【オルタの視点】

今こそ辺野古に代わる選択を(2)
― 新外交イニシアティブ(ND)からの提言 ―

新外交イニシアティブ

  ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  ≪目次≫

  政策提言
  概要
  本文
   はじめに
    沖縄は基地を受け入れない
    安全保障環境は変化した
    辺野古に固執すれば同盟の危機となる
   第1部 辺野古に代わる選択肢
    沖縄は日米政府の「不正義」に怒っている
    基地の歴史と現状
    辺野古が最善の選択肢という論理は破たんしている
    米国の戦略上の利益のためには海兵隊が沖縄にいるべきではない
    海兵隊の位置づけ
    抑止のメッセージ
    本格的武力紛争への対応
    東アジアの公共財としての海兵隊
   第2部 海兵隊新ローテーション方式の提案
    米海兵隊の現状
    31MEUと普天間飛行場
    提案:海兵隊新ローテーション方式
     1. 運用――ランデブーポイントと高速輸送船
      海兵隊配備のカギはランデブーポイント
      海兵隊の予算難を救うカギは高速輸送船
     2. 財政負担の転換――ホスト・リージョナル・サポート
     3. 同盟深化――日米 Joint MEU for HA/DR
      自衛隊にはすでに実績がある
      HA/DR の実例
      アジアの安全保障と HA/DR
   まとめ
   結論
  米海兵隊の歴史
  執筆者紹介
   柳澤 協二/屋良 朝博/半田 滋/佐道 明広/新外交イニシアティブ(ND)
  _______________________________________

◆◆ 第2部 海兵隊新ローテーション方式の提案

● 米海兵隊の現状
 米太平洋軍はアジア・太平洋地域に約10万人を配している。沖縄にはその約4分の1にあたる約25,000人の米兵が駐留する。米軍再編(2006年の日米合意を2012年に日米で見直した部隊再配備計画)によって、在沖米軍兵力の6割を占める海兵隊19,000人のうち約9,000人がグアムなどへ分散配置される。戦闘力の中軸である第4海兵連隊と補給部隊など4,100人がグアムへ、第12海兵連隊や後方支援部隊の約2,700人がハワイへ、1,300人がオーストラリアへ、800人が米本国へ移転する。連隊規模の兵力はすべて転出し、3MEFなどの司令部機能と31MEUが残ることとなった。

 海兵隊は地上戦闘部隊、航空部隊、後方支援部隊の三つの機能で編成されている。紛争が起きた時の内容や規模によって3つの機能の中から部隊を選出して派遣する。編成規模は海兵遠征軍(MEF、約45,000人)と海兵遠征旅団(MEB、約17,500人)、海兵遠征隊(MEU、2,000人)の三段階がある。MEFはカリフォルニア、ノースカロライナ、沖縄に1個ずつの計3つあるが、沖縄に残留する部隊は、海兵隊が海軍艦艇で遠征する最小規模部隊のMEUのみとなる予定であり、有事には本国から増援する体制となる。

 MEUはカリフォルニアに3個、ノースカロライナに3個、沖縄に1個の計7個あり、活動エリアとしてはカリフォルニアMEUがインド洋、中東、アフリカ東海岸を、ノースカロライナMEUが大西洋、地中海、アフリカを、そして沖縄MEUがアジア太平洋地域をカバーしている。任務は非戦闘員救出作戦(NEO)、人道支援・災害救援活動(HA/DR)や同盟国軍との共同訓練などだ。
 沖縄のMEUは長崎県佐世保の揚陸艦に乗りグアム、オーストラリア、フィリピン、タイ、韓国などの同盟国のほかアジア太平洋地域の諸国を巡回し、共同訓練を通して軍同士の交流を行いながら信頼醸成を図っている。各地域をカバーするMEUがそれぞれの地域で6カ月ごとに洋上展開、訓練、休憩を繰り返す。
 このように海兵隊の配備先は、任務を担当する地域と一致する必要はない。高度な機動力と即応能力こそ、海兵隊の最大の利点である。

