【沖縄の地鳴り】

むき出しの「人質司法」

大山 哲


 沖縄本島北部の辺野古キャンプ・シュワーブゲート前や、ヘリパッド建設の進む高江の北部訓練場前で、長期間、基地建設反対行動を続ける市民団体のリーダー的存在の山城博治・沖縄平和運動センター議長ら3人の活動家が逮捕・長い間勾留され続けた。
 その間、弁護士以外とは、家族との接見は3月13日になって一度だけ許されただけで、18日になってやっと保釈された。実に5ヵ月近くになる。まるで、重罪人扱いの異常な拘束である。

 「辺野古が唯一の解決策」と、一方的な理由付けを繰り返し、政府は強引に、新基地建設に着手した。海面に大型セメントブロックを投下。やがて岩礁破砕、土砂埋め立てへと進んでいく。美しい辺野古の海は、ひん死の瀬戸際に立たされている。
 一貫して「辺野古に新基地は造らせない」と必死に反対、抵抗する翁長県政に対し、しつこく「国には従え」と、あらゆる揺さぶりをかけ、窮地に追い込む。その一方で、政府にとって排除すべき最大のターゲットは、基地反対の市民運動である。山城議長の逮捕は見せしめで、長期勾留は、運動を萎縮させる恣意的な強権発動の典型と受け止められている。

 山城議長への罪状は、威力業務妨害、器物損壊、公務執行妨害の3件だ。強力な警備陣の規制や強制排除の過程で発生した、軽微な違法行為である。
 にも拘らず、4ヵ月間も長期勾留されている山城議長らの保釈申請を、捜査機関と連動して最高裁(第2小法廷)は2月20日に棄却したのだ。
 この措置には、県民の間から「権限乱用の人権無視」「人権を守るべき司法の役割放棄」と批判の声が燃え上がった。
 昨年の辺野古訴訟に関する高裁判決で「地理的優位性の観点から、辺野古が唯一の解決策」の文言が盛り込まれ、司法が政治的判断まで行うのか、と物議をかもしたのは記憶に新しい。政府に加担する司法への不信感が一挙に募った。

 山城議長らの勾留については、すでに2016年12月20日、全国の刑法学者41人が「違法性は極めて低い」として、即時釈放を求める声明を出した。さらに、罪を認めるまで長期に勾留を続けるのは「人質司法」になると憂慮した。元東京高裁裁判長の木谷明弁護士も同様の見解で、「基地反対運動への弾圧と言われても仕方ない」と明言している。
 アムネスティ・インターナショナルなど国際、国内の人権団体も相次いで、山城議長らの長期勾留は「国際人権基準に反する」と、日本政府に法の順守を求めている。
 県内、国内でも、山城氏らの即時釈放を要求する行動が、各地で開かれた。2月24日には、約2,000人が那覇地裁前に押しかけ、「長期勾留は人権侵害だ」「政治弾圧はするな」と連呼。4万人以上の署名簿を提出した。

 那覇地裁は、3月17日に山城氏らの初公判を開いた。接見や保釈を一切認めなかった理由は何なのか。少なくとも法のうえでは証拠隠滅や逃亡の恐れのあるケースに限られるはずだが、山城氏はいずれにも該当するとは思われない。裁判所は「人質司法」だとの指摘や批判に、明確に答えるべきだったのだ。

 昨年12月10日の安倍首相とトランプ大統領との初の日米首脳会談。華々しいセレモニーで蜜月ぶりを演出した。懸命にトランプにすり寄り、色濃く日米同盟の強化を確約した安倍首相は、満面の笑みを浮かべた。
 共同声明で、わざわざ「辺野古」の文言を盛り込み、新基地建設への強い意欲を確認。尖閣諸島への日米安保条約第5条の適用を取り付けたことで、日本側は「安堵」した。その瞬間の沖縄は、基地強化への失望と不安感が広がったのだ。あまりにも対照的な反応であった。

 日米首脳会談直後の全国世論調査(共同・2月14日)で圧倒的多数の70.2%が「よかった」と回答。首相への評価の高さをうかがわせていた。
 注目されるのは、辺野古の新基地建設について「継続すべき」が48.2%、「中止すべき」が41.0%と、容認派が多数を占めたことである。沖縄では、各種の選挙や世論調査を通して、圧倒的な民意が新基地反対で示されてきた。
 沖縄と全国の温度差や落差の大きさを、世論調査の結果から痛感するが、この現実を受け止めたうえで、辺野古の反基地の闘いをどう進めていけばいいのか。まさに正念場である。

 「もう沖縄は終わった」との冷めたムードが漂っているが、そんな中でも基地問題の本質は、逆に深刻さを増すばかり。先送りすればするほど、マグマが噴出する一方だ。
 「軍事要塞の沖縄」は、問題が辺野古や北部訓練場など、海兵隊だけに限らない。極東最大の嘉手納空軍基地、原潜寄港のホワイトビーチ、陸軍特殊部隊のトリー・ステーションなど重要基地が占拠している。おまけに「島しょ防衛」を旗印に、自衛隊の配備増強も加わる。

 連日、嘉手納をはじめ、いずこかで基地にまつわる市民のアクションがあり、日常風景になっている。辺野古では、山城議長の長期勾留での不在の間も変わることなく、基地ゲート前での抗議行動、海上カヌー隊による粘り強い阻止行動が続けられている。
 終わりのない闘いなのだ。

 (元沖縄タイムス編集局長)


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