【沖縄の地鳴り】

参議院選島尻沖縄担当相の当選が安倍政権最大の課題

仲井 富


◆一カ月の休戦期間は反翁長勢力拡大と参院選対策

 安倍政権は10月7日の第三次改造で、沖縄・北方領土担当相に島尻安以子を任命した。「辺野古基地県外移設」の公約を掲げて09年の参院選当選を果した島尻議員は、012年自民党政権復帰とともに真っ先に「辺野古移設賛成」に転じた議員である。沖縄では県内2紙から「議員辞職すべき」と社説で批判された、札付きの変節議員である。
 その島尻議員を沖縄担当相に据えて、来年6月の参院選沖縄地方区を闘う姿勢を明確にした。これこそ安倍政権が敗北続きの「辺野古移設派」の捲土重来を期したものである。翁長支持勢力「オール沖縄」にとっては絶対負けられぬ参院選挙となった。
 さらにその前段には来年2月の宜野湾市長選挙がある。現職の佐喜真淳市長は保守系市長の主要メンバーであり、まずこれの勝利を勝ち取り、6月の県議会選挙で、翁長与党過半数を切りくずし、余勢をかつて7月の参院選挙勝利を目指す戦略だ。6月の県議選挙で翁長与党のオール沖縄勢力が過半数の大勢を維持できるかが、7月参院選の帰趨に大きく影響することも考えられる。

 自民党政権の菅官房長官や山本一太前沖縄担当相が沖縄現地でやったことは、翁長県政反対勢力へのばらまきである。そのひとつが、辺野古への地域助成金の地元誘致派に対する直接交付、そしてもう一つは、沖縄の那覇、名護両市をのぞく9市長による9市長懇談会の発足だった。更に石垣市長など自衛隊受け入れ自治体などに「中国の尖閣、東シナ海進出に備え必要、翁長知事は地中国に甘すぎる」という批判をさせる。そういう動きを通じて辺野古受け入れの世論を拡大していくという狙いが明白に現れた。沖縄現地における辺野古誘致勢力の養成と拡大を策した一カ月間だったといえる。

◆08年以降における全県選挙は辺野古移設反対派の9連勝

 翁長知事とオール沖縄批判の延長線上にある最大の政治戦略は、来年6月に行われる参院選地方区で現職島尻安以子を沖縄・北方領土担当相に任命し、三選を何が何でも勝ち取るということに尽きる。沖縄県民にとっては「札付き」の裏切りものの政治家として、知らぬものはない島尻安以子に大臣の箔をつけ、沖縄の政治状況の逆転を狙っている。
 世間では、昨年11月の翁長知事の仲井真前知事に10万票の大差をつけた勝利と12月の4小選挙区候補が辺野古反対で全員当選したことが上がる。だがそれだけではない。08年年以降、沖縄の民意は民主や自民の背信行為の連続にもかかわらず、辺野古問題に関しては一貫して反対派が勝利してきた実績がある。以下の一覧に示すように、08年県議選以降、9回の全県的選挙で、辺野古反対派が勝利しているという事実を見逃してはならない。その契機をつくったのは鳩山民主党政権の県外国外移設を掲げた09年9月総選挙の勝利である。民主党が政権獲得後迷走を始めた時期、沖縄県議会は010年2月24日、保革勢力が一致して辺野古国外県外を決議した。

08年7月、沖縄県議選、後期高齢者保険の導入などに反発、野党過半数当選
09年9月、衆議院選挙で民主など野党全員当選、鳩山首相県外国外公約
010年7月、自民島尻安以子、地方区で辺野古県外国外を訴え再選
同 11月、仲井真知事、辺野古県外国外移転を掲げ再選
012年7月、沖縄県議選、県議選で辺野古反対の野党過半数当選
012年12月、衆議院総選挙で辺野古反対を掲げ自民4選挙区で全員当選
013年7月、糸数慶子、参院選地方区で辺野古反対を掲げ三選
014年11月、翁長知事、辺野古反対を掲げ仲井真前知事に圧勝
同 12月、衆議院総選挙で辺野古反対の野党候補4選挙区で全員当選

◆島尻三選の戦略、沖縄の振興を考える保守系市長の会の発足

 自公政権は、大阪維新との結託によって、来年6月の31の一名区における与党勢力の勝利は間違いないと判断している。数名の取りこぼしがあっても、体制に影響ない。唯一自公政権にとって目の上のコブは沖縄選挙区の帰趨なのだ。それほどに、過去8年間、9回の全県選挙で辺野古移設計画は、県民に否定されている。したがって、何よりも重要な意味と意義をもつ沖縄地方区における島尻三選こそが、安倍政権にとっての参院選最大の戦略目標となったのである。

 辺野古休戦の一カ月間に官邸がやったことは、第一に反翁長勢力を結集した9市長懇談会である。宮古島市の下地敏彦市長は29日、沖縄県内11市のうち那覇市と名護市を除く9市の市長が「沖縄の振興を考える保守系市長の会」(チーム沖縄)を結成し、自身が会長に就いたと明らかにした。会に入っていないのは、名護市辺野古の新基地建設に反対している稲嶺進名護市長、城間幹子那覇市長の2人。下地市長は両市長を除いた理由を「保守系市長ではないと判断した」と説明。新基地建設に反対していることが理由ではないとしている。下地市長によると、「離島にいると振興予算がどうなるか、とても不安だ。市町村はしっかり予算がないと仕事ができない。みんなに呼び掛けたら『そうだな』となった」と立ち上げの経緯を話した。保守系の町村長に、同様の会の発足を呼び掛けることも検討している。