● 31MEUと普天間飛行場
 31MEUに航空輸送力を提供するのが普天間基地に配属されている航空部隊である。普天間基地には航空機が48機配備されており、内訳はMV22オスプレイ24機、CH53E大型輸送ヘリコプター8機、UH1汎用ヘリ3機、AH1攻撃ヘリ9機、UC12汎用軽輸送機(要人輸送)1機、UC35汎用軽輸送機3機である。31MEUと連動し、揚陸艦(ミニ空母)に搭載する航空機は計23機で、内訳はオスプレイ12機、CH53大型ヘリ4機、攻撃ヘリ4機、汎用ヘリ3機である(このほかに山口県岩国基地に固定翼のF35戦闘機、空中給油機などが配備されている)。
 上記の通り、普天間基地に配備されている航空機の約半分は31MEUと帯同している。残り半分は予備機として配備されている。このため、31MEUを沖縄に配備することが、普天間基地の航空機能を沖縄に存続させ、辺野古に新基地を建設しなければならない根拠になっている。ちなみに湾岸戦争で海兵隊は回転翼機(ヘリなど)177機、固定翼機194機を投入した。このことと比較すれば、普天間基地の航空輸送力は極めて小さく、MEUを支援するのみの配備であることが分かる。

● 提案:海兵隊新ローテーション方式
 沖縄の基地の約7割を占有する海兵隊を沖縄以外へ移転しても、運用所要を満たす施設さえあれば、任務を果たすことは可能である。沖縄の過重な基地負担を抜本的に解決する代替案(オルタナティブ)は、可能であり、早急に検討されなければならない。
 本報告書が提案する「新ローテーション方式」は、海兵隊に財政負担を求めることなくその運用所要を維持し、日本政府の追加的財政負担を要求することなく日米同盟の深化に有益な結果をもたらすことを追求したものであり、日本、米国、そして沖縄のいずれにとっても有益となるwin-win-winの実現を目指している。「新ローテーション方式」は以下のアイディアから成り立っている。

1.運用―ランデブーポイントと高速輸送船
 海兵隊の各種部隊は6カ月単位のローテーションで沖縄に配備されている。米軍再編によって主力部隊がグアムなどへ移転した後、沖縄に残るのは司令部機能と31MEUである。
 31MEUは、長崎県佐世保の米海軍の揚陸艦でアジア太平洋地域を巡回する。年間6~9カ月の間、同盟国、友好国を訪問し、多国間の共同訓練を実施する。アジアにおける米軍プレゼンスを維持しつつ、軍事交流を深めることで安全保障ネットワークを構築する重要な任務を帯びている。
 その任務は、日本が期待するような尖閣を含む日本防衛に拘束されない。アジア全域の安全保障の維持・管理の中に日本の安全保障が包含されていると理解すべきである。この理解がないと、地理的概念に囚われ、沖縄基地問題の実相を見誤り、問題解決の前提となる現状認識さえままならない。

 ◇ 海兵隊配備のカギはランデブーポイント
 重要なのが、沖縄の海兵隊基地からローテーションで展開してくる部隊と、佐世保の揚陸艦を合流させる「ランデブーポイント」(落合場所)である。現在、海兵隊が移動に使う艦艇は佐世保の揚陸艦のほか、オーストラリアの民間船舶会社からチャーターしている高速輸送船1隻がある。

 海兵隊にとって沖縄が便利なのは、2,000人規模のMEUが3、4隻の艦揚陸でアジア地域を洋上巡回する足場になっているからだ。米本国に後退すると移動距離が格段に長くなり、効率性を低下させる。もっとも、巡回の主目的は米軍プレゼンスの維持なので、その要員・装備が不足した場合には、海軍が駆逐艦などを出すほか、アジア地域の基地に陸軍や空軍を一時的に展開させる方法もある。
 在沖海兵隊を消防に例えよう。現在は、消防車(=揚陸艦)を長崎に置きながら隊員(=海兵隊員)は沖縄にいる。消防車が沖縄で隊員を迎えて、任務地のアジア太平洋へ出動していく。隊員は米本国から入れ替わりでローテーション配備されている。

