【コラム】
槿と桜(46)

擬声語、擬態語を覗く

延 恩株


 擬声語(ぎせいご)は「犬がわんわん吠える」「みんながゲラゲラ笑った」というように人間や動物、物が出す音を言語音で表記した単語のことで、擬音語とも言われます。ちなみに韓国では「擬音語」という言い方のみが使われています。ただ日本では自然界の物の音を表記したものを「擬音語」、動物の鳴き声や人間の声を表記したものを「擬声語」と区別する場合もあるようです。
 そして擬態語は「汗をびっしょりかいた」「床がつるつるすべる」など物事の状態や動作を象徴的に言語音で表記した単語です。この擬声語、擬態語は象徴詞、声喩(せいゆ)、オノマトペなどと総称されることもあります。

 擬声語や擬態語は言語表現を豊かにするだけでなく、聞き手や読み手の情感の世界を膨らませる役目もあり、重要な言語表現の一つだと思います。でも私のような外国人には日本語での擬声語や擬態語の表現はかなり難物です。特に擬態語は〝ピッタリ感〟や〝しっくり感〟が得られるまでには日本での生活の長さとも大きく関わっていて、今でも使いこなせているとは言えません。

 こうした表現方法は世界のあらゆる言語に見られる現象で、特に擬声語は耳に聞こえる音を表記した単語ですから、世界のどの言語にもなんとなく似たような表現になっているものもあるようです。犬の鳴き声を例に挙げますと、日本語では「ワンワン」、中国語では「ワーンワーン」(汪汪 wangwang)、英語では「バウワウ」(bow-wow)、フランス語では「ウワウワ」(ouâ-ouâ)、ロシア語では「ガフガフ」(gav-gav)です。

 それでは韓国ではどのように表現されているのかと言いますと、「モンモン」(멍멍)です。「モン」とカタカナで表記してしまいますと、「ワン」とはかなり違うと感じるかもしれません。でも韓国語の発音で実際にこの「멍멍」を聞きますと、日本語の「ワンワン」の音に似ていると感じる日本の方は多いのではないでしょうか。

 韓国語には動物の鳴き声では次のように、日本語と音がまったく同じものもあります。
 「메에」、カタカナで表記すれば「メ―」となります。羊やヤギの鳴き声です。
 では「히힝」はどうでしょう。カタカナ表記すれば「ヒヒーン」となります。おわかりだと思います。馬の鳴き声です。

 少々クイズのようになってしまいますが、次の擬音語はどうでしょう。韓国語と同じというわけにはいきませんが、少し推測、あるいはヤマ勘を強くするとわかるかもしれません。
 一つ目は「까악까악」です。カタカナ表記にしますと「カアッカアッ」です。答えはカラスの鳴き声です。日本では「カーカー」となりますが。
 もう一つ例示しましょう。「꼬끼오」です。カタカナ表記では「コッキオ」です。なんとなく似ていると私は感じているのですが、鶏の鳴き声です。日本では「コケコッコー」が一般的でしょうか。

 一方、擬態語になりますと、実際に耳にする音ではなく、状態や動作を象徴的に表現する言葉になりますから、日本語と韓国語が完全に重なる表現は、私が知る範囲ではないようです。例えば笑いを表現する場合にも擬声語(擬音語)でしたら、日本語とまったく同じものがあります。
 와하하(ワハハ)→ 日本語の「わはっは」。
 호호(ホホ)→ 日本語の「ほほ」。
 히히(ヒヒ)→ 日本語の「ひっひ」。

 もっとも擬態語でも推測やヤマ勘を鋭くするとわかるものもあるかもしれません。例えば「지근지근」です。カタカナ表記にしますと「ジグンジグン」です。痛みが激しいときに使う表現です。日本語でも「ずきんずきんする」などと表現します。似たような例ですが、「지끈지끈」もあります。カタカナ表記では「ジクンジクン」となり、頭痛のときなどに言います。日本語では「チクンチクン」「チクチク」でしょうか。

