≪連載≫海外論潮短評(81)

これからのドローン(無人機)戦争 — 無人攻撃機拡散のもたらす危険

初岡 昌一郎

 アメリカの国際問題専門誌『フォーリン・アフェアーズ』3/4月号に発表された表記の論文はこれまでの戦争観と安全保障論を根底から再検討をせまるドローン(無人攻撃機)の拡散を分析、その深刻な危険性を指摘している。

 二人の共同執筆者はいずれも米外交評議会(同誌の編集・発行元)に所属する研究者。その一人、サラン・クレプスはコーネル大学行政学助教授であり、もぅ一人のミカ・ゼンコは外交評議会予防行動センター研究員である。論旨を簡略に紹介した上で、若干のコメントを付加する。

=================================
アメリカによる無人機独占は既に崩壊過程に — 急がれる国際的規制
=================================

 第二次世界大戦中に、アメリカ空軍のヘンリー・アーノルド将軍がドイツのUボート基地や他の強固に防備されたドイツ軍拠点を攻撃する新戦術を開発した。それは、旧型のB17とB24爆撃機を遠隔操作用に改造し、爆薬を搭載する無人爆撃機に仕立てたものである。

 その成果は注目されるものではなかったが、アーノルド将軍は「将来の戦争は無人機によって行われるだろう」と1945年に書いていた。約70年たった今日、彼の予言が次第に現実化している。

 これまでのところアメリカは無人攻撃機利用において相対的な独占を維持してきたが、もはや長期にこれを続けることはできない。他の国家が急速にキャッチアップしている。この新兵器は、核兵器や弾道ミサイルのように国際システムを根本から変えるものではないが、世界を極めて不安定なものとし、非常に深刻な危険をもたらしかねない。

 ある国が無人攻撃機を保有することは、敵対国が同じように無人機を保有するのを抑止することにならない。また、無人機の利点が攻撃側のパイロットや兵員を生命の危険に曝さないことにあり、これが武力行使のハードルを引き下げることになる。アメリカの実例に触発されて、他の国々も無人機攻撃作戦を導入する。当分のところアメリカの優位は揺るがないとしても、過去の例が実証しているように、他の国も既に応用されている軍事能力を速やかに採用し、間もなく追いつく。

 アメリカが無人爆撃機の利用拡散を制限する戦略を追求するのを怠るならば、そのツケは大きい。アメリカが指導力を発揮すること無しに、武装無人機利用を制限するための信頼できる国際的取り決めをおこなうのは極めて困難だ。時間がたつにつれ、規制を生み出すために必要なアメリカの影響力は失われる。

=================================
増加一途をたどる無人機保有国
=================================

 現在いくつの国が無人機を保有しているかを判断するのは困難。これらのプログラムは不可避的に守秘と誤報をともなう。いくつかの国は奇襲攻撃力を保持するために無人爆撃機保有を隠匿する。逆に、自分の威信を過大に顕示するために、運用能力を実際以上に誇示する国もある。

 これまではアメリカ、イスラエル、イギリスのみが無人機攻撃を利用してきた。
なかでもアメリカの無人機プログラムが最大規模。2008年以来、アメリカは1000回以上の無人機爆撃をアフガニスタンで遂行してきた。2008年から2012年までに、アメリカは48回の無人機攻撃をイラクで行った。2011年には、145回の無人機攻撃をリビアに対して実行した。

 伝統的な戦場における無人機攻撃の利用よりも問題視され、議論が多く行われているのが、頻繁に行われてきた戦場外利用である。それにもかかわらず、ワシントンはパキスタンで約400回、イエーメンで100回以上の無人機攻撃を行っている。また、ソマリアで18回、フィリピンで少なくとも1回(2006年)の攻撃が行われた。

 イギリスとイスラエルも数は少ないが武装無人機を配備している。イギリス軍は2013年7月までにアフガニスタンで299回の無人機爆撃を行った。イスラエルとパレスティナの人権団体の合同調査によると、イスラエルの無人機は2008−9年のガザ紛争中に42回の爆撃を実行した。イスラエルはまた、エジプト政府の同意のもとに、2013年8月、テロリスト容疑者を標的にシナイ半島で無人機攻撃を複数回行った。