 こうした部隊運用において、揚陸艦が海兵隊員と合流する「ランデブーポイント」は沖縄でなくてもいい。米本国から派遣される海兵隊員は航空機で日本にやってきて、長崎で揚陸艦と合流させればいい、という考えも成り立つのである。待ち合わせの方法を変えるだけの運用見直しで、沖縄基地問題は普天間移設問題を含め大幅に解消される。仮に31MEUの拠点を米本国へ移転させた場合、アジアへの巡回経費は増大するだろうが、生じるのはその分の費用をどうするかという問題のみである。
 米軍再編で部隊が分散配置されることにより、海兵隊は高速輸送船を必要としている。この高速輸送船を日本が提供すれば、海兵隊にとって財政負担がなく、しかも速やかに移動できるという大きな利点になる。

 ◇ 海兵隊の予算難を救うカギは高速輸送船
 海兵隊の内実は厳しい。オバマ政権の大幅な国防費カットは、海軍にぶら下がる海兵隊により大きく影響する。海兵隊は将来の陣容と装備に不安を抱えている。
 「海軍の保有艦が300隻を下回る時代がやってくる」。ジョン・M・パクストン海兵隊副司令官は2014年4月7日、海軍リーグで講演し「我々は175,000人に縮小される(現在は20万人)。十分な兵力、艦艇はあるのだろうか」と語った。
 海兵隊は、現状の任務を続けるには揚陸艦54隻が必要だと考えている。MEUより編成規模がワンランク大きな海兵遠征旅団(MEB)を3個動かせる艦艇数だが、海軍・海兵隊の現計画は、想定される有事には2個のMEBで対応し、揚陸艦を33隻に削減するとしている。さらに国防費削減によって、運用できる揚陸艦は30隻を割り込むことになりそうだ。そうすると海上輸送で機動展開できるMEBは1.5個になり、大型輸送機を借りても海兵隊は複数の戦闘作戦には対応できなくなる。

 パクストン副司令官は一例を語った。2013年にフィリピンを超大型台風「ハイヤン」が襲ったとき、海兵隊がアジア太平洋地域に展開させている揚陸艦4隻のうち3隻が修繕のためドック入りしていた。初期行動はオスプレイとKC130空中給油機で対応せざるを得なかった。艦艇が現場復帰するまでに2週間を要した。
 海兵隊が沖縄からグアムやオーストラリアへ分散すれば、距離を埋めるための高速輸送船の必要性が高まるだろうし、実際、海兵隊は高速輸送船の追加配備を望んでいる。フィリピンの台風災害で高速輸送船を使えたら、事態への対応はまったく違っていたはずである。

 米海兵隊は現在、高速輸送船のチャーターに年間約14億円を支出している。また2005年10月29日に日米合意した『未来のための変革と再編』(米軍再編中間報告)には、日米両政府が協力する分野として「輸送協力には航空輸送および高速輸送艦(HSV)の能力によるものを含めた海上輸送を拡大し、共に実施することが含まれる」とある。さらに高速輸送船については、防衛省が2016年3月、自衛隊の訓練や災害派遣などに優先使用できるよう、もう1隻の輸送船とあわせ約250億円の契約金額で2025年12月末まで民間会社と契約を結んだ。なおこの高速輸送船は新造すると1隻500億円以上の費用がかかる。
 以上の数字を考えると、後述する「提供施設整備費」などを併せても、日本側の支出は現在よりかなり低く抑えることができる。

2.財政負担の転換―ホストリージョナルサポート
 日本が負担する在日米軍の駐留経費年間約3,725億円のうち、防音対策などの周辺対策、訓練移転、漁業補償といった基地の外側での費用がほぼ半額を占める。基地内では従業員の給与が多くを占め、米軍が直接使用する提供施設の整備費は在日米軍全体で年間約220億円であり、全体に占める割合は5%に過ぎない。このうち在沖米軍基地の提供施設整備費は約50億円で、海兵隊基地への配分はさらに少ない。海兵隊が沖縄から移転する場合、同等額の援助を移転先の国や地域へ投下することになれば、海兵隊への日本政府の支出額は維持されることになる。

