■ 岡田外相訪ロ(091227)の成果について   望月 喜市

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 岡田外相は09年12月27日に訪ロし、1. 日ロ外相会談、2. 日ロ領土対話、3.
日露政府間委員会共同議長間会合を行った。会談時間の割り振りは、政治対話
と経済対話がそれぞれ2時間半で、領土対話は40分と一番短かった。内容が実質
的だったのは経済対話で、東シベリア・極東地域に展開する石油・ガス開発事業
における日ロ協力、APECウラジオ開催[2012年]への準備協力、極東での産業の近
代化、製造業比率引上げ、環境とエネルギー効率引上げなどが協議された。今後、
こうした東シベリア・極東問題の実質的担当機関として(スリーピング状態に
あった地域経済省に変えて)次官級の「貿易投資分科会」(貿易経済日露政府間
委員会の下部機関)を設置した。

 以下本文: 1.日露外相会談:岡田・ラヴロフ:(午前10時半から午後1時の
約2時間半) 日ロ関係について、岡田外相は (1) 政治と経済の両輪の前進を
図る、(2) 4島の帰属問題を解決して平和条約を結ぶ。 (3) メドヴェージェフ
大統領、プーチン首相、鳩山総理という顔ぶれが揃っている機会を逃さずに前進
を目指す。(4) 領土問題があるが故に、日露間で本当の信頼関係や交流が深ま
らないのだ、と述べた。

 これに対し、ラヴロフ外相は、(1).人為的に解決を遅らせるつもりはない、
(2).国際法及び第2次大戦の結果を踏まえる必要がある。(3).「日露行動計画」
(2003年1月小泉提案)に従って日露関係の発展を図る。(4).メドヴェージェフ大統
領にもプーチン首相にも、双方に受入可能な解決策を模索する政治的意思がある、
(5).今回の協議で一時期双方に見られた感情的なやり取りに終止符が打たれる
ことを期待する旨述べた。この発言の意味は「不法占拠論」と「固有の領土論」
に関する麻生前首相、岡田外相の対ロ発言を指すと思われる。

 両者合意事項:アフガニスタン問題で対話を開始する、日露戦略対話(次官レ
ベル)の早期開催で一致。 2.ナルィシュキン大統領府長官との会談(午後1時
20分~午後2時の40分) (1) ナルィシュキン長官から、「鳩山政権と手を組んで、
鳩山政権の間に日露関係を大きく前進させたい」との鳩山総理へのメッセージ
があった。(2)また、同長官から、今年に入って首脳レベルで集中的に対話が行
われていること自体、日露関係の重要性・戦略的意味を示している、との発言が
あった。 (3) 岡田大臣から、両首脳は自分達の世代で領土問題を解決したいと
いう強い思いを有しており、こうした思いを実現するためにしっかりと努力した
い旨述べると同時に、交渉を加速するためには両首脳のリーダーシップが必要で
ある旨を指摘した。これに対し、ナルィシュキン長官は、すべての関係者が領土
問題の作業を加速しないといけない旨述べた。

3. 岡田外相とフリステンコ産業貿易相との会談(27日午後7時50分より約2時
間半)これは(1)鳩山政権で初めてとなる政府間委員会共同議長同士の会談で
あり、日露首脳間において、アジア太平洋地域におけるパートナーとして、岡田
外相より、政治と経済という「車の両輪」の片輪として、経済協力を前進させた
い旨述べた。(2)フリステンコ相は、金融危機の中で露日経済関係にも構造改
革が必要とし、09年5月のプーチン首相訪日時に示された露日の経済関係の新た
な方向性に従い、 (2)(イ)宇宙、(ロ)原子力、(ハ)エネルギー効率・環
境保護、(ニ)穀物輸出等の貿易、(ホ)運輸、I T、金融等のサービス分野に
おいて、日本との協力が拡大されることへの期待が表明された。(3)その上で、
両長官は、極東・東シベリア地域における協力を含め、経済分野における互恵
的な協力を一層進展させるべく、今後も議長間で頻繁に協議を続けていくことで
一致した。

4. 両長官は、本年5月のプーチン首相訪日のフォローアップという観点から、
同首相が言及した極東・東シベリア地域において日本との協力を期待する各種
プロジェクトを中心に議論を行い、(イ)石油・天然ガス、石炭等のエネルギー、
(ロ)運輸等の分野での協力を具体的に進めていく上で、個別のプロジェクト
は民間ベースで準備されるとしても、双方の政府が民間セクターと共に一体とな
って取り組む重要性につき一致した。 (ハ)フリステンコ長官より、エネルギ
ー輸出の多角化との文脈で、太平洋石油パイプラインに関し、スコボロジノより
以東を鉄道で輸送することにより、本年末から石油の太平洋地域への出荷が開始
されるとの言及があった(091227原油初出荷)。

