【北から南から】中国・吉林便り(21)

中秋節と国慶節の長期休暇

今村 隆一


 中秋節と国慶節時の長期休暇をTVで「中秋国慶長暇」と表していました。中国政府は建国記念日の10月1日から中秋節(農歴八月十五:10月4日)を含めて10月8日までを連休とし、秋の黄金週間(ゴールデンウェーク)となりました。しかし実際長期休暇となるのは公務員、国営企業、教員などごく一部の人だけに限られているようです。9月30日は振替勤務日ですが、私には土曜日の授業がなかったため9連休となりました。

 以前はこの休暇を利用して北京や上海など、旅行したこともありましたが、この時期は何処も人で溢れていました。中国国家観光局は、今年10月3日の国内観光客は延べ1億1,900万人(前年同期比9.8%増)と発表したように、TVニュースでは観光地や駅は人の山。最近私は野長城(イエチャンチャン)という観光とは一味違った寂れた万里の長城を踏破する活動に参加していましたが、一般公募での野長城コースはほとんど行き尽くたようですし、昨年は蛇咬傷による入院と膝関節炎での自宅療養を余儀なくされ、今は痛みはなくなりましたが、未だ違和感と恐怖感があるので、今年は吉林にいることにしました。

 第1日目の30日、私はいつも同じ朝6時起床、6階建て集合住宅の1階に住んでおり部屋の南側に30㎡程の庭があるので、7月以来やっていなかった苺の蔦と雑草の引き抜き、ついでにガラス窓の外面を拭くといった、横着な私が苦手にしている家事を1時間程かけて行いました。その後朝食を摂りながらTVを見ていると巨大な花で装飾された北京の天安門広場が映し出され、「烈士記念日」に当たるこの日、人民英雄への献花式が習近平主席や李克強首相等国務院委員出席のもと行われた様子と広場に観光訪問客が訪れ始めていることが紹介されました。

 草取り作業後は午後から吉林大劇場(Jilin City Peaple's Theatre)で映画『The foreingner(中国題:英倫対決)』を観賞しました。これは中国と英国の合作で成竜(ジャッキー・チェン)が主役のアクション映画。中国の映画とTVドラマは戦争とアクションが多く、見て良かったと思うことが実に少ないのが率直な私の感想ですが、多くの人に好まれているようです。
 映画上映時の使用言語は外国映画も中国での上映ですから、漢語(中国語)吹き替えが多いのですが、この日は数少ない英語上映を選び見ました。漢語吹き替えでは漢語の字幕がないので私には判らない部分が多いのです。英語上映では英語が分からなくても漢語字幕があれば意味が分かりやすいからです。7月末に日本映画「深夜食堂2」を見たとき、吹き替えられての上映で、聞いていて半分くらいしか分かりませんでした。DVDで日本映画以外を見る時は日本語字幕を映すようにしており、日本映画の時は漢語字幕を映して見ております。漢語の勉強にもなるのです。

 吉林大劇場は2015年8月完成した劇場で、私は今年の夏以降、①香港出身歌手陣のTV主題歌などの歌唱会、②フランスのヴァイオリニストとピアニストによるヴェートベンの夜想曲などの演奏会、④イタリア人女性オペラ歌手の音楽会、⑤ロシア人のチェロとピアノの演奏会、⑥クロアチアのジャズメン6人によるジャズ演奏会の音楽鑑賞をしました。入場料はこれまでは80元(1,360円)、130元(2,210円)、180元(3,060円)と3段階で、私は最安80元のチケット購入での入場ですので、席は大体一番後ろ又は後ろから2列目です。しかし入場者は全席の3割位ですので中間の休憩時に前の席に移って鑑賞しています。