 だが保守系首長にも弱みがある。誰一人として「辺野古新基地移設賛成」とは言わない。それは昨年11月の知事選挙で、9市長が推した仲井真前知事の得票は合計で約20万、対する翁長知事の得票は約27万と、全県得票36万票の圧倒的部分が9市からだ。9市のうち、仲井真前知事が勝ったのは400票差をつけた石垣市と2000票差の宮古島市と離島2市だけだった。したがって9市のリーダー役は宮古島市長であり、公然と翁長批判を繰り返しているのは石垣市長ただ一人だ。県民世論もきびしい。今年6月の琉球新報社と沖縄テレビ放送社の共同世論調査で「辺野古県内移設反対」が83%、「辺野古承認取り消し賛成」が77%に上っている。この数字も県民の意思として無視できない。

◆沖縄基地負担軽減と振興策 普天間跡地利用の餌

 島尻安以子沖縄・北方領土担当相は10月11日、地元経済界や自治体関係者と会談し、沖縄振興予算を財源に建設した沖縄科学技術大学院大学(恩納村)や、米軍から返還され国際医療拠点などとして跡地利用が期待されている西普天間住宅地区(宜野湾市)も訪問。視察後、記者団に、来年度予算折衝について「(概算要求額の約3400億円を)満額取りにいく」と語った。毎日新聞の記事は要旨以下のように伝えている。(毎日新聞 15・10・13)
 ——政府が島尻氏を前面に出して振興策をアピールする背景には、移設容認派に訴えかけることで、沖縄世論を揺さぶり「容認」「反対」に分断する意図が透けてみえる。菅氏は13日の会見で「(移設先周辺の)辺野古の久辺(くべ)3地区の住民は、条件付きであるが容認の方向も事実だと思う」と述べ、沖縄が移設反対一色というわけではないと強調した。来年夏の参院選で改選を迎える島尻氏を閣僚に起用したのは、勝利すれば「沖縄の民意を得た」と訴えることができるが、逆に現職の沖縄担当相が敗れれば「『民意』が最も直接的な形で示されたことになり、政権に大きな痛手となる——

◆自民島尻とオール沖伊波候補の一騎打ち 無党派と公明の帰趨

 オール沖縄側は、9月下旬、米軍普天間飛行場がある沖縄県宜野湾市の市長選(来年1月24日投開票)と来夏の参院選沖縄選挙区(改選数1)について、9月23日、擁立する候補をそれぞれ決めた。宜野湾市長選には元県土木建築部統括監の志村恵一郎氏(63)すでに立候補を表明している現職の佐喜真(さきま)淳市長(51)との一騎打ちになる。参院選には、元宜野湾市長の伊波洋一氏(63)の擁立を決めた。前々回2010年の知事選挙で「辺野古移設反対」を掲げた仲井真に敗れた。しかし元宜野湾市長としての実績もあり、オール沖縄最強の候補者であることは間違いない。

 過去二回の参院地方区の得票を見ると、13年の参院選では、糸風慶子が51%の得票で自民の安里候補を振り切って、全国で唯一沖縄野党候補勝利の地域となった。安里はすでに、島尻安以子が安倍政権の政務官に就任して「辺野古移設賛成」に転じたことが知れ渡っていたせいもあって、辺野古問題に触れることなく、もっぱらお得意の地域振興策で戦ったが3万票差で敗れた。
 09年の選挙は、島尻が辺野古移設反対の旗を掲げた。同時に民主党の混迷によって統一候補の選考が遅れ、社民と共産がそれぞれ独自候補で戦うという分裂選挙となった。島尻の得票率は47.6%、社民、共産の両候補の得票率合計は50.4%。みすみす島尻の当選を許した。

 沖縄の政党支持率は本土とは異なる。自民支持率は本土の半分以下、共産、民主、社民、維新、社大、生活の野党合計で20%となり自公の18.2%を上回る。与野党の支持率合計より、無党派の56%の存在が圧倒的に多い。

自民 15.65%、共産 6.0% 民主 5.4% 社民 4.6% 維新 3.0%、公明 2.6%、社大 1.4%、生活 1.0%、その他 1.2%、支持政党なし 56.6%(琉球新聞 15・6・2)。

 沖縄の全県選挙は、この圧倒的な無党派層と公明党沖縄の動きにかかっている。昨年11月の知事選挙の出口調査で無党派層は、翁長に61.6%、仲井真24.75%と圧倒した。また公明支持層も60.48%が翁長へ、仲井真は34.73%だった。(沖縄タイムス出口調査 2014・11・17)
 公明党沖縄県本部は一貫して辺野古移設に反対を表明してきた。今年6月には独自の「辺野古移設反対街頭演説会」を那覇市中心部で開催し、唯一「平和の党」の姿勢を堅持している。013年7月の参院選の3万票差、014年12月の知事選挙の10万票差、そして直近の014年12月の衆院選での総計6万票差をどう守るか覆すかという勝負だ。来年7月参院選の天王山ともいうべき沖縄の政治決戦はすでに始まっているのだ。

 (筆者は公害問題研究会代表)


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