【「労働映画」のリアル】

第24回 労働映画のスターたち・邦画編(24) 浅丘ルリ子

清水 浩之


 《156センチ、35キロ。孤高のおひとりさま「やせダンプ」の生き方に学ぶ》

 1955年デビュー、女優生活62年! 今年はNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』、テレビ朝日の昼帯ドラマ『やすらぎの郷』に相次いで出演し、新たなファン層を開拓した浅丘ルリ子さん。『直虎』では今川家の“女戦国大名”寿桂尼を演じ、裏切り者には容赦ない非情さで視聴者を震え上がらせた。一方、老俳優たちの理想郷物語『やすらぎの郷』では、“お嬢”と呼ばれる往年の大女優の役。気が強くてわがまま、心は少女のままで年をとった女性ならではの「コワ可愛い」魅力を放っている。

 デビュー直後の10代は、小林旭、赤木圭一郎など男性スターに守られる「可憐」な少女。20代から30代にかけては、都会に生きる「華やか」な美女。40代からは美しさとともに「たくましさ」をレパートリーに加え、60代以降は、こうした特徴をすべて持ち合わせた、孤高の「おひとりさま」像を確立していった。「男はつらいよ」シリーズの歴代マドンナの中でも特に人気が高い「リリー」は、ルリ子さんだからこそ成立したキャラクターで、「女が幸せになるには、男の力を借りなきゃいけないとでも思ってんのかい? 笑わせないでよ!」(『寅次郎相合い傘』1975)という名セリフを生み出した。昭和・平成の女性史としても興味深い彼女のお仕事を、労働映画の視点で辿ってみよう。

 1940年、旧満州の新京(長春)生まれ。14歳の時、映画『緑はるかに』(1955、監督・井上梅次)のオーディションに合格。原作小説の挿絵を担当していた画家・中原淳一が直々に選んだといわれる「瞳の大きい美少女」は世間の注目を集め、製作再開から間もない日活の貴重な専属女優として、多くの作品に出演するようになる。

 『絶唱』(1958、監督・滝沢英輔)、『女を忘れろ』(1959、監督・舛田利雄)など、小林旭との共演作が好評で、アキラの「渡り鳥」や「銀座旋風児」などのシリーズでヒロイン役を歴任。石原裕次郎をはじめとする男性スター中心の日活アクションで、女優は本来「お姫様」に過ぎなかったが、彼女が先輩の北原三枝や芦川いづみ、後輩の吉永小百合や松原智恵子と違ったのは、「男まさり」の度胸溢れるお嬢さんというキャラクターを独自に作り出し、ヒロインも自ら積極的に行動するようにしたことだろう。
 アキラと丁々発止の口喧嘩を繰り広げる『東京の暴れん坊』(1960、監督・斎藤武市)や、風来坊の裕次郎を追いかけるキャリアウーマンに扮した『憎いあンちくしょう』(1962、監督・蔵原惟繕)、エースのジョー=宍戸錠と組んだアクションコメディ『危いことなら銭になる』(1962、監督・中平康)などで溌溂と動き回る姿は必見。日活ムードアクションの金字塔『赤いハンカチ』(1964、監督・舛田利雄)では、裕次郎、二谷英明との「三角関係」を成立させる存在感を備えた、堂々たる主演女優に成長していた。

 「おとなの女」に変貌した後も、『愛の渇き』(1967、監督・蔵原惟繕)、『私が棄てた女』(1969、監督・浦山桐郎)、『戦争と人間』(1970、監督・山本薩夫)などで好演するが、ホームグランドの日活が斜陽期に入り、活動の場を他社作品やテレビに移す。男はつらいよ第11作『寅次郎忘れな草』(1973、監督・山田洋次)では当初、北海道の酪農家の役が用意されていたが、監督に「私、こんな細い腕で力仕事ができるでしょうか?」と訴えたところ企画が変更され、旅回りの歌手・リリーの役が生まれた。「おひとりさま男子」寅さんの生き方を理解できる「同志」のリリーは、寅さんのみならず多くのファンにも愛され、最終作『寅次郎紅の花』(1995)まで4回登場した。

