【自由へのひろば】

北海道5区補選で勝った自民が改憲論棚上げの不思議

仲井 富


 4月23日投開票の京都と北海道の補欠選挙と相前後して自公政権内で改憲、とりわけ9条改憲論が影を潜めた。ということは憲法改正論では勝てそうにないという懸念が増大してきたからだ。この二つの選挙に現れてきた傾向に自民党が慌てだした。それを如実に示したのが、補選開票を伝える新聞社の見出しと分析だ。もっとも厳しい見方を示したのは意外にも安倍政権の広報紙をもって任ずる産経新聞だ。見出しを見て驚いた。

◆無党派層離反に産経・読売の厳しい見方 自民党の意図を反映

 先ず一面で「北海道5区自民勝利 京都3区は民進」までは分かる。しかし同じ一面の見出しは「首相、無党派つかめず危機感」となっている。2面では「無党派票73%野党へ」と言う大見出しで、記事の内容は「北海道5区では無党派の73%、京都3区では72.6%が野党候補に投票した」と書いている。また読売新聞も4面の見出しで「無党派の自民支持低調 参院選戦略見直し」を付けた。
 地元紙の北海道新聞は二面で「和田陣営逃げ切りる 大物投入終盤まで 政権の油断逆風に」という見出しだ。同紙は「まさかの苦戦だった。和田氏擁立は昨年7月で池田氏の5カ月も前。大きく引き離す公算だったが、告示前後になって大接戦が伝えられた・・・最大の理由は安倍政権の油断とおごり(自民党領袖)安保法案の強行、金と不倫問題、」。いずれも楽勝のはずの「弔い合戦」で野党無所属統一候補に追い上げられ、第一党の無党派から不信任を突き付けられた危機感の現れだ。

 013年の参院選挙結果から見ると天地の差と言える結果だ。013年の北海道新聞は以下のように述べている。「これまで無党派層に弱いとされてきた自民が18%、大地18%、共産16%、みんな14%と続く。民主党はさらに低い12%にとどまり、無党派層の民主党離れは止まっていない」(北海道新聞013.7.22)。無党派層を自民、大地で36%獲得していた。それが今回の補欠選挙では、無党派層の73%が無所属統一候補の池田氏に流れた。政治の流れが変わったということだ。安倍政権の強引な国会運営と改憲路線、そして経済政策も批判されたことになる。勝利したとはいえ、自民党の町村後継の和田氏が勝ったのは千歳市と恵庭市の自衛隊票だけだった。自民党からすれば「敗北に等しい勝利」なのだ。
 このような予想外の苦戦に産経は、自民党の広報紙として危機感を露わにした。同じ2面の「主張」では「衆院補選 巨大与党に緩みはないか」と題して、「京都と北海道で一議席づつ分け合ったが、その内実はどうか。京都は自民党前職が不祥事で不戦敗け。北海道は死去した議員の弔い合戦だ。勝って当たり前の戦で有りながら、党幹部が相次いで現地入りするなど総力戦を強いられた。国会での一強他弱とは異なったことを重く受け止めよ。党内に緩みやおごりがないか、責任政党として『政治とカネ』の問題に誠実に向き合うことである」

 また自民党北海道連会長の伊達忠一参院幹事長は4月26日の記者会見で、「どうしてどうして、すごい団結力だ」と述べ、夏の参院選に向け警戒を強めた。伊達氏は選挙戦について「民・共というより共・民。共産党がしっかりやっていた。共産党が集めた集会のほうが圧倒的に人が多かった。意気込みが違う」と述べた。さらに、告示前に連合北海道の幹部が「共産党とやれるわけない」と話していたエピソードを紹介し、「だまされたらダメだ。日がたつにつれてカチカチに団結して固まっていった」と振り返った。その上で、参院選について「教訓として、われわれもしっかりと組織固めをしないと大変なことになる。自民・公明両党でしっかりやっていく。無党派層対策も今後の課題だ」と述べている。(図1参照)