 沖縄の基地の約7割を使う海兵隊の転出によって、日本の基地周辺対策費は大幅に軽減される。この財源を活用すれば、海兵隊への支出額を増加しつつ、日本政府が負担する駐留経費を削減することができる。
 これを実施するためには、日本政府における新たな立法措置が必要となる。しかし、この処置は、日本防衛のコストとしてみなされてきた駐留経費(ホストネーションサポート=接受国支援)をアジア全域の安全保障に活用する(ホストリージョナルサポート=接受域支援)ことを意味しており、地域の安定に寄与する日米同盟という性格をアピールすることができる。

3.同盟深化―日米Joint MEU for HA/DR
 アジア太平洋地域における米海兵隊の役割は、これまで述べてきた通り、日本防衛というよりアジア太平洋地域の安全保障環境の改善にある。具体的には、友好国との共同訓練のほか、アジア地域で近年頻発する大規模な自然災害への緊急対処が重要な役割になっている。これらは自衛隊の得意分野であり、世界で高い評価を受けている。海兵隊が実施している共同訓練、災害救援、人道支援活動の領域で自衛隊は今まで以上に大きな役割を担うことが期待できる。
 米海兵隊と日本の自衛隊が、沖縄に残留する海兵隊司令部を通じて緊密に連携・調整し、東アジア地域のHA/DRの訓練や実働任務を共同して、あるいは地域を分担して実施する体制を整備することで、「日米Joint MEU for HA/DR」というべき新たな協力の枠組みが構築されることが望ましい。
 2,000人の米海兵隊に加え、自衛隊は同等以上の規模のHA/DR部隊の提供が可能であり、日本近傍の地域の救援・訓練の所要により柔軟かつ実効的に対応することができるようになる。あるいは、自然災害に加えて戦闘任務を伴う事態が同時に発生した場合には、戦闘に優先的に投入される海兵隊に代わって自衛隊が救援任務を担当するなど、機能に着目した協働的な作戦が可能となる。

 ◇ 自衛隊にはすでに実績がある
 2004年のスマトラ島沖の地震・津波では27万人が犠牲となり、約1,000万人が家を失った。自衛隊は、インドネシアのアチェ州へ3隻の艦艇、輸送機2機を含む900人を派遣し、各地で救援活動を行った。
 2013年、フィリピンにおける台風被害に際しては、1,000人を超える人員と、KC-767空中給油・輸送機2機、C-130H輸送機7機、U-4多用途支援機1機、CH-47輸送ヘリコプターおよびUH-1多用途ヘリコプター各3機、輸送艦、護衛艦および補給艦の計3隻を派遣し、医療活動等に加えて、防疫活動および現地における救援物資などの輸送を行った。
 さらに自衛隊は、米海軍主催の人道支援活動「パシフィック・パートナーシップ」に毎年参加し、関係国との間の相互理解および協力の促進並びに民間団体との協力の促進を図るとともに、国際平和協力業務および国際緊急援助活動にかかわる医療、施設補修および輸送に関する技量の向上を図っている。
 こうした自衛隊の能力を活用することは、日本の現行法制で可能である。

 ◇ HA/DRの実例
 前出のスマトラ沖地震に際し、米国は9億5,000万ドルの支援金を拠出し、空母エイブラハム・リンカーンなど艦艇約20隻、航空機60機など、総勢12,600人の兵力を派遣して2カ月間救援支援を行った。
 2009年からASEANはリージョナルフォーラムで災害救援訓練(DiRex)を実施している。現状ではアジア太平洋地域でHA/DRへの対処能力を備えているのは日米中豪の4カ国に限られており、国際協力が不可欠だ。
 2010年のハイチ地震における中国政府の対応は迅速で、数百万ドルを寄付したほか、遭難レスキュー隊、医療チームを派遣、発電機、浄水設備、テント、衣類を提供した。またシリア、ヨルダン、レバノン難民に1,600万ドルの人道支援金を寄付している。
 2013年、フィリピンを襲ったスーパータイフーン「ハイヤン」は約7,000人の命を奪った。米国は48時間以内に即応し、8,600万ドルを提供し、米軍は最初の2週間だけで1,400万ドルの経費を使い救援活動を展開した。日本も国際緊急援助活動としては過去最大の約1,000人を現地に派遣した。中国政府の援助は当初10万ドルにとどまり、中国はアジアに冷たいと非難を浴びたため、175万ドルを追加提供したほか、病院船「ピースアーク」を派遣した。

