■刊行物紹介

『ソーシャル・アジアへの構想力』 

  編者:初岡昌一郎 日本評論社(214頁) 定価2500円+税
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本書は、東アジアにおける社会労働問題の研究と討論を目的とするソーシャル・ アジア・フォーラムの研究の成果をまとめたものであり、日本・韓国・中国・ 台湾の研究者が個々の立場から東アジアの地域統合をすすめるために、何が必 要かおよび各国の労働問題と労働組合の現状について述べている。

 本書を読んで感じたのは、東アジア地域がようやく社会労働政策の充実を展望 できるようになったほど、社会が成熟してきたということである。これまで、 日本を含めて「貧しさからの脱却」が第一目的とされ、経済発展の代償とし て、政権の腐敗や開発独裁などが半ば黙認され、労働政策もなおざりにされて きた。しかし、貧しさからの脱却を一応達成した今、東アジア社会は公正な政 治と充実した労働政策を求めて歩みだしたということなのだろう。

 日本の労働組合は、今日では大規模なリストラに対して手をこまねいていると 批判をうけ、その存在意義を問題視されることが多いが、本書後半部の、よう やく胎動しはじめた韓国・台湾の労働組合運動の分析を読むと、60年の運動の 蓄積を持つ日本の労働組合にも、東アジアの労働組合運動への助言と指導とい う分野においてはまだまだ出来ることはいっぱいあると評者は思った。(I.O)