【北から南から】中国・吉林便り(18)

婚姻は慶事とは限らない

今村 隆一


 吉林に住んでいて最近はたと気付いたことの一つがスマホ普及の実態です。回りの誰もが持っているばかりでなく、それが生活スタイルの変化となっていることです。大学生の中にスマホだけ持って教室に入る者が増えてきているのです。教科書はスマホの中に。だから彼等にはペンとノートは必要ありません。授業中はスマホとにらめっこ。辞書もスマホの中にあるのですから、調べるのもスマホでします。もちろん未だこのような学生は多くはありませんが確実に増えていて、私にはスマホ活用の多様化とスマホ依存に見えます。

 また街では、快逓(クワイディ)と呼ぶ、いわゆる宅急便が急速に普及していて、宅急便の店舗が増え、バイクを駆使する運び屋が増えていることです。これもスマホの普及に伴っての通信販売が多くの分野に広がっているからです。衣料品も日用雑貨も食品も宅急便で瞬時に配達されます。大学の学生も職員も昼食の注文と受け取りが活発に行われており、支払いもスマホ決済の急激な普及が進んでいます。従ってスマホを悪用した詐欺被害もTV報道されることが少なくありません。

 さて6月7・8日は中国全土で計940万人が受験した「高考(ガオカオ)」と呼ばれている大学統一入学試験が行われました。夜のTVニュースでは、警察官が受験票を忘れた受験生や試験会場を間違えた受験生を送迎し、交通警察のサービス振りを紹介しました。私が7日の午前10時頃に試験会場の一つであった吉林市疏文中学(この学校は金日成朝鮮労働党主席が青年時代留学したことで知られている市内名們中高一貫学校)の前をタクシーで通ったところ、多くの人だかりと車で混雑していました。受験生の父兄が外で待っていたのです。

 大学受験の行われるこの時期は卒業も重なります。北華大学校内の至る所で卒業生の記念写真撮影風景が見られるこの頃です。卒業生が大学から無料で貸与される黒いマントを着て、角帽を被って写真を取り合っています。

 6月6日と7日のTVニュースでは江西省、広西自治区の豪雨災害、その前6月1 日はスリランカの洪水災害を伝えると同時に台湾の豪雨災害、そしてその翌日、中国大陸では福建省の省都福州市と南150kmに位置する泉川市の豪雨。

 全ての豪雨を地球温暖化と関連付けるべきではないのかも知れませんが、アメリカ大統領は地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱をこの2日に表明しました。

 2015年時点で世界の温室効果ガス排出量の20.1%を占める中国(米は17.9%で第2位)は2日、EUとの首脳会談でパリ協定の履行に向けて先導的な役割を果たすと強調し、米中両国の姿勢の違いが鮮明になりました。今必要なことは地球温暖化に向き合おうとする積極姿勢だと私は思うので「中国は格好いいが、米国は格好悪い」に尽きます。
 しかし私は吉林で生活していて、中国の環境問題は「笛吹けど踊らず」、つまり高い志を表明しているのだが、現実はとても厳しいものがあると感じています。地球環境の仕組み、持続可能な循環型社会といった科学的知識の、教育現場と農業分野及び産業分野での実践が浸透するには、ある程度の期間を要するだろうと思うからです。
 一方受動喫煙対策は、日中どちらも先を争うほど見える努力をしてもらいたいものです。

 さて吉林に定住するようになって、私がこれまでに参加した結婚披露宴は囲碁クラブ(2010年7月加入)会員の子女の宴会ばかりでした。こちらの結婚披露宴では集団での食事同様、基準は一卓10人が定員で円卓の席に着きます。しかし10人プラスマイナス2から3人となることもあります。中国料理では押しなべて同様です。料理は大体12種類以上のおかずが大皿に盛って並べられ、皆で箸を使っての食事です。
 囲碁関係の披露宴では、始まる前に会員と共に適当なテーブルに陣取り、10分ほどの宴会セレモニーを経て中国料理の宴会が始まるのですが、開始前または始まってからすぐ挨拶に来る会員の親にお祝い金(普通は200元:約3,500円、特に親しい場合は500元)を紅包(ホンバオ)という紅色ののし袋に入れて渡します。そして短い時は5分、長くても15分ほど食事をして、さっさと帰ってしまっていました。
 これまで経験した披露宴参列者数は少ない時で150名程、多い時では1,000名ほどでした。料理は肉野菜などの他、必ず「魚」がテーブルに乗ります。これには「いつも余裕がありますように」との願いがこもっているのです。漢語の「余」と「魚」の発音が「ユゥ」と同音であることに願をかけた「年年有余」という四字熟語からの風習だそうです。

 5月13日に参加した結婚披露宴は会場が吉林の東、吉林省延辺朝鮮族自治州延吉(イェンジー)市でした。延吉市には2006年に初めて行って、その後これまで吉林からは2度行っています。これまでは列車またはバスで5時間以上を要していましたが、今回は往復「吉図琿(吉林・図們・琿春)高速鉄道」を使っての訪問でした。吉林駅から延吉西駅まで約300kmが1時間半で結ばれたのですから、格段に便利になったものです。久しぶりの延吉市は延吉西駅から披露宴会場の間をタクシーで往復(片道約20分)しました。

