フォーカス:インド・南アジア(19)

【コラム】
フォーカス:インド・南アジア(19)

福永 正明

<一>

 本連載では、日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出事業について、反対の立場から問題を取りあげている。
 前号(8月号)末では、英保管の日本プルトニウムと日立事業が関連する「大ディール」について本号で扱うと予告した。しかしながら、前号以後の新状況について説明しよう。

●原発建設事業からベルテル社が脱落、コンソーシアム崩壊
 2016年、日立の完全(100%)子会社で新規のウィルヴァ原発建設の権利を有する電力事業会社ホライズン・ニュークリア・パワー(以下、ホライズン社)は、原発建設のため3社企業体(コンソーシアム)である「メンター・ニューウィッド」を形成した。このコンソーシアムは、ホライズン社、アメリカの建設大手であるベルテル社、日本のエンジリアニング大手である日揮により形成された。原発建設の実績あるベルテル社がコンソーシアムの軸となり、総工費3兆円(当初は1兆円、本年5月以降に導入が決定したリスク費を加算すると3兆5千億円)工事の設計と建設を引き受け、中核的な役割を担うとされてきた。

 しかし、日立の当初工費予算見通しより、ベルテル社の建設費見通しが高く、工事の価格について対立解消ができず、3社コンソーシアムは解体した。ホライズン社の声明では、今後はベルテル社が新たに「原発の設計や建設業務の統括者」の役割を果たすとする。しかし、それは間接的なコンサルティング事業としての計画参加であり、当初の3社コンソーシアムでの役割とはまったく異なる。すなわちこの決定・発表は、ベルテル社が「建設工事の当事者」から脱落、役割を低下させて「助言役」でしかないことを意味する。極めて重大な新事態であり、いよいよ日立は重大な窮地に追い込まれている。

 日立は、2012年に英原子力電力事業会社ホライズン社を買収、原子炉売却と商業稼働後の利益獲得を目論んでいた。しかし今般の変更により、原子炉から建屋、関連施設まで、原発全体の建設事業を担当するが、これは日立にとっては日本国内でも経験のない、初の事業領域となる。
 専門家たちは、原発建設に関するノウハウは日立には少なく、またベルテル社以外にウィルヴァ原発事業に新規参加する大手企業は現れないであろうとされる。これは、原発建設の複雑・特殊性による。原発建設には特有ノウハウが必要とするからである。

 また東電福島第一原発事故後は安全基準変更が続けられており、それでなくとも原発建設は、複雑な業者間の契約、現地住民との土地収用や雇用関係、国の原子力規制機関、地元自治体への許認可申請、さらに避難計画や地域振興協力など数え切れない程の業務があり、深刻なリスクがある。そのため世界のほとんどの原発建設事業では、まず計画発表から着工までが遅れ、さらに工事期間の延長が続く。
 さらにたとえ工事が開始されたとしても、完全に終了して商業稼働が開始できるかどうか、つまり工事の「完工リスク」が非常に高い。東芝のアメリカの子会社ウェスティン・ハウス(WH)社が、建設中原発の工期遅れから莫大な赤字を計上、それが本社の経営危機へと拡大したことは記憶に新しい。

 実際、日立が建設予定のウィルヴァ原発は、「2020年代はじめに着工」とされていた。だが、日立のホライズン社買収から既に6年が経過したが、日立は2019年内に「事業最終決断」を行うとされる。8月のメディア報道では、現段階で日立が英原発事業から撤退した場合の損失は2,700億円とされる。日立関係者によれば、撤退予測として4,000億円限度と考えているとも言われている。

 何のために事業を続けるのか日立社員たちには不明であるとされ、かつ社内には危惧や不満も多い。しかし日立の中西会長は英原発事業へ突進しており、「インフラ輸出による原発建設」を最重要視する官邸の意向により、原発推進派トップの経団連会長に就任できたとされる。中西氏は、本年5月に訪英してメイ英首相と直談判により問題解決を図ったが、6月4日に英議会で発表されたのは「英政府は日立と基本交渉を開始する」との内容だけであった。
 すでに日立の英原発事業は自滅の道に陥り、転落へ向かう。

<二>

 日本は、原発での使用済み核燃料からプルトニウムを取り出し、資源として再利用する「核燃料サイクル」を推進し、破綻の寸前にある。これまでサイクルを完結させるため、プルトニウム保有が、日米原子力協定で核兵器保有国以外では唯一認められた。
 日米原子力協力協定が、30年の有効期間が7月16日に終了し、期限を定めない自動延長となった。この日米原子力協定の期限到来を前にして、国内外で大きく話題となったのは、「日本保有のプルトニウムが47トンを超える」ことであった。日本政府は、1991年以来「必要な量以上のプルトニウムを持たないようにすることを原則とする」が、余剰プルトニウムは増え続けている。保有量は現在47トン。この数量は、原爆換算するならば約6,000発分に相当する。