 私が最初にルリ子さんを知ったのは小学生の頃。日本テレビが土曜夜9時に放送していた「グランド劇場」で、やたらに長い題名のドラマを放送していた時期があり、その第一弾が『二丁目の未亡人は、やせダンプといわれる凄い子連れママ』(1976)だった。夫に先立たれたヒロインが、夫の連れ子とともに上京し、当時急成長していたスーパーマーケット業界で働き始めるホームドラマ。身長156センチ、体重35キロ(公称)という華奢な女性だが、筋の通らないことがあれば、たとえ相手が客であろうと威勢の良い啖呵で立ち向かっていく姿が、とにかくカッコよかった。優柔不断な文学青年(石立鉄男)、粗野だが純情な兄弟(山崎努&原田芳雄)など男性陣との掛け合いも面白く、40年経った今でも忘れられない(横浜の放送ライブラリーに行けば見られます!)。このドラマ以降、我が家では彼女のことを「やせダンプ」と呼び続けている。

 1980年代からは読売テレビの鶴橋康夫ディレクターと組んで『魔性』(1984)、『最後の恋』(1988)、『雀色時』(1992)など、女性の生き方をテーマに据えた野心作を連発。70代に入ってからも、楢山節考の後日譚を描いた映画『デンデラ』(2011、監督・天願大介)で、山に捨てられた老女が熊と闘う姿を熱演した。まさに孤高の「おひとりさま」道を歩み続けるルリ子さん。これからも多くの後輩女性に勇気を与える作品を期待しています!

 参考文献:『私は女優』 浅丘ルリ子 (2016年、日本経済新聞社)

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。

◇次回のご案内 
【2017年10~11月期】統一テーマ:子どもたちと仕事
第42回 労働映画鑑賞会~子どもたちの夢と現実~
・2017年10月12日(木)18:00~(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 201会議室(地下鉄 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
・上映作品:
 『機関車小僧』(1949年、モノクロ45分)
  亡父のように機関士になりたいと願う少年が、逆境にめげずたくましく生きる姿を描く児童劇。
 『ポンせんべい』(1950年、モノクロ23分)
  ある漁村の少女の奉公話を題材に、子供の就労問題を描いた児童劇。
 詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島!9~10月
※《労働映画列島》で検索! http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/00171003

◇新作ロードショー
『ジュリーと恋と靴工場』
 《9月23日(土/祝)から 東京 新宿ピカデリーほかで公開》 閉鎖の危機に陥った靴工場。女性職人たちは“戦う女”と呼ばれる赤い靴を復活させようとする。社会的なテーマをポップに表現したミュージカルコメディ。(2016年 フランス 監督:ポール・カロリ、コスティア・テスチュ) http://julie-kutsu.com
『ハットンガーデン・ジョブ』
 《9月23日(土/祝)から 東京 ヒューマントラストシネマ渋谷ほかで公開》 2015年、ロンドンの宝飾店街で起きた強盗事件を映画化。犯人は平均年齢60歳以上、年金受給者もいたことでも話題を呼んだ事件の顛末を描く。(2017年 イギリス 監督:ロニー・トンプソン) http://www.at-e.co.jp/wwc/2017/
『ドリーム』
 《9月29日(金)から 東京 日比谷 TOHOシネマズシャンテほかで公開》 1960年代初頭のアメリカ。人種差別や偏見と闘いながら、初の有人宇宙飛行計画を陰で支えたNASAスタッフの黒人女性たちを描く伝記ドラマ。(2016年 アメリカ 監督:セオドア・メルフィ) http://www.foxmovies-jp.com/dreammovie/
『夜間もやってる保育園』
 《9月30日(土)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》 東京・大久保で24時間保育に取り組む園をはじめ、日本各地の夜間保育園を取材したドキュメンタリー。現代の家族の姿と働き方を映し出す。(2017年 日本 監督:大宮浩一) http://yakanhoiku-movie.com/