 無人機を配備している国は現在のところまだ比較的少ないが、その他の国がキャッチアップを計っているので、その数は増える。アメリカ政府によって公表された最新のデータによると、2004年には41ヶ国が無人機を保有していただけだが、2012年には76ヶ国に増えている。民間防衛産業コンサルタント会社の推定によると、2005年当時、向こう10年間の無人機配備費の90%がアメリカによる支出と推定されていたが、最近の推定ではアメリカのシェアは64%に低下している。

 前記3ヶ国以外では、中国とイランが無人爆撃機運用能力を持っているとみられる。中国は過去5年間に様々な無人機をメディアに対して公開している。今や無人機予算が伸びており、2020年にはその額がアメリカ並みに達するであろう。イランは2000キロの航続距離を持つ無人機を発表しており、これは中東のほぼ全域をカバーしうる。

 インド政府は現行無人機爆撃能力の精度を向上させ、テロ容疑者に対する越境攻撃のために大量の無人機を保有する意欲を持つと伝えられる。パキスタンもそのライバルに負けずに、中国の支援を受けて独自の武装無人機の開発を宣言した。トルコは現在24機を保有ないし開発中である。オーストラリア、日本、シンガポールが監視警戒用の無人機を開発しているが、それらは尖閣諸島などの紛争地域で他の軍事利用に転用しうる。

=================================
果たして無人機は夢の兵器か
=================================

 武装無人機の在来型空軍力に対する優位性から見て、ますます多くの国がそれを保有・使用しつつあるのは驚くべきことではない。しかしながら、無人機戦争のコストを仔細に検討すると、明らかな疑問が生ずる。

 第一に、無人機利用には依然としてリスクが多い。それらは武力行使の入口を容易にするかもしれないが、通常兵力の行使に取っては代われない。中国やイランなどの国がこれまで武装無人機を使用していないのは、その展開を正当化するような大きな国際紛争に巻き込まれなかったからにすぎない。しかし、これらの国が深刻な軍事紛争に直面すれば、指導者は無人武装機利用のエスカレートに踏み切るかもしれない。

 無人機技術は一見するよりもはるかに複雑である。第二次世界大戦中に利用された初歩的な無人機や1990年代にバルカン半島上空を飛んだ非武装偵察用「プレデター」機と、今日アメリカがアフガニスタン、パキスタンなど各地に展開している武装無人機には質的な相違がある。

 先進的な無人機が効果を上げるためには、基地のパイロットからの誘導操作以上のものが必要とされる。実効ある行動を可能ならしめる情報、高度なコミュニケーション技術、衛星通信へのアクセス、複雑なシステム技術が不可欠で、これらはほとんどの国が現在のところその手に届かないものである。先進的な無人機を保有している国が、核兵器や衛星通信のような高度軍事技術を既にマスターしていることは偶然の一致ではない。

 無人機の拡散を抑える第三の理由は外交上のものだ。アメリカが行なっているように国外で無人機攻撃を実行するためには、基地や上空飛行権を容認する、良好な二国間関係が必要。ソマリアにおける無人機爆撃のためには、ジブチ、エチオピア、サウジアラビアおよびセイシェルズにおける飛行場の利用が必要であった。アメリカは援助と安全保障上の約束によってこれを確保している。

 さらに、国内での無人機開発やその利用に対する反対が技術的な能力を有する国でも問題である。例えばドイツ。無人機導入に賛成する政治家は、戦後ドイツに一貫する専守防衛原則が曲げられることを懸念する、国民的な批判に直面している。強力な無人機による殺傷能力の開発が、軍事介入への衝動をさらに高めると多くの人が批判している。

 軍事予算が抑止の最後のファクターである。世界的な規模での民事的軍事的無人機市場は、2018年末までに1兆9000億ドルに達するとみられる。しかし、ほとんどの国が財政赤字の補填に追われ、軍事費の削減が求められている現状では、無人機コストの容認は政治的に困難である。予期しない脅威に直面しない限り、これらの国が貴重な資源を高価な無人機システム導入に近い将来振り向けるとは思えない。

=================================
敵対的な行動が緊張を高め、武装無人機を拡散
=================================

 以上のような障害が無人機保有国数を制約すると思われるが、武装無人機の保有国がわずかでも増えることは国際的安全保障に深刻な脅威を与えることになる。

 無人機の保有自体は伝統的な国家間戦争を減らすというよりも、既に稀になっている国家間戦争を増加させる作用がある。武装無人機の限界から見て、その導入自体が戦争開始、外国領土の征服、外国指導者の権力からの追放にむかうものではない。しかし、武装無人機導入は限定的な軍事紛争の可能性を増大させる。特に紛争地域では、些細な挑発が戦闘拡大につながりかねない。