 ◇ アジアの安全保障とHA/DR
 米太平洋司令部がHA/DRを新たな安保課題と位置づけ、本格関与するようになったのは冷戦後の1989年からだ。その後、東南アジアにおけるほぼすべての大規模災害に即応している。また中国軍も近年、軍事ドクトリンで大規模災害を非伝統的安全保障分野の脅威と認識し、優先度の高い任務と位置づけている。米中がHA/DRで協力関係を広げることで信頼醸成と地域安定化の基盤構築が期待できる。
 例えば米中両国が保有する病院船の連携がある。米国の米海軍病院船「マーシー」(1,000床)が出動準備するには約5日、太平洋を横断するには約7日かかる。その間、中国が保有する病院船「和平方舟」(ピースアーク、300床)が初期対応し、米側と連携すればより多くの命を救えるはずだ。アジア太平洋地域で緊張緩和を促進し、安全保障を支える柱の一つになりえるだろう。

 米国はフィリピンで「バリカタン」「フィリベック」、タイで「コブラゴールド」、日本で「キーンソード」など多くの共同訓練を実施している。共同訓練でHA/DRを重視したのは2008年からで、米海兵隊だけでなく、太平洋地域に展開する陸海空の各軍とも積極的に取り組んでいる。フィリピンのドゥテルテ大統領は米比間の軍事演習を縮小する方針だが、HA/DRを軸とした共同訓練は継続する意向を表明している。
 従来、米国は中国との共同訓練参加に消極的だったが、2013年のアデン湾における海上行動の共同対処が成功してから両国の協力が深まった。同年夏、米中両海軍の双方が駆逐艦、ヘリコプター、特殊部隊を出して海賊対策訓練が行われた。フィリピンでの多国間共同訓練に中国軍が初めて参加したのもこの年だった。さらに同年11月には中国主催でHA/DRの機上訓練が初開催され、翌2014年の環太平洋合同訓練(RIMPAC)への中国初参加へ弾みをつけた。

 国際連合の試算によると、アジア太平洋地域は、自然災害の被害に遭う確率がアフリカの3.2倍、中南米の5.5倍、北米の9倍、ヨーロッパの実に67倍も高いとされている。大規模災害に対応する国際体制づくりを今日的な安全保障政策の重要テーマの一つとして位置づけるべきだろう。
 日米安保体制は米国が日本防衛義務を負う片務性が指摘されるが、人道支援・災害救援活動で自衛隊の能力は高く、HA/DRは日本が憲法9条の精神を生かしながらアジアの安全保障に貢献できる分野だ。今日的な安保課題に合わせた同盟関係を再構築することで新たな地平が見えてくるだろう。沖縄基地問題の「解」もそこから導かれるはずだ。

◆◆ まとめ

 以上述べたように、高速輸送船で分散移転の不便を解消し、接受国支援を地域支援に拡充し、自衛隊が、海兵隊が担う地域の信頼醸成やHA/DRの役割を分担することで、地域安保の基盤としての日米同盟をアピールする。この3要件を同時に満たすことを前提に沖縄から31MEUを移転すれば、普天間の代替飛行場を新設する必要はない。海兵隊の移転は、ランデブーポイントをグアムやオーストラリアなど県外・国外へ移転するだけのことに過ぎないからである。
 第1海兵遠征軍がMEUをカリフォルニアから太平洋を越えてインド洋へ派遣しているように、ハワイや米本国から31MEUを展開することも可能である。

※海兵隊(3MEF)司令部について
 この提言は31MEUの再配置についてのみ言及した。司令部機能については今後の議論に委ねることにした。アジア太平洋地域の主要な活動がHA/DRであることを鑑みて、人道支援や災害救援という今日的な安全保障の課題にアジア各国が対処する拠点として沖縄を活用する道筋も想定されるだろう。各国の代表者が沖縄に集い、人道支援などの連絡調整を行う場所として沖縄を活用することは検討に値する。例えば「国際協力調整センター」(仮称)を設置し、近年多国間共同訓練に積極参加している中国も含めて、平和的なアジア安保について語り合う空間を沖縄で提供する意義は深いと考えるからである。在沖海兵隊司令部もこの調整機能の主要な役割を担うことに期待したい。

◆◆ 結論

 31MEUを沖縄から県外・国外へ移転させるという本報告書の提案は「沖縄の負担軽減」を大幅に進めることを目的としている。その意味では、日米両政府が合意した基地の整理・統合・縮小を基調としている。あくまでも態勢変更であり、日米安保体制と矛盾を生じさせるものではないことを強調しておきたい。戦後71年もの間、日米安保の重い負担をひとり負わされてきた沖縄にとって、31MEUを移転させる「態勢」の再調整はささやかな要求と言えよう。

 31MEUが撤退しても、極東最大規模といわれる米空軍嘉手納基地が残り、隣接する嘉手納弾薬庫と合わせた施設面積は、本土にある主要6基地(青森県三沢基地、東京都横田基地、神奈川県横須賀基地、厚木基地、山口県岩国基地、長崎県佐世保基地)の合計を上回る。嘉手納基地群ひとつみても沖縄の負担はなお重いうえに、陸軍基地、海軍基地の負担もある。2016年4月に起きた元海兵隊員で軍属による女性強姦・殺害事件を受け、沖縄県議会は「海兵隊全面撤退」を求め決議した。沖縄の声に真摯に向き合わないかぎり、日米安保体制の安定さえ損なう恐れがある。

 長年の日米両政府間の合意形成の積み重ねは、国家間の約束事であり、一方の政府の要求によってこれを変更することが容易でないことも理解できる。しかし、両政府間で約束した計画の実行が不可能になりつつある現実を認識し、海兵隊の任務・役割をいかに保証するかという原点に立ち返れば、様々な選択肢がみえてくる。
 現在の計画に固執して沖縄との永遠の対立という救いようのない道を選ぶのか、沖縄と日米両政府、そして海兵隊がいずれも納得できるall-winの道を選ぶのかが問われている。

<米海兵隊の歴史>

1775年 独立戦争時に海軍と共に発足。独立戦争勝利後、海軍所属部隊として海兵隊として再編成第二次世界
    大戦中、主に太平洋地域(サイパン、グアム、硫黄島、沖縄)で日本軍が占領する島々を攻略
1945年 普天間飛行場(陸軍)設置(当初は米陸軍が使用)
1950年 朝鮮戦争における仁川上陸作戦を展開。最後の大規模水陸両用上陸作戦となった
1955年 第三海兵師団隷下の二個連隊のうち一個連隊が沖縄へ移転
1960年 海兵隊が普天間基地の利用を開始
1971年 ベトナム戦争後、第三海兵水陸両用軍(3MAF)が沖縄へ
1988年 3MAF、現在の第三海兵遠征軍(3MEF)に改変
1990年 3MEF、イラク・クウェート侵攻に際し、南西アジアやイラクで活動
1991年 湾岸戦争(Operation Desert Storm, Desert Shield)に参加するため、沖縄から中東地域へ移動。
    戦後、戦車部隊は本国に撤収
1992年 第三一海兵遠征隊(31MEU)が沖縄に配備(9月)
1995年 沖縄米兵少女暴行事件(9月)
1996年 SACO(Special Action Committee on Okinawa(沖縄に関する特別行動委員会))最終報告(12月)
1999年 31MEUが東ティモール国際軍(INTERFET)の国連東ティモール暫定行政機構(UNTAET)編入を支援
2004年 8月、31MEU(2,200人)がイラク戦争に参加。11月からのファルージャ総攻撃に主力部隊として参加。
    50人死亡、221人負傷(翌年2月に任務終了、沖縄帰還)
    スマトラ島地震・津波復旧支援(12月)
2006年 フィリピン・レイテ島地滑り復旧支援(2月)
    在日米軍「再編実施のための日米のロードマップ」(5月)
2009年 フィリピン・ルソン島の台風復旧支援。スマトラ島の地震復旧支援
2010年 フィリピン・ルソン島の台風復旧支援
2011年 日本・東日本大震災復旧・復興支援(3月)
2012年 「在日米軍再編に関する日米共同報道発表」(2月)
2013年 フィリピン・レイテ島の台風復旧支援(11月)
2016年 熊本地震復旧支援(4月)

<執筆者紹介>

●柳澤協二(やなぎさわ・きょうじ)ND評議員/元内閣官房副長官補
 1970年東京大学法学部卒とともに防衛庁入庁、運用局長、人事教育局長、官房長、防衛研究所長を歴任。2004年から2009年まで、小泉・安倍・福田・麻生政権のもとで内閣官房副長官補として安全保障政策と危機管理を担当。現在、NPO国際地政学研究所理事長

●屋良朝博(やら・ともひろ)ND評議員/元沖縄タイムス論説委員
 フィリピン大学を卒業後、沖縄タイムス社入社。92年から基地問題担当。東京支社を経て、論説委員、社会部長などを務めた。2006年の米軍再編を取材するため、07年から1年間、ハワイ大学内の東西センターで客員研究員として在籍。2012年6月に退社。現在、フリーランスライター。

●半田滋(はんだ・しげる)東京新聞論説委員兼編集委員
 下野新聞社を経て、91年中日新聞社入社、東京新聞論説兼編集委員。獨協大学非常勤講師。92年より防衛庁取材を担当している。2007年、東京新聞・中日新聞連載の「新防人考」で第13回平和・協同ジャーナリスト基金賞(大賞)を受賞。

●佐道明広(さどう・あきひろ)中京大学総合政策学部教授
 学習院大学法学部卒業、東京都立大学大学院博士課程単位取得退学。博士(政治学)。都市出版編集部「外交フォーラム」編集室勤務。都市出版常務取締役を経て1998年4月から政策研究大学院大学助教授、2004年、中京大学助教授、2005年より教授。2011年~12年マサチューセッツ工科大学国際関係研究所客員研究員。

●新外交イニシアティブ(ND)とは
 新外交イニシアティブ(ND)は、従来の外交に反映されてこなかった声を外交に届けるため、国内はもとより、各国政府、議会、メディアなどへ直接働きかける「新しい外交」を推進するシンクタンクとして、2013年8月に設立された。設立準備段階から現在まで、沖縄をはじめとする日本の国会議員等の訪米行動を企画・実施し、2015年6月および2017年2月には翁長雄志沖縄県知事に随行する沖縄訪米団の企画同行を担当。
 2015年、米議会で審議されていた米国防権限法案(2016年度)には、普天間基地移設について「辺野古が唯一の選択肢」との条文があったが、NDはこの条文を取り除くべく米議会に積極的な働きかけを行い、同法案からこの条文を外すことに成功している。
 NDでは過去3年間、在沖海兵隊の軍事的な役割や「抑止力」の実態について、外交・防衛・安全保障の専門家らによる研究会を開催して、分析・研究を進め、2014年には研究の結果をまとめた書籍『虚像の抑止力』(ND編・旬報社刊)を出版した。
 2016年2月以降、在沖海兵隊の配備・展開について、米側の資料や海兵隊の運用実態に照らした検討を続け、「辺野古が普天間移設の唯一の選択肢」という主張への対案をまとめるための研究会を定期開催し、さらなる議論を重ねてきた。本報告書は、その議論をまとめ、日本、米国、沖縄のいずれにとっても有益となる解決案を示すものである。

新外交イニシアティブ(ND)による書籍:
 『辺野古問題をどう解決するか―新基地をつくらせないための提言―』(岩波書店・2017年6月)
 『自発的対米従属 知られざる「ワシントン拡声器」』(角川新書・2017年3月)
 『アメリカは日本の原子力政策をどうみているか』(岩波書店・2016年10月)
 『新しい日米外交を切り拓く 沖縄・安保・原発・TPP、多様な声をワシントンへ』(集英社・2016年10月)
 『虚像の抑止力 沖縄・東京・ワシントン発 安全保障政策の新機軸』(旬報社・2014年8月)

新外交イニシアティブ(ND)事務局
 〒160-0022 東京都新宿区新宿1-15-9 さわだビル5F
 電話:03-3948-7255 FAX:03-3355-0445
 E-mail:info@nd-initiative.org
 http://www.nd-initiative.org/

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