 ではこれはどうでしょう。
 「재잘재잘」(チェジャルチェジャル)。
 日本語で同じ意味を示す擬態語はもちろんありますが、表記としてはまったく違います。でも「擬態語」としての役目では日本の方にもその動作を象徴的に表していると感じられると私は思うのですが。日本語では「ぺちゃくちゃしゃべる」に重なります。また鳥などが「ピーピー鳴く」「ピーチク鳴く」に通じます。

 このように擬声語、擬態語に関して言えば、韓日両国とも表現が非常に豊かで、その数も多いのですが、韓国語は日本語よりもさらに多く、世界の言語でいちばん多いとされています。
 たとえば日本語で「ごろごろ」と表記しますと、「雷がごろごろ鳴った」(韓国語では「ウルルンウルルン 우르릉우르릉」)「休日は家でごろごろする」(韓国語では「トゥィングルトゥィングル 뒹굴뒹굴」)「おなかがごろごろする」(韓国語では「クルルッククルルック 꾸르룩꾸르륵」)「大きな石がごろごろ落ちてくる」(韓国語では「テグルテグル 데굴데굴」)というように一つの「ごろごろ」でたくさんの意味と用法が出てきます。

 それに対して韓国語はたとえば「笑い」の表現ですが、年齢や性別によって擬音語、擬態語の表現が異なってきます。つまりそれだけ表現の数が多くなるわけです。日本語では年齢、性別に関係なく「クスクス」も「ゲラゲラ」も使いますから、数は少なくて良いわけです。

 ところが韓国語では、赤ちゃんが「ニコニコ笑う」時は通常「パングッパングッ 방긋방긋」と表記して、成人の「ニコニコ」には使いません。成人には「싱글벙글」(シングルボングル)、あるいは「생글생글」(セングルセングル)です。
 また「クスクス」は「낄낄」(キィルキィル)と表記して、声をひそめてそっと笑う様子を表現していますから若い男女の笑い方に使います。「킥킥」(キッキッ)とも表現しますが、こちらは我慢できずに「クスクス」笑うときに使います。
 そして「깔깔」(カァルカァル)と表記されていれば主に女性がほがらかに(楽しそうに)笑うときに使います。
 一方「껄껄」(コォルコォル)という表記で笑いが表現されると、この人物は子どもでも女性でもなく、おじさんたちになります。

 韓国では笑いに対する認識の仕方が日本より多彩であることがわかります。ここにはおそらくその民族の文化的な風土が関わっていると思います。

 今回は多種多彩な擬声語(擬音語)、擬態語を持つ韓日両国のほんの入り口を覗いたに過ぎませんが、言語としての働きが心理的、内面的なイメージと強く結びつく特殊性のため、外国人にはなかなか使いこなせない表現手法だと思います。

 たとえば〝お寺の鐘が「ゴーン」と鳴る〟と表現されても、受け手のイメージは誰もが同様だとは限りません。また、その鐘が昼間、夕方、深夜など鳴った時刻によっても喚起されるイメージは異なってきます。擬声語(擬音語)・擬態語は私には難物だとすでに述べましたが、こうした複雑な要素も絡んでくることが、理解難度を高めているように思います。ましてやそれを使いこなすためにはさらに難度が高くなるのは言うまでもありません。

 また擬声語(擬音語)・擬態語も言葉ですから、栄枯盛衰がついて回ります。
韓日両国で共通して変化してきているのは、携帯電話や電子レンジを始めとする電子音や人工音の氾濫です。それに反比例するように日常生活での自然との繋がり、触れあいの希薄化です。
 50年前、20年前、そして現在、それぞれの時代で使われている(た)擬声語(擬音語)・擬態語を比較してみると興味深い、ひょっとすると恐ろしい変化が起きていることを韓日両国とも突きつけられるかもしれません。

 (大妻女子大学准教授)

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