 対立・緊張関係においては、通常ではありえないような行動に軍部が出ることを無人機が誘発する危険がある。中国は既に域内に無人機を飛行させており、これに対抗して日本の防衛省は具体的な対無人機作戦を練っている。日本政府高官は、中国の無人機を有人機よりも躊躇なく撃墜できると言明している。同様な力学は、イランが米国の有人武装機は慎重に避けながら、無人武装機を射撃したペルシャ湾でも見られる。

 武装無人機が誤算と軍事的エスカレーションの蓋然性を高めることが、特に海事紛争において憂慮されている。東シナ海と南シナ海において、民族感情の高揚と未開発石油・ガス資源の発見が沿岸諸国間の国境をめぐる武力紛争を既に現実にしている。これらの国が無人機をこの地域に展開するならば、パイロットによる武装爆撃機を展開するよりも軍事衝突の危険が増大する。偵察監視用の非武装無人機の拡散でさえも、他のタイプの武器による致命的な攻撃の危険を増大させる。

=================================
新しい希望を求めて — 規制と拡散阻止のために米政府は行動を
=================================

 無人機の魅力、拡散、安全保障上の影響から見て、無人機人気上昇の最悪の結果を抑制するためには、アメリカと他の保有国政府が為しうることは何か。まず、無人機を広範囲に利用している唯一の国アメリカが、その利用と輸出を自制すべきである。

 次に、無人機による暗殺方針を再検討すべきである。独立した検討委員会がその掘り下げた検討のために設置されるべきである。行政府に無人機攻撃政策を任せてきた議会は、反テロ目的や他の攻撃のため無人機利用に関して、広範な公聴会を開催し、規制にもっと積極的な役割を果たせ。

 しかし、アメリカ単独では無人機拡散を防げない。国際的な協調と情報公開原則を達成する方策が追求されなければならない。オバマ政権は、いかなる対価を払ってもテロを制圧するという、ポスト9・11的な軍事方針を放棄すべきである。

 無人機の危険と不利益がますます明白になりつつある現在、ワシントンは無人機攻撃依存が、かつて考えられていたよりもはるかに複雑なことを認識すべきだ。

 1980年代と90年代に弾道ミサイルが拡散した時に、巨大な破壊力を迅速に伝送する前代未聞の能力が新しい脅威となることをアメリカは理解した。そこで、輸出規制、多角重層的な議論と交渉、ミサイル移動の阻止を通じて、ワシントンはその拡散と利用を管理する一貫した努力を行った。

 今日の無人攻撃機は当時の弾道ミサイルほど安全保障上の脅威とまだ見られていないが、その利用能力を獲得する国が増えるにつれ、危険は増大する。その拡散を阻止する方策が早急に採られないならば、長期的にみてグローバルな安全保障が次第に損なわれてゆく。

========
■ コメント ■
========

 無人攻撃機拡散がもたらす直接的かつ最も危険な脅威は、戦闘と爆撃開始のハードルが低くなり、武力紛争の抑止がより困難になることである。攻撃側が要員を生命の危険に曝すことなく、しかも“限定的に”に敵側に打撃を与える目的のために、無人機爆撃を利用する誘惑がましている。主観的には“限定的”攻撃でも、もし相手が反撃すればエスカレートは必至で、限定性は瞬時に失われる。

 対テロ戦争という名目で、無人機攻撃を他国領土での作戦に利用することが許容されるならば、問題は主権侵害というレベルにとどまらない。テロ行為が犯罪の最悪の形態であるとしても、犯罪である限りにおいては、犯人を逮捕し、法に従って裁き、量刑を下すべきである。テロ容疑者を爆撃によって問答無用で殺害するのは、近代社会における法治の原則に根本的に反する。“対テロ戦争”は単なるレトリックではなく、国家に敵対する人を軍事的に殺害する“名分”と“隠れ蓑”なっている。

 本論文が指摘するように、今後の戦争において無人機依存がますます進むとすれば、このような戦争における“集団的自衛権の行使”は、どのようなものであろうか。現在の日本政府の説明は、潜在する現代的な軍事上の危険を直視させず、旧来型の戦闘行為を念頭に置いて行われている。集団的自衛権容認は、無人機配備を含む、さらなる飛躍的軍備増強へのステップに他ならないのに。

 (筆者はソシアルアジア研究会代表)


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