 さらに、数年後には、アジア太平洋地域の東岸に達するパイプラインの建設が
完了するとの発言があった(タイシェット-コジミノ間パイプライン全長約4800
kmの完成は2014年を予定)。その上で、両長官、プーチン首相が言及した極東
・東シベリア地域において日本側との協力を期待する各種プロジェクトを中心に
協力の可能性を検討するために、貿易経済日露政府間委員会の下で、両議長の直
接の監督の下、新たに次官級の「貿易投資分科会」を立ち上げることで一致した。

 このため、両議長は、ロシア側においてスレプニョフ経済発展省次官を、日本
側において小田部外務審議官を指名した(注:以前、「極東分科会」が「地域間
交流分科会」に発展的に解消されたが、担当の地域発展省が機能しなかったため
、このたび「貿易・投資分科会」が東シベリア・極東関連のプロジェクトを取り
上げることになった )。 (ニ)2012年のウラジオストクAPECに関連した協力に
ついて、両大臣は、会場となるルースキー島への橋梁建設や、会場への電力・熱
供給のための発電施設の導入に日本企業が協力していることを歓迎するとともに、
更なる協力への期待を表明した。 (ホ) 省エネ・環境分野:両氏は、気候変動
との関連で益々重要となっている省エネ・環境分野に関し、省エネ協力に関する
「日ロ共同委員会 (注) が設立され、2010年3月に第1回会合が開催されることを
歓迎した。(注)2009年5月のプーチン首相訪日時に署名された「エネルギー効率
の向上及び再生可能エネルギーの利用の分野における協力に関する日露エネルギ
ー当局間の覚書」に基づき設立。日本側より「資源エネルギー庁省エネルギー・
新エネルギー部政策課長」、ロシア側より「エネルギー省国家エネルギー政策エ
ネルギー効率局長」などの政府関係者及び関連団体が参加する予定。

(ヘ) その他 岡田外相より、ロシアによる(a)自動車輸入関税引き上げなど
の保護主義的措置の改善を求めた(注1)。(b)ロシア政府は、 2010年1月1日か
ら予定されていたロシア産丸太輸出関税引上を,針葉樹丸太の輸出関税は、2010
年末まで現行の25%を維持、2011年1月から80%に引き上げ、広葉樹および価値
ある種の輸出税率については、2010年1月24日から1m2当たり税額を100ユ
ーロとした。また、ロシアにおける企業活動環境の改善について、メドヴェージ
ェフ大統領も年次教書演説において指示 (注2) している各種手続の簡素化を
申し入れた。これに対し、フリステンコ氏は、保護主義的措置は、あくまで暫定
的なものであり、安定的に解除出来る方策を検討していく旨述べた。

(注1)極東での製造業育成方針の1つとして、ロシア企業ソルレス(旧セヴェル
スターリアフト)が、極東で初の自動車組立工場を創設する。まず韓国双竜ブラ
ンド、ついでフィアットの乗用車・キャンピングカーを組み立てる。いすゞ自動
車のトラックをライセンス生産すべく交渉中。2010年には15,000台、2012年には
40、000台の生産を計画している。 ボリショイカーメニ市のズヴェスダ造船所
は、韓国大宇海洋と提携し、ドライ・ドッグを受注した。ロシア政府持株会社US
C(United Shipping Corp.)は、新規に極東太平洋岸に造船所を2か所建設する。
LNG船を国産化するため、シンガポール企業の協力で造船所を建設する。この
ため、日本・韓国から造船技術を導入したいと考えている。

(注2) 2009年のメドヴェージェフ大統領の年次教書演説における関連部分概要
「ロシアにとり必要な外国人専門家の労働許可手続の簡素化が必要。彼らには査
証を迅速かつ長期に発給すべき。」「ロシア経済全体をイノベーション経済に移
行させるための法制と国家運営の変更が必要。ロシアでの投資に係る手続は他国
と同等以上に快適であるべき。 」
なお以上の記事は、「NPO法人ロシア極東研」のHP*でみることができる。

http://www.ne.jp/asahi/kyokutouken/sono2/

       (NPO法人ロシア極東研究所理事長・北海道大学名誉教授)
        望月喜市(2010年1月24日)

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