◇名画座・特集上映

◎全国
【東京/札幌/名古屋/大阪/福岡/広島】 9/30~11/12「第12回 国連UNHCR難民映画祭2017」…はじめてのおもてなし(ドイツ)/希望のかなた(フィンランド)/市民(ハンガリー)/他

◎北海道・東北
【山形市中央公民館/ほか】 10/5~12「山形国際ドキュメンタリー映画祭2017」…また一年(中国)/機械(インド)/人として暮らす(韓国)/植民地的誤解(カメルーン)/われら山人たち(スイス)/他
【青森県立美術館】 10/6~14「たむらまさきの眼<マナグ>」…竜馬暗殺/夢の祭り/ドライブイン蒲生/他

◎関東・甲信越
【新潟 シネ・ウインド】 9/23~10/6「佐藤真が遺したもの」…阿賀に生きる/狐火伝説の町・津川/おてんとうさまがほしい/他
【前橋 ベイシア文化ホール】 9/27・28「木下惠介傑作選」…二十四の瞳/野菊の如き君なりき/喜びも悲しみも幾歳月/他
【東京 池袋 新文芸坐】 9/28~10/7「ヴィスコンティとイタリア映画の傑作たち」…自転車泥棒/甘い生活/ルートヴィヒ/揺れる大地/他
【東京 銀座 メゾンエルメス】 10/1~11/26「秋の特別プログラム 衣・食・住」…みんなのいえ/マリー・アントワネットに別れをつげて/恋人たちの食卓
【東京 シネマヴェーラ渋谷】 10/14~11/3「新東宝のもっとディープな世界」…魚河岸帝國/女の一生/背広さんスカートさん/闘争の広場/他
【東京 京橋 フィルムセンター】 10/17~22「シネマの冒険 闇と音楽 2017」…東京行進曲/ふるさとの歌/明日天氣になぁれ/熊の出る開墾地/他

◎東海・北陸
【加賀市市民会館】 9/22~24「加賀市民映画祭2017」…わが青春に悔なし/酔いどれ天使/東京の合唱/他
【中津川 東美濃ふれあいセンター】 10/7・8「三國連太郎を語る映画祭」…襤褸の旗/息子/三たびの海峡/にっぽん泥棒物語/他
【岐阜市文化センター】 10/14~12/2「第39回 ぎふアジア映画祭」…ラサへの歩き方(チベット)/神なるオオカミ(中国)/歌声にのった少年(パレスチナ)/他

◎関西
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 9/30~10/6「香港・マカオ インディペンデント映画祭」…乱世備忘 僕らの雨傘運動/河の流れ 時の流れ/出稼ぎの女たち/他
【宝塚 シネ・ピピア】 10/14~18「優秀映画鑑賞会」…張込み/黒い画集 あるサラリーマンの証言/白い巨塔/他

◎中国
【島根県内10会場】 9/30~11/26「第26回 しまね映画祭2017」…五島のトラさん/湯を沸かすほどの熱い愛/この世界の片隅に/南極料理人/他
【広島市映像文化センター】 10/1~29「広島ゆかりの映画人」…綴方教室/鯨神/Shall we ダンス?/母のいる場所/他

◎四国
【高知あたご劇場】 10/14~20「渡瀬恒彦追悼特集」…狂った野獣/仁義なき戦い 代理戦争

◎九州・沖縄
【那覇 桜坂劇場】 9/23~26「川島雄三・岡本喜八特集」…洲崎パラダイス 赤信号/雁の寺/日本のいちばん長い日/他
【直方市内6会場】 10/13~15「直方映画祭2017」…花に嵐/天然コケッコー/洲崎パラダイス 赤信号/他

◇日本の労働映画百選
 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf

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