 吉林大劇場は巨大な施設です。地上4階、地下1階、建設規模は35,800㎡、大劇場座席数1,480、小劇場座席数500、映画館はスクリーン客室4部屋で総座席数600となっており、屋外の駐車場数は分りませんが敷地も広大です。家から歩いて40分ほどの距離です。当地一帯は「東山文化運動公園」と命名されており、大劇場の西は50m程の小高い高台となっていて、その頂上部には児童遊技場があり滑り台やブランコなどの遊戯器具が設置されています。隣接した西側には吉林市の体育館、更に西側にスケート場があります。
 私が吉林に来た2008年当時のこの一帯は数件の農家以外原野だったところで、開発当初は最初に豪華な公安局(日本の市町村における住民課と治安を管轄)分署の建物が建ち、その後周辺は新しい高層建築物(20~30階)が林立して、現在もその建設ラッシュは続いています。私が通う北華大学東校から歩いて30分程と比較的に近いので、大学関係者がこの新市街地に越して来ています。登下校時に私が利用するスクールバスが今年の春からこの市街地の中心部を通過するようになったので街の様子が判ります。商店や公共循環バスとタクシーは未だ少なく、新市街地の環境が整い住み易くなるには、未だ2~3年かかると思います。

 長期休暇第2日目は10月1日「国慶節」、中国の建国記念日でした。この日は北華大学外語学院(日本の大学では学部に当たる)日本語学科の教師YYの結婚披露宴に参加しました。結婚披露宴はこれまで参加した披露宴と大差ありませんでした。私にとって日本の結婚披露宴は慇懃なあまり形式的で、持参する祝い金も高額で負担感が大きく、招待されると実に嬉しくありませんが、中国の宴会は極めて賑やかで、形式ばっていません。
 宴の始まりは司会者がリードしますが、20~30分すると誰からともなく円形テーブル上の料理を食べ始め、色直しがあることも無いこともあります。新郎と新婦が各テーブルに挨拶に来た時に紅包(ホンバオ)という「赤いノシ袋」に入れた祝い金を渡します。祝い金は普通は200元(3,400円)、多い場合は500元(10,500円)位で、日本のように会場前で宴開始前に渡す場合もありますが稀です。披露宴の終わりは告げられません。食事をとりはじめて箸をつけたら、直ぐ席を立つ人も少なくなく、この日もガールフレンドを同伴し遅れて来た若者は、食事をある程度してサッサと退場しました。こんなふうに結婚披露宴は中国と日本では形式と雰囲気は異なります。

 この日の花嫁YYは長春にある東北師範大学の卒業生で、学生時代に日本の東京大学留学経験がある、今年で勤務2年目の博士号を持つ日本語教師です。私は北華大学でも国際教育交流学院と文学院の限られた先生以外交流はなく、食事をすることもありません。特にそのような誘いをしたことも逆に誘われたこともありませんが、外語学院では教職員でのクリスマス会などが昼食会を兼ねて行われる時、参加要請があった場合に1時間程ご一緒することがあります。YYとも職員室で顔を会せた時に挨拶と短い会話がある程度ですが、彼女が吉林市の北東200km程に位置する吉林省松原市出身だと本人から聞いていたので、両親や親せき、友達が来るのか、どのような結婚披露宴をするのかと興味がありました。

 長春から来たというYYの高校時代の同級生がいて話をしたら、彼は吉林大学(中国では東北一の名門校)の電気系学科を卒業し、石油・ガス関連の企業に勤務しているそうで、この7年間アラブ首長国連邦のドバイに滞在していたので、YYと会うのは10年振りだと言っていました。前学期まで日本語学科で私の連絡係もしてくれた教師のWFが同じ北華大学の職員である夫と共に披露宴に参加していて、帰りは自家用車で送ってくれることになり同乗させてもらいました。彼女は5歳になる娘の母親ですが、国慶節が終わったら1年間の実習で日本の仙台、東北大学に行くことになっています。
 このように現在北華大学の日本語に関係する先生も学生も日本での実習や留学(1年又は2年と途中4年制へ編入もあり)、アルバイト(約3か月間)など国元を離れるケースが激増しています。実際、現在の4年生翻訳クラスの学生は1年生の時は28名いましたが、今学期現在は7名しかおりません。全て日本の大学へ留学しているか日本で短期アルバイトしているためです。

