【コラム】酔生夢死

セコっ? でもメじゃねえよ

岡田 充


 いつもの袋叩きが始まった。今度の生け贄は「セコ添」こと、舛添要一東京都知事である。家族との温泉ホテル料金を政治資金として計上したことに始まり、公私混同の公用車利用、果てはスーパーで買ったすき焼き肉や野菜、子供用の漫画『クレヨンしんちゃん』まで、政治資金収支報告書に記載したことがバッシングの理由である。

 セコさは半端じゃない。カネに「細かくてみみっちい」ことこの上ない。しかしテレビや全国紙が「疑惑」を大々的に報じ大騒ぎすればするほど、「ちょと待てよ…」と思う。法外な値段の飲料水代を政治事務所の政治資金として計上した農水大臣、自分の写真をラベルにしたワインを選挙区の有権者に配った経済産業相など、疑惑がらみで辞職した大臣は大勢いる。

 メディアがスクラムを組んで袋叩きした果てに「首をとる」と、TVリポーターや評論家が「繰り返される政治とカネの問題。どうにかならないのでしょうか」と、したり顔で眉をひそめてみたりする。あれっ、同じセリフ何度も聞いたよな…「セコ添」を弁護するつもりは全くない。ただ彼の首をとって、また「憂さ晴らし」で終わるのか?

 政治資金とは「政治家が活動するために使われるカネ」を指す。でも政治資金の具体的な定義がないから『クレヨンしんちゃん』や、自分用の絵画を購入しても「不適切だが違法ではない」。政治資金規正法がザル法と言われる理由の一つ。

 キャメロン英首相や習近平・中国国家主席の近親者が、カリブ海の「タックスヘイブン」(租税回避地)に会社登録して税金逃れしたことが問題視された。
 「パナマ文書」だ。日本のいくつかの企業や経営者の名前が取りざたされたが、不思議なのは日本の政治家の名前が一切出なかった。なぜか。

 そのわけは政治資金規正法に守られた日本の政治家は、カリブ海の国に会社登録しなくても、「税金逃れ」の道があるからである。マネーロンダリング(資金洗浄)の抜け道といっても言い過ぎじゃあない。ザル法に根本的にメスを入れない限り、「セコ添」はまた出る。

 疑惑報道を目にしながら「ヤベっ、注意しなくっちゃ」と一瞬凍り付いた同類政治家は多いはず。政務調査費から約300万円を支出、号泣した県会議員なんて氷山の一角。甘利明・前経済再生相は「口利き疑惑」で大臣を辞職し「睡眠障害」を理由に国会を休み続けた。「不起訴処分」が決定し、メディアが舛添疑惑で大騒ぎしている隙を突いて、ちゃっかり復帰記者会見した。「舛添ってセコっ! でもメじゃねえよ」という「巨悪」の声が聞こえるようだ。

 (筆者は共同通信客員論説委員・オルタ編集委員)


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