【コラム】
中国単信(75)

中国茶文化紀行(12)唐代の人はいつお茶を飲むのか?

趙 慶春

 お茶は日常的な飲み物なので、飲みたいときに飲む。確かに現在の生活ではそうなのだが、お茶が庶民の生活に定着した唐代でも同じだったと思われる。また、すでに紹介したように、唐代には「茶を以て客をもてなす」場合がかなりあることを、多くの茶詩で示した。来客時に茶を飲むことが多いので、「いつお茶を飲むのか」は決まっていない。
 ところが、多くの茶詩に目を通すと、唐代の人々にはある「タイミング」でしばしば茶を飲むようである。それは「目覚めた後」である。以下にいくつか例示してみよう。

 白居易「不出」:
  檐前新葉覆残花,  檐前の新葉が残花を覆い、
  席上余杯対早茶。  席上の残酒は早茶と向き合う。
  好是老身銷日処,  よいぞ、老身が日々をやり過ごすところ、
  誰能騎馬傍人家。  誰か馬を跨ってこの家に寄って来られるか?

 元稹「解秋十首」:
  霽麗床前影,  くっきりとした美しいベッド前の影、
  飘簫簾外竹。  ゆらゆら、飄々たる簾の外の竹。
  簟凉朝睡重,  むしろが涼しく、朝の眠気が重い、
  夢覚茶香熟…  夢から目覚め、茶香は熟れる…

 張籍「夏日閑居」:
  多病逢迎少,  病気が多く、付き合うことが少ない、
  閑居又一年。  閑居してまた一年が過ぎていく。
  薬看辰日合,  薬は辰の日に調和し、
  茶過卯時煎…  茶は卯の時に煎じる…

 「卯の時」は朝の5時から7時の間である。

 白居易「食後」:
  食罷一覚睡,  食後に一睡をする、
  起来両瓯茶。  目覚めたら二瓯の茶を飲む。
  挙頭看日影,  頭を挙げて日を見ると、
  已復西南斜。  すでに西南に傾いている。
  楽人惜日促,  楽しんでいる人は日の短さを惜しみ、
  憂人厭年赊。  憂い人は歳月が余るのを嫌う。
  無憂無楽者,  楽も憂もない人は、
  長短任生涯。  時間の長短は人生のままに任せる。

 白居易「府西池北新葺水齋即事招賓偶题十六韻」
  …
  読罷書仍展,  読み終わったが本は開いたまま、
  棋終局未收。  投了したが囲碁盤は対局状態のまま。
  午茶能散睡,  昼の茶はよく睡魔を追い払う、
  卯酒善销愁…  卯の時の酒はよく愁を打ち消す…

 中国の文人たちは昼寝が大好きで、これは昼寝の後のお茶になる。「夜寝」、「昼寝」だけではなく、仮眠や不定期の睡眠後もやはりよくお茶を飲む。

 白居易「閑眠」:
  暖床斜卧日曛腰,  暖床で斜め横になって、日が腰あたりを暖め、
  一覚閑眠百病銷。  閑居にして、一眠はすべての病気を追い払う。
  尽日一餐茶両碗,  一日にして一回の食事と二碗のお茶、
  更無所要到明朝。  要るものがこれ以上何もなく、このまま翌朝に至る。

 白居易「何処堪避暑」
  何処堪避暑,  何処が避暑できるか?
  林間背日楼。  林間の日陰の楼である。
  何処好追凉,  何処が涼を求めるのによいか?
  池上随風舟。  池の上の、風に任せたままの舟である。
  日高飢始食,  日が高くなり、お腹が空いていると始めて食事をとる、
  食竟飽還遊。  満腹になった食後もまた遊ぶ。
  遊罷睡一覚,  遊んだ後、一睡して、
  覚来茶一瓯…  目が覚めたら茶を一瓯…

 閑居していて、暖かく気持ちが良く、うとうとして、そのまま寝てしまった。目が覚めたら、食事よりお茶を求め、そうしているうちに一日が過ぎていく。暑さを避け、林間や池で遊び、食べて、寝て、そしてお茶を、唐代文人の悠々自適の生活ぶりである。

 白居易「官舍」
  …
  太守卧其下,  太守は其の下で横になり、
  閑慵両有余。  閑(暇)も慵(だるさ)も両方余る。
  起嘗一瓯茗,  起きて一瓯の茶を味わい、
  行読一卷書…  ついに一巻の書を読む。