 各電力会社の原発で燃焼した使用済み核燃料は、イギリス、フランスに運ばれ、再処理が行われ、MOX燃料(混合酸化物燃料の略称、原子炉の使用済み核燃料中に1%程度含まれるプルトニウムを再処理により取り出し、二酸化プルトニウム(PuO2)と二酸化ウラン(UO2)とを混ぜてプルトニウム濃度を4-9%に高めた核燃料)として生成されて日本に戻される。
 英保管現状は、日本の保有プルトニウム約47トンのうち、約20.8トン(第27回原子力委員会資料 2017年8月1日)である。海外保管分プルトニウムは、各電気事業者の資産であり、一義的な管理責任は各電力事業者にある。

(図版 177_05-10-01 表示 ↓図版下にタイトル)
  分離プルトニウムの管理状況

 日本保有の余剰プルトニウムの増加の対策として、英政府が「引き取り」を提案したことがある。
 すなわち、2012年12月21日の第56回原子力委員会臨時会議(http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2012/siryo56/index.htm)に招かれた英国大使館一等書記官と英企業駐日代表は、次の通り述べている。

・駐日英国大使館  オッペンハイム一等書記官
 「オプションとしては2つになりますけれども、1つは今と同じようにプルトニウムを貯蔵して、またイギリスがMOXプラントをつくったときにMOXにして日本に送りますというオプション。もう1つはさっきと同じようにイギリスが所有権を取得しイギリスのプルトニウムと一緒に管理するというオプションです。」

・INS Japan(International Nuclear Services)クラウザー社長
 「イギリスでプルトニウムを所有することによって、今度はイギリス所有のプルトニウムの在庫として扱うことになり、MOX工場をつくればMOXに変えて今後発電所に装荷することになっていますが、当然イギリスが所有するプルトニウム量がふえますので、処理する追加的な費用が発生します。ですから、所有したときに長期的な費用を見込んで、実際に所有することによって、イギリスの納税者に追加的な負担が起こらないような金額にするという判断です。」

 要約するならば、「英保管プルトニウムの引き取り」は、日本が保管料プラスMOX燃料工場建設費も含めた引き取り料を支払うことにより、実現される。その額とは、イギリス国民の負担を増やすことのないようにする額である。引き取りが実現すれば、仮にMOX燃料として加工後に日本へ運搬する経費はなしとなり、イギリスでの保管、警備、加工費用は増加するのだから、「引き取りに見合う額」が日本から支払わなければならない。

 47トンの日本保有プルトニウムの最も現実的な削減方法が、英仏保管分を日本が手放すという案である。既に英国内に保管されているのだから、書面での合意により行われるだけである。さらに英国内プルトニウムが増加することもなく、逆にMOX燃料となるプルトニウム原料を確保出来るメリットがイギリスにはある。
 しかし、英保管のプルトニウムは、日本の各電力事業者の資産であり、手放しは負債増加を意味する。何らの対応策もなく手放したならば、各事業者の経営は悪化し、赤字転落は確実である。

 では解決方法はないのであろうか。一つの方法として、国が新たな第三者「機構」を立ち上げ、そこに資金投入しておき、それを財源として各電力事業者から保有するプルトニウムの譲渡させる。この根拠となるのは、原子力基本法第13条の国が買い取りを命ずる権限である。「第十三条 政府は、前条に規定する規制を行う場合において、別に法律で定めるところにより、核燃料物質を所有し、又は所持する者に対し、譲渡先及び価格を指示してこれを譲渡すべきことを命ずることができる。」
 また既に各電力事業者間国内電力事業者間(東電がフランス保管の約40㎏を北海道電力)、海外会社との(2013年、東電から核分裂性プルトニウム:約430kg)帳簿上の交換を実施したことがある。

 英保管プルトニウムは20.8トンもあり、その引き取りが実現したならば、日本への国際社会からの余剰プルトニウム保有批判も鎮静化できるであろう。
 さらに英引き取りを応援するのが、2018年7月31日の原子力委員会決定、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」である。第3項において、以下の通り明確に述べる。

(図版 177_05-10-02 表示)

 まさに、海外保有分の削減とは、英引き取り交渉への具体的着手しかない。
 ここで確認するべきは、日英原子力協定の改定協定が秘密とされていることである。英保管プルトニウムの引き取りには、当然ながら日英政府間での何らかの合意が必要であり、その基本は原子力協力協定である。既に、英引き取り策の具体的な交渉が開始されているのではないか、との疑念は残る。
 そして、巨額の建設工費について、5月に突然にもメイ首相が「2兆円の英政府融資・保証」を約束したことも疑念だ。つまり、日本政府と英保管プルトニウムの引き取りについての取引として、日本側が「2兆円を上回る引き取り経費支払い」を約束しているとの疑惑もある。

 大きな隠れたディールとして、日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出、英保管プルトニウムの引き取りをめぐり両国政府の「秘密交渉」が進んでいるのではないか。
 さらに徹底的な解明を続けるが、あくまでも日本からどこへも原発を売らないとの姿勢から、本問題を追及したいと考えている。

 (大学教員)

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