■「押しつけ」でも平和憲法の良さを残せ        太田博夫

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(1)『憲法改正』へのきびしい道

  憲法改正の機運が高まっている。国会の衆参両院でそれぞれの憲法調査会の案がまとまった。

  政党側の自民、民主、公明、共産なども党独自の改正案をまとめつつある。自民党は十一月の結党記念大会で、独自の新憲法草案を公表することを約している。公明党なども憲法改正案をとりまとめることにして次期の衆院選では各党がそれぞれの改正案を公約として戦うことになろう。

 このように改正ムードは先行しているが、その実現のためには高いハードルが横たわっている。

 新しい憲法の承認は「国民投票法」によって行われることになっているが、そのためには「両院の三分の二以上」の賛成が必要である。

 現在、衆院は総定数四八○のうち、自民二四九、公明三四で自公が一緒になっても、衆院の三分の二の三二○には及ばない。参院でも自公だけでは三分の二には達しない。

 公明党は「加憲」といって、憲法改正に当たって環境権やプライバシイー権など新たな各項を付け加えたいとしている。結局、三分の二の壁を突破するには自民党と民主党が連携しない限り不可能である。

 ―民主党内部は憲法改正派が多数を占めているものの自民党の流れに合流する気配がない。そのため新しい憲法承認の「国民投票法」は成立しそうにない。

 現在の「平和憲法」はマッカーサー占領軍司令官によって「日本はポッダム宣言を受諾したことにより、戦後日本のために国家の基本法である憲法の改正が必要である」として、いわゆる「マッカーサー憲法草案」の要点を昭和21年の吉田内閣時代に指示した。

 その案の基調は

     (1)基本的人権を尊重し、国民の自由と福祉を尊重し、国民の自由と福祉を保障し、民主主義政治の基礎の確実を期す。

(2)全世界に率先して戦争を放棄し、自由と平和を希求する世界人類の理想を顕証し、陸海空軍などの戦力の保持と国の交戦権を認めない。

     (3)天皇は日本国の象徴であり、国民の至高の総意に基づくもので、過去の神秘性など払拭される。
  などを根幹としている。

 当時の憲法改正特別委員会委員長の芦田均氏は「この憲法は大胆率直に戦争放棄を宣言し、この理想を全世界に呼びかけるもので、日本再生の唯一の機会である」と委員長報告をして賛成多数で可決し、いわゆる平和憲法が成立した。

(2) 今後の憲法改正の問題点

     (1)改正議論を進めるにあたり、まず憲法の役割論でもめている。憲法とは何なのか。

― 国民のとるべき行動を示し、その規範とするのか。せんじ詰めれば、憲法は国家への命令なのか、国民への指示なのかと、憲法観を問いただすことで対立した。

(2)その他、最大の論争の焦点は9条をめぐる理想と現実の対立があった。

  しかし、9・11テロに代表される世界の激動にせきたてられながら「同盟国が攻撃された時、日本が攻撃されていなくても、日本に対する攻撃と見なして一緒に戦うという“集団的自衛権”をめぐって戦後日本は「存しているが憲法上、行使は許されない」という政府見解を維持してきた。

 これらの足かせをはずすために「9条改正」が必要だという意見は自民党内にも根強くあり、民主党の鳩山由紀夫元代表も同調している。中曽根康弘元首相や安部前幹事長らも「現憲法下でも“集団的自衛権”の行使は可能だとして9条改正には積極的だ。

 この潮流に反対しているのは共産党、社民党でこの対立はいわば伝統的な9条論議の構図だ。これに対し民主党の岡田代表は「9条改正は容認するが集団的自衛権は認められない」という立場をとり、自民党の宮沢喜一元首相は「憲法は柔軟に書かれており、運用によって変化自体に対応することができる」と“解釈改憲”を評価している。

 結局、9条の問題で一致したのは「戦争放棄の理念を堅持し、平和主義を今後も継続すべきだ」という点だった。

  その他、「軍事だけでなくエネルギー、食糧を入れた地域的安全保障機構を先取してゆくべきだ」「極東アジアにおける米国以外の国々との多極的な外交安保体制をつくることが結局、日本の選択肢を広げることになる」などの意見が強く、“改憲か護憲か”の二元論を超え、具体的な政策協力を進めることによって9条をどうするかの解答がでてくる。

 その他、環境権をめぐる新しい人権を憲法に取り入れるべきだ、家庭を保障する責務も盛り込もうという基本的人権をめぐる多岐にわたるテーマについても議論が進んでいる。

 しかし、最大のポイントは9条であり、安易に変えるべきではないと思うのが、われわれ戦争を体験した世代の共通した意識でもある。

                    (元朝日新聞政治部記者)