■ 「選挙目前!私たちが望むこと」宣言      湯浅 誠

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 総選挙が一ヵ月後に迫っています。問われているのは「どの政党の誰がふさわ
しいか」だけではありません。私たちが、どのような政府、どのような「国の形
」を求めるのかが問われています。

 以前から進行していた生活の不安定化に昨年秋以降の大不況が拍車をかける形
で、日本社会の貧困化が止まりません。生活相談・労働相談・自殺防止相談の各
種窓口はどこもパンク状態で電話もつながらず、ホームレス状態にある人たち向
けの炊き出しに並ぶ人々は昨年の2倍から3倍に急増しています。年末年始の派遣
村以降も、「雇用壊滅」とも言われるさらなる雇用環境の悪化や雇用保険切れな
どの影響で、事態はますます深刻化しています。

 しかしながら、「第二のセーフティネット」は依然として始まらず、労働者派
遣法の抜本的改正も果たされませんでした。生活の成り立たなくなった人たちの
多くが放置されている状況は、何も改善されていません。そして、この現状の改
善を政治に反映させたくても、少なからぬ人たちが投票によって意思表示する機
会を奪われている状態です。

 私たちは何年も前から、貧困化する日本社会の状況を憂い、「人間らしい生活
と労働の保障」を求め、そして「貧困問題に取り組まない政治家はいらない」と
訴えてきました。今、それを改めて、より一層強調する必要を感じています。
  貧困問題に関心を寄せる私たちは、すべての候補者に国としてただちに貧困率
を測定し、貧困率の削減目標を立てるよう求めます。そして、次期首相が国会の
施政方針演説で、日本国政府としてその実行を宣言することを求めます。
  国の経済力は経済成長率で表されてきました。国の健全さを表す指標は何でし
ょうか?
  90年代以降、経済成長を遂げれば人々の生活も豊かになり、貧困も解消してい
く、という相関関係は崩れました。経済成長率と貧困率は独立の変数として見る
必要があります。経済成長を遂げても、貧困が増えるのであれば、「何のための
経済成長か」と問われる必要があります。二つの指標が政策評価指標として十全
に機能して初めて、一人一人の健全な生活を基礎にした成長、「安心」と「活力
」を両立できる社会と言うことができるのです。
 
私たちは、貧困の少ない社会、貧困を減らしていくプロセスにこそ、国の健全
さを見出します。貧困の多い国は病んでいます。貧困があるのに、それを直視で
きない政府はもっと病んでいます。
  OECDは、日本の8人に1人が貧困状態にあると指摘しました。子どもの貧困
率は7人に1人、一人親世帯では3人に2人に達します。相対的貧困状態にあると言
われるこれらの人々の多くは、服を着て靴を履いています。一日三食ではないか
もしれないが、ご飯も食べているでしょう。それを見て「まだ余裕がある」と言
う人がいるかもしれません。しかし、私たちが築いてきた社会は、そんな情けな
いものだったのでしょうか。政府から「まだまだ絞れる」と言われる社会が、私
たちの社会なのでしょうか。私たちが求めているのは、誰もが人間らしく暮らせ
る社会、そしてそれを可能にする政府です。

 政府は1965年以来、貧困率の測定を行っていません。つまり私たちが求めてい
るのは、貧困問題に関する半世紀ぶりの政策転換です。すでに複数の官民による
信頼できる試算がなされており、貧困率の公認は、貧困問題を直視し、それに立
ち向かおうとする政権の「意思」の問題となっています。貧困問題を解決する「
意思」を欠く政府に、私たちは私たちの生活を任せることができません。
  貧困と向き合う政治的な意思、それを可能にする選挙結果を、私たちは「反貧
困キャンペーン2009」に参加する全国各地の人々とともに、求めます。

 以上、宣言します。
2009年7月31日集会参加者一同

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