中国短信

バブルは崩壊させるべき

   
                               趙 慶春 


 現在、習近平首脳部は国家としての強大さを国内外に誇示しているが、それとは裏腹に国のかじ取りは、かなり難しい局面に立ち至っていると言えるだろう。

 役人たちの腐敗撲滅に躍起になっているのもその一つだが、習近平が目指すものが単なる腐敗撲滅でないことは言うまでもない。国民の不満を抑え、共産党一党独裁体制を守る、習近平自身の地位の安泰化を図るために対抗勢力を追い落とす、バブル崩壊の危険性を少しでも回避するといった複合した目的がそこにはある。 
 そこで今回は、中国のバブル崩壊について考えてみたい。

 腐敗撲滅がなぜバブル崩壊と結びつくのか?
 中国では不動産開発などの事業が始まれば、地方政府の役人にはそれなりの金額が渡るのは常識と言っていいだろう。それが中国だと言っても過言ではない。そうしたお金は、現在はシャドーバンキングを通して役人たちに流れ込むことが多くなってきている。そして腐敗を防ぐためにこのシャドーバンキングからの資金が役人に流れないように厳しく制限しているのが現状である。ところが強く引き締め過ぎると、景気後退を招き、バブル崩壊の危険性が高まってしまうというわけである。

 これを見ただけでも、腐敗撲滅でまっしぐらに進めない危うさが潜んでいることが窺える。金融を緩めると腐敗がはびこるのは目に見えていて、まさに進むか、退くかは手探り状態にあることがわかる。

 しかし中国の不動産市況が悪化してきているのは間違いなく、主要都市ばかりか地方都市でも特別の例外を除いて価格が下落してきている。今後、中国の経済の行方は不透明だが、はっきりしていることは、経済成長率は鈍化するということだろう。最悪の場合はそう遠からず、バブル崩壊が起きる可能性も決して小さくないと思われる。

 バブル崩壊を経験してしまった日本で生活している筆者としては、まるで日本の後を追いかけているように見える中国がどうしても気になってしまう。しかもこうした中国経済の不透明感ゆえか、中国人のなかには日本の別荘を購入しようとする動きがある。事実、筆者も中国から訪れた友人につき合って熱海、箱根、伊豆、那須などの不動産物件をかなり見たことがある。
 事前にインターネットで探し、物件をリストアップしてから現地見学、条件交渉、契約という流れだが、ネット上の詳細なデータや写真と、現物との落差が非常に大きい物件もかなりあった。しかもいくつもの物件を見ていくうちに、日本のバブル崩壊の前と後での建築物に違いがあることに気がつき始めた。いくつか具体的に感じたことを列挙してみる。

 バブル絶頂期以降の建築物では、築20年前後ですでに到底住めそうもない物件がかなりの数にのぼっている。むろんこの間の利用の仕方や手入れの方法にも関わっていることは言うまでもないが、それにしても痛み方が酷いものが多かった。それに比べてバブル崩壊以前の昭和物件には平成物件よりずっとしっかり建築されているものがかなり多く存在しているのには驚かされた。要するに基礎や骨組、梁や天井などに細かな目配りがなされ、建築資材もしっかりしているのである。

 日本の後を追いかけているように映る中国の現状を考えると、日本が経験したバブル崩壊を是非とも学ばなければならないと思わずにはいられない。つまり日本でさえバブル絶頂期から崩壊にかけて、どうやら建築物の品質が落とされていたようなのだ。中国でのバブル崩壊については日本でもよく報道されてきているが、国外での見方と中国国内のそれとには温度差がかなりあって、中国国内ではまだ「中国の人口が多く、購買力もあり、不動産を持つ意欲も強く、バブル崩壊はない」というとらえ方が根強い。

 しかし、バブル崩壊の前兆とも言える品質の問題はすでに頻繁、かつ広範囲で現れている。黒龍江省や河南省では完成間もない橋が崩落し、上海では建設中のビルが倒壊している。そのほか、築年数が浅い建築物のベランダが落ちかかったり、設備が故障するなどの現象は枚挙にいとまがない。奇妙なことに、こうした現象に対する中国人の反応は、自分の不動産価値の下落を危惧する声は聞こえても、住宅の品質そのものへの危惧の声はほとんど聞こえないことである。

 あるいは「バブル崩壊」のとば口に立っているのかもしれない現在、日本の経験を学んで、今こそバブルに備えて国・業者・消費者が連携してその対策に乗り出さなければならないのではないだろうか。その具体的な施策としては、
 
一、国の監督・検査基準の「細部化」「明瞭化」が求められる。
 国の建築基準及びそれに関連する検査基準の改正は簡単ではない。しかし、中国での「おから工事」、つまり「豆腐渣工程」は悪名高い。その原因を「役人の横領・収賄などの不正」、「悪徳建築業者」、「多重下請、最終施工者が臨時雇用の農民工という工事過程の問題」などに帰されることが多い。しかし検査基準にまで及ぶことは極めてまれである。

 筆者が検査基準の「細部化・明瞭化」を求める理由は、「おから工事」では目に見えない部分にこの悪名高い手法が使われるからである。したがって検査基準の「細部化・明瞭化」が実現すれば、検査の形骸化に歯止めがかかるだけでなく、不正を暴きやすくなる。さらに入居後、何らかのトラブルが起きたとき、責任の所在を明確化させ、消費者の泣き寝入りの減少にも繋がるはずである。
 
二、建築業者は高品質の堅守を貫く信念が求められる。
 バブルによる好景気観に乗って利益の最大化を追求するあまり、品質を落としてのコストダウン化した業者はバブルが崩壊した後には生き残れないことは日本ですでに証明済みである。

 こうした時期だからこそ、必要コストは惜しまず、自社の高品質を守る信念が必要である。自社の「品質」堅守こそが生き残りに繋がり、発展していく鍵となる。
 
三、消費者の連帯が求められる。
 日本の別荘物件を回っていて気がついたことは、別荘管理会社は未来永劫、管理を続けるとは限らないということだった。たとえば管理会社が倒産してしまえば、住民たちは自主管理に切替せざるを得なくなる。ちなみに管理費は道路や周囲の環境整備に使われるのが一般的で、管理会社のトラブルがそのまま住民の住環境、生活のレベル維持にストレートに影響が及ぶことになる。

 中国では不動産開発の歴史がまだ浅いため、管理会社自体の倒産などはまだ目立っていないが、バブルが崩壊すれば、管理会社がまともに影響を受けるのは明らかで、トラブルは必至である。その時、地域住民は連帯して自分たちの権益を守らなければならない事態が起きるに違いない。ところがマンションや分譲住宅を購入する人たちは、昔ながらの隣近所のつきあいが希薄となり、むしろ近隣関係が疎遠となりつつあるのが現状である。
 今こそ「向こう三軒両隣」式の利益共同体であるべきで、分譲マンションの自治会の組織化は是非とも進めるべき課題だと思われる。

 かりにバブルが崩壊すれば不動産の値崩れだけでは済まず、建物、住居環境の品質崩れも間違いなく襲ってくる。そうだとするなら「バブル崩壊」を戦々恐々として待つのではなく、崩壊回避の努力を惜しまないのは言うまでもないが、「崩壊」後の影響を最低限に抑える準備も進めておくべきだろう。いや、極言すればより深刻なダメージを受けるより、むしろみずからの手で少しでも早く「バブル」を崩壊させてしまった方が、現在の中国を見るとむしろ良いのかもしれない。

 (筆者は大学教員)


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