(図1)「選挙結果 自治体別得票数」(立憲フォーラム提供)
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◆新党大地の取り込みで町村後継和田圧勝の体制づくり

 上記の5区補選の得票結果で見落としてならないのは、鈴木宗男氏の新党大地が今回自民党候補を全面的に支援したということだ。014年の総選挙で民主党は鈴木の後継の鈴木貴子を公認し、大地との選挙協力で失地回復を図った。これは成功した。012年の総選挙では選挙区当選ゼロという惨敗だったが、014年総選挙では小選挙区で横路氏ら3名が当選、大地の鈴木貴子氏も僅差落選だったが比例区で当選した。民主党道連は大地との共闘で生き返ったのだ。

 さすがに自民党である。自民党は衆参で過半数を占めながら、一人区の県知事選(滋賀・沖縄・佐賀・埼玉)など対決型の選挙では敗北し続けている。その弱さを自覚しているがゆえに北海道5区では万全を期した対策を取った。その最大の事前工作が鈴木宗男氏の「新党大地」の取り込みだった。菅官房長官が安倍と直々に会談させて、ロシアとの国交回復の知恵を借りるということで取り込んだ。その後のプーチン・安倍会談がその現れだ。

 もう一つ密約があった。北海道の事情に詳しい友人Kは池田の選挙応援に行って重大な話をマスコミ関係者から聞いた。自民党は鈴木氏との談合で「次の総選挙では鈴木貴子氏を北海道7区(釧路・根室管内)で公認候補とするという密約まで交わされたという。自民党のお家芸とはいえ、そこまで約束されれば鈴木宗男氏も頷かざるを得ない。これが奏功したことで完全に楽勝の態勢をつくったのである。もともと「弔い合戦」は後継者圧勝のケースが多い。自公の基礎票に加えて大地の票を取り込めば町村後継の和田氏は寝ていても当選できるはずだった。
 さらに札幌オリンピック誘致を控えて現市長の秋元克弘氏は中立を宣言した。秋元市長は、もともとは前職上田前市長時代の副市長であった。上田氏が池田氏の選挙を支援する市民会議の代表として先頭に立っているにもかかわらず、中立を決め込んだ。そこには森元首相や橋本聖子氏ら冬季オリンピック関係者との暗黙の合意があって動かなかったという。

 ちなみに新党大地が唯一単独で戦った013年参院選における北海道5区の得票は以下の表のとおりである(図2)。両者合計で約13万4千票、対する民共は合計で約8万6千票、その差は4万6千票だ。北海道全体の比例区票で見ても、013年参院選では自民、公明、大地合計で137万票、民主、共産、社民合計で71万票だ。どう見ても町村後継の和田楽勝のケースだった。しかし大接戦の末辛勝だったが、千歳、恵庭を除く都市部では野党統一候補の池田氏が勝った。しかし見落とせないのは都市部では和田氏は敗けたが、014年の総選挙よりも得票は伸びた。池田は勝ってはいるが前回総選挙よりも票を減らしている。ここにも新党大地効果があった。もし大地が014年のように民主党との連携を保っていたならば自民後継候補敗北となっていただろう。

(図2)「北海道5区の得票調べ2013年衆院選」
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◆改憲反対の世論多数派へ 参院選争点化を自公幹部ともに否定

 安倍首相の強気とは裏腹に、このところ自公与党幹部の改憲とりわけ9条改憲論に消極的な姿勢が顕著になった。産経新聞なども後ろ向きになって以下のような記事が続いている。

