■【私の視点】

 排除にあう人たちに就労の法制を            柏井 宏之
    ~韓国の社会的企業の成功事例を紹介~
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  社会的に排除にあう人たちに就労の法制化をめざす共同連は、5月21-22日、東
京で韓国の社会的企業チャロ・サランの成功事例を紹介するシンポジウム【『チ
ャロ・サラン』の成功と私たちの挑戦】とフォーラムA【協同方式による社会的
事業と地域再生】,B 【もっと共同連の運動・社会的事業所を知ろう 】を実施し
た。

 「社会的事業所促進法」は、韓国で先行した「社会的企業育成法」の成功と急
速な事業拡大を参考に、日本での法制化をめざす。職と住居を失う「派遣切り」
に始まり「無縁社会」(NHK)や「孤族」(朝日)として衝撃を与えた制度から
もこぼれおちている社会的に排除される就労困難者に、国家の再分配機能と市民
の運動力の協働によって就労の機会を創りだすための制度化による施策実行が必
要として構想されてきた。それが「東日本大震災」によって、いまや誰もが陥る
可能性が感じられる現実が登場し、そうした法制化の必要性はかつてなく高まっ
ている。
 
  今回来日したキム・ドンナムさんは、韓国の水原市にある豆腐製造のチャロ・
サランを成功させた。20代でアルコール中毒になり、施設入所・離婚、30代はホ
ームレスだった人だが自らのプライバシーを公表して今回韓国の「孤族」であっ
た体験を語った。酒をやめて自活事業団で8年間豆腐職人、その経験を生かして
社会的企業育成法の適応をうけ事業経営者になった。従業員は6人。3人は国民基
礎生活保障法の対象者、他はホームレスからシェルター、部屋支援から就業した
若者、知的障害者の人たちである。

 彼/彼女たちが就労の機会をえたのはこの事業が「社会的企業育成法」の「脆
弱階層」という規定によってである。そこには格差社会の進行と両極化に挑んだ
「社会ヨーロッパ」の社会的包摂の政策反映がアジアで先んじて実現されている。
日本にはこの規定がない。

 もう一つは地域社会の市民力・協同力に支えられていることだ。具体的には、
京畿道の中で活動するバルン生協と住民生協が共同購入で国産大豆の豆腐生産を
支え、持続的・安定的に生産ができることが強みである。2007年、建物・機械を
社会的企業育成法に申請・認可されて国民基礎基金から低利の施設・賃貸それぞ
れ6億5千万ウオンと13億ウォンを借り入れた。しかしそれも早期に返済できると
いう。重要なことは「育成法」には時限性のある人件費補助の仕組みがあり、多
くの社会的企業はそれを活用しているが、チャロ・サランはあえて適応を受けず
自律力の強さを示している。

 日本でも「市民的公共」の議論が始まっているが、チャロ・サランが地域力に
よって社会的排除にあった当事者が仕事の現場がつくりだすことができた事例に
まなぶ意味は大きい。日本の中にも新自由主義に覆われた「空白の20年間」にあ
っても地域力、協同力で育っている社会的事業所の存在があちこちにある。韓国
のそれとつき合せながら就労困難者への制度づくりについて展望し議論するよい
機会であった。

 国家の力や企業の力ではなく、まず自らの地域の人間関係資源を活用し「自律
的市民公共圏」を創りだす試みは大震災後の私たちの社会づくり、まちづくりに
役立つだろう。
  内閣府は今年に入って「一人ひとりを包摂する社会」特命チームが湯浅誠さん
を座長代理に発足、昨秋「日韓社会的企業セミナー」で基調報告した福原宏幸大
阪市大教授の「社会的排除/包摂の概念的整理」のプレゼンも行われ、「総合福
祉法」の就労議論とも重なり、市民社会側の様々な視線の交叉する企画として注
目された。

   韓国に学び「社会的事業所促進法」実現を!
      ~社会的に排除される人と共に働く場を~

                 (筆者は共同連フオーラム事務局長)

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