【コメント】

ヘイトスピーチについて

 江田 五月


あらゆる差別がなく、すべての人の人権が保障される社会の構築が希求されています。
21世紀は「人権の世紀」と言われて久しいですが、わが国では、刑務所や入管施設等における公権力の濫用、女性や子ども、高齢者、障がい者への虐待など今もなお人権侵害が後をたちません。それどころか最近ではインターネット上の差別情報の氾濫をはじめ、ついには差別を煽動し憎悪を浴びせるヘイトスピーチが過激化の一途を辿る有様です。民主党政権が崩壊して安倍政権になって、この傾向は一層顕著になってきました。

1993年に「国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)」が国連総会で採択されました。ここでは、人権団体、弁護士、医師、ジャーナリストなどで構成する人権救済機関を、政府から独立してつくるよう定められています。しかし日本には、政府から独立して人権侵害を救済する機関がなく、1998年には、国連国際人権(自由権)規約委員会から、人権侵害の申立てに対する調査のための独立した仕組みを設置するよう勧告されました。民主党は、国連の勧告を重く受け止め、私も深く関わって、1999年5月に内閣府の外局として「人権擁護委員会」を創設することを提言しました。そして、党内に設置した国内人権救済機関設置WTを中心に、2001年の人権擁護推進審議会の答申を踏まえて、人権救済機関の制度設計を検討し、「人権侵害による被害の救済及び予防等に関する法律案(人権侵害救済法)大綱」をとりまとめ、2002年3月に民主党ネクストキャビネットで法案大綱が了承されました。そして2002年には内閣から、2005年には民主党から、人権救済機関の設置の法案が国会に提出されましたが、いずれも廃案となりました。

そこで私が法務大臣の時に、何とかしなければとの強い思いで、百歩譲って法務省の外局として設置するの基本方針を決定し、これに沿った「人権委員会設置法案」を、2012年9月19日に閣議決定し、さらに
11月9日にその国会提出を閣議決定するなど万全を尽くしましたが、残念ながら野田内閣の衆議院解散で廃案となってしまいました。

そのような経過の中、第二次安倍内閣の成立と軌を一にして、ヘイトスピーチは過激化の一途を辿っています。私はやはり、安倍首相の右寄りの思想が差別排外行動を勇気づけていることは明らかだと思います。この現実をみかねて、国連人種差別撤廃委員会は今夏日本に対して、ヘイトスピーチと人種差別につき、具体的な対応を求めました。超党派で民主党の小川敏夫議員と有田芳生議員が中心となって「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策に関する法律案」を準備しましたが、過去の侵略を否定し「日本の伝統と誇り」を取り戻そうとする歴史修正主義に立つ右派組織「日本会議」のメンバーが閣僚の中で多数をしめる安倍政権では、こうした提案は一顧だにされません。

 国際社会から示される日本の人権状況の打開は、安倍政権打倒なしには実現できません。そのようなときに、安倍首相は大義なき解散に打って出ます。一泡吹かせたい思いでいっぱいです。
            (民主党最高顧問・参議院議員・元法相)


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