【編集後記】 

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◎3・11後の日本は国民の一人一人の意識、生活の在りよう、あるいは産業におけ
る生産、流通などあらゆる面での見直しが迫られている。なかでも原発1基つく
れば5000億円が相場といわれ、その後廃炉まで数十年のメンテナンス費や電源3
法による地域への交付金など膨大な金が動き、さらに東電のように地域独占の公
益事業と私企業をたくみに使い分け年間300億円を超す広告宣伝費をマスコミに
ばら撒いて、安全神話を作り上げて、エネルギー政策を原子力指向に捻じ曲げ、
都合の悪い政治家・学者・評論家などを上手に抹殺してきた「原子力利益共同体」
=(原子力マフィア)の解体は焦眉の急だ。
 
◎今回の地震・津波・原発は大変な不幸であったが、これを再生の機会としてと
らえるために、アジア・サイエンスパーク会長として先端技術を軸に内外の産業
振興に取り組まれた久保孝雄氏に「文明史的転換の視座を」と元朝日新聞政治部
長羽原清雅氏から「原発をめぐり科学者の使命と倫理を問う」の2稿をいただい
た。(久保原稿は参加型システム研究所に書かれたものに加筆)初岡昌一郎氏に
はロンドン・エコノミスト誌の「ポスト震災の日本政治―悪夢の大連立構想」を
緊急紹介して貰った。

◎原発からの逐次撤退から全廃に進むには自然エネルギーの急速な開発とともに
天然ガスエネルギーの活用は不可欠だ。(オルタ89号で望月喜市氏詳論)今号で
はそれをさらに一歩進め、同氏の【日本にガスパイプ幹線を建設せよ】を載せた。
先進国では日本だけが国内にパイプラインがない。これは地域独占に胡坐をかく
九電力が「電事連」(電気事業連合会)に結束し、マフィヤのような強大な政治
力で造らせなかったのだ。

このため日本は世界的に価格が低迷している生ガス(3~4ドル)を買えず、3~4倍
する液化LNG(11~12ドル)を買わされている。企業利益のために国を誤らせた
彼らは『国民共通の敵』(雑誌「選択」6月号)と指弾されても仕方がない。
3・11体験はそれぞれの人によって語り継がれて行くが、今号ではオルタ執筆者の
東北大学名誉教授徳田昌則氏の生々しい日記の一部を震災関連原稿として紹介し
た。

◎電機・自動車など日本が得意とする産業分野で韓国企業に追いつき追い越され
る現象は珍しくないが、社会制度などの法制分野でも日本の立ち遅れが目立って
きた。柏井宏之氏がとりあげた「社会的企業育成法」もその一つである。

◎日本の社会的諸制度は戦前の社会運動家たちが苦闘し戦後占領治下で実ったも
のが多いい。その先人の事績記録が散逸しつつある。これについてオルタ同人の
羽原清雅氏が『全国社会運動資料センター』設立を提唱されたが、呼びかけ文を
【運動資料】に載せた。趣旨に賛同し5月31日には羽原清雅氏などと社民党政調
会長阿部知子氏を訪ね資料収集について協力を要請した。なお【書評】では黎明
期日本の社会主義運動家堺利彦氏を文筆者としての側面から描いた『ペンとパン
堺利彦「売文社」とその時代』を島根県立大学教授井上定彦氏にお願いした。

◎5月23日『検察・世論・冤罪』。29日「世界の原発廃棄に向けて」の両シンポ
ジューム、28日社会環境学会総会と半田昌之氏の記念講演「日本近代化再考~江
戸のモノづくりから問う~」がいずれも明治大学であり参加した。24日加茂市に
新潟経営大学の蛯名保彦教授を訪ね、翌日は長岡市の河合継之助記念館で、激動
の幕末を想った。6月17日は東工大で『震災と民主主義』。18日は憲法を守る東
京ネット学習会で元朝日新聞コラムニスト早野透氏の話を聞いた。

◎18日は細川佳代子元首相夫人が製作総指揮し、小栗謙一監督が「障がいのある
人々が普通の場所で普通に暮らす」姿を綴る中で未来の可能性を見つめたいと主
張する映画『幸せの太鼓を響かせて』を観た。「包み込む共生社会」(インクル
ージョン)実現が早まるよう多くの人に観て貰いたい。

◎【お断わり】今月の羽原清雅氏の落穂拾記(4)は「原発をめぐり科学者の使
命と倫理を問う」に、初岡昌一郎氏の海外論調短評(47)は「ポスト日本の政治―
悪夢の大連立構想」に振り替わりました。      (加藤 宣幸 記)

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