 この結婚披露宴に参加したのは花嫁になった金Fという名の女性と2006年からの知り合いだからです。金Fが地元の延辺大学2年生だった時、彼女の家に私が一泊のホームステイをさせて頂いた縁が始まりです。ホームステイではお母さんの手作り料理の御馳走をいただき、お父さんと焼酎を飲み交わしたのでした。その時の私は日本に居て、定年退職1年前の夏休み、2週間を利用し、初めて自力で中国に渡り、観光旅行ではなく、延辺大学に漢語の短期留学をしたのでした。そこが中国のソウルと例えられる中国の少数民族である朝鮮族の都市として有名な延吉だったのでした。

 式宴は、新郎新婦による簡単なセレモニーと出席者の歌や踊りを見て、食事と合わせ約1時間半で終わりました。歌は若者だけでしたのでビートの利いたリズム感のある今風の歌で力強く迫力を感じました。踊りは花嫁や親族などが参加し、新郎新婦の結婚祝福の喜びにあふれていました。金Fの両親は娘の結婚披露宴出席のため出稼ぎ先の韓国から帰国し、6歳上の兄も妻と二人の息子を伴って江蘇省の無錫から式宴に参加したのでした。新郎も親族も皆、私が吉林市にいて何故参加したかを知っており、私を親族の席に招き、親族のように接してくださいました。私はチョゴリ(朝鮮の民族服)を着た女性達に囲まれ、皆と二人の結婚を喜び、楽しい時間を過ごさせていただいたのでした。

 金Fは、初めて会った時はまだ20歳の娘だったのが30歳になり、花嫁姿(式宴では白いウェディングドレス)を見せてくれた時は私は心からの喜びを覚えたものです。彼女は延辺大学地理学部の学生であった時、同大日本語学部の学生と同様の日本語力(同大の先生談)があったのでした。両親は日本語を知りません。独学で身に着けたのでした。そんな子ですから日本への憧れの大変強い子で、大学卒業直前、国費による日本留学に挑み失敗、失意のまま、先生の就職への勧めを拒否し卒業。その後、日本料理を学ぼうとし、これも挫折、更に看護師学校に入り卒業するも就職せず、その後兄がいる無錫に行き1年程働いたが退職。その後延辺大学の教師の紹介で吉林市の東にある敦化市の中学で臨時教師を経て、現在は延吉市の南隣にある龍井(ロンジン)市の高校の先生をしています。彼女が大学卒業当時、私は教員になるよう勧めたのでしたが、8年を経て教師に落ち着いたのでした。現在高校教師2年目で結婚の運びとなったわけで、教え子の生徒たちも結婚式宴に参加していました。結婚した彼女には健康で安定した生活が続くよう祈っています。

 私は人が結婚をするか否かは当人の選択の問題で、何度結婚しようと本人の問題でしかないと思っています。
 結婚については地球の至る所でされる生き物の行為でしかなく、特に人にとっては極めて個人的問題で、社会的ニュースには馴染まない、と私は思っています。
 では誰の婚姻にも無関心なのかと問われれば、結婚は吉兆、吉翔、慶事と評されるように目出度いことで、近親者や友人の結婚は共に喜びたいと思いますが、婚姻は制度化しなくても良いもので、現実には婚姻が制度として社会化・管理化されているものと捉えています。そのうえ結婚年齢は若者の専売特許とは言えないうえ、結婚年齢差も固定的にとらえる必要はなく、結婚適齢期などというのは言葉でしかないとも思っています。

 5月7日フランス大統領に当選したマクロン氏は年齢が妻と24歳の開きがあることが伝えられました。アメリカ大統領のトランプ氏も現在の妻と24歳の年齢差があります。それは彼等のことであって社会性も無く、社会的関心事にはなりにくいと私は思っています。

 中国の楊振寧氏は1922年生まれで現在95才、中国科学院院士と清華大学教授の肩書を持ち、1957年にノーベル物理学賞を受賞した粒子物理学者です。彼が5月14日に北京師範大学の物理文化節の開幕行事に参加したことが報じられました。 彼は1950年に最初の結婚をし、2003年に先妻に先立たれましたが、2004年に年齢差54才で28歳の現妻と結婚しました。5月12日に彼は妻に自分は百歳まで生きると伝えたそうです。

 他人の結婚にケチを付けたくなったのは、5月17日のNHKラジオ(インターネットで聞くことができる)のトップニュース「秋篠宮のM子さんが婚約して云々」でした。このニュースには私の頭の中で疑問と怒りと情けなさが交差してしまいました。「何だコリャ? 日本の人にとって、これが大切なことなの? NHKって?」と。そう思った私が変なのか?
 民主主義制度に象徴天皇と皇族は最も相応しくないと考えている私には、なおのこと皇室関係者の婚姻については慶事ではなく、関心がない以上に不快に感じてしまったのでした。
 「たくさんある税金の無駄使い」の一つに列挙されるべき制度は象徴天皇と皇室制度で、列挙されるべき新進の「税金の無駄使い」はもちろん「森友学園と加計学園(含安倍晋三・明恵夫妻)の問題」でありましょう。

 (中国吉林市・北華大学漢語留学生・日本語教師)

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