【参院選】自民・溝手参院会長 憲法改正の争点化に否定的 自民党の溝手顕正参院議員会長は4月20日のNHK番組で、憲法改正を夏の参院選の争点に掲げることに否定的な考えを示した。「そういう(争点にする)動きが今、現実にあると思っていない」と述べた。公明党の魚住裕一郎参院会長も「争点という意味では現実的ではない」と牽制した。改憲議論の進め方について、溝手氏は「早く片が付くものは付けたほうがいい。大切な問題が9条だが、そう簡単にいく話ではない」と指摘。野党の理解が得られる条項から着手すべきだとの考えを述べた。自民・下村氏、憲法改正は「選挙のメーンイシューには適切でない」としている。(産経ニュース)

 公明党の山口那津男代表は5月10日の記者会見で、民進党の岡田克也代表が夏の参院選で憲法改正を争点にする意向を示していることに反発した。「国民に選択肢を示すような議論にまで成熟しているとは到底思えない中で、憲法改正が争点になるとはどういう意味なのか。理解しかねる」と述べた。一方で、民進党の枝野幸男幹事長が争点化に慎重な姿勢であることを踏まえ、「有権者にとっての選択肢が何なのかということは、民進党自身も示せていないのではないか」と皮肉を述べた。さらに「争点というからには、きちんと有権者に説明する必要がある。公明党として、憲法改正が争点になるとは毛頭考えていない」と重ねて強調した(産経ニュース)。この背景にはマスコミの世論調査に共通している、改憲反対とくに9条改憲反対が多数となっている事実がある。

 9条改憲の旗振りをしてきた産経新聞の世論調査でさえ、昨年来9条改憲反対が多数派となってきた。だから最近の産経は憲法改正の是非は問うが、9条改憲の是非を問わなくなった。同様の傾向は最近の世論調査でも明らかで、改憲反対、9条改憲反対が多数派である。安倍政権の強引な集団的自衛権、安保関連法の強行がいままで政治や憲法に関心のなかった若者や女性の予想外の反発を呼んだことがわかる。今なお続く国会デモがその証左だ。安倍政権のお陰で護憲意識が高まり、保守支持層の反発を呼び、無党派層70%が安倍政権にノーと言い始めた。ちなみに最近の世論調査では以下のように改憲反対、9条改憲反対が多数派である。
  NHK 憲法改正  必要ない:31% 必要あり:27%
  朝 日 憲法変える 必要なし:55% 必要あり:37%
  共 同 安倍政権の下での憲法改正 反対:56.5% 賛成:33.4%
  毎 日 憲法九条改正すべきか そう思わない:52% そう思う:27%

 問題は野党第一党の民進党の政治姿勢にある。相変わらず地方選挙では時代遅れの古色蒼然たる「自公民社民連合」という既得権益連合の選挙を繰り返している。もっとも重要な課題である原発ゼロの看板も下ろした。熊本大地震の影響を受ける川内原発一時停止も原発再稼働反対も言えない。辺野古新基地反対も公然とは言えない。公認でないと戦えないというが、肝心の民進党支持率は下がり気味だ。そういう民進党にたいする怒りが爆発したのが小林節氏の「国民怒りの声」だ。これをまともに受け止めなければ三分の一以上獲得も改憲阻止も危い。小林節氏の『日本の怒り』記者会見で明らかにした政策は以下の通りだ。旗幟鮮明でわかりやすい。保守リベラルの小林節氏の方が民進党よりも、今日の状況下における向かうべき方向性を明示している。しかも小林氏は「統一会派としてのまとまりができれば自分は下がる」と明言している。改憲反対の保守層や無党派層への支持をひろげる役割は大であろう。

<「国民怒りの声」 基本政策(16年5月 記者会見発表)>
 1、言論の自由の回復(メディア、大学への不介入)
 2、消費税再増税の延期と行財政改革
 3、辺野古新基地建設の中止と対米再交渉
 4、TPP不承認と再交渉
 5、原発の廃止と新エネルギーへの転換
 6、戦争法の廃止と関連予算の福祉・教育への転換/改悪労働法制の改正等により共生社会の実現
 7、憲法改悪の阻止

 (筆者はオルタ編集委員)


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