 このような状況をどう見るか?
 中国では経済的に裕福になった家庭が多く、積極的に子弟を外国に出せるようになった。そして、若い時から外国での経験を積んでおこうという若者が増えているとも言えます。また、日本の人手不足を中国人アルバイトで補う、新たな紹介・仲介業者が中国と日本に出現していることもあります。更に日本の大学が入学定員欠員を中国人学生で補う傾向も強くなっているようです。しかし、何と言っても中国の人たちのフロンティア精神の発揚の表れでもあると言って良いのではないでしょうか。私は中国人を受け入れる日本の関係者が、中国の人たちの尊厳を重視し、平等の精神を発揮し、共に喜び、努力しあうことを願っています。これは日本の一部の政治家とナショナリスト以外、一般の日本人には杞憂なことだとは思いますが・・・

 連休3日目と7日目は、10月2日10回目となった舒蘭(シユウラン)市の「西土山(シィトゥシャン:1,189.6m)」登山、そして10月5日は11回目となった蛟河(ジャオハァ)市の「老爺嶺(ラオイエリン:1,284m)」登山でした。どちらもこれまで春夏秋冬全ての季節に登山した山ですが、未だ登り飽きていないから行ったのです。どちらの山も、草原状の頂上とそこからの360度見渡せる景色が素晴らしいのです。10月2日も5日も良い天気に恵まれましたが、気温が下がっていて登っていても汗は出ず、山頂はあいにく風があり寒く、ヤッケを着なければ体が冷えてしまうほどでした。山麓の広葉樹は紅葉し、蒲公英の花が所どころに残っていて、短い秋の終わりを告げていました。山仲間によると今年の紅葉は去年より劣っているそうです。

 中秋節、今年は10月4日、昨年は9月15日、一昨年は9月27日でした。月が地球の周りを1周する期間を「朔望月(さくぼうげつ。旧暦の1ヶ月に相当)」と言い、朔望月で月が最も丸くなる日を「望日(ぼうげつ)」あるいは「満月」と言い、月は満月から次の満月まで約29.5日かかるそうです。中国では中秋節に月を愛で、月餅を食べる習慣があります。5日の老爺嶺登山の帰りは遅い現地出発となり、月見は蛟河と吉林で出来ました。
 月餅には2015年12月から実施された国家基準があります。それは種類ごとの分類になっていて、月餅に含まれる材料、例えばハスの実や栗、クルミ、あんずの種、オリーブの種、ひまわりの種、ゴマなどの量が基準の規定です。私も月餅をいくつかいただきましたので、冷凍庫に保管し、カロリー過多にならないよう少しずつ食べています。

 連休第4・5・7日目の3日間は囲碁の日になりました。10月3・4日の両日は吉林市囲碁大会、7日は所属囲碁クラブの例会に参加しました。囲碁は2010年7月に仙台空港で偶然知り会った自称囲碁アマチュア五段の日本人Hさんが吉林に住んでいて、吉林八弈棋会に誘って下さり直ぐに入会したのでした。以降、月1回の例会に参加しています。Hさんは2012年5月に吉林の自宅で倒れ、脳疾患で急逝されました。
 現在八弈棋会会員は総勢30人程で日本人は私一人です。皆私より強い(中国アマチュア5段程度)人ばかりで、たまに小学生や中学生、大学生も臨時参加しますが子供の方が強く、私は大人にも子供にも打てば負けてばかりです。極めて少ないのですが勝つ時もあります。不思議なことに勝つことが少なければ少ないほど勝てた時の喜びが大きい。アマチュアの段位は日本の5段は中国で2段位とのことです。私の囲碁の棋力は中国では段位に届いていないでしょう。

 最近は例会への参加者が減って、この1・2年は10人程で、4人集まれば碁より麻雀をする傾向が出てきましたが、7日は14人でペア碁で楽しめました。2011年6月の第一回吉林市囲碁大会(参加者は多すぎて不明)に参加し、以降は時々の参加でしたが、本大会は参加者が年々減っていて、今年の大会は約60名の参加でした。驚いたことに成績の1、2、3位は小学生で、大人はその後塵を拝しました。この2年間、世界囲碁ランク1位は柯桔という中国棋士で、彼は今年20才になった若者です。将棋界で連勝記録を更新した藤井聡太四段が15才、10月7日の囲碁桐山杯で18歳の六浦雄太三段が優勝したように将棋界も囲碁界も低年齢層に席巻されています。
 若者がゲーム感覚に長けているのはネット社会の普及が要因かな?

 (中国吉林市・北華大学漢語留学生・日本語教師)

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