それ
を統合して調整し、測定-除染作戦を大胆に進めねばなりません。これは待った
なしです。私たちは半年間も無駄にしたのですから。これ以上避難している福島
の人々の苦しみを長引かせてはなりません。   福島を救え!

          (筆者は茨城県・行方市在住・農業者)

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