■【北から南から】

『何とも中国的な事件発生!』         佐藤 美和子 

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 私の住むマンション内で、この数ヶ月のうちに恐ろしい事件がいくつか立て続
けに発生しました。どれも、なんとも中国的だなぁと思わせる事件です。

 一つ目はなんと、強盗殺人事件です。
  ここ中国深センには、香港人がたくさん住んでいます。広東省内で働くために
国境を越えて深センに引っ越してきた人、またはマンションも物価も香港に比べ
てぐっと安い深センで暮らし、仕事や学校は毎日イミグレーションを超えて香港
へ通う二重生活をする人々です。

 深セン在住香港人の中でも一番多いのが、中国香港を行き来する運輸業者です
。香港人の運輸業者の中には、未婚・既婚を問わず(!)深センのマンションで
若い大陸妻と暮らす人が大勢います。ウチのマンション内でも、40~50代の男性
と20~30代女性のまるで親子のような凸凹カップルをよく見かけるのですが、彼
らの多くは香港人と大陸妻カップルなのだそうです。
  事件は、そんな大陸妻を持つ香港人の家で起こりました。深夜、ベランダから
侵入してきた強盗に、驚いて声を上げてしまった住み込み家政婦さんがナイフで
刺し殺され、大陸妻も重傷を負ってしまいました。

 事件は数週間で解決し、犯人は大陸妻の顔見知りだった事が判明しました。田
舎出身の大陸妻は、家事や育児を故郷から呼び寄せた自分の親類女性に任せ、自
身はしょっちゅうマンションにあるマージャンルームで遊んでいました。そこで
マージャン仲間に金回りのよい香港人夫を得たことや裕福な生活を自慢していた
ため、犯人に目をつけられてしまったのです。

 少し前までは中国では夫婦共働きが当たり前だったのですが、今では裕福な家
庭では専業主婦をする女性が増えています(と言っても家事育児は家政婦に任せ
切りな人が多いので、主婦と言えるのかどうかはナゾですが)。家政婦も、見知
らぬ人を雇うと業務怠慢や盗難など何かとトラブルが多いので、自分の親戚を田
舎から呼び寄せて家政婦として雇う人が多いです。同郷なので方言も通じて料理
の味付けも口に合い、身内なので気心が知れていて何かと便利、と言うわけです
。『大陸妻』とか『身内を家政婦に』、『昼間から賭けマージャン』などのこの
辺の事情は、中国的というよりは広東的、かも知れません。

 そして次の事件も少々オドロな話なのですが、マンション内で飼い犬が一頭、
失踪した事から始まります。ウチのマンションでは犬を飼っている住人がとても
多いのですが、私が見る限り9割以上の飼い主は犬にリードを付けず、自由勝手
に庭を走らせています。犬好きの私でも、リードをつけていない大型犬がこちら
に向かって疾走してくると、他人の犬はちゃんと躾をされているのかがわからな
いので、ちょっぴり恐怖です。庭には乳幼児や老人もたくさん散歩しているので
、管理事務所側も住人の訴えを受けて繰り返し注意書きを張り出すのですが、住
民のマナーはなかなか向上しません。

 失踪したという犬も、やはりマナーを守らずリードなしで放していたため、自
分の犬を見失った飼い主は慌ててマンション警備員に連絡しました。毛足の長い
大型犬とのことなので、私がマンション内でよく見かけるゴールデンレトリバー
やボルゾイ、ハスキーなどの犬種かと思われます。

 マンション内には、あちこちに防犯用の監視カメラが付いています。警備員が
そのカメラをチェックしたところ、男が二人がかりで大きな犬を捕まえて運んで
いる様子が映っていました。その映像を拡大したところ、二人の男はマンション
内にあるとあるレストランの制服を身に着けていることがわかりました。

 ・・・・・もうそろそろ、皆さん想像がつかれた事と思います。当の従業員を
探し出して問い質してもしらばっくれるばかり、とうとう公安局に通報。公安に
よる捜査の結果、レストラン厨房から毟り取られた犬の毛や皮などが見つかりま
した。飼い主がきちんと市の飼い犬登録をしていたため、厨房に残っていた皮膚
からは埋め込み式の犬固体識別用マイクロチップが見つかり、逮捕となったそう
です。

 そのレストラン、私も何度か利用した事があります。しかしあるとき店内を走
り回るネズミを見かけ、従業員に伝えたところネズミくらい何よ?という対応だ
ったため、それ以来その店で食事するのは止めてしまいました。犬食は他国の文
化なので、他の人が食べる分には、そして私の飼い犬が食べられちゃうのでなけ
れば、私は何とも思いません。私は自分の飼い犬のリードは絶対に外しませんが
、もし何かの拍子にリードが千切れたりして見失ったら、中国ではこんな冗談み
たいな事になっちゃう可能性があるのか・・・・・それにしてもそのレストラン
従業員、今回が初めてのことだったのだろうか・・・・・もしや犬肉、お客の料
理には出していなかっただろうか・・・・・飼い犬用の蚤避け薬は農薬とほぼ同
じような成分なのに、もしその犬が蚤避け薬をつけられていたとしたら?管理養
殖された牛や豚と違うのだから、食べた人が何かヘンな病気になったりしないだ
ろうか・・・・・とある一軒のレストランの一部従業員がやったことですが、マ
ンション内のほかのレストランにも、私はしばらく足を向ける気になれそうにあ
りません。

 最後のお口直しに、オドロではないものの、やっぱりいかにも中国的な事件を
一つ。
  ウチのマンション敷地内には2つの銀行とそれぞれのATMが入っていて、とても
便利です。とある深夜、一人の住人男性が中国銀行のATMを使って2万元(約28万
7千円)を入金しました。ところが操作途中でATMが故障してしまい、彼の通帳に
は入金記録が印刷されていません。オマケにATMに入れた現金も、機械にすっか
り飲み込まれてどうにも出てこない・・・・・彼はすぐに中国銀行に電話しまし
たが、深夜の事で誰も出ず。ここで彼がATMから離れたあと、他の人がATMを使っ
た時にもしATMの故障が直って2万元が出てきたら?もしくは間違ってその人の通
帳に入金されてしまったら?

 そこで彼は自宅に電話をかけ、妻に簡易ベッドを運んでこさせたのですよ!そ
してATMの前にベッドを広げて陣取って、一晩そこで過ごしたのだそうです。す
、すごい・・・・・。翌朝、銀行が開いた途端に訴え出て、無事ATMの故障であ
ると認められて2万元は無事彼の手元に戻ってきたそうです。うわぁすごい災難
だねぇ、ウチも万が一の為に折りたたみ簡易ベッド、買っとく?と冗談半分(で
も本気も半分)で相方に相談したのですが、
  「そんなの、中国で入金にATMを使う方が間違ってるんだよ。入金はすべて、
いくら順番待ちが長くてもちゃんと窓口に並ぶこと!」と言われてしまいました

 中国では銀行ATMで引き出したお金にも偽札が混じっているのは知っていまし
たが、入金もうっかりATMを使っちゃいけないみたいです。中国の銀行では顧客
には一切トイレを貸さない決まりだそうで、顧客とのトラブルがよく新聞沙汰に
なっています。こちらでは銀行に行く前にまずしっかりトイレを済ませ、焦らず
余裕を持って窓口で順番待ちをして、ATMは使わないほうが身のためのようです

                (筆者は在深せん・日本語教師)

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