  これは官舎における仮眠の後のお茶になる。

 崔珏「美人嘗茶行」
  雲鬟枕落困春泥,  雲のような髪が枕に落ち、春泥のように眠りに落ちる
  玉郎為碾瑟瑟塵。  玉郎が瑟瑟尘のような茶末を碾いてくれた。
  閑教鸚鵡啄窓響,  暇でインコにトントンと窓を啄くのを教えるほど、
  和嬌扶起濃睡人。  愛嬌のもと、熟睡の人を扶け起こし、
  银瓶貯泉水一掬,  銀瓶に泉水を一掬貯え、
  松雨声来乳花熟。  湯を沸かす時の松雨音が聞こえると茶を淹れる乳花が熟れる。
  朱唇啜破绿雲時,  朱唇が緑雲のようなお茶を啜る時、
  咽入香喉爽红玉。  香る喉を通して飲み込むと紅玉のような顔が爽やか。
  明眸漸開横秋水,  きらきらの目が次第に開き、秋水を湛えているように、
  手拨糸簧醉心起。  手が楽器を触れて、酔心が起きる。
  台前却坐推金筝,  台の前に座り、却って金筝を推し退けて、
  不語思量夢中事。  何も語らず夢の中の事を思量する。

 色気も漂う詩であり、この詩すべてが睡眠後のお茶を飲む様子が詠われているとも言える。文人だけではなく、美人も「睡後」のお茶を楽しむことがわかる。
 白居易の「睡後茶興憶楊同州」は詩題でわかる詩もある。このように「睡後茶」が好まれ理由は単純明瞭である。唐代にすでに茶の「睡魔撃退」「目覚め」効能が知られていたからである。
 次の李德裕「故人寄茶」はその代表例であろう。

  …
  碧流霞脚碎,  茶湯の碧色が流れ、霞の縁側が散らばったように、
  香泛乳花軽。  香りが浮かび、茶湯の花が軽やかだ。
  六腑睡神去,  六腑の睡眠の神が去り、
  数朝诗思清。  数日に渡って、詩の思惟が理路整然だ。
  其余不敢費,  残りのお茶は無駄にしないで、
  留伴読書行。  残しておいて読書の伴とする。

 茶の「睡魔退治」効果が強調され、「睡後茶」が流行っただけではなく、夜更かしが好きな文人には夜中のお茶も好まれた。「睡後茶」だけではなく、眠気防止の「睡前茶」にも一役買っていたのである。その例を少し見てみよう。

 司空图の「偶诗五首」
  中宵茶鼎沸時驚,  夜中に茶鼎が沸き立って驚き、
  正是寒窓竹雪明。  正に寒窓に竹の雪が明るく映されている。
  甘得寂寥能到老,  甘んじて寂寥を得て老境に至ることができ、
  一生心地亦応平。  一生の心地はまた平らかになるだろう。

 姚合「送别友人(一作别友人山居)」
  独向山中觅紫芝,  独りで紫芝を探しに山中に向かい、
  山人勾引住多時。  山人に魅了され、長く滞在した。
  摘花浸酒春愁尽,  花を摘み、酒に浸り、春愁が尽きる、
  焼竹煎茶夜卧遅…  竹を燃やして茶を煎じ、夜に臥すのは遅い…

 次の元稹「一字至七字詩(以題為韻同王起諸公送白居易分司東郡作)」は珍しい文字使いで茶と喫茶の特徴を的確に捉えた優れた詩である。
  茶。        茶
  香葉、       香ばしい葉、
  嫩芽。       やわらかい芽。
  慕詩客、      詩人に慕われ、
  愛僧家。      僧侶に愛される。
  碾雕白玉、     茶碾は白玉を彫り、
  羅織紅紗。     茶羅は紅紗を織る。
  銚煎黄蕊色、    銚で黄蕊の色を煎じ、
  碗転麴塵花。    碗に麴塵の花を転がす。
  夜後邀陪明月、   深夜に明月を招いて伴をさせ、
  晨前命対朝霞。   夜明けは朝焼けに伴をさせる。
  洗尽古今人不倦、  古今の人々を洗い尽くして倦まず、
  将知酔後豈堪誇。  まさに酔後は誇るに耐えないことを知る。

 六文字からなる対句部分はお茶を飲む時間帯を詠んでいて、現代人のように茶が睡眠を妨げるので夜の茶を避ける意識がなく、唐代人の茶を飲むタイミングは、睡眠の「前」と「後」だったのである。

 (大学教員)

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