≪連載≫日中間の不理解に挑む(4)

人が10倍もいるということ

李 やんやん

 中国もちょっとした連休中。5月2日、ネットニュースのトップは当然ウルムチ駅の爆発事件。「中国政府が事件の情報を遮断しようとしている」と日本では報じられているが、実際「遮断」とは言えない。むしろ「テロだ、テロは許さん!」という誘導型の報道が多く出ている。報道を使って人々を誘導するのは、日本だって同じ。最近はひたすら、消費税増税の影響は「限定的、想定内、さほど影響はない」と、報じているのではないか。

 次にネットを賑わしている連休中のニュースは、おなじみの「混雑」に関するもの。南京の動物園を訪れた観光客が一言、「99.99%の動物が人間だった」。ただでさえ人が多い、同じ日に休みを取り、同じような行動を取ったら結果は火を見るよりも明らかだ。

 中国の混雑や無秩序、カオス状態について、日本人はよく「引いてしまう」らしい。なぜそんなに秩序がないのか信じられない、理解できない。もっと言えば、そういう国とつきあうのは避けたい、近寄りたくない。自分たちの「想定」を超えた状態に対しては、誰しも拒否反応を示す。しかし、拒否する前に、少しだけ想像力を働かせてほしい。

 中国を理解するために簡単な方程式がある。日本の状況をすべて×10倍にして想像してみるといい。電車やバスを待っている人は常に10倍、受験する競争相手も10倍、就職活動も婚活もライバルは常に10倍、マンションを買いたい人は10倍、上司の機嫌を取りたい人も10倍。もちろん、休みの人出も10倍。混雑の度合いが違うのは当たり前。

 そういう意味で、現在北京の人口が2000万人というのは、日本の規模に直すと200万人規模の都市で、大して「集中」とは言えない。むしろ1300万の人口を擁する東京の一極集中の度合いが信じがたい。中国の規模に直すと、なんと1億3000万人が首都で暮らしていることになる。東京の異常さが分かる。

 「そんな単純じゃないだろ」と思うのかもしれない。でも、単純に考えることによって、見えなかったことが見えるようになったりする。中国について、「理解できない」と言う前に、とりあえず「×10倍」の想像をしてみては、いかがでしょうか?

 (筆者は駒澤大学教授)

※この原稿はCSネット37号から著者の承諾を得て加筆・